01. 2013年11月13日 12:51:07
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ダイヤモンド・オンライン 山崎元のマルチスコープ 【第304回】 2013年11月13日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ヤマダ電機の営業赤字転落で考える ショールーミングは「正しい」行動か? ヤマダ電機が営業赤字に転落 「ショールーミング」は是か非か ネット媒体であるダイヤモンド・オンラインの読者であれば、「ショールーミング」という言葉の意味はご存知の方が多いだろう。 家電製品などを買う際に、小売店で商品の実物の印象・感触などを確かめて、その小売店では買わずに、スマートフォンなどを使ってネット通販に買い注文を入れる購買行動だ。消費者にとって小売店は、商品を見るショールームに過ぎず、小売店に売上は生じない。 商品の概観や感触を自分で確かめるだけならともかく、店員からの説明を聞いて、その上でネットに注文する消費者もいる。店員は残念で悔しかろうと推察するが、ネット通販の方が価格が安いなら、あるいは便利であるなら、消費者のこうした行動は少なくとも損得の上で合理的だ。 ショールーミングが行われやすいのは、メーカーと型番が決まればどこで買っても同じ製品を入手できる商品だ。品質が変化する「生物」ではなく、いわば「乾き物」だ。値段的により安いものを買うことの効果が大きい家電製品は典型の1つだ。 その家電の販売で売上日本一を誇るヤマダ電機が、2013年9月中間連結決算で、売上高が前年同期比11.4%増の8975億円となったものの、営業損益では23億円の赤字に転落した。具体的な影響のパーセンテージはわからないが、ネット通販との競争が少なからず影響しているようだ。 経営幹部に対するインタビュー記事を読むと、ヤマダ電機側では「ショールーミングに負けないためには、価格で勝負するしかない」という、現実的に正しく同時に潔い認識を持っているようだ。 年間約2兆円の圧倒的な売上を持つヤマダ電機は、仕入れ値の設定に当たって有利な交渉力を持っている。とはいえ、店舗を構え、在庫を持ち、人を雇う小売店のコスト構造を考えると、ネット販売に価格面で長期的に勝ち続けるのは難しかろう。 家電量販店の交渉力強化に伴う利益マージンの縮小は、近年の日本の家電メーカーの業績不振の原因の1つでもあったが、量販店も無敵ではないということだ。家電以外にも、製品の型番で商品の品質が確定する「乾き物」的商品を扱う小売業者は、「あのヤマダ電機でも赤字になるのだ」という危機感を持つべきだろう。 ショールーミングは 消費者にとって合理的 必要な商品情報を得て、最も安く買えるところで買うという行動は、経済合理性の上では非の打ちどころがない。 このことは、金融商品でお金を運用する際の「正しい(!)お金の運用プロセス」を考えると、よくわかる。正しい運用プロセスとは、以下のようなものだ。 <正しいお金の運用プロセス> (1)家計の把握(自分の家計の状況把握) (2)資産配分計画(「国内株」、「外国株」など資産分類別の配分比率決定。全体の運用リスク把握のために必要なプロセス) (3)資産分類別の商品選択(資産分類別に広い範囲からベストな商品を選ぶ) (4)売買チャネルの決定(最も安く売買できる窓口を選ぶ) (5)運用状態のモニタリングとメンテナンス 上記に照らしてダメな運用プロセスの例を挙げると、退職金が振り込まれた銀行で運用の相談をして、その銀行の扱い商品の範囲で銀行員のお勧めに従う、というようなやり方だ。おそらくは、金利に換算すると、預金金利の何倍にも相当する手数料を損するだろうし、適切な運用対象が選べない可能性が大きい。 正しいお金の運用プロセスは、賢い消費者が家電製品を買う時の購買行動によく似ている。(1)自宅の部屋や予算をチェックして、(2)何を買うのかを決めて、(3)どの商品が最もいいか複数のメーカーの商品を比較検討して選び、(4)ネットなどで安く買える店(あるいはネット通販)を探して買う、という方法だ。 この場合、家電販売店でのショールーミングは(3)から(4)に至るプロセスに当たる。 お金の運用の場合、目的は「お金を(リスクを考慮した上で)効率よく増やすこと」だから、プロセスの間違いや、金融商品選択の間違いが意味する「損」は、そのまま金融的意思決定の間違いの大きさを表すことになる。 家電製品のような「乾き物」商品の購入でも、ほぼ同じことが言える。 量販店にとっては理不尽 ショールーミングの倫理 ショールーミングは、消費者にとって合理的な経済行動であるとして、大いに推奨すべきものなのだろうか。