03. 2013年11月14日 00:58:29
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グローバル化で遅れる日本、6つの課題意識向上に向け初等教育の改革を 2013年11月14日(木) 佐藤 登 毎年、話題を集める世界企業のブランド価値ランキング。英インターブランドが9月末に発表した2013年度版の「ベスト・グローバル・ブランド」では、米アップルが初の首位に躍り出たほか、米グーグルが2位、韓国サムスン電子がアジア最高の8位となった。日本勢ではトヨタ自動車が10位、ホンダが20位、ソニーが46位という結果になった。 アップルとグーグルはイノベーションを推し進めている典型的企業。その根底には、グローバル競争を意識した原理が作用している。日本企業も、様々な分野でイノベーションを起こしているが、アップルやグーグルと比べると今一歩の感がある。 筆者が注目したのはサムスン。2002年は34位だったが、10年余りでトップ10入りを果たした。グローバル化とグローバル競争力を高めてきた実績が評価されブランド力が向上している。だが、サムスンでもアップルやグーグルに比較すると、革新性ではまだ見劣りしてしまう。 「キャッチアップ型」のビジネスを成功させてきたサムスンが、半導体メモリーや液晶、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)、リチウムイオン電池など、数多くの分野で業界トップシェアを誇るのは周知の事実。サムスンにとってシェアを向上させていくという「命題」は今後も続くが、新たなイノベーションを実現するビジネスモデル創りが求められている。つまり、キャッチアップ型から「革新型」へのシフトだ。 「産業」「芸術」「教育」そして「スポーツ」。社会は常に競争原理が働いている。スポーツに関しては、2020年の東京五輪を目標に中学生や高校生が「晴れ」の大舞台で活躍するための競争が始まっている。五輪という原動力が競争意識を育んでおり大いに期待したい。 大学教育はグローバル化に遅れ 日本の中でグローバル化が進む分野は多い。代表例は自動車業界だ。環境規制を先取りした排ガス浄化システム、電動化技術、素材の先進性、現地生産、グローバル調達でのコスト競争力など枚挙に暇がない。10社以上の企業が凌ぎを削りながら利益を叩き出している。 研究開発分野も、グローバル化が進む代表例だ。ノーベル賞などを受賞する先端研究は世界に誇れるものといえる。地道な基礎研究と情熱や執念が相まって成果を生み出している。韓国内では見られない光景だ。 近年、グローバル化が進むのがスポーツ界。野球やサッカーを中心に世界で活躍するプレーヤーが本当に増えてきた。野球もサッカーも、日本は後発組。以前は世界で通用するプレーヤーは多くなかったが、今はまったく様相が異なった。 音楽界でもグローバルな活動は数多く見られる。世界最高峰のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団では日本人の安永徹氏が1983年から2009年までコンサートマスターを務めたほか、そして2010年には樫本大進氏が31歳でコンサートマスターに就任した。クラシック音楽では後発といえる日本人が最高峰のオーケストラを率いている。NHK交響楽団もクラシック音楽の本場である欧州で公演を行い絶賛されているなどの例もある。 ドメスティックな印象が強い金融・証券分野でも、実は人材の流動に関してはグローバル化が進む。製造業とは異なり、日本国内でも人材が動く。キャリアを蓄積して他の企業へ移籍し、条件やステータスを上げていくことが業界標準となっている。 一方で、日本の中でグローバル化が遅れている部分も多い。筆者は大きく6つあると考えている。1つは大学教育。海外からの留学生は減少傾向にある。韓国人学生も2005年前後までは日本へ多く留学していたのだが、ここ数年間は減っている。その結果、留学生が流れているのは圧倒的に米国。それだけ魅力があるということだ。 外国人教員の採用が遅々として進んでいないことが大きな理由だ。