http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/887.html
Tweet |
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第52回 驚愕のECB
http://wjn.jp/article/detail/2340890/
週刊実話 2013年11月28日 特大号
信じ難いことに、欧州中央銀行(以下、ECB)は昨年末以降、マネタリーベースを大きく減らしている。すなわち、金融引き締めをやっていたわけである。
昨今、ユーロは対ドルで久方ぶりの高値を付けているが、当然だ。これだけマネタリーベースの増減に差が出ていれば、ドル⇒ユーロの両替が増えるだろう。
よくわからないのは、ECBの現在のユーロの雇用環境の悪化に対する考え方である。
ユーロ圏全体の失業率が12.2%と、統計史上最悪。ギリシャ、スペインの失業率が25%を上回っており、さらにイタリアというユーロ圏第3位の経済規模を持つ国の失業率が12.5%。第2位のフランスにしても、11.1%。現在のユーロ圏は、金融引き締めをする環境とは思えない。
今のECBは、まるで昔の日本銀行を思い起こさせる。
インフレ率の方を見ると、対前年比('13年9月時点)でギリシャが-1%、スペイン0.5%、イタリア0.9%、フランス1%、ポルトガル0.3%、アイルランド0%、ドイツが1.6%。どう考えても「インフレ抑制」を目指すべき局面には思えないわけだが、ECBは昨年末から今年の春にかけ、マネタリーベースの削減を始めた。
しかも、ECBが金融引き締めをしていたユーロ圏において、株式市場が5年ぶりの高値を付けるという、意味不明な状況が起きている。
11月4日の欧州株式市場は大きく反発し、5年ぶりの高値で引けたのである。
失業率が史上最悪(ドイツを除く)を更新し続け、欧州中央銀行(ECB)が金融引き締めをしている中、株価が史上最高値を更新。一体、何が起きているのか。
欧州株式市場の史上最高値更新を報じる記事では、ECBがハト派的なシグナルを出す(=金融緩和に舵を切る)との見通しが相場を支えているとなっているが、そうなのだろうか。あるいは、それだけなのだろうか。
アメリカの量的緩和が継続する中において「ドル安ユーロ高」が発生し、しかも欧州の株式市場が上昇している。つまりは、単にFRBが発行した「ジャブジャブ」のドルがユーロに両替され、欧州株式市場に流れ込んでいるに過ぎないのではないか。
上記が真実だとすると、アメリカが来年にでも量的緩和を終了した途端に、ドルキャリーの巻き戻しが起き、通貨ユーロと欧州株が暴落する可能性があることになる。
ユーロ関連の金融商品に投資をしている方は、十分に注意するべきだ。
ところで今後、各国のデフレ化を受け、ECBが金融緩和に再び舵を切り、ユーロを市場に供給していったとして、果たしてユーロ加盟国の失業率は改善するだろうか。
株価は間違いなく上昇すると思うが、実体経済において雇用は生まれるのか。特に、ユーロ加盟国は「共通通貨ユーロの呪い」により、財政出動が打てない状況にある。
しかも、シェンゲン協定で人間の移動が自由化されているため、失業率が高騰している国が公共投資を打ったとしても、外国人労働者に雇用を奪われてしまう可能性もある。
色々な意味で、今後のユーロは「日本が辿ってはならない道」を先行してくれているように思える。
結局は、バブル崩壊後に雇用を速やかに改善させるためには、金融緩和と財政出動を組み合わせる必要があることを、世界に示す結果になるのではないか。つまりは、財政出動を封じられた状況で金融緩和のみを拡大しても、失業率の上昇を止められないという話である。
財政出動という「直接的な雇用創出」を封じられた状況で金融緩和を拡大しても、「金融経済」と「実体経済」の乖離が拡大するだけの結果に終わるだろう。
なにしろ、「金融経済」の内部をお金が巡り、トレーダーなどの所得が増大したとしても、創出される雇用はあくまで「1人」である。中央銀行が金融緩和の一貫として供給した通貨を、政府が消費もしくは投資(公共投資)として使えば、間違いなく「桁違い」の雇用が創出されるはずなのだが。
アメリカのノーベル経済学者であるポール・クルーグマン教授の新著『そして日本経済が世界の希望になる(PHP新書)』に、興味深い一節があったので紹介しよう。
〈十五年前に比べ、私は日本やそれ以外の国からさまざまな事実を学んだ。自国の通貨で借り入れをする国は手綱が緩く、借金のレベルが高くても、公債についてはそれほど悩む必要はない。
財政拡大の恩恵とリスクについて、かつてに比べれば私の考え方は大きく変化した。いまではその積極的な拡大を行う必要がある、と確信している。
問題は危機に直面したとき、リアルタイムでいかなる政策手段が必要か、ということだ。財政政策がより有効な解決策である、というのがその答えである。この点については私も、コロンビア大学のマイケル・ウッドフォードも同じ意見だ。
「流動性の罠」への対処策として、金融政策が人びとの期待を変えることに依存する、という点に比べ、財政出動の長所は、それが人びとの期待を変えなくてもよい、ということだ。人びとが(当局の)約束を信じようと、信じまいと、景気を拡張させる効果がある。目の前の橋をつくることによって、現実の雇用が生まれるからだ。(P39)〉
ECBが金融緩和に転じても、現実問題としてお金が「所得創出」、あるいは「雇用創出」に向かわない可能性は存在する。だからこそ、政府がお金を「借りて、使う」必要があるわけだが、ユーロ加盟国はすでに金融主権はもちろんのこと、財政出動の主権も喪失しつつあるのが現状だ。
結果的に、ECBがどれだけユーロを発行しても、現在の驚異的な高失業率を改善することは困難である。
現在の日本の問題、すなわち国土強靭化を含む「財政出動」の問題が、実は「世界の問題」であることがおわかり頂けると思う。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。