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スイスのネスレ本社。世界各国に根をおろす逞しさを日本企業は見習いたい
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20131125/frn1311250902001-n1.htm
2013.11.25
■海外情報に精通し“想定外”なくせ
言い伝えに「いつまでもあると思うな親と金。ないと思うな運と災難」「備えあれば憂いなし」「転ばぬ先の杖」というのがありますが、まさに名言です。人も企業も国家も「危機管理」には最大の配慮が欠かせません。なのに、テロ事件や大事故、天災が起きた際、“想定外”という言葉をよく耳目にします。この他責的な表現に接するたびに、私は一抹の疑念を禁じざるをえません。
危機管理で求められるのはインテリジェンス(情報)です。情報確度を上げるには、自前の常識や限られた体験を否定できる“不常識・非体験観”が極めて重要ですが、これを日本人は苦手にしています。本稿では「情報」の何たるかを論じたいと思います。
グローバル時代にあって避けて通れないのが「海外情報」でしょう。今、世界各国を大別すると、(1)低賃金労働力をバネに製造業中心で“量”を追求する「Mタイプ国家群」(2)資源立国の「Rタイプ国家群」(3)比較的小国でありながら、高付加価値を生む技術、金融業などで質を求める「Vタイプ国家群」(5)高度総合力を持つ“MV兼備”の日米独などの「先進大国群」−に分けられると思います。
明日のBRICKSとして世界の注目を集めているのが、興業立国M群の東南アジア諸国連合(ASEAN)です。総じて国民経済が好調で、平均成長率も7%以上をキープしつつ「脱中国」の流れを加速させているようです。
たとえば、人口8千万のベトナムの人件費は月給100ドルと中国の3分の1、人口6千万人強のミャンマーなら月給25ドルと10分の1以下まで下がります。バングラデシュでは1・6億人もいて人件費は中国の6分の1程度だそうで、労働集約製造業にとって極めて魅力的で、すでにユニクロなどが成果を上げております。
■アフリカに浸透する中国とインド
さて、追い込まれた中国ですが、資源立国R群の「アフリカ諸国」へ進出しつつあります。数十万人の定住華僑による情報網と資本投下に呼応して、すでに数百万人が移住しており、資源産出地はもちろんのこと未開地に繊維業などの興行団地を設営しつつ、そこで働いております。またアフリカには、古くからインドが移住を進めており、印僑だけでも300万人が点在してます。
特にサハラ砂漠以南の地域は、エチオピア、モザンビークをはじめ、成長率15%以上の国々が目白押しです。ちなみに、エチオピアは人口6千万強、人件費は中国の10分の1で、繊維業や製造・組み立て業にとって国際貿易競争上、大きな武器となっています。
日本のアフリカ進出はJICAやODAなど“お金稼ぎ”に特化するだけで、華僑・印僑のような、アフリカの隅々にまでネットワークを張り巡らせた上、やる気のあるタフな移民部隊を送り込んでいる体制に比べ、テロや危機管理が不十分となります。“想定外”の危機への対策・応変に大きく遅れをとっているのではないでしょうか。
■日本が目指すモデルはスイスにあり
とはいえ、日本が印中の“人海戦術”にならうのは無理があります。日本が参考にすべきは、人件費の安い国への移動とはまったく逆の発想で世界の投資を呼び込む「V=バリュー国家群」です。
北欧諸国やスイス、シンガポール、ルクセンブルクなど、資源もない小国ながら技術力、知的労働力、ブランド力、金融力などに優れ、「グローバルに活躍できる高度な人材」を生かしている賢い国家群こそ、日本はモデルにすべきでしょう。工業国の至上目的だった量=GDPの大きさより、量の先にある知価=質を追求し、金融やブランド品、占有力の高いハイテクなどを通じて、高い付加価値によって「高所得を稼ぐGNI国家」を目指すべきなのです。
