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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第55回 国家安全保障と企業
http://wjn.jp/article/detail/6554352/
週刊実話 2013年12月19日 特大号
11月23日、中国が尖閣諸島上空、つまりは石垣市の上空を防空識別圏に設定し、それを公表した。防空識別圏とは、国際法で定められた「領海」「領空」とは違う。特定の国が防空上の理由から、自国の空域に設定するものであり「領空」ではない。
中国側が防空識別圏を拡大したとしても、日本の航空機が同空域を飛ぶ際に、中国当局に飛行計画を提出する必要など全くない。とはいえ、中国側は新たに設定した防空識別圏を飛ぶ航空機に対し、飛行計画を提出するべし、と息巻いている。
尖閣諸島を巡る日中問題(尖閣諸島は領土問題ではない)は、再び一歩、危機深刻化の方向に歩みを進めたことになる。進めたのはもちろん中国側であり、日本側ではない。
中国国防省が出した公告では、識別圏内を飛ぶ各国の航空機に対し(多くが日本の航空機であろう)、中国国防省の指令に従うこと、さらには飛行計画の提出を求めている。従わない航空機に対しては、
「防御的緊急措置を講じる」
つまりは、スクランブルをかけると宣言したわけだから、尋常ではない。
これで日本側が臆してしまい、中国側の要求に従ってしまうと、
「おわかりだろう。釣魚島(尖閣諸島)は我が国の領土である。日本が文句を言うならば、領土問題として話し合おう」
と、やってくるわけだ。結果的に、尖閣諸島問題はめでたく「領土問題」に格上げされてしまうという筋書きである。
というわけで、日本の航空会社の対応に注目していたわけだが、素直に飛行計画を中国航空当局に提出していたわけだから、あまりの平和ボケに慄然としてしまった。
JALやANAは「国から明確な指示がなく、乗客の安全が第一だ」と、24日以降に中国当局へ飛行計画を提出したのである。
これに対し、菅義偉官房長官が26日午前に記者会見し、「25日に国土交通省から航空会社に対して、中国側の措置はわが国に対して何ら効力を有するものではなく、これまでのルール通りの運用を行っていくという政府の方針を伝えている」と、発言。最終的には、飛行計画提出は「中止」ということになった。
JALやANAは、中国航空当局に飛行計画を提出することで、日本の領空である尖閣諸島上空について、中国の施政権を認める形になってしまうことに考えが及ばなかったのだろうか。日本の航空会社が尖閣上空で中国当局の指示に従うとは、すなわち中国が同空域を実効支配していると認めることになりかねないのだ。
本件は色々と疑問があるのだが、11月23日という「土曜日」に中国が防空識別圏設定を公表した。中国の発表を受け、JALやANAなどが飛行計画を提出したわけだが、この時点で管轄官庁である国交省との連携はどうなっていたのだろうか。
あるいは、JALやANAはいかなるプロセスで飛行計画提出を決めたのか。菅官房長官は「25日に国土交通省から航空会社に対して…」と語っているため、23日(土)、24日(日)の時点では日本政府側から何の指示もなかったように思える。
そうだとすると、なぜなのか。単に、土、日で官公庁が休みだったためなのだろうか。本当にそうであるならば、かなり怖い話だ。日本の航空会社上層部や、国交省官僚は「安全保障に対する認識が薄い」と批判されても仕方があるまい。
上記が正しいとなると、「独自で飛行計画提出を決めた」航空サービス会社側も、飛行計画提出中止の指示が遅れた国交省や政府側も、双方に問題があるように思える。
いずれにせよ、現代の日本においては、すでに企業(特にグローバルにビジネスを展開する企業)すらも「国家安全保障」、英語で言うナショナル・セキュリティーを頭に叩き込む必要があるのだ。
本来は、企業であっても常に国家安全保障を考慮してビジネスを展開しなければならないはずなのだが、我が国は戦後から冷戦期にかけ(今もだが)、セキュリティーをアメリカに依存し、自国で安全保障を考えることを放棄してきた。その「ツケ」が、今、一気に噴き出しているように思える。
ちなみに、中国の防空識別圏設定を受け、アメリカや韓国などの航空会社は、中国側の飛行計画提出指示を無視した。JALやANAが中国の飛行計画提出要求を受けた際に、
「本問題は、日本国の安全保障と密接にかかわってくる」
という認識はあったのだろうか。あったと信じたいところだが、以下の両社の広報のコメントを見ると、そうとは思えない。
「ノータムが発出された以上、それに従わざるをえないと考えている。防空識別圏に関しては各国が独自に設定しており、運航者としては、公示されればそれに従った運航とせざるを得ない。通常の各国のノータムと同様、運航者の判断で対応することとしている」(JAL広報部)
「各国の航空当局が出すノータムは、日本に限らず全世界の航空会社が対象で、それに従うのが国際的なルール」(ANA広報室)
ノータムとは、各国の航空当局が出す「航空情報」のことだ。JALやANAは、
「中国当局からノータムが発せられたため、国際的ルールに従って飛行計画を提出した」
と、「防空識別圏設定」により飛行計画を提出したとは説明していない。
確かに、ルールとしてはJALやANAの対応は間違っていないのかも知れないが、「安全保障」は国際ルールを踏み越える問題だ。
尖閣諸島上空という「日本の領土」を飛行する「日本の航空会社」が、他国の要求に従って飛行計画を提出する。これが安全保障上、何を意味するかについて理解しているならば、日本の航空会社は飛行計画提出前に国交省なり、政府なりと協議をしたはずである。
あるいは、日本の航空会社が「ノータム」が発せられたことを受け、何も考えずに飛行計画を提出したとなると、なおさら怖い。日本の航空会社は我が国の企業でありながら、「日本の国家安全保障」について一切念頭にないという話になってしまう。
日本の企業や国民は、時代が変わったことを認識しなければならない。最早、安寧の時は過ぎ去り、日本企業が「これまで通り」ビジネスを続ける場合であっても、国家安全保障を意識しなければ、取り返しがつかない不都合が生じる可能性があるのだ。
そして、「日本」企業が「日本国家」の安全保障を考えずに行動した場合、ツケを支払わされるのは当の日本企業を含めた「日本国民」である。「グローバル企業」であっても、結局は国家安全保障と無関係にビジネスを展開することは不可能なのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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