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日本の財政、残された時間的余裕は少ない 「経常黒字だから大丈夫」は危険
http://toyokeizai.net/articles/-/24043
2013年11月15日 櫨 浩一 :ニッセイ基礎研究所 専務理事 :東洋経済
日本では大幅な財政赤字が続いており、政府債務残高のGDP(国内総生産)比は財政破たんに追い込まれたギリシャをも上回る水準にある。それにもかかわらず日本の長期国債金利が極めて低水準である理由として、日本は貯蓄が豊富で財政赤字の穴埋めするための資金を海外からの調達に頼っていないからだという指摘が、なされることが多い。
来年度からの消費税率引き上げに反対する意見の背景には、日本の経常収支は黒字なのだから財政赤字の資金調達で近い将来に問題が起きるとは考えられないという楽観的な見方がある。
日本の経常収支は1980年代初めから黒字が続いている。「国内貯蓄と国内投資の差は、海外部門の貯蓄と投資の差の赤字(反数)であり、日本の経常収支に等しい」という関係があるから、経常黒字であることは国内の民間の貯蓄が財政赤字や国内投資を賄って余りあることを意味している。
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日本の財政赤字が問題になり始めたのはそれほど最近のことではない。第2次世界大戦中の財政赤字によるハイパーインフレーションを経験した我が国は、終戦後は初期の混乱期を除き1970年代初めまでは概ね均衡財政を維持していた。しかし第1次石油危機をきっかけに財政赤字が続くようになり、1980年代初めには既に財政再建が大きな政治的課題となっていた。
■バブル崩壊後政府部門の赤字が拡大
1980年代後半から90年代初めにかけての時期は、高齢化がまだ初期段階で年金などの社会保障制度の貯蓄・投資バランスの黒字が続いていたことに加えてバブル景気で税収が大きく伸びた。このため政府部門全体としても貯蓄・投資バランスが一時黒字化した。しかし、バブル崩壊と同時に政府部門は貯蓄・投資バランスが赤字化し、その後ほぼ一貫して大幅な赤字が続いている。
1990年代末までの日本では、家計の貯蓄・投資バランスの黒字が大幅で、それが財政赤字を賄う資金源となっていた。同時に、これは国内の需要の不足や大幅な経常収支黒字による円高の原因ともなってきた。しかし、1980年代初めに20%近くもあった家計の貯蓄率が近年は2%程度にまで低下していていることは本欄の「高齢化はデフレではなくインフレを招く」でも述べた通りだ。
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1980年度には名目GDPの10%という規模だった家計部門の貯蓄余剰は縮小し、代わりに企業部門の資金余剰が大きくなっている。1998年度以降、企業部門は貯蓄が投資を上回る、資金余剰の状態が続いており、多くの年度で、家計部門よりも大きな資金余剰になっている。1990年代末以降、日本の経常収支黒字を支えてきたのは、企業部門の黒字だと言っても過言ではない。
■政府の赤字を支えてきた企業の黒字にも終止符か
日本の企業部門が貯蓄・投資バランスで大幅な黒字を出すようになった理由は、バブル景気の最中に過剰な投資を行い、過剰債務に陥ったからだ。企業部門の純債務のGDP比は1980年代初めの80%程度から1989年度には145%近くにまで上昇した。バブル崩壊後は投資を抑制することで徐々に過剰債務の削減が計られたが、純債務のGDP比は高止まりを続けた。
しかし、1990年代末になると企業は貯蓄・投資バランスが黒字を出して急速に債務の圧縮を行うようになり、2012年度にはバブル前を大きく下回る60%台前半にまで低下している。
政府の成長戦略が成功を収め、企業が日本経済の先行きに対して自信を深めれば、資金を借り入れて債務を拡大する余地はかなり大きい。少なくとも、2000年代に入ってからのように企業部門の大幅な貯蓄余剰が続く、ということはなくなる可能性が高い。
そうなれば、企業部門の余剰資金で大幅な財政赤字を賄うということはできなくなるはずで、そのときに大幅な財政赤字が続いているならば、経常収支は赤字になって、海外からの資金流入が必要になる可能性が高い。
さらに言えば、経常収支の黒字がある間は日本国内では貯蓄が投資を上回っているのだから、長期金利の上昇は起きない、といえるのだろうか。
政府・日銀による為替介入がなければ、経常収支の黒字とは日本から資本が流出していることを意味している。これは、経常収支と資本収支の合計が必ずゼロになるからで、経常収支が赤字にならなければ資本収支は黒字(海外から資金流入)にはならない。このため、経常収支の黒字がある間は財政赤字のファイナンスには問題が生じないように見える。
■海外で得た所得の多くは現地で再投資される
しかし現実はもう少し話が複雑だ。日本の国際収支においては、経常収支の黒字のうち、海外で得た所得がそのまま海外で再投資されている「再投資収益」がかなりの額にのぼるからだ。
海外不動産の取得や海外子会社の設立などの直接投資に関連して、投資先企業の未処分利益の増加は、日本企業の出資割合に応じて再投資収益として所得収支の一部に計上される。所得収支に計上されていても、再投資収益は実際には日本国内に流入しているわけではない。そのため、同時に資本収支の直接投資に同額の赤字(資本の流出)として計上されている。
つまり、直接投資の未処分利益の増加分は、統計ではいったん直接投資収益として受け取り、同額を追加的に直接投資したとして扱っている。一度投資家が利益を手に入れ、その利益をそのまま再度投資をしたとみなすことになるので、再投資収益と呼ばれる(国際収支統計で再投資収益が計上されているのは、1996年1月分からである)。
再投資収益は所得収支の受け取りとして経常収支の黒字に記録されるが、同時に、同額の資本収支の赤字としても記録される。計算上の経常収支の黒字であり、財政赤字を賄うことには使えないお金なのだ。
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日本の直接投資残高は増加を続けていて2012年末で89.8兆円にも達しており、再投資収益は拡大している。2008年に起きたリーマン・ショックによる世界経済の悪化で、2009、2010年の再投資収益は大きく落ち込んだが、その後かなりの回復を見せ、2012年は2.1兆円の受け取り、1.9兆円の黒字となっている。
2012年の日本の経常収支黒字は4.8兆円だから、再投資収益の黒字はその半分近くに当たる規模だ。自動的に流出してしまう再投資収益を差し引くと、財政赤字を賄う資金の余力は、統計に表れる経常収支の黒字よりもかなり少ないことがわかる。
■「経常収支が黒字のうちは大丈夫」という考えは危険
日本の経常収支の黒字は東日本大震災後の原子力発電停止の影響もあって大きく減少しているが、高齢化が進むことで黒字の縮小傾向が続き、いずれ赤字化する可能性が高い。さらに本稿で述べたように、経常収支が赤字になるかなり前から大幅な財政赤字のファイナンスに海外からの資金流入が必要になる可能性が高い。財政赤字を大幅に縮小するために我々に残された時間的余裕は、一般に考えられているよりもはるかに少ない。
経常収支が黒字の間は国内の資金で財政赤字が賄われているので財政赤字が大きくても問題が起きない、と楽観することは危険ではないか。いつの間にか危険水準を超えており、気が付いたときには大変な事態になっているという恐れが大きいのだ。
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