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TPP交渉妥結は、日本が不利になることを意味する理由
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20131206-00030417/
2013年12月6日 11時46分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
TPP交渉が大詰めを迎えようとしています。しかし、それにしても担当の甘利大臣が、この大事な時期になって何故手術など受けなければならない羽目になっているのでしょう?
あんなに元気そうに見えたのに。
それにしても、入院直前に発した一言が気になります。
「これ以上は1センチも譲れないという説明をしました」
1センチも譲れない? デジャブーではありませんが、かつてよく聞いていた台詞を思い出します。
「一粒たりとも輸入しない」
そうですよね、コメ輸入の自由化を迫られたとき、政治家たちはそのようなことを言って農家を安心させようとしたのですが‥結果は、輸入を認めざるを得なかったと。
「一行たりとも潰さない」なんていう言い方もありました。バブル崩壊後、金融危機が起きたとき、金融監督当局関係者が発した言葉です。しかし、一行たりとも潰さないどころか、まさかと思われる大銀行まで潰れてしまいました。今や昔の名前で残っている大銀行など殆どないのです。
ですから、農業関係者がこの甘利大臣の一言にすがりたいという気持ちは分かるものの‥それだけ状況は厳しいと言うことを物語っているのです。
ところで、甘利大臣は、その言葉を発した翌日に体調不良を訴えて入院してしまいました。そして、手術が控えているために、明日、7日からシンガポールで開かれるTPPの閣僚会合には出席できないのだとか。
こんなことが起きるから、政治家の間で、アメリカに逆らってはダメなのだという「都市伝説」が益々広がるのではないのでしょうか。
いずれにしても大詰めを迎えているTPP交渉について、安倍総理は次のように語っているのです。
「最終局面では政治的な決断を図り、合意を目指す必要がある」
要するに、年内妥結に意欲を示しているのです。そして、その考えを支持するかのように日経の社説も、「日米が譲り合いTPP交渉の妥結を」なんて言っているのです。
「双方が譲り合い」とは何と美しい言葉でしょうか。しかし、そのように言う日経さんは、甘利大臣に対して、もう数センチほど譲ってあげたらといいと言いたいのでしょうか?
いずれにしても、アメリカこそ1センチも譲らないどころか、理不尽な要求をしているように思えて仕方がないのです。
だって、そうではないでしょうか?
漏れ伝わってくる情報はと言えば‥アメリカは、日本車に課している関税を20年間は撤廃しないとか、日本車の輸入が急増した場合にはセーフガードを発動するとか。
米国は乗用車に2.5%、トラックに25%の関税をかけていて、そのために日本の自動車メーカーは約900億円の関税を払っているのだ、と。つまり、米国は日本車に対する関税を維持することによって、米国の自動車メーカーを保護すると同時に900億円の収入を維持するのです。
900億円というのはバカにできない金額なのです。
ところで話は少し飛びますが、特定秘密保護法が成立したら、このような情報も秘密になってしまうのかなと危惧します。何故ならば、交渉に関する情報が漏れると、交渉上日本が不利な立場に立たされてしまうのでしょう?
しかし、私は、その論理を信じることはできないのです。
確かに、一般論からすれば、交渉に影響を及ぼすような情報は、主権者である国民にも開示すべきでないケースがあるのはそのとおり。しかし、それが当てはまるのは、当然のことながら、交渉の相手国も全く知らない事実についてであるのです。では、日米で貿易に関する交渉をするような場合、米国が知らないような情報がどれだけあるかということなのです。
殆どの場合、米国は様々な手段を駆使して日本側の情報を把握しているのです。だから、日本政府が、今回のTPPに関する情報について、国民にある程度詳しいことを教えても、本当は交渉にさほど影響を与えることはないのです。
では、何故それでも秘密にしておきたがるのか?
それは、政府が外国との間で交渉をする場合には、相手国政府と自国の国民の間で板挟みに状態になるからです。そして、国民に対して、最初から本当のことを伝えてしまうと、どのような結果になっても国民が納得してくれないからなのです。
例えば、国民に対しては、米国が大変厳しい態度で迫ってきているという雰囲気を作り出しておきながら、他方で、米国に対しては、国内事情でこれ以上は1センチたりとも譲歩はできないと言い張っておく。こうして、双方との間で、妥協が認められる糊代を少しずつ確保しておくことが重要なのです。そうしておけば、日本が勝ったとは言えない結果になっても、国民は被害が小さくて済んだと納得をしてくれるということなのです。
話が横道に逸れました。本題に戻します。
繰り返しますが、漏れ伝わってくる情報はと言えば‥アメリカは、日本車に課している関税を20年間は撤廃しないとか、日本車の輸入が急増した場合にはセーフガードを発動するとかというような話ばかり。
その一方で、政府は、関税を撤廃する品目の割合を、これまでの80%台後半から92%程度まで引き上げ、参加各国に提示したなどと報じられているのです。92%という水準は、農産物5項目以外のすべての品目の関税を撤廃した場合が93.5%であるので、本当にギリギリの水準であるのです。
日本はそこまで譲歩して起きながら、その一方で何を得ることができるのでしょうか?
そもそも何のためにTPP交渉に参加することが必要だと言われていたのか、そのことを思い出す必要がありそうです。
何のためのTPPだったのか?
TPPに参加しないと自動車メーカーなどを中心として、米国とFTAを締結している韓国に後れを取るからという理由ではなかったのでしょうか? そして、仮にTPPに参加すれば、相手国側の関税が撤廃されるので、日本の輸出が増える、と。
しかし、実際には、米国は日本車の輸入に関して、関税を撤廃するどころか、20年間は関税を維持すると言っているのです。その上、セーフガードまで発動する、と。そして、その一方で、日本側に対して軽自動車の規格を廃止しろとまで言っているのです。
これのどこが交渉と言えるのでしょう。単に米国の要求を押し付けられているだけではないでしょうか。
そして、仮に農産物などの関税の面で、日本側が更なる譲歩をしなければ、医薬品などの面で譲歩を迫る姿勢だということが報じられているのです。
安倍さんの言いたい。
TPP交渉が妥結するということは、日本が敗北したことだと言うことです。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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