03. 2013年11月14日 00:05:25
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【第29回】 2013年11月14日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 利益は増えたが、雇用や生産は拡大せず 上場企業の2013年9月中間決算は、大幅な利益増となった。これをもって、日本経済が回復していると言えるのだろうか? 以下では、利益増加が経済の好循環をもたらしているとは言えないことを見る。 利益増は経済を改善するか? 東京証券取引所第1部に上場する企業のうち、中間決算を発表した697社(集計対象の51.9%)についてSMBC日興証券がまとめたところによると、売上高が前年同期比10.3%増、営業利益は同39.7%増、純利益が同2.9倍となった(朝日新聞、2013年11月7日朝刊)。 時事通信社は、11月6日までに開示された東証1部上場737社の中間決算を集計した。それによると、売上高は前年同期比10.4%増、経常利益は56.0%増となった。14年3月期(通期)の経常利益予想も30.4%増だ(時事通信、11月9日配信)。 2013年3月期決算においては、全産業(2055社)の売上高は、597兆4245億円(前期比2.75%増)、営業利益27兆5749億円(3.10%増)、経常利益27兆6840億円(6.46%増)であった(東京証券取引所、決算短信集計結果)。これと比べると、大幅に改善していることがわかる。 問題は、これで経済が改善するかどうかである。 経済が改善するためには、賃金や雇用が増え、消費が増えることが必要だ。あるいは設備投資が増えることが必要である。 しかし、現実には賃金が上昇していないことをこれまで述べてきた。また、設備投資も増えていない。なぜなのか? それは、今回の利益増がつぎの要因によってもたらされているからだ。 (1)円安 円安が進行すると、原価が増えずに売上が増える。だから、少しの円安でも増益効果は大きい。 しかし、これは企業にとってはまったく受動的なものである。したがって、賃金や設備投資を増やすことにはならない。 (2)リストラ 電機産業では、リストラの効果が大きい。これは、事業や人員の削減だ。いわば、縮小均衡である。つまり、「賃金を上げたり設備投資を増やしたりしないから利益が増えた」ということなのである。 利益増は雇用を増やしていない では、実際の日本経済の状況はどうか?まず雇用の状況を、常用雇用指数(事業所規模5人以上)で見ることとしよう。 (1)調査産業計 調査産業計は、図表1のとおりだ。就業形態計で見れば、雇用は増えている。しかし、図から直ちにわかるように、これはパートタイム労働者が増加しているためだ。一般労働者(フルタイム労働者)は、変動はしているものの、増加傾向は示していない。 (2)製造業
製造業の状況は、図表2に示すとおりだ。 就業形態計を見ると、2010年以降100程度の水準で推移していたが、東日本大震災の影響で落ち込み、11年6月にボトムになった。その後回復した。 しかし、また減少して、13年3月にボトムとなった。13年4月に急回復してピークとなったが、その後再び減少した。 重要な点は、利益増が雇用にはまったく影響していない点だ。
一般労働者について見ると、東日本大震災以降落ち込んだが、あまり大きな落ち込みではなかった。しかし、12年4月、5月頃から13年3月頃までの期間に、一挙に減少したのである。その後若干回復したが、また減少した。 パートタイム労働者は、一般労働者とはかなり違う傾向を示している。東日本大震災以降、大きく落ち込んだ。しかし、12年の夏頃からは顕著に回復したのである。 このように、12年夏頃以降は、製造業全体としての雇用が減る中で、一般労働者からパートタイム労働者へのシフトが顕著に進んでいる。 なお、長期的に見た場合の製造業の雇用減は、著しい。1990年1月に130.8であった指数は、2000年1月には116.7となった。そして、13年1月には98.2である。この数字は、90年の75.0%でしかない。 (3)医療・福祉 この分野の雇用増は著しい。2010年からの状況は、図表3に示す。この期間でも増えた。その結果、実数で言えば、製造業に匹敵するほどの数になっている。一般労働者も増えているのだが、パートタイム労働者の増加のほうが著しい。 自動車会社の利益増は円安による
