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[FT]米の貿易交渉、もう後れは許されない[日経新聞]
2013/12/10 7:00
(2013年12月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
歴史のきまぐれか、北米自由貿易協定(NAFTA)20周年は、またしても米国医療制度の危機と重なった。今回の焦点はオバマケアの多難なデビューである。1993年の危機はヒラリー・クリントン氏の医療制度改革案をめぐるものだった。追い込まれたビル・クリントン大統領はNAFTAを選んだ。その結果、NAFTAがかろうじて米議会を通過する一方、「ヒラリーケア」は崩壊した。
バラク・オバマ大統領も重大な貿易目標を成し遂げたいと思っている。だがオバマ大統領に、クリントン元大統領のような重大な交渉をまとめるのに必要なリスクを引き受ける意欲があるかはまったく定かではない。難しい問題を避けていられるのも、そう長くはなさそうだ。
表向きは、オバマ大統領は非常に高い目標を掲げている。環太平洋経済連携協定(TPP)とその大西洋版ともいえる環大西洋貿易投資協定(TTIP)を合わせると、米国にとって1990年代のNAFTAと関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンド以来の、最も野心的な貿易交渉となる。
NAFTAとGATTウルグアイ・ラウンドが成立したのは、米国で第2次世界大戦以来、最も力強い景気拡大が始まった時期だった。一方今日の貿易交渉は、景気回復力が当時よりはるかに弱く、また中産階級の所得が減少するなかで進んでいる。NAFTAの記念日を手放しで祝っているメキシコとは裏腹に、米国政府に祝賀ムードはない。
■保護政策撤廃の必要
オバマ大統領の最も差し迫った関門は米議会だろう。アジアや欧州地域の交渉相手国は、オバマ大統領が今後数週間以内に議会から通商交渉のための「ファストトラック権限」を取りつけることを期待している。ファストトラック権限がなければ、交渉が大幅に進展する可能性は低い。
オバマ大統領の現在の立場は、ファストトラックについて口にしない、というものだ。控えめな姿勢によって、共和党議員の賛同が得やすくなることを期待しているのだ。受け身的姿勢はオバマ大統領にとって最も懸命な道なのかもしれない。不支持率が55%と高止まりしていることを考えればなおさらだ。だが、それでは一歩も前に進めない。他国との交渉において「背後から指導する」(注:リビアのカダフィ政権崩壊の際、米国の外交姿勢として使われた言葉)というのは戦略として無効である。
目標を達成するには、その手段を自らの意志で決めなければならない。オバマ大統領が自ら設定した21世紀型の貿易という目標に向けて前進したいのであれば、米国に残る19世紀型の保護政策を撤廃する必要がある。それには強力な国内ロビー勢力との戦いに、持てる政治力を注ぎ込まなければならない。といってもオバマ大統領の“手持ち”は危険なほど少ないのだが。
ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドといったTPPの交渉相手国は繊維、衣料品、乳製品、砂糖に対する米国の高い輸入障壁を突き崩そうとしている。米国はいまだにこうした分野で、けちくさい輸入制限を課している。靴の関税は66%という高さだ。
同じようにTPP交渉参加国のほとんどは、米国が最も強力な競争優位を持つビジネス・サービスの分野で米国勢を締め出そうとしている。対外政策に強いシンクタンク、外交問題評議会(CFR)のテッド・アルデン氏によると、米国製品の輸出に対する関税率は中国が平均8%、メキシコが同5%であるのに対し、ビジネス・サービス輸出に対する関税率は中国が平均66%、メキシコが同44%だという。中国はTPPには参加していない。だがアジア地域における米国のサービス業のアクセスを改善するには、オバマ大統領は見返りとして大きな譲歩を示すことが不可欠だ。米国の繊維業界と砂糖業界のロビー団体に立ち向かうのは、クリントン元大統領でも尻込みした。
■与党と対立のリスク
欧州との交渉で良い結果を出すにも、国内で決定的対立のリスクを冒さなければならない。しかもその相手は、もっぱら与党である民主党になる。マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員ら高い支持を誇るリベラル派の民主党議員は金融規制改革法(ドッド・フランク法。銀行への厳しい規制がある)を弱めるような欧州との金融サービス合意には反対する姿勢を明確にしている。
そうなれば欧州は、食品の安全性の問題で姿勢を硬化させるだろう。安全基準は欧州のほうが米国より厳しい。同じことがプライバシー問題についても言える。欧州の主要プレーヤーであるドイツが、いまだに米中央情報局(CIA)元職員、エドワード・スノーデン容疑者の暴露問題を根に持っているのもマイナスだ。
特に響いているのは、アンゲラ・メルケル氏が首相に就任する3年前の2002年から、同氏の携帯電話を盗聴していたことを示唆する暴露文書だ。この件についても、オバマ大統領が前面に出て来なければ、何も進まない。プライバシー、食品の安全性、金融サービスの問題を議論から外そうとすれば、どんな合意も有効性を失ってしまうだろう。
■孤立主義を支持する国民
交渉の遅れはすでに明白だ。2014年半ばというTTIPの非公式な交渉期限は、今では15年まで延期される可能性が高くなった、と当局者は警鐘を鳴らす。TPP交渉はそれより前に正念場を迎えるかもしれない。米政府機関の閉鎖騒動で、今年10月にオバマ大統領がアジア訪問を取りやめたのも災いした。
プラス面としては、昨今の米国世論はグローバリゼーションのギブ・アンド・テークについて、以前よりはるかに現実的見方をするようになったことが挙げられる。1993年には雇用流出への懸念によってNAFTA交渉が頓挫しそうになったのとは対照的に、今日の米国人は世界経済の統合という現実を渋々受け入れているようだ。
ピュー・リサーチ・センターとCFRが先週実施した世論調査では、52%が「米国は他国の問題に首を突っ込まないほうがいい」と答えた。この設問は半世紀前から続いているが、孤立主義を支持する回答がこれほど高水準になるのは初めてだ。戦争という選択肢は、はっきりとメニューから外された。その一方、なんと77%が国際貿易を促進するのは米国の利益にかなうと答えた。オバマ大統領が政策を進める素地は整っている。
とはいえ国民は貿易促進に全面的支持を与えたわけではない。この調査からは一般の米国人と、調査対象に含まれた2000人のCFR会員(米国のエリート層の標本として最適)との大きな隔たりが浮き彫りになった。一般米国人の10人中8人が、米国は「雇用保護」を最優先項目とすべきだと答えた。一方、CFR会員ではその比率は29%にとどまった。
ワシントン政界の枠を超えて大掛かりな貿易交渉の意義を訴えるには、大統領はそれが「国民の99%」の利益にもつながるものであると納得させる必要がある。おそらく大統領は本気でそう思っているようだ。そうした訴えを始めるなら早いほうがいい。
By Edward Luce
(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0902R_Z01C13A2000000/
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