スイスといえば「観光」というイメージが強いかもしれませんが、同時に技術・ブランド立国の国でもあります。人口800万の小国ながら、世界のトップ企業が数十社もあるそうです。国内に市場がなく、EUにも加盟していないので、最初から世界市場をターゲットにせざるをえないのです。
たとえば、世界最大の食飲料会社のネスレ、ロレックスをはじめとする伝統の高級腕時計産業、高級チョコのリンツ、世界有数の人材派遣事業のアデコ、ヘッドハンターのエゴンゼンダー、セメントのホルシカー、海もない国なのに船舶エンジン世界一のスルザー…。これらのスイス企業は「いくらフラン高になっても為替の影響は受けない」と豪語しており、“想定外”を未然になくしてしまう賢い国家なのです。
直接民主制のスイスでは、大統領さえ連邦議会選出の7人の執行役が輪番で受け持ち、政治は国よりも州レベルで完結しているようで、議員は自分の仕事との兼務なので全員無給です。公用語は5カ国語とグローバル化を後押ししており、人材育成は大学に頼らず、国民の8割が中学・高校卒業までに実学・職業訓練を受けます。18歳になったときにはすでに「稼ぐ力」を持っており、大学卒と同等以上の年収を得ているようです。
大学過剰で22歳まで稼ぐことを知らず、職能を持たない若者が半数を占める日本は、高等教育と職業教育を大幅に見直す必要がありそうです。
■巧みな国家戦略で金持ちの国になったシンガポール
シンガポールも代表的な資源なき「V国家」で、なんと100万ドル長者が全所帯の2割を占める“お金持ちの国”です。3〜5年ごとに国家戦略を切り替える伝統は、国民生活向上を究極の政策ゴールとして、世界中から人材と資本を集め、欧米資産のアロケーションを一手に担うに至っていることで、その有効性が実証されています。事業プロジェクトごとに役所を立ち上げ、目標達成後は解散させて民営化で稼がせる手法は、世界最大手の港湾管理会社PSAなどに成功例を見ます。
移民戦略も巧妙で、必要な高度能力を持ったエリート人材のみを招き入れ、すでに100万人以上を自国内で戦力化しているそうです。数年前に開業したマリーナベイ・サンズは、三棟の高層ビルを屋上でつないだリゾートホテルで、世界最大のカジノや屋上プール、世界的なブランドショップ街が、自国の高所得層や世界の賓客の富を吸収しています。
■日本活性化のカギは「道州制」
こうしたV国家では付加価値でGNIを稼ぐため、国民1人当たりの所得は日本よりもはるかに高くなります。そこに新しい国家成長モデルがあふれているといっていいでしょう。共通項は、人口1千万以下の小国ということ。日本でいえば、ちょうど九州や北海道、東北といった地域に相当します。
経営学に「組織は小さく全貌が見える範囲にとどめよ」とありますが、スイス・シンガポールに学ぶならば、1億の大国日本を「V指向」で活性化させるには道州制が急がれます。国民の懐ばかり当てにせず、世界から投資を呼び込み、人材を集め、コミュニティを事業戦略単位に落とし込めば、互いに切磋琢磨し、独自の優位性を生かした成果が得られるはずです。
地場産業育成、観光スポット高揚、リゾートやカジノの運営、職業教育など州単位で想定できるような独自戦略が、“想定外”続きで沈滞する旧態依然の工業国・日本を活性化させるカギとなるに違いません。(上田和男)
上田和男(こうだ・かずお)
昭和14(1939)年、兵庫県淡路島生まれ。37年、慶応大経済学部卒業後、住友金属工業(鋼管部門)に入社。米シラキュース経営大学院(MBA)に留学後、45年に大手電子部品メーカー、TDKに転職。米国支社総支配人としてカセット世界一達成に貢献し、57年、同社の米ウォールストリート上場を支援した。その後、ジョンソン常務などを経て、平成8年(1996)カナダへ亘り、住宅製造販売会社の社長を勤め、25年7月に引退、帰国。現在、コンサルティング会社、EKKの特別顧問。
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