自動車大手8社の営業利益は、図表4に示すとおりである。 13年9月期の8社合計の営業利益は、対前年比で8464億円増加した。 他方で、4−9月の自動車輸出額を見ると、12年には4兆5856億円であり、13年には5兆2489億円だ。この差は6632億円である。 また、4−9月の自動車輸出台数を見ると、12年が292.4万台、13年が294.4万台であって、ほとんど変わらない。 したがって、営業利益増の8割近くが輸出額の増加によるものであり、そのほとんどは円安によって円表示の輸出額が増加したために生じたものであることがわかる。 なお、図表4で、日産自動車の営業利益が減少していることと、ホンダの営業利益増が比較的少ないことが注目される。これは、生産の海外展開が進んでいるからである。他方で、海外展開が遅れたマツダや富士重工の利益増が顕著だ。
これは、円安の利益増大効果が、輸出については、海外生産についてより強く働くことの結果である。 自動車の輸出台数は円高期より減少 自動車の輸出台数が増えているかどうかを中期的に見ると、図表5のとおりだ。 東日本大震災で大きく落ち込んだ後、回復した。しかし、2011年秋から12年春頃がピークで、徐々に減少した。 12年夏にボトムになり、秋頃からはやや回復している。しかし、ピークの水準に戻ってはおらず、月40〜45万台程度で推移している。 ここで重要なのは、円安が乗用車の輸出を増やしているとは言えないことだ。
リーマンショック後のピークを記録した11年秋から12年春頃は円高期である。最近の円レートは、そのときに比べればかなり円安になっているにもかかわらず、輸出台数は減っているのだ。 12年秋からは円安が進行したが、これによって台数が顕著に増加したとは言えない。12年夏頃までの下落過程からの回復と見るべきであり、円安によって輸出が増加しているとは言えない。事実、上で見たように、4−9月の輸出台数を見れば、12年と13年ではほとんど変わっていない。 なお、13年9月の乗用車の輸出台数44.1万台は、リーマン後のピークであった11年10月の48.4万台より9%ほど少ない。また、リーマン前のピークであった08年3月の68.7万台に比べると、3分の2程度の水準でしかない。乗用車の輸出がリーマンショック前の水準に戻ることはありえないと思われる。 自動車国内生産はエコカー支援策で変動 自動車の国内生産の推移を中期的に見ると、図表6のとおりである。 国内生産の推移は輸出とほぼ同じだ。ただし、12年1月をピークとした落ち込みは、輸出の落ち込みより顕著だ。 その後回復したが、現在の水準はピークより2割程度低い。そして、回復は円安の効果ではない。つまり、円安が国内生産を増加させる効果は生じていないわけである。 なお、13年9月における乗用車の指数は101であるが、これは、リーマン後のピークであった12年4月の114.8より12.0%低い。そしてリーマンショック前のピークであった08年2月の131.9に比べれば、23.4%も低い。乗用車の国内生産も、輸出と同様、リーマンショック前の水準に戻ることはありえないだろう。
なお、エコカー支援策の実施状況は、つぎのとおりであった。 (1)2009年から10年3月まで 予算総額3572億円。申請総数274万台。 (2)10年9月までの延長 予算総額2304億円。申請総数177万台。 (3)12年4月から13年2月まで(対象は11年12月20日以降に新車登録する車。なお、申請数が予算額を超過したため、12年9月で受付終了) 予算額3000億円。 鉱工業生産指数は、リーマン前の84%でしかない 図表7に示す全体としての鉱工業生産指数も、乗用車の輸出や国内生産と似たパターンをしている。 すなわち、大震災で落ち込んだが回復し、2012年1月にピークになった。しかし、その後下落した。ボトムは12年11月頃で、それから上昇した。これは、エコカー支援策終了からの落ち込みからの回復だろう。