米国のハーバード大学をはじめとする有力大学では、外国人教員比率は30%を超えているが、日本では東京大学でさえ5.4%という低調ぶりだ。 日本の大学も手をこまねいているわけではない。外国人教員比率を向上させる狙いもあり、現在6万人の大学教員のうち1万人に対して年俸制を導入するという。成果主義により競争意識を掻き立てるシステムだが、希望しない教員は従来通りの雇用形態を採るところが何とも日本らしい。いずれにせよ、外国人教員にとって魅力ある制度になることを期待したい。 海外留学が減少するワケ グローバル化が遅れている2つ目の部分は、若年層の海外志向の低さだ。なぜ低下しているのか。これまでは多くの企業が海外留学した日本人学生を積極的に採用していなかったからだ。ただしここ数年は、企業のグローバル化意識の向上と活動展開が急速に進み、採用枠も外国人枠を増やす企業が続出している。今後は、若者の海外志向は否が応でも増加するだろう。 日本の企業では、入社後の処遇でも学部と大学院の差をあまりつけない。あるいは博士号やMBA(経営学修士)を取得しても、価値を認めた採用をするところは非常に少ない。それどころか博士号取得者は、専門に特化し過ぎていて扱い難いと敬遠されることの方が多い。学部を日本で終えて大学院は米国へ留学と考えても、その後の就活で有利にならないと判断してしまえば、自ずと海外留学も伸び悩む。 米国の化学・薬品大手では、研究開発部門へ配属者は博士号取得者が大前提。それだけ差を付けているから、博士課程への進学も一般的である。欧米や韓国では、博士号取得者は、ある分野の専門性が極めて高いだけではなく、研究能力が担保されているという意味合いがある。 実際、サムスンでは博士号取得者は最初から課長級ポストで配属される(5月16日の本コラム「新入社員がいきなり課長級のサムスン」参照)。優遇されないのは日本だけだ。この結果、日本では博士課程への進学もままならない、あるいは敬遠されることになる。 3つ目の部分は、教育分野での競争力。OECD(経済協力開発機構)加盟国におけるGDPに対する教育支出を比較すると、日本は初等教育から高等教育まで最低レベルの状況が続いている。このような中で日本が教育での成果を上げているのは、各家庭が負担しているからにほかならない。 もっともOECDの国際成人力調査では、日本は数的思考力と読解力の2項目で首位だ。OECDの平均を各年齢層で20点以上も上回っている。これは社会に出てからのスキルの向上や仕事を通じて学ぶ部分が功を奏しているためと分析されている。ただ、パソコンの使用頻度は、参加国中最低レベルであるため、この分野は改善が必要だ。 4つ目の部分は、産業界における国際競争力の低下である。特に電機業界では、重電分野はグローバル競争力を高めているものの、家電分野の立ち遅れが目立っている。その結果が、国内家電大手が発表した数千億円規模の赤字だ。グローバル競争戦略に遅れをとったためである。 ただし、近年はソニー・日立・東芝の中小型ディスプレー分野を統合しジャパンディスプレイを発足させたほか、事業の撤退や売却などによる構造改革、過剰人員のリストラなど、さまざまな対策により筋肉体質に変身しつつある。 稲庭「風」うどんはNG 5つ目の部分は食文化の浸透度である。日本食は、低カロリー、健康的でおいしい、見栄えも美しい――と、三拍子揃っている。こうした食文化は他に類を見ない、世界一の食文化と評価されている所以である。全国47都道府県には、それぞれ独自の食材や料理があるなど、繊細で木目細かさも持つ。 韓国食も世界的に高い評価を得ているものの、3年前頃の東洋経済日報の記事における評価では15位くらいで、当時のイ・ミョンバク大統領が日本食の最高評価に韓国食も近づけたいという目標を掲げていたくらいである。 さてそんな質の高い日本食であるがゆえに問題も多い。米国や欧州、韓国などでの日本食店はたくさんある中で、日本人経営や日本人のシェフがいる店では日本の味を再現しているが、現地人が見様見真似で経営している店での食感はいただけない。 