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24日(日本時間)、イランの「核問題」に関する7か国協議で合意が成立した。当初3日間の予定であった協議日程を1日伸ばし、しかもケリー米国務長官ら外務大臣レヴェルの出席を最終的に得てのロングランとなったが、かろうじて「合意」がもたらされたというわけである。
先週、我が国では株式マーケットで神経質な展開が続いていた。その背景には20日の段階でいわゆる「裁定残」が28・1億株にも達していたという事情もあるが、同時に外生的なリスク要因として最も注目されていたのがこの協議の推移であった。
そのような中、週末に入って「合意」に達したのであるから不安要因は全て払拭されたと思われがちだが、そうではない。18日付で書いたとおり、イランが事実上の核保有国となることへの重大な懸念をこれまで繰り返し表明してきたイスラエル・サウジアラビアの両国が今後、どのような反応を示すのかが今、焦点なのである。
現在までにこの協議の当事国が発表している内容等を総合すると、今回「合意」されたのは概ね次の5点だ。
ーイランは濃度5パーセントを超える高濃縮ウランの製造を停止する
ーイランは現在保有する高濃縮ウランの濃度を下げる
ーイランはアラクで建設に着手していた重水炉の建設を凍結する
ーイランはフォルドゥなど2か所の核開発施設に対する国際原子力機関(IAEA)による毎日の査察を受け入れる
ーこれに対して米国など6か国はイランに対する金融・経済制裁の一部解除に応じ、総額42億ドルのイランへの資金送金を認める
以上の「合意」を踏まえ、ケリー米国務長官など米政府高官たちはこれがあくまでも「第1段階の措置」であり、今後、6か月間にわたりイランによる履行状況を見極めることになる旨強調している。そして、イランによる履行が完全でないと認められた場合には制裁の強化もあり得ると示唆してもいる。
対するイスラエル及びサウジアラビアはどうか。24日(テル・アヴィヴ時間)、イスラエルのネタニヤフ首相はこの合意を「歴史的な過ち」であるとして糾弾。イスラエルはこの合意にいかなる形であれ拘束されないと表明した。
一方、不気味なまでに沈黙を保っているのがサウジアラビアだ。24日(日本時間)までの段階でサウジアラビア政府は他の湾岸諸国の政府と同様、この問題について公式には何らのコメントも発表していない。実は今回の7か国協議に向けての話し合いは、今年2月からオマーンにおいて米イラン極秘接触という形で始まったことが明らかになっている。つまりアラブ諸国に対して、米国とイランが何を目論んでいるのかは筒抜けだったわけであり、これに対して沈黙を保っているのは何等かの意図があると考えるべきなのである。
表向きはイランが大幅に譲歩したかのように見える今回の「合意」。しかしこれには重大な抜け穴があることを指摘しておかなければならない。
第一に国際原子力機関(IAEA)による厳重な査察の対象となったのがフォルドゥなど2か所にある核開発施設に止まったという点である。なぜならば国際原子力機関が指摘し、さらにはイスラエルが重大な懸念を抱いてきたのはこれらとは別にパルチンにある核関連施設だからである。ところがこの施設は今回の査察対象に入っていない。「もぬけの殻」とも言うべき施設に対して査察を行っても何も意味はないのだ。
そして第二にイランについて問題なのはいわゆる「核爆弾」「核弾頭」ではなく、いわゆる「ダーティ爆弾」であるという指摘があることも忘れられない。前者を製造するには爆縮実験による精密なデータ採取などのため、大掛かりな仕掛けが必要だ。だが、セシウムなど核関連物質を通常火薬で撒き散らすことで敵に甚大な被害を生じさせることを目的とした後者はでそれが不要なのである。今回の「合意」でイランは核開発活動の継続を認められたわけであり、「ダーティ爆弾」の製造能力を維持するという意味では事態は何ら変わらないというべきなのだ。
イスラエルとサウジアラビアが懸念してきたのはイランによる「核兵器開発」だ。実際、この7か国協議が始まると同時に20日(モスクワ時間)実施されたプーチン露大統領との首脳会談において、ネタニヤフ首相は「イランの核についてはシリアのアサド政権が持っていた化学兵器に対して行ったのと同じような措置をとるべきだ」と明言している。シリアのアサド政権が保有していた化学兵器については、化学兵器禁止条約事務局(OPCW)が根こそぎ撤去し、国外へと移送する段取りになっている。これと同じような措置をというのであるから、つまりは国際原子力機関(IAEA)の手によって、イランの核兵器開発能力は根絶されるべきだというわけなのである。