あるいは社会的・倫理的に、何らかの歯止めをかけるべきものなのだろうか。 店舗を商品のショールームのように使われ、店員の説明に見返りが得られない、小売店の側では「理不尽だ」「商道徳にもとる」と思っているかもしれない。 また、たぶん読者もそう思われるだろうと推測するが、同じ商品を買うなら、説明などに手間をかけさせた店員から買いたいと思うのは、自然な人情だ。これは、消費者が「営業」という行為に余計なコストを払う原因にもなっている感情だろうから、消費者が自分の心の中で「野放し」にしない方がいい感覚だが、大切な価値の一部に通底している印象もある。 しかし、あえて経済倫理的な価値判断に踏み込むなら、最終的に消費者にとって効用が高い(あるいは同じ効用に対してコストが安い)購買行動は、規制するのではなくむしろ促進することが、社会全体の生産活動の効率的な拡大に資すると考えるべきだろう。 変わるべきは、消費者の行動ではなくて商品の生産者も含めた売り手の側の行動であり、ビジネスモデルだ。社会全体の生産性(したがって経済性)の向上のためには、ショールーミングを含む購買行動の合理性をむしろ促進し、これに対応することが望ましい。 方々で店舗や在庫を持つコストや土地、販売員の労働力が不要になれば、別のより有効な生産活動に振り向けることができる。 もちろん、小売店が価格でネット通販に対抗できたり、小売店独自の魅力を備えたりすることによって、ネット通販に流れていた消費者が小売店に回帰することがあってもいい。この場合、ショールーミングによって生じた競争が、小売店を改善するということだから、ショールーミング自体は社会的に推奨してもいい行動だということだろう。 店舗や店員を「ひいき」することがあってもいいが、それは消費者個人が自分の効用とコストの判断の下に「勝手にやること」だ、と整理できる。 情報収集と購買行動の分離に対応 ショールーミング時代に必要なこと 倫理的な判断は別として、現実問題として消費者のショールーミング行動は拡大している。こうした状況で、ビジネス社会の側では何が重要か。 ズバリ言うなら、「情報収集・アドバイス」と「購買行動」の分離に対応することだろう。 消費者は情報収集を自分で行い、必要を感じた場合、アドバイスを有料で買い、最割安(利便性も含めて評価した「割安」)なチャネルで商品を買う、という行動が合理的だ。この常識を広めるのと共に、ビジネスの側がこれに対応できることが望ましい。 この場合にも、金融のケースが参考になる。 お金を運用しようとする個人は、銀行や証券会社などの店頭で、「無料で」商品説明を受けたり相談に乗ってもらい、その対価として「大変割高な」手数料を払う商品を購入していることが多い。金融機関の社員の給料を考えるだけで、彼らに時間を使わせて商品を買う人が、相当に割高な手数料を払わなければならないことは明らかだ。 たとえば有料であっても、ファイナンシャル・プランナー(金融機関から独立している者が望ましい)などに相談して、最適な運用方法と金融商品を自分で決めて、手数料の安いチャネル(FPと無関係であることが重要!)で買うことによって、相当に大きな手数料を節約できる場合が多い。同時に、自分の運用状態に対する理解も深まるだろう。 金融商品以外の商品でも、「情報収集・アドバイス」と「購買行動」を意識的に分けることが、賢い消費者への道だ。「タダのアドバイスは高くつく」と広く知らせるべきだ。 ビジネスの側では、ネットを使った販売チャネルの他に、消費者にアドバイスを提供するビジネスにチャンスがあるはずだが、後者では課金のビジネスモデルと、多くの消費者の「情報はタダが当たり前」という感覚を、いかに取り除くかが重要なポイントになるだろう。 アドバイスする専門家も安泰ではない レビューの信頼性をどう高めるか もっとも、アドバイスする立場の「専門家」の地位も安泰ではない。 物販の世界では、価格情報と共に商品に対するレビューをやり取りするサービスが拡大している。こうしたサービスでは、今後レビューに関する信頼性をどう高めて提供していくかが、重要だろう。 商品としては究極の「乾き物」である金融の世界でも、投資家同士が情報を交換することによって、力不足だったり、独立性に問題があったりする「専門家」を不要にしようとする動きを期待したい。 物販、金融、いずれの世界でも、消費者の効用の改善につながる新しいビジネス形態の発展が期待される。 DIAMOND,Inc. All Rights Reserved
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