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アメリカ、イギリス、中国……恐怖の保険事情
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131209-00011421-president-bus_all
プレジデント 12月9日(月)8時45分配信
所が変われば、公的医療保険の事情も大きく変わる。先進国だからといって、決して万全の制度を整備しているわけではない。そんな各国の事情について探る。
■米国の盲腸の手術は200万円以上
「夫婦に子ども2人の4人家族なのですが、民間の医療保険の支払いが日本円で毎月約9万円もあり、正直にいってきついですね。それに保険会社や保険の種類によって保障内容はさまざまで、診てもらえる病院が変わります」
こう語るのはアメリカで暮らし始めて14年目になる原田恵さん(仮名)だ。事業家であるご主人の会社経営も順調で、いま住んでいる自宅のほかに、持ち家が1軒ある。そんな原田さんの一家でも重荷に感じる民間の医療保険に入っている理由は、日本と同じ「国民皆保険」ではないから。米国の医療保障は民間保険が主流なのだ。
米国の場合、医療費そのものが高い。海外での医療サポートを行っているプレステージ・インターナショナル取締役の中村干城さんは「日本で40万円の盲腸の手術費が米国では200万円以上。日進月歩で医療水準が向上する米国では、そのコストがフルに医療費に転嫁され、医療費が高騰しています。その結果、民間保険の保険料も毎年10%前後アップしています」という。
公的な医療保障制度が皆無なのかというと、そうではない。65歳以上の高齢者および障害者を対象とする「メディケア」と、一定の条件を満たす低所得者を対象とした「メディケイド」がある。ただし、これらを「社会保険」というには難しい側面もある。
国立社会保障・人口問題研究所の社会保障基礎理論研究部長を務め、各国の保険制度を研究している金子能宏さんは「社会保険料が徴収されているわけではなく、『pay roll tax』という年金の原資となる給与税の一部が回されています。市民の自由を尊重する米国では、強制加入が前提の『社会保険』という言葉を使うことに強い抵抗感があります」と語る。
その一方で問題になってきたのが、メディケアとメディケイドの対象外で、民間保険の保険料も払えない“無保険者”のケア。なんと米国の全人口のうち6人に1人が無保険者なのだ。その救済策として全国民に保険の加入を義務付ける包括的な医療保険改革「オバマケア」が動き出すことになった。
具体的には、無保険者の人たちが民間保険に入れるように、既往症による保険加入拒否などが禁止された。また、2014年1月からの個人の加入義務化に向けて、10月からはオンラインで加入できる保険市場「エクスチェンジ」が始動した。しかし、申込者が殺到してウェブサイトが上手く機能せず、当初予定していた加入者を大幅に下回る状況が続いている。
「低額の保険料の民間保険の一部はオバマケアの基準を満たさないからという理由で、契約が突然打ち切られたりして、オバマケアに対する批判の声が日増しに高まっています」と原田さんはいう。すでに企業の従業員の加入義務化は15年1月からに先送りされている。米国が国民皆保険になるまでには、まだまだ紆余曲折がありそうな気配が濃厚だ。
■1年待ちは覚悟、英国のがん手術
一方、「ゆりかごから墓場まで」という言葉に代表される手厚い社会保障がなされてきた英国。経済低迷、緊縮財政で見直しを余儀なくされたものの、公的医療保険として国費で賄われる「国民保険サービス(NHS)」があって、病気やケガの治療、出産、産後の母子のケアなどは無料で受けられる。
なんとも羨ましい制度のように見えるが、実際には問題点も多いようだ。居住している外国人も加入できるのだが、最近まで3年ほど運輸会社のロンドン事務所に駐在していた板垣研一さん(仮名)が、NHSに加入しなかった理由について語る。
「NHSは『かかりつけ医(GP)』の診察を受ける必要があります。でも、風邪かなと思ってGPに診察の予約を入れても、混んでいて2週間先ということがザラなのです。また、がん専門医の診察を受けたいと考えても、GPの紹介がないと受けることができません。日本のようにフリーアクセスではないのです。専門病院も混んでいて、がんの手術で1年待ちもザラにあるといった話も聞き、あまりの使い勝手の悪さに愕然としてしまいました」
