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http://www.zakzak.co.jp/economy/investment/news/20131206/inv1312060725002-n1.htm
2013.12.06 「お金」は知っている
昨年11月16日の衆院解散後の選挙戦で、自民党の安倍晋三総裁は大胆な金融緩和を掲げ、円相場の流れを一挙に円安方向に転換させた。円安こそはこれまで1年間のアベノミクス最大の「成果」であろう。円安をもたらす原動力は日銀の量的緩和である。
安倍政権発足後の4月4日、黒田東彦(はるひこ)日銀新総裁は2%のインフレ目標達成に向け、日銀資金供給残高(マネタリーベース=MB)を2年間で2倍に増やす「異次元緩和」に踏み切った。ことし11月の円のMBは5割以上増え、量的緩和策を続ける米連邦準備制度理事会(FRB)のMBの増加率(4割弱)を上回る。
対照的に、欧州中央銀行(ECB)は27%減らした。通貨の交換レートはそれぞれの通貨のMBの発行規模に左右されるというジョージ・ソロス氏(通貨投機で知られる投資家)の卓見通り、円は対ドルで2割弱、対ユーロで23%下落した。
今後はどうか。日銀は来年4月の消費税率引き上げ後の景気が急下降すれば、異次元緩和策をさらに強化する方向だ。FRBは来年中に米国景気回復に力強さが増せば、量的緩和縮小に転じるが、それはドル札の追加発行量を減らすので、ドル高要因となる。
他方、ユーロ圏は伝統的にインフレを嫌い、金融緩和に消極的なドイツなど「北」と、デフレ圧力に苦しんでいるギリシャ、イタリア、スペインなど「南」の差が大きい。ECBはそのはざまで身動きがとれないでいる。
「お札の増し刷り」という面では、円はドル、ユーロ両通貨に対して安くなる基調は今後も続くはずだ。
円安は輸出業種を中心に収益を大幅に増加させ、株価を引き上げる。昨年11月に9400円台だった日経平均株価は紆余曲折を経ながらも円安とともに1万5000円台後半まで上昇している。だが、株高で消費を押し上げる力は強くない。日本の家計の金融資産は現預金が中心で、株式の比率は一桁台にとどまる。
上場企業の企業収益がリーマン・ショック前の水準を回復するのは結構だが、中小企業はそういかない。円安で原材料の仕入れコストは上昇し、中小企業はそれを販売価格に転嫁できずに苦しんでいる。
恐るべきことに円安でも一向に輸出が伸びず、貿易収支が改善しない=グラフ。量で見ると、輸出は東日本大震災後、最近に至るまで一貫して下がり続けている。輸入量は2010年初めから増加し続け、アベノミクス開始後は伸びが止まったものの、ほとんど減らず、横ばいだ。
リーマン後、さらに東日本大震災後の超円高局面で、日本企業は海外生産拠点を増強し、そこからの部品・完成品の輸入を増やしている。それまでの日本から現地への輸出型をやめ、現地から日本への輸入型へと海外展開のビジネスモデルを切り替えたのだ。最近の円安でも、企業の海外生産重視策は依然として変わらない。日銀券を刷るだけで国内の生産や雇用の増進を図るのは難しい。(産経新聞特別記者・編集委員・田村秀男)
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