だが今回の「合意」はそこまで踏み込んだものにはなっていない。つまりイランによる「核兵器開発計画」は事実上、温存されたというわけだ。そうである以上、イスラエル、そしてサウジアラビアにとっては全くもって容認出来ず、最後の選択肢を行使する可能性が急浮上し始めているのである。イランの核関連施設に対する空爆あるいはミサイル攻撃の実施である。
これに対してはイスラエル国内でも今回の「合意」を踏まえ、異論があることも事実だ。とりわけ軍事攻撃ともなれば矢面に立つことになる国防軍のインテリジェンス機関関係者たちからは「今回の合意であっても、何も決まらなかったより遥かに良かったのではないか」といった発言が相次いでいる。だが、これまでイランに対する強硬路線を露わにし、これに対する支持で政権を維持してきたのがネタニヤフ政権なのである。「イランの核兵器開発計画を根絶する」という目標がこの7か国協議によって達成出来なかった以上、もはや最後の手段に訴えるしかないと判断するのは時間の問題なのである。
そしていよいよイスラエルがイランに対して奇襲攻撃をかけた場合、サウジアラビアが巻き込まれることも必至である。自らの空軍基地をイスラエルに対して貸与する可能性があり、この場合、イランはホルムズ海峡を封鎖しつつ、サウジアラビアに対して猛然と反撃してくることになる。また、そうした協力の可能性がある以上、別のルートからのイスラエルによる攻撃を受け、まだ関与していないサウジアラビアをイランが先制攻撃する可能性も充分ある。そしていずれにせよサウジアラビアは「アラブの盟主」として開戦を余儀なくされるのだ。「中東大戦争」の始まりである。
したがって今や「中東大戦争」は起きるか起きないかという問題ではなく、「いつ起きるか」という問題なのだ。原油価格の急騰とイスラム・テロ蔓延に対する危惧が世界各国でマーケットを暴落へと導くことになる。「世界同時株安」が更にくっきりと見え始めたというわけなのだ。
もっともこうした一連の展開を「偶発的」と考えてしまってはならない。12月6日に上梓する小著「ジャパン・ラッシュ」においても書いているのだが、他ならぬイランこそ、1979年の「イラン・イスラム革命」という出発点において米国や欧州と密かに握っていた経緯があるのだ。さもなければこの革命の指導者であったホメイニ師が「亡命先であるフランスのパリ」から帰還することなどあり得なかったのだ。
イランによる事実上の「核保有国化」を目の当りにしつつも、手が出せないでいるサウジアラビアが最も危惧しているのは間もなく始まる「中東大戦争」が自らの領土を大混乱に陥れることである。2006年中頃までには米軍及び北大西洋条約機構(NATO)軍の将校教育で用いられるようになったものとして知られている地図「新しい中東(The New Middle East)」において、イランの領土が保全されているのに対し、サウジアラビアは完全に分裂国家として描かれているのである。その一方で「開戦の引き金」を引く役割を果たすイスラエルですら、1967年までの広さに縮小されつつも、その領土は温存されているのだ。このことはイスラエルが実のところ米国や欧州、さらには「敵国」であるはずのイランとさえ実質的には協議した上で開戦に踏み切る役割を演じるに過ぎないことを示唆してものなのである。
中東情勢は私たち日本人にとって正直、縁遠い。だがそうであるからこそ、今目の前で起きている出来事についてしっかりとフォローしなければならないのだ。それは中東開戦に伴う「世界同時株安」というショックの後、政治や歴史という意味では中東と縁遠く、だからこそ「平和が保たれる」と考えられる我が国にマネーが殺到し、円高基調であるが我が国のマーケットが独歩高となる「日本バブル」を招くという意味で、正に私たち日本人自身の問題でもあるのである。
その意味で12月は激動の1か月となり、2014年は世界史の転換点となる。「これから日本は、そして世界はどうなってしまうのか。私たち日本人は何をすべきなのか」について私は1月に行う年頭記念講演会でも詳細に述べようと考えているが、情勢はもはや一刻の猶予もないのである。まずは今回の「合意」が達成されたからこそ、一斉に動き出すイスラエル、そしてサウジアラビアの動向から目が離せない。
再び「世界同時株安」について考察する イラン核問題協議「合意」に潜むシナリオ 原田武夫 yahoojapanニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/haradatakeo/20131125-00030086/
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