それぐらいならまだ許せる範囲ではあるが、商標侵害もあり、これは由々しき問題である。台湾で「讃岐うどん」の商標を取られてしまい、日本の讃岐うどんの進出ができなかったなどの事例はあちこちで起きている。TPP問題もある中、グローバル市場で食材やブランド名が流通する今後の動きにおいて、本当に価値の高い食は商標でしっかり押さえておく必要があると言える。もっと競争意識をもって、侵害させない強い姿勢が求められる。 今、ホテルのレストランや百貨店での食品偽装問題が芋づる式に摘発されている。筆者自身、本年3月に既にこのような問題を取り上げ、地元紙で指摘したことがあった。 麻布十番の飲食店に出かけた時のことである。食材へのこだわりが強い店で料理も美味しい居酒屋チェーンである。日本酒の仕入れも全国から行っており、東北のお酒もトップに紹介されている。メニューを見ると名品「稲庭うどん」があった。 同行した知人が「稲庭うどん」の名前は聞いたことはあるが食べたことがないと話したので、私が紹介するので一緒に食べようと注文。ところがコシや旨みがなく、こんな「稲庭うどん」に出会ったのは初めての経験だった。 店員に「稲庭うどん」の出身地を聞いたら案の定、わからないとのこと。責任者の店長を呼んで尋ねたら、詳しいことはわからないため仕入れ元を確認するとのことで、その場で確認してもらったら仕入れ元までの特定はできなかったが秋田の物ではないとのことだった。「稲庭うどんを食べたいというお客様が初めて食した時、このうどんならば稲庭うどんはまずいものと印象付けられる。これはブランド侵害行為でしょう」と伝えた。 「稲庭の後に『風』を付ければ出しても良いだろうが、このまま見過ごすわけにはいかない。私もこのメニューにだまされた。稲庭うどん産地の近くが実家なので私もこだわっている」との意見に、「このうどんの代金はいりません。今後どう対処すべきか検討します」との回答だったので、「また次回来て確認したい」と伝えた。 5月に同じメンバーで再度訪問。メニューを確認したら「稲庭うどん」が消えている。店長を呼んで確認したら、私が指摘した翌日にすぐこの問題を採り上げ、どうするか対応を考えた末、本物でないものは扱わないことに決めて4月下旬にメニューから外したという。それまでの経過措置として、「稲庭うどん」を注文したお客様には秋田の物ではない「稲庭風」であることを告げた上で注文を採ったという。 この店の対応にはいささか感動した。顧客の意見を迅速に最大限反映して行動に移すこと、その姿はどんなビジネスでも商売にでも共通するマインドそのものである。食材に限らず、このようにブランドを保護して偽物を排除していく文化がどの程度高いかどうか、それが国家の品格とも定義できるのではないだろうか。 中国食材の安全・安心を問題にした日本であるが、食材の偽装は消費者からはもとより、他国からの批判の対象になることは避けられない。国の品格としても、偽装問題を払しょくし信頼回復につながる対応が急務である。 最後の部分は観光魅力の発信度である。2012年の外国人訪問者数を国別に比較すると、日本は33位。一方で人口が日本の半分に満たない韓国は23位である。優れた観光名所や文化、食など魅力が豊富な日本が低迷しているのは、観光資源の魅力を十分に伝えられていない証しである。 観光庁が2016年の目標としている2000万人の外国人訪問数に対しても、国家間競争力を意識して、積極的に働きかけ発信していく対応が望まれる。 技術経営から見る競争力 ホンダとサムスンでの経験から競争意識を整理してみたい。個々の競争意識の事例は、これまでのコラムで触れたものもあるが、考え方や行動様式の視点で捕らえてみる。 ホンダでの最初の業務、すなわち自動車の腐食問題を解決するプロジェクトの活動をしていた際に、時折、「前例がない」という意見を耳にした。前例はどこかで初めて作られるものであるから、「前例を創る」ことこそ価値を生むことであるはずなのに。それ以降は、前例のないことを実践する気概で業務に取り組んだ。 新規事業は、まさに前例がないものを具現化することである。ホンダの場合、航空機事業や2足歩行ロボット、自動車の電動化、太陽電池事業などもその典型であった。 