ただし、13年9月の指数98.5は、リーマンショック後のピークであった12年1月101.5に比べると低いことに注意が必要だ。そして、12年1月は円高期であったことにも注意が必要だ。これから見ても、12年11月頃以降の回復は、円安の効果とは考えられない。 なお、13年9月の指数98.5は、08年2月の117.3の84%でしかない。製造業の利益は、円安効果でリーマン前の水準に近くなっている。しかし、中期的に見て、日本の輸出や製造業の生産が縮小したのは間違いないことなのだ。 http://diamond.jp/articles/print/44420
ECBの利下げ:ドラギ総裁の決断が正しい理由 2013年11月14日(Thu) Financial Times (2013年11月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州中銀、債務危機国の国債買い入れへ 1〜3年債を無制限に イタリア人のマリオ・ドラギECB総裁は、イタリアのために行動しているという批判さえ出ているが・・・〔AFPBB News〕 欧州中央銀行(ECB)の金融政策はずっと引き締めすぎの状態にあった。その証拠に、ユーロ圏のコア・インフレ率は2013年10月に前年同月比でわずか0.8%という水準に落ち込んでいる。 先週行われた金融緩和は至極当然であり、実を言えばもっと早く行うべきだった。 しかし、漏れ伝わるところによれば、政策委員会ではリファイナンス金利を0.5%から0.25%に引き下げる決定を巡って意見が割れた。ドイツの代表者2人――ヨルク・アスムセンECB理事とイェンス・バイトマン・ドイツ連銀総裁――とオランダおよびオーストリアの中央銀行総裁がそろって利下げに反対票を投じたという。 加盟国間での意見対立が表面化することは過去にもあった。だが、それは物議を醸す計画、例えばマリオ・ドラギ総裁の前任者であるジャン・クロード・トリシェ氏が立ち上げた証券市場プログラム(SMP)や、ドラギ氏が2012年夏に始めたアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)プログラムなどを巡る対立に限られていた。 どちらのプログラムもソブリン債にのしかかる市場の圧力を緩和することを狙ったもので、政府のマネタリー・ファイナンシング*1をドイツが毛嫌いしていることを考えれば、論争になることは必然だった。 しかし、標準的な金融政策に関する決断でこのように意見が対立したのは初めてだ。これは由々しき問題である。ECBの正統性が危うくなり、ひいては通貨同盟の正統性も危うくなってしまうからだ。 一部からは、ドラギ氏がイタリアのために行動しているという非難の声すら上がっており、ドイツの代表者が金融緩和に反対したことはそうした疑惑に拍車をかけるはずだ。だが実際のところ、ECBによる主要な政策金利の引き下げは至極当然の決断だ。ECBは「2%を下回るが、それに近い水準」をインフレ目標としており、足元のコア・インフレ率はその半分にも満たないからだ。 低インフレを甘受してはならない4つの理由 ドラギ氏も論じているように、この2%を下回るインフレ率を甘受すべきでないことについては説得力のある理由がいくつか存在する。第1の理由は、2%と表示されるインフレ率は実際には0%に近いかもしれないというもの。従来型の計測手法では、今現在のインフレ率はほぼ間違いなく過大評価されるのだ。 第2の理由は、必要とされているユーロ圏内での競争力の変化は、平均インフレ率が2%であっても難しいことだ。名目賃金の引き下げに労働者が抵抗することを考えれば、インフレ率が0%に近い時にはなお一層難しくなるだろう。 *1=中央銀行が創ったお金で財政赤字を埋めること、日本では財政ファイナンスとも呼ばれる 第3の理由は、インフレ率が0%に近づけば近づくほど金融政策は効き目が薄れることが多いというものだ。不況下ではマイナスの実質金利が必要になる可能性が高いことなどがその背景にある。実質金利をマイナスにすることは、インフレ率がプラスである時の方がはるかに実行しやすい。 