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欧米、上がらぬ物価
企業業績回復でもデフレ懸念 長引く金融緩和
【ベルリン=赤川省吾】欧米で経済の「体温」といわれる物価が上がらず、金融緩和が長期化する可能性が出てきた。企業業績は好調だが、経済全体に資金が十分に回らず、需要の弱さからモノの値段が上がりにくくなっている。とくにユーロ圏は日本型デフレが懸念され、欧州中央銀行(ECB)は追加緩和を視野に入れ始めた。
「日本が経験した『失われた10年』に欧州が直面するとは思わない」(アスムセン専務理事)
ECBの理事会メンバーは金融市場でくすぶるデフレ懸念を打ち消すのに懸命だ。直ちにデフレに陥る可能性は低いとみられるが、欧州がディスインフレ(物価上昇率が極めて低い状態)に入り込んだのは間違いない。
ユーロ圏の直近10月の消費者物価指数(前年比上昇率)は0.7%。ECBが物価目標と定める2%前後を大きく下回った。債務危機を引きずるギリシャの物価はマイナス1.9%、スペインやポルトガルは0%だ。
「少しずつ景気回復の道筋が見えてきたが、低インフレが長く続く恐れがある」。21日の講演でドラギECB総裁は懸念を示した。日本の轍(てつ)を踏みたくないECBは「状況が悪くなれば緩和に動く」(コメルツ銀アナリストのワイル氏)。量的緩和の導入や再利下げに加え、民間銀の中銀預金金利をマイナスにする案が浮かぶ。
投資・雇用に慎重
米国経済も2009年以来のディスインフレから抜け出せない。10月の消費者物価は前年比上昇率が1%と、4年ぶりの低さ。米連邦準備理事会(FRB)が重視しているPCE(個人消費支出)デフレーターは9月が1.2%の上昇にとどまる。物価の弱さをふまえ、FRBは量的緩和の縮小開始を来春以降に先送りする構えだ。
主要500社の純利益が7〜9月期は前年比で約6%増えるなど、米国企業の業績は好調。それでも物価が上がらないのはミクロとマクロ経済の動きに乖離(かいり)があるからだ。
米国企業は手元に1兆8000億ドル(約180兆円)という巨額の資金を抱える。だが米国での設備投資や人材採用にはなお慎重だ。欧州企業も投資のための銀行借り入れには動かず、スペインでは失業率が26%を超える。企業のもうけが設備投資や賃金などを通じて経済全体を押し上げるメカニズムが働かなくなっている。
企業の設備投資や個人消費が増えないとモノは売れず、物価は上がらなくなる。この状況を変えるには金融緩和でマネーを増やすしかない。
欧米が緩和強化に傾けば「2年程度で2%」の物価上昇をめざす日銀は微妙な立場に置かれる。日本の緩和姿勢が相対的に弱まり、円高が再燃する可能性があるからだ。
日銀内には10年の苦い経験の記憶が残る。日本が金融政策の現状維持を決定した8月10日、FRBが米国債の購入拡大を決定。これが11年に1ドル=70円台まで円高が進む転換点になった。日銀には「緩和姿勢が足りない」との批判が殺到した。
21日の記者会見で日銀の黒田東彦総裁は「(金融政策の)余地はある」と語った。市場は「緩和姿勢で欧米の後手に回って円高を招く事態を避ける思惑があった」と受け止めている。
緩和・企業収益に期待 NY株、初の1万6000ドル 持続力には疑問符
ニューヨーク株式市場で21日、ダウ工業株30種平均が初めて終値で1万6000ドルを突破した。投資家の意識は米国のファンダメンタルズよりも、金融緩和の長期化と企業収益の底堅さに向けられている。
米株式市場は最近の株高を「イエレン・ラリー」と呼ぶ。21日の株高もFRB次期議長へのイエレン氏の指名を米上院銀行委員会が承認したのがきっかけだ。
イエレン氏は「(量的緩和の)縮小開始の時期は決めていない」と語るなど、積極的な緩和派として知られる。FRBの緩和縮小への警戒が薄れ、日欧の緩和期待もあって、市場では当面はカネ余りが続くとの観測が台頭。投資家がリスクを取り始めている。
「米国企業のバランスシートはかつてないほど強固になった」(米運用会社アリエル・インベストメンツ)。好調な米国企業の業績も株高を支える。ヤフーが自社株買いを強化するなど、膨大な手元資金を株主に還元する動きもマネーを呼び込んでいる。
株高は日本や欧州でも続く。日経平均株価は22日に一時、1万5579円に上昇し、5月に付けた年初来高値までわずか50円弱に迫った。欧州ではドイツ株式指数(DAX)が史上最高値の水準に、フランス株価指数(CAC40)は5年ぶりの高値圏にある。
もっとも、株高の持続力には疑問符が付く。景気回復や雇用改善には力強さがうかがえず、潜在成長率の低下を金融緩和でカバーする構図だからだ。米国株の予想PER(株価収益率)が15〜16倍まで上がるなど割安感も薄れてきた。
(ニューヨーク=川上穣)
[日経新聞11月23日朝刊P.3]
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