もちろん、すべてが成功するわけではない。ホンダの子会社であるホンダソルテックは2006年12月に設立され、「CIGS系」と呼ぶ太陽電池事業を推進してきたが先日、2014年には事業撤退することが発表された。設立以来、商品競争力の維持・向上に努めてきたものの、シリコン価格の下落に伴うシリコン結晶系太陽電池パネルの値下げなども影響した。太陽電池業界の激しい競争環境の変化の中で、当初の事業計画達成の見込みが立たなくなり事業継続は困難と判断された。 太陽電池は完全なる後発でスタートしたが、後発であればあるほど、既存ビジネスに対する優位性を保有しないと事業としては難しい。サムスン在籍時代の2011年には、ホンダソルテックの経営トップと数回にわたり意見交換したことがある。それは、サムスンもCIGS系太陽電池事業をてがけていたことでの交流であった。サムスンのCIGS系も、独自に差別化できる強い技術や競争力を保有しているかと言えば、必ずしもそうではなかった。 意見交換の際も、お互いの事業環境が厳しいことを認識していたが、元凶は中国の太陽電池事業が異常とも思える低価格競争を仕かけてきたことだ。その影響で、米国やドイツの企業の経営破たんが相次いだ。挙句の果てには、低価格化を仕掛けた中国最大手のサンテックまで経営破たんに陥った。 太陽電池事業の各社の苦悩は、価格競争の波に入っていくと事業が存続できなくなる典型的な事例である。サムスングループが2010年に策定した経営計画でのシナリオには無理もあった。 太陽電池事業を2020年までの成長事業5分野の1つに掲げたところまでは良かった。だが、計画は4800億円の投資を断行し、2020年には8000億円の売り上げ規模にするという壮大なものだった。その実現性は厳しく、成長事業に育て上げられるかどうかも疑わしい。 同じ様な問題は、サムスンが成長事業5分野に選定したLED(発光ダイオード)と車載用リチウムイオン電池事業でも抱えている。LEDには7000億円の投資計画、車載用リチウムイオン電池には4500億円の投資で2020年に8200億円の売上高目標が掲げられてきた。 その後、LEDは価格破壊が生じ、計画がまったく成立しない状況に陥った。車載用リチウムイオン電池は本格的な普及はこれからであり、価格破壊のシナリオは当面ないだろうが、なぜこのような事業規模が算出されたのだろうか。 これこそが、日本の企業と大きく違うところだ。緻密に算出されるものではない。2020年の車載用リチウムイオン電池の市場がどの程度の規模か。調査会社やコンサルティング会社が予測する市場規模の中で、売上規模が大きくなるように保守的な予測より楽観的な規模の大きな予測値を採用する。 仮に予想が2.7兆円規模だとすると、そのどれだけのシェアを握るか、すなわちどれほどの競争意識をもって果敢に目標設定をするかという流れである。おおよそ30%のシェアを握ると算定し、単純計算で事業規模が8000億円を超えるという目標を描くのである。 30%のシェアを握れば世界シェア首位となる可能性は高いが極めて難しい。10月17日の本コラム「車載用電池、日本勢の強さの秘密」でも述べたが、それは車載用リチウムイオン電池事業では日本勢が強みをもっているからである。 2020年の成長事業5分野には、他にヘルスケア事業を組み込まれている。この5分野で4兆円の目標を設定したのだが、そのシナリオは既に崩れている。そういう状況の中でも、サムスンの経営計画では2020年の事業規模目標を約39兆円と発表している。成長5分野事業では4兆円の見込みが崩れている中で、どうしてこのような数値が出てくるのか。 そのシナリオも緻密な経営計画からの算出というより、現在の事業規模の約2倍という単純明快な設定である。競争意識を働かせて策定し、そこに向かって突き進むという猪突猛進的な韓国文化そのものである。このスタイルは日本企業にはない。ただ、かなり無理があるのも事実である。 高い競争意識は教育現場から 社会での競争と向き合っていくためには、社会に出てからの個人の意識改革では遅すぎる。