さらに、筆者はここに第4の理由を付け加えたいと思う。過剰な生産能力と高い失業率を考えれば、ユーロ圏はデフレに陥る恐れがある、というのがそれだ。ECBは、インフレ期待は固定されていると述べているが、自信過剰かもしれない。 ECBの金融政策がずっと引き締めすぎだと見なせる理由はほかにもあり、容易に見つけることができる。まず、2008年第1四半期から2013年第2四半期にかけて、ユーロ圏の名目需要は1%しか拡大しなかった。名目域内総生産(GDP)も3.4%の成長にとどまった。「広義」のマネーサプライの指標である「M3」も、2008年後半以降はほぼ伸び悩んでいる。 利下げに対する反対論と、それに対する反論 では、11月7日の利下げにはどのような反対意見が出たのだろうか? 第1に、利下げの決断は先送りしてもよいのではないかという反対意見が出されたという。しかし、この決断は既にあまりにも長い間先送りされてきた。決断が遅れれば遅れるほど危険は大きくなる。 第2の反対意見は、この利下げを行えば非伝統的な政策手段の実行がさらに近づくというものだった。だがこれも、ECBが伝統的な政策手段の実行でもたつけばもたつくほど、極端な政策手段が将来必要になる可能性が高まってしまう。もしECBが2010年に政策金利を0%に向けて思い切って引き下げていたら、今日ある困難の少なくとも一部分は回避できたかもしれない。 第3の反対意見は、ドイツの預金金利が低すぎるというものだ。だが、ECBのブノワ・クーレ理事が主張したように、この見方は間違っている。 第1に、現在のユーロ圏のように経済が深刻なスランプに陥っている時には、貯蓄にはほとんど価値がない。第2に、ドイツの預金金利を決める最大の要因はドイツの長期国債の利回りであり、同10年債の利回りは現在1.8%となっている。しかし、利回りがこれほど低い水準にあるのはユーロ圏経済がスランプにあるからであり、かつドイツが資金の安全な避難先になっているからにほかならない。 建設会社経営者、資金難で銀行強盗に「転身」 スペイン 17カ国から成るユーロ圏の単一金融政策を運営するのは、極めて難しい〔AFPBB News〕 ユーロ圏経済への支援が効果的でなければないほど、ドイツ国債の安全な避難先としての位置づけはますます揺るがなくなり、ドイツの預金金利はさらに下がることになるのだ。 第4の反対意見は、ECBの金融政策はドイツには適しておらず、資産価格バブルを引き起こす可能性すらあるというものだ。 それは確かにその通りだ。2007年以前に取られていた金融政策がアイルランドやスペインに適しておらず、資産価格バブルの原動力になったのとまさに同様な話だ。 多様な国々で構成される通貨同盟で単一のインフレ目標の達成を要請される中央銀行は、いつかは、ほぼすべての加盟国を不安定化させる。しかし、それは通貨同盟への参加には必ずつきまとう現象であり、最大の加盟国とて免れることはできないのだ。 2001年から2007年にかけてのユーロ圏のコア・インフレ率は平均1.8%だった。ドイツのそれは1.1%で、アイルランド、ギリシャ、ポルトガルおよびスペインのそれは3%に近かった。 もしアイルランドなど4カ国とイタリアのインフレ率がこの1.8%という平均値を大幅に下回る一方で、ユーロ圏全体のインフレ率を2%に近い水準にとどめようというのなら、ドイツやそのほかの経常黒字国のインフレ率は2%を大幅に上回らなければならない。さもなくば、ユーロ圏全体のインフレ率は低すぎるものになってしまう。 また、インフレ率が比較的高くなるこれらの国々では、現在困難に見舞われている国々が2008年以前にそうだったように、短期の実質金利がマイナスになるだろう。もしそうした調整に抗えば、危機の長期化や反対論者が嫌う低金利が避けられなくなることは確実だ。 ドイツがユーロ圏から離脱すれば、日本のようなデフレスパイラルも 進む円高の謎、世界経済の3つの逆説 ドイツがユーロ圏から離脱し、新ドイツマルクの実質レートが急騰すれば、そのインパクトは日本を襲ったそれに近いものになる・・・〔AFPBB News〕 そんなことならユーロ圏から離脱した方がましだ――。