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日産、なぜ一人負け?ゴーン一極集中経営の迷走、EV不振、商品競争力に市場から懸念も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131114-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 11月14日(木)3時56分配信
電撃的なナンバー2の解任劇だった。日産自動車は11月1日、志賀俊之COO(最高執行責任者)(60)が代表権を持った副会長に退く人事を発表した。COOの職務は西川(さいかわ)廣人副社長(59)、アンディ・パーマー副社長(50)、トレバー・マン副社長(52)の3人が分担して引き継ぐ。会長とCEO(最高経営責任者)を兼ねるカルロス・ゴーン社長(59)は留任する。
日産は当初、11月5日に志賀氏が記者会見で2013年9月中間決算を発表する予定だった。ところが発表を11月1日に前倒した上に、ゴーン社長が予定していた韓国訪問を急遽キャンセルして横浜市の本社で記者会見した。14年3月期通期の業績が下振れする見通しとなったのを受けて、ゴーン社長自身は「懲罰ではなく、若返りだ」と述べたが、事実上の志賀氏解任と業界内では見られている。
副会長になる志賀氏は11月1日付、北米日産の会長兼社長のコリン・ドッジ副社長(58)は14年1月1日付で、CEO・COO及び8人の副社長で構成される最高意思決定機関、エグゼクティブ・コミッティ(EC)のメンバーから外れる。2人とも経営の決定権者でなくなるわけだ。代わって中国法人である東風汽車有限公司総裁の中村公泰氏と米州地域上級副社長のホセ・ムニョス氏が日産の副社長となり、ECメンバーに新たに加わる。
新体制では西川副社長がゴーン社長に次ぐナンバー2となり、業務を執行する経営会議(オペレーションコミッティ)の議長を務める。購買や生産、研究開発の統括を継続するほか中国地域にも責任を持つ。パーマー副社長はグローバル販売、電気自動車(EV)事業を、マン副社長は新興国専用車のダットサン事業などを受け持つ。
ゴーン社長は記者会見で、次期社長の本命とされてきた志賀氏が外れたのは「若返りのため」と強調したが、新たにナンバー2となった西川氏は志賀氏と同じ1953年生まれで、若返ったわけではない。50歳のパーマー氏、52歳のマン氏が次期社長争いの本命となったとの見方が同社関係者の間では強い。ECのメンバーに昇格した中村公泰氏やホセ・ムニョス氏が対抗馬になる見通しだが、ゴーン社長は来春の第2弾の大型人事も示唆している。
●ゴーン一極集中体制へ
ゴーン社長はCEOを兼任している仏ルノーでも今年8月、ナンバー2だったカルロス・タバレスCOOを解任した。ゴーン社長は予定されていた米カリフォルニア州での自動運転車の発表会への出席を急遽キャンセルしてフランスに戻り、臨時取締役会でタバレス氏の解任を決めた。
テストドライバーとして入社し、COOまで上り詰めたタバレス氏はゴーン氏への不満を募らせていたという。日産CEOを兼務するゴーン氏はルノー本社を留守にすることが多く、タバレス氏は自身の権限拡大を要求していたがゴーン氏がこれを拒否。2人の対立が決定的となり、解任につながったとフランスのメディアは報じていた。
ルノーでは11年に虚偽の産業スパイ事件の責任を取って当時COOだったパトリック・ペラタ氏が辞任し、後任にタバレス氏が就いた。両者とも“ポストゴーン”の有力候補とされていたが、ゴーン氏はトップの座を譲る気はなく、ナンバー2のポストであるCOO職を廃止。新たに最高競争力責任者と最高業績責任者を設け、この2人の責任者をゴーン氏直属の部下とした。
日産でもナンバー2である志賀COOを解任しCOO職を廃止した。そこから見えてくるのはゴーンCEOのワントップ体制の強化である。今回の日産の新体制はCOOの職務が3人の分業体制となり、権限はゴーン社長に集中する。ナンバー2を必要としないゴーン社長自身への一極集中である。権力はゴーン氏に集中するが、経営責任の取り方は今ひとつはっきりしない。
●自動車業界で一人負けの様相
ゴーン流経営の神髄はコミットメント(必達目標)経営にある。数値目標を掲げ目標の達成を最も重視してきた。目標を達成できない場合、責任を取ることを求める。執行役員クラスでは懲罰人事が頻繁に行われ、今年4月1日付で国内営業担当の常務執行役員とEV担当の執行役員が子会社に異動となった。12年に日産の国内市場のシェアは2位から5位へ転落し、EVも販売不振が続いたためで、今回の志賀COO解任もコミットメントを達成できなかったからにほかならないと見られる。
日産は11月1日、13年9月中間決算(4〜9月)を発表した。本業の儲けを示す営業利益は2.6%減の2219億円だった。欧州が165億8700万円の営業赤字(前年同期は140億円の黒字)、中南米や南アフリカなどその他の地域は合計で186億7200万円の営業赤字(同46億円の黒字)。中国などアジアは3割の営業減益。北米は販売が好調で売上は36%増だったが、リコール(回収・無償修理)費用がかさみ7%の営業減益だった。国内は営業利益が2倍になったが、他地域の赤字&減益をカバーできず、9月中間期の営業減益は3年連続となった。