高等教育ではもちろんだが、むしろ初等教育からの意識づけが重要だ。 ここでの競争意識とは、初等教育から高等教育における成績だけのことではない。生徒や学生が個人の強みを発見・発掘して自己を形成していくことだ。社会に出る際に、どんな分野に自分の身を置くのか。どんな分野で競争していくのかという意識のことである。 職種はさまざまだ。企業人、公務員や教員、農家、漁師、スポーツ選手、芸術家、さらには起業家もそうだ。どんな分野で仕事をしたいのか、そしてどうなりたいのかなど、教育を受ける段階から考えなければならない。 つまり、自らが競争をしていくためには、どのフィールドで闘えばいいのかを考えさせる必要がある。どこにも魅力的な分野を見つけられなければ、起業して魅力的な分野を創り上げることも選択肢に入るだろう。 そのためには、教育を行う側の改革も必要だ。特に、中学生以上には外的刺激は重要だ。そこにヒントを得て自らを磨いていくことで個人の能力が向上する。やがて社会で競争意識を持って活躍できる基礎を築くことになる。 日本がたどってきたキャッチアップ型産業中心の時代とは異なる、改革や新たなモデルを生み出すイノベーションが各界に問われている中、画一性ではなく多様性に価値を置く人材創りが問われている。 このコラムについて 技術経営――日本の強み・韓国の強み エレクトロニクス業界でのサムスンやLG、自動車業界での現代自動車など、グローバル市場において日本企業以上に影響力のある韓国企業が多く登場している。もともと独自技術が弱いと言われてきた韓国企業だが、今やハイテク製品の一部の技術開発をリードしている。では、日本の製造業は、このまま韓国の後塵を拝してしまうのか。日本の技術に優位性があるといっても、海外に積極的に目を向けスピード感と決断力に長けた経営体質を構築した韓国企業の長所を真摯に学ばないと、多くの分野で太刀打ちできないといったことも現実として起こりうる。本コラムでは、ホンダとサムスンSDIという日韓の大手メーカーに在籍し、それぞれの開発をリードした経験を持つ筆者が、両国の技術開発の強みを分析し、日本の技術陣に求められる姿勢を明らかにする。
グーグルが抱える「唯一の」誤算 著名アナリストに聞くスマホ特許紛争の行方 2013年11月14日(木) 田中 深一郎 ドイツのフロリアン・ミューラー氏は、知的財産関連の専門誌から「知財分野において最も影響力のある50人」に過去何度も選ばれるなど、世界的に著名な特許アナリストだ。米マイクロソフトなど有力企業に対してコンサルタント業務を手がけているほか、知財を巡る最新動向をつづったブログ「FOSS Patents」も業界関係者から注目を集めている。 特許と言えば、最も話題になっているのがスマートフォンを巡る米アップルと韓国サムスン電子の訴訟合戦。端末販売で激しく覇権を争う両社の動向には常に耳目が集まるが、いまや特許紛争はスマホ業界に属するあらゆる大手企業にとって避けては通れない問題になっている。 その中で、ミューラー氏は、米グーグルが2012年に125億ドル(約1兆2500億円)で買収した米携帯端末大手モトローラ・モビリティが、グーグルにとって「大きな見当違い」になったと指摘する。モトローラの保有していた特許が、グーグルのAndroid(アンドロイド)陣営を紛争から守るのに十分な効力を持たなかったことがその理由だ。 一時期の勢いが減速したアップルや、新興国勢の追い上げにあうサムスンに対し、スマホのインターネット広告でも支配的な地位を築いているグーグル。順調そのものに見える同社の「誤算」の背景と、今後の特許合戦の行方について話を聞いてみた。 グーグルは“パニック”になった グーグルのモトローラ買収は「過払いだった」と指摘していますが、その理由は。 ミューラー氏:グーグルのモトローラ買収が完了したのは2012年5月だが、合意自体は2011年8月になされていた。したがって、2012年5月の時点では、グーグルはもはやこの買収について後戻りできない段階に来ていた。もし、当局による独占禁止法の調査が済んだ後で合意を破棄しようものなら、同社にとって大きな信用問題になっただろう。 