ドイツにはそう結論づける人も多いかもしれない。その気持ちは分かる。しかし、その望みについては慎重に考えた方がいい。通貨同盟がなければ、その後で生まれる新ドイツマルクは急騰するだろう。 この新通貨の実質レートの大幅高がもたらす影響は、日本を襲ったそれに近いものになる。ドイツの製造業生産の大きな部分が周辺諸国にシフトし、ドイツ経済はまず間違いなく景気後退に陥り、国内の物価が恐らく下落するのだ。 そうなった場合、ドイツ連銀が現在強く反対している大胆な非伝統的政策手段が取られなければ、そのデフレスパイラルは激しいものになるかもしれない。それによって利益を得るドイツ人もいるだろう。だがそこで生じる混乱は大変なものになりかねない。 それに比べれば、ユーロ圏の調整を成功させることに伴うコスト――ドイツが例えば3%のインフレになることなど――が法外だとはとても言えないだろう。 そう、ECBには、ドイツにとって最適な金融政策を行うことなどできない。そもそも、そうするための組織ではないのだ。だがそれでも、ECBの金融緩和政策は、ほかの選択肢よりもはるかにましなのではないだろうか。 By Martin Wolf
2013年 11月 13日 16:11 JST 新興国通貨に新たな売り圧力
By ANJANI TRIVEDI 米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和縮小を懸念する投資家が一部の新興国市場から資金を引き揚げているため、新興国通貨はこの夏を想起させるような急落ぶりとなっている。 8日に発表された10月の米雇用統計が予想よりも強かったことで、FRBは数カ月もすれば月額850億ドルの債券購入策の縮小を始めるとの期待が高まった。それ以外の米景気指標も堅調だったため、雇用統計をきっかけに米国債利回りは上昇し、多くの資金運用担当者から新興国市場の魅力が後退したとの声が漏れるに至った。 画像を拡大する image Associated Press バンコクでの反政府デモ(12日)。こうしたデモが投資家のセンチメントに重しに この数年間は、先進国における低金利や金融緩和策を背景に、投資家は相対的に利回りが高い新興国資産に投資先を求めた。米国や欧州諸国の債券利回りが上昇するにつれ、投資家は途上国から資金を引き揚げるようになった。 12日には3営業日連続で下落した新興国通貨もあった。月初来では、ドルに対してインドルピーは3%、ブラジルレアルは3.2%、インドネシアルピアは2.2%それぞれ下げている。 これらは5月半ばから3カ月に及んだ急落局面に比べれば小幅な下げだが、既に警戒姿勢を強め始めた投資家は多い。JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ニマ・タエビ氏は最近、新興国市場への投資比率を引き下げた。 タエビ氏は「こうした値動きから、人々が長期の持ち高を取ることに慎重になっていることがうかがえる」と言う。同氏はこれまでにメキシコペソや韓国ウォンの他、インドネシアルピア建ての国債を売却した。 投資家は 10月の米雇用統計が発表される以前から新興国市場からの資金回収に動いていた。調査会社EPFRグローバルによると、新興国市場で運用するファンドマネジャーは11月6日までの週に、株式・債券市場から13億2000万ドルの資金を引き揚げた。つい先日の9月末には、週間ベースの流入額が24億4000万ドルに達していた。 今夏に新興国資産が急落したのは、バーナンキFRB議長が5月、債券購入策の縮小に動く可能性を示唆したことがきっかけだった。この発言から数週間のうちに、インドルピーやトルコリラは対ドルで過去最安値を付け、ブラジルレアルも4年ぶりの安値に沈んだ。 確かに、今夏に見られた大規模な資金流出と同じくらい足元の相場が急落することはないとみる投資家もいる。5月から8月にかけて新興国市場から退避したのは、個人投資家や比較的短期の取引を手掛ける投資家だった。長期的な見通しに基づいて投資を行う機関投資家の一部は、新興国資産はリスク要因を踏まえても、依然として割安だと述べている。 