その結果、14年3月期連結決算(日本基準)業績予想の下方修正を余儀なくされた。売上高は従来予想(5月時点)より1800億円少ない10兆1900億円(前年同期比16.6%増)。営業利益は1200億円少ない4900億円(同11.7%増)、最終利益は650億円少ない3550億円(同4.1%増)にそれぞれ引き下げた。自動車業界で一人負けの様相を呈してきた。
欧州での販売低迷や、インドやロシア、ブラジルなど成長市場と位置付けている新興国の景気が減速し、販売が思うように伸びなかった。世界販売台数の予想も従来より10万台少ない520万台とした。決算発表後の最初の取引となった11月5日の東京株式市場で、日産の株価は前週末比12%安の850円と急落した。7カ月ぶりの安値である。ドル箱の北米で7%の営業減益になったことへの失望の表れだ。ドイツ証券をはじめ多くの証券会社が投資判断を引き下げた。
●コミットメント経営の弊害
ゴーン社長は「リコールやメキシコ工場の立ち上げ費用などが営業減益の理由」と述べたが、この日の株価急落は「(日産の)クルマに競争力がないという本質的な問題への(投資家の)懸念」(自動車担当アナリスト)である。
部品の共通化を進めすぎたため、独創性に欠けるクルマばかりになったとの指摘もある。また、外資系証券会社は、「販売台数の増加にこだわりすぎている。目標に拘泥する余り、過度に兵站線が拡大して、本来の力を十分に生かせない悪循環に陥っている」と解説する。ゴーン氏のコミットメント(目標を必ず達成する)経営が北米の営業減益の原因だとすれば、業績低迷の責任を負わなければならないのはゴーン社長自身ともいえる。
●深刻なEV不振
円安効果で業績の上方修正が相次ぐ日本車メーカーの中で日産が業績の下方修正を発表したことについて、「ゴーン社長の戦略ミスが影響している」(自動車担当アナリスト)との厳しい指摘がある。
その象徴がEVの迷走だ。日産とルノー両社のトップに就くゴーンCEOはEVを次世代自動車の主役と位置づけ、率先して開発に取り組んできた。10年12月、日本と米国で世界初の量産型EV「リーフ」を発売。11年には、「17年3月までにルノーと合わせ150万台を販売する」と宣言した。
だが、販売は低調だった。今年4月、担当の執行役員を更迭、志賀COO(当時)が直轄する体制に移行した。国内市場におけるリーフの累計販売台数は9月末で3万台。ルノーと合わせたリーフのグローバルの累計販売台数は8万3000台にとどまる。これでは150万台達成は難しい。世界で150万台販売する目標の達成時期を4年遅らせ、21年3月に延期した。それでも、あと7年間、毎年20万台のペースで売っていかなければ目標は達成できない。
米国では2013年モデルから現地生産に切り替え大幅な値引き販売に踏み切るなど立て直しを図った。値下げ効果でシアトル、ポートランド、サンフランシスコの西海岸ではリーフが最も売れている日産車になった。州の補助金に加え、多くの人数が乗るバスなどの優遇レーンにEVの乗り入れが可能になったことなどが要因に挙げられている。
EVに対しては日本を始め世界各国で多額の補助金や投融資による支援が行われている。日産はそうした公的支援を直接・間接に受けて事業を立ち上げている。日本政府が今年3月から14年10月を期限に「次世代自動車充電インフラ整備推進事業」として1005億円の予算を計上、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)向けの充電設備を設置した場合、最大3分の2を補助する制度を始めた。日産リーフの支援策の色彩が強い。これほど手厚い支援を受けているため、日産は高く掲げたEVの旗をいまさら降ろすことができなくなっている。EVは経済性、経済原則だけで撤退を判断できるクルマではなくなった。EV担当を志賀氏からパーマー副社長に交代させ150万台の販売に挑むが、残された時間はあまりない。
コミットメント経営を掲げるゴーン社長にとって、EV経営計画の未達は深刻だ。それゆえ、ゴーン社長のCEO職が10年以上に及ぶことへの弊害を問う声が、11月1日の記者会見であがった。「(いつ退任するかは)株主に判断してもらう」と記者の質問をかわしたが、「日産の救世主という賛美は経年劣化しつつある」(業界関係者)との声も聞こえる。
ゴーン社長は来年春に開かれるルノーの株主総会でCEOの任期切れを迎える。欧州の景気低迷を受けルノーの経営環境は厳しい。ルノーの筆頭株主で15%の株式を持つ仏政府の出方によっては、ルノーの経営トップの座も揺らぎかねないが、ルノーと日産でワンマン体制を確立したゴーン社長は、「自分が立て直す」と続投の構えを見せている。ゴーン社長の去就に、業界内の注目が集まっている。
編集部
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