公的医療費の予算不足が人手不足にハネ返り、NHSの現場は常に混雑しているのだ。高血圧や胃潰瘍といった慢性疾患と診断されて治療方針が決まっても、実際の治療は1カ月〜半年に1回程度しか受けられないというケースもあるそうで、これでは治るものも治らない。「結局、日本企業の駐在員は海外旅行保険を使って、プライベートの病院にかかることが多いようです」と前出の中村さんはいう。
GPのレベルの問題もある。板垣さんは「事務所の英国人社員の妹さんは脚の具合が悪くてGPの診断を受けたのに、適切な処置をしてもらえませんでした。そのうちに脚の感覚がなくなり、フランスに行って治療を受けることにしたのです」と語る。
もっともこんなケースもあるそうだ。NHSに加入していた日本人が、体のダルさを訴えてGPの診療を受けたところ、すぐ専門医に回された。そこで下されたのが生体肝移植の診断。たまたまドナーが見つかり、手術を受けて事なきを得ることができた。日本で同じ治療を自費で行うと、合併症などで入院が長引けば2000万円以上もの費用がかかることもある。NHSも上手く機能すれば、加入者にとってのメリットはかなり大きい。ただし、目利きのGPに当たればという条件付きなのだが……。
■中国は戸籍の場所で保障内容が大違い
中国の公的医療保険の特徴は、戸籍がある場所によって内容が異なること。都市戸籍の勤労者は「従業員基本医療保険」に、都市戸籍でも非勤労者は「都市住民基本医療保険」に、農村戸籍の人は「新型農村合作医療保険」に加入する。
丸紅米国会社ワシントン事務所のシニア・アナリストで中国の保険制度に詳しい李雪連さんは、それらの保険料について「勤労者向けの保険の場合、個人が給与所得に比例して2%程度を目安に納入するほか、勤務先の企業も比例して6%程度を目安に納めることになります」という。ここで李さんが「目安」という言葉を使ったのはなぜか。日本なら一律のはずだ。海外邦人医療基金で中国の医療現場をウオッチしている業務部長の宮本昌和さんが、その特殊事情を説明する。
「中国を1つの国として考えてはいけません。大枠の制度は統一されていても、実際の運用は、省、市、県レベルで変わってきます。保険料についても事情は同じで、手元の資料を見ると、上海市の保険料の負担は勤務先が12%で、勤労者は2%なのに対して、広州市ではおのおの8%と2%になっています」
各保険は基本的に戸籍のある病院での診療を対象としている。そこで問題になるのが、農村部から都市部に出稼ぎに来ている「農民工」と呼ばれる人たちの存在だ。前出の金子さんと同じく国立社会保障・人口問題研究所で国際関係部第2室長を務める小島克久さんは、「彼らは、居住する都市での医療保険の加入率が低く、新型農村合作医療保険を利用するための帰郷も現実的ではない。結局、彼らは実質的に医療保障を受けられない状態にある場合が多いのです」と指摘する。
日本では高額療養費制度があって、いくら治療費がかかっても一定額以上の負担は求められない。しかし、中国の医療保険はその逆で、保険の給付上限が決められている。「地域によって差はあるものの、都市部の勤労者で年間30万元(1元=約16.4円)程度、非勤労者が10万元程度。農村の場合5万〜6万元程度が目安です」(李さん)という。一方の治療費は、心臓病で7万元前後、脳腫瘍では10万元以上もかかり、農村戸籍の人にとってはかなりきつい。
「しかも必ず上限額の分まで給付してくれるかというと、多くの場合そうではありません。結局、重い自己負担を強いられてしまうのです」と宮本さんはいう。治療費の支払いについても注意が必要で、取りはぐれを防止するために病院は、診療の前に現金で医療費の支払いを求める。結局、事前に借金をせざるをえなくなり、仮に保険の給付を受けたとしても、その返済に追われる恐れが十分にあるのだ。
窓口での自己負担割合のアップなど、日本の医療保険制度は見直しが進められているが、それでもまだ均質で高いレベルの医療をいつでも、どこでも受けられる。冒頭の原田さんは「やっぱり日本の制度が1番だと思います」と溜め息交じりに話す。
伊藤博之=文 Getty Images=写真
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