投資家やアナリストの間では、FRBが間もなく(早ければ12月との見方も)量的緩和の縮小に着手するとの見方がある反面、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行、日本銀行といった他の主要中銀は、緩和姿勢を(数年ではないにせよ)数カ月は維持するのではないかとの意見も多い。一部の資金運用担当者によると、このため利回り志向の投資家が高利回りの新興国市場に戻ってくることも考えられる。 アバディーン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、エドウィン・グティエレス氏は「5月や6月、そして8月のように相場が急変動することはないとみている」と述べた。 グティエレス氏は、インドネシア、トルコ、ブラジルといった国々の通貨は、投資家を引き寄せる要因となる金利上昇の影響を以前より受けにくくなっていると指摘した。同氏が運用するファンドでは、メキシコペソとインドルピーの他、ブラジルレアル建て国債を保有している。 新興国の中銀の中には、既に対抗策に打って出た中銀もある。インドネシア銀行(中央銀行)は12日、ルピア相場の下支えやインフレ抑制を目的に予想外の利上げを実施した。通貨安は輸入コストを押し上げ、物価全般の押し上げにつながる場合がある。 この夏と同じように、特に深刻な打撃を受けている途上国は、輸入が輸出を上回り巨額の経常赤字を抱えている国々だ。 モルガン・スタンレーの為替ストラテジスト、ジェフ・ケンドリック氏は「インドやインドネシアなど、赤字の穴埋めが深刻な問題となっている国々が特に売りを浴びている。また、タイも一定の売りにさらされている」と述べた。同社では、こうした理由から「5弱通貨」と呼ぶインドルピー、ブラジルレアル、トルコリラ、インドネシアルピア、南アフリカランドへの投資は避けるよう投資家に助言している。 南アフリカランドは10月以降、ドルに対して7%余りも下落し、約5年ぶりの安値に迫っている。リラも対ドルの下落率が5%近くに達している。 また、フィリピン市場も下落し、アジア市場の混乱に拍車を掛けている。同国では超大型の台風30号の影響で深刻な被害が出る中、株式市場は今月4%下落した。一方、タイへの投資家心理は、バンコクで続く反政府デモが重しとなっており、主要株価指数のSET指数は11月6日以降に1.5%下落した。 バークレイズのアナリストは調査リポートで「海外要因に大きく左右される通貨、あるいは、今後世界的な流動性状況が引き締められた場合への準備がほとんどなされていない地域については警戒することが望ましい」と指摘している。
2013年 11月 12日 19:15 JST ルー財務長官、安倍首相や麻生財務相との会談で「第3の矢」の実行要請 By IAN TALLEY 【東京】来日中のルー米財務長官は12日、安倍首相らと会談し、安倍政権の掲げる「第3の矢」の実行を首相に強く要請した。安倍政権の経済政策が頓挫することになれば、米国の景気見通しが損なわれかねないとの懸念が背景にある。 一方、安倍首相や麻生財務相は、ルー長官との別々の会談で、米国の予算問題に言及。安倍首相は「政府・議会で引き続き適切に対処され、解消されることを期待する」と述べた。 画像を拡大する image Bloomberg News 東京での会談前に麻生財務相と握手するルー米財務長官 関連記事 【寄稿】米国とアジアの経済改革と協力が重要=ルー米財務長官 一方、麻生財務相はルー長官との会談後、記者団に対し、米国の債務上限問題について「来年2月までに延長されたにすぎず、10月の状況がさして変わったわけではない」と発言した。 米国で債務問題をめぐる与野党対立が広がるなか、オバマ米政権は日本経済の回復と環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉妥結により、米国の輸出が押し上げられるとともに、脆弱な米景気回復が必要としている後押しに期待を寄せている。 しかし、米国、特に自動車メーカーから、日銀の大規模な金融緩和策の結果としての円安により、米企業が不利になっているとの不満も出ている。 