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世界が日本流の長期停滞に入る恐れ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39234
2013.11.21 Financial Times :JBpress
(2013年11月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国のローレンス・サマーズ元財務長官が、楽観論者の残党に大量の冷や水を浴びせかけた。先日開催された国際通貨基金(IMF)の年次調査会議にパネリストとして参加したサマーズ氏は、高所得国の経済が世界金融危機以前の通常の状態に戻ることは容易ではないかもしれないと述べたうえで、需要の慢性的な低迷と遅い経済成長という、不安を抱かせる将来像を描いてみせたのだ。
いわゆる「長期停滞」に陥る可能性を指摘したのはサマーズ氏が初めてではない。思慮深いアナリストたちは金融危機以来ずっと、日本の「失われた10年」の二の舞いになるのではという恐怖を感じてきた。しかし、サマーズ氏の説明は実に華麗で、見事だった。
■長期停滞を恐れる理由:西方諸国に見られる3つの特徴
同氏の説明を信じる理由は何か? これについては、西側諸国に見られる3つの特徴を指摘することができる。
第1に、2007〜08年の世界金融危機からの回復は明らかに弱々しい。米国の第3四半期現在の経済規模は危機前のピーク(もう5年以上前の話)を5.5%上回るにすぎない。また実質ベースで見た米国の国内総生産(GDP)は危機前のトレンドに対して後れを取っており、両者の差は拡大し続けている。
しかも、超緩和的な金融政策が取られているにもかかわらず、このGDPの伸び悩みは長期に及んでいる。
第2に、金融危機で打撃を受けた国々は、危機の前には住宅価格の急上昇とともにレバレッジの急拡大を(特に金融部門と家計部門で)経験していた。いわゆる「バブル経済」である。また多くの国々(とりわけ米国と英国)の政府は拡張的な財政政策も取っていた。
それにもかかわらず、行き過ぎを示唆する明らかな兆候――特にトレンドを上回る経済成長やインフレ率――は英国でも米国でも危機がやって来る前には一切見られなかった。
第3に、危機前の数年間には、世界経済が力強い成長を遂げていたにもかかわらず、長期の実質金利が著しく低い水準で推移していた。英国では長期の物価指数連動国債の利回りが、アジア金融危機の後に4%近い水準から2%前後に低下していた。世界金融危機の後にはマイナス圏に突入している。米国の物価連動国債(TIPS)の利回りも、少し後れながら同様な動きを見せていた。
従って、金融システムの健全性をある程度回復させたり、危機前に積み上がった過大な債務負担を軽減したりするだけでは、完全な景気回復は実現しそうにない。なぜか?
それは、世界金融危機の前に見られた金融の行き過ぎが以前からの構造的な弱さを覆い隠していたから、あるいは筆者が論じてきたように、この行き過ぎ自体がそうした弱さに対応して生じたものであったからだ。
■世界的な貯蓄過剰という問題
そうした弱さの1つに「世界的な貯蓄過剰」がある。これは「投資不足」と言い換えてもよい。低い実質金利がその何よりの証拠だ。生産的な投資を探し求めている貯蓄の方が、その貯蓄を利用する生産的な投資よりも多かったということだ。
貯蓄過剰のしるしは「グローバルインバランス(世界的な経常収支不均衡)」にも表れていた。東アジアの新興国(とりわけ中国)、石油輸出国およびいくつかの高所得国(とりわけドイツ)による巨額の経常収支黒字(資本の純輸出)のことだ。
これらの国々は、世界のほかの国々に差し引きでプラスの貯蓄を供給することになった。金融危機前はそうだったし、今日でもこの構図は変わっていない。
世界金融危機が起きる前は、世界の過剰な貯蓄の大部分を米国が吸収していたが、生産的な投資に使われたわけではなかった。低利の資金を容易に借りられたにもかかわらず、米国の設備投資のGDP比は2000年以降低下した。この低下の理由の1つは、投資財の相対価格が下落したことにあった。実質ベースで見た設備投資のGDP比は安定していたが、名目ベースで見た比率は低下しているのだ。
また、2000年直前の株式バブルの時を除けば、企業は設備投資の資金を自らの貯蓄から捻出しており、外部から調達する必要がなかった。
そのため、米国に輸入される貯蓄は、家計部門と政府部門の借入という形で使われた。ところが、所得格差が拡大したことにより、家計部門の借入超過(つまり、貯蓄よりも借入の方が多い状態)に頼ることはさらに難しくなった。
ほかの条件が同じであれば、この状況では家計部門の貯蓄は増えるはずだ。お金持ちは支出以上の所得を得ることが多く、さらにお金持ちになるにつれてさらに貯蓄をすることが多いからだ。
この問題に対する(一時的な)解決策は、お金持ちでない人をそそのかして返済能力を超えた借金をさせ、支出を続けられるようにすることだった。しかし、2007〜08年の金融危機でこの手法は破綻した。
要するに、世界経済は、たとえ金利が極めて低くても企業が使いたいと思う以上の貯蓄を生み出してきたわけだ。これは米国だけでなく、大半の主要高所得国に当てはまる。
こうして過剰貯蓄は足元の需要の制約になった。だが、これは投資の鈍さと関係していることから、将来の供給の伸びが鈍いことも意味している。この問題は危機以前から存在していたが、危機で一段と悪化した。
■長期停滞を回避するためになすべきこと
では、何をすべきなのか? 投資に対する望ましい貯蓄の過多に対する1つの対応は、実質金利のマイナス幅を大きくすることだ。一部のエコノミストがインフレ率を引き上げるべきだと主張しているのは、このためだ。だが、それはたとえ政治的に容認できたとしても、達成するのが難しい。
アンドリュー・スミザーズ氏が著作『The Road to Recovery(回復への道)』で強調したもう1つの可能性は、企業投資を妨げる障害に真正面から取り組むことだ。同氏が挙げる一番の元凶は、経営陣を生産的な投資を増やすよりも自社株買いを通じて株価を操作するよう促す「ボーナス文化」だ。
スミザーズ氏が考察し、多くのエコノミスト(筆者自身も含む)が支持する、また別の可能性は、今日の過剰貯蓄を資金源として利用して、公共投資を大幅に拡大させることだ。これは部分的に低炭素成長へのシフトと結びつけられるかもしれない。
もう1つの可能性は、絶好の投資機会が存在するに違いない新興国・発展途上国への資本移動を促進することだ。これだけ膨大な世界の貯蓄が、一見したところ投資機会が存在しない場所にチャンスを求め、投資機会が存在すると期待される場所を避けることは意味をなさない。
高所得国にただの金融危機以上のことが起きたという根本的な主張には説得力がある。また、こうした国での設備投資の急増がどうにかして世界の過剰貯蓄を吸収するとは考えにくい。結局のところ、人口が高齢化し、賃金が高く、経済が停滞している国々で、そんなことが起きると考える理由などあるだろうか?
危機が高所得国にもたらしたダメージは大きいが、これらの国はそれよりずっと大きな問題に直面する。かなり長期にわたり弱い需要と貧弱な供給が続く未来に向かうかもしれないのだ。
つまり、最善の対応は、生産的な民間投資および公共投資を増やすことを目指した策だということになる。そう、確かにミスは起きるだろう。しかし、貧しい未来のコストを受け入れるよりは、ミスを犯すリスクを取った方がいい。
By Martin Wolf
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