2011年8月というと、経営破綻したカナダの通信機器大手ノーテル・ネットワークスの特許権を、アップルやマイクロソフト、ソニーなどで作る企業連合のロックスター・コンソーシアムが45億ドルで取得した直後だ。この際のオークションにはグーグルも参加したが、結果的には勝つことができなかった。グーグルはそれ以前にも米国のノベルというソフトウエア企業の特許買収にも失敗しており、この時点でグーグルは“パニック”の状態になったと思われる。 しかし、モトローラ買収が完了する2012年5月までには、特許関係者の間では、モトローラの持つ「標準必須特許」(その特許を侵害することなしに規格に準拠した製品を製造できない特許)の効力について既に疑問視されるようになってきていた。2011年の終わりごろから、欧米での多くの特許訴訟における司法判断で、標準必須特許に関連して販売の差し止め命令が簡単には下りないということが明らかになってきたからだ。グーグルがもくろんだ、アップルやマイクロソフトに対する販売差し止めは望み薄になった。 なぜそのような誤算が生じたのでしょう。 ミューラー氏:繰り返しになるが、グーグルはノベルとノーテルの特許権取得に失敗し、あわてていた。そして、モトローラの持つ標準必須特許が競合企業にクロス・ライセンスや販売差し止めを迫るうえで大きな武器になると過大評価したのだ。さらに、標準必須特許以外の特許も、アップルやマイクロソフトに対して十分な競争力を持つものではなかった。 特許評価額、3分の1以下でも過大 いわば、グーグルはモトローラの特許が「MAD(相互確証破壊)」(編集部注:東西冷戦時代の言葉。2つの核保有国のどちらか一方が核兵器を使えば、最終的に双方が破滅するという原則。この原則が、互いに核兵器の使用を思いとどまらせる抑止効果につながるともいわれる)のシナリオを作り出すための「核兵器」になると考えたが、結果的には役立たずな武器を手に入れてしまったということになる。 特許の観点から言えば、グーグルのポートフォリオは現在の紛争を収めるのには結びつかない。おそらくグーグルの経営陣は、特許に関してあまりにも単純に考えすぎたのだろう。マイクロソフトやアップルの洗練された特許戦略を見ても、彼らの考えるほどに知財戦略が簡単ではないということが分かる。 もちろん、買収額の125億ドルがすべて過払いだったというわけではない。ただ、グーグルはモトローラの特許権を55億ドルとして評価したが、毎年のように多くの特許が失効していることも踏まえると、たとえ15億ドルでもやや楽観的すぎる評価ではないかと考えている。 訴訟費用は問題ではない スマホ訴訟全体の行方について考えを聞かせてください。新興国のプレーヤーなどの台頭でスマホ市場の競争が激化する中、アップルとサムスンがこれまでのように訴訟合戦を続ける姿勢を変化させるという見方もあります。 ミューラー氏:両社が和解に動いたりするという考え方には、私は賛同しない。世間の常識からすれば、何年も特許訴訟で争うより和解した方がコスト面ではメリットがあるということになるのだろうが、アップル・サムスン訴訟にその考えは当てはまらない。今や、訴訟をやめた場合に失うものが非常に多く、費用は問題ではなくなっている。 一方、米国、ドイツ、日本など、知財保護の考え方が浸透した先進国では、アンドロイド搭載端末は知財面で強いプレッシャーにさらされている。アンドロイド端末のメーカーは、マイクロソフトやアップル、ノキア、ロックスター・コンソーシアムに対して特許使用料を支払わずに済ませることはほとんど不可能になっているからだ。端末メーカーがBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)のような新興国市場に注力しているのは、こうした事情が背景にあるとも言える。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 日経BP社
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