ルー長官は安倍首相や麻生財務相との会談に先立ち、ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、「デフレの終結を歓迎するが、日本が内需の伸びを強化するために必要な持続的な成功を達成するためには、輸出への依存を回避し、為替相場をターゲットとしないという約束を引き続き尊重すべきだ」との見解を示した。 ユーロ圏が深刻なリセッション(景気後退)を抜け切れず、アジアから中南米に至る新興諸国の景気拡大が鈍化するなか、日本の最近の経済成長は世界経済のなかで明るい材料となっている。日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で妥結する見通しが広がっていることから、米国をはじめとする諸外国にとって新たな輸出機会への期待が高まっている。当局者らはまた、TPPにより、中国の経済自由化の加速が促進される可能性があると考えている。 また、甘利経済財政・再生担当相はルー長官との会談で、TPP交渉について年内妥結を目指す方針を確認した。その上で、今後横たわる課題を強調。日本が保護を求める主要農作物5項目をめぐる政治的な敏感さが浮き彫りになる形となった。 米財務省報道官は会談後に「ルー長官は日本が改革の第3の矢へのコミットを維持することへの期待を表明した」と述べた。さらに、ルー長官は「安倍政権が景気拡大につながる内需押し上げに効果的な政策の実行に成功することがいかに重要かを強調した」と続けた。 2013/11/12 6:35 pm 日本の個人投資家の大半、近い将来のデフレ終了を予想 Bloomberg News 銀座の買い物客(9月8日) 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」を批判する人々は、日本の凝り固まった「デフレ思考」―― つまり、リスクテークや支出ではなく、慎重でキャッシュをため込む傾向――に対する容易な改善策はないと指摘する。しかし、価格が下落し続けるとの信仰を払しょくすることは、おそらくそれほど難しい仕事ではないだろう。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが日本の個人投資家1000人を対象に10月に実施した意識調査によると、回答者の56%はデフレが間もなく終了し、物価が緩やかに上昇し始めると予想していると答えた。その一方、悪質なインフレリスクを指摘した回答者は21%にとどまった。この調査結果は今月下旬に正式に公表される予定だ。 1年前に実施された同様な調査では、回答者の31%が国内の物価が低下し続けると予想していると述べた一方、回答者の44%は日本を含め世界的なデフレトレンドを予想していると回答した。日本でのインフレリスクの可能性を指摘したのは12%にとどまっていた。 日本経済に対する投資家の見方を踏まえれば、こうしたセンチメントの変化は特筆すべきものがある。日本経済の見通しについて、今年の調査では回答者の69%が1年後のプラス成長を予想していると回答した。昨年の調査では、73%がマイナスもしくはゼロ成長を予想していた。 また、今年の調査では、今後一年間の経済成長が最も期待される国々のリストの上位に日本が躍進、米国と中国、ブラジルの後に続いた。昨年の調査では日本は9位で、経済成長が最も速いペースになると期待されていた上位3国はブラジルとインド、インドネシアだった。 日本経済は今年第1四半期(1‐3月期)と第2四半期(4‐6月期)にそれぞれ年率3.8%と4.1%の伸びと、先進7カ国(G7)の他の諸国よりも高い成長率となった。こうした状況を受けて、センチメントが改善している。ウォール・ストリート・ジャーナルが調査したエコノミストたちは、第3四半期(7‐9月期)の日本の国内総生産(GDP)が1.7%増加する公算が大きいと予想している。第3四半期GDPは14日に発表される。 今回の調査は金融資産3000万円以上を保有する20歳以上の投資家だけを対象としていることから、センチメントの大幅反転が日本国民のごくわずかに限られている可能性があることは確かだ。この