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http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20131122/ecn1311220727000-n1.htm
2013.11.22 「お金」は知っている
中央銀行がお札を大々的に刷って、銀行に流し込む量的緩和政策は景気をどこまでよくするのか。
日銀は2001年初めから5年間、量的緩和政策を続けたが、白川方明(まさあき)前総裁(08年4月〜13年3月)は実体景気への効き目は薄いとして、小出しの緩和に徹してきた。白川路線を否定する黒田東彦(はるひこ)総裁は「異次元緩和」と銘打った量的緩和に踏み切った。
モデルは米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が08年9月のリーマン・ショックから現在まで、3度にわたって実施してきた量的緩和政策である。FRBはことし9月までの5年間でドル資金の供給残高(マネタリーベース、MB)を3・8倍に膨らませてきた。黒田総裁もMBを2年間で2倍に増やそうとしている。
量は増えても、カネは回らなければ意味がない。預金に対してどのくらいの割合で貸し出されているかを示す「銀行の預貸率」である。本欄の前回では、日本を取り上げたが、米国の預貸率=グラフ=も、日本と見事に同じトレンドである。お札を刷っても、米国の預貸率は日本と同じく下落の一途でお札増刷政策は融資には結びつかない。ところが、米国の場合、少なくてもデフレには陥らずに済み、景気もごくゆっくりではあるが回復基調をたどっている。
その秘密は米国の金融構造にある。米国の国内総生産(GDP)に対する銀行融資残高の割合はことし9月末で43%に過ぎない。それに対し、日本は88%に上る。証券市場からの資金調達による「直接金融」主体の米国と、銀行融資による「間接金融」中心の日本は大きく違う。米国の場合、MBによって国債などの証券をFRBが買い上げる。さらにFRBから資金供給を受けた金融機関が株式のインデックス商品などに投資する。こうして証券市場をにぎわして、株価を吊り上げる。
すると企業などは証券市場から低コストの資金を調達できる。株式など証券資産主体に金融資産を運用している米国の個人はフトコロが潤って消費を増やす。需要増をみて企業は設備投資を増やす。米国では証券市場を通じて量的緩和が実体経済に波及しやすい構造にあるのだ。
日本の場合、家計の金融資産の54%は現預金で、株式など証券資産は14%に過ぎず、米国とは真逆だ。
異次元緩和は円安・株高の誘因に違いない。しかし、株価を上昇させても恩恵は一部の大口株主にとどまる。米国と違って資産効果が個人消費に波及する度合いは小さい。消費需要が伸びなければ企業も雇用増や設備投資をためらう。
もとより、銀行融資に依存する中小企業は円安で収益を減らしている。原材料コストが上がっているが、販売価格に転嫁できないためだ。来年4月からの消費増税で雇用の7割を占める中小企業はさらに収益を圧迫される。米国並みのパワーが見込めそうにない日本の異次元緩和は消費増税でさらに効力をそがれるだろう。(産経新聞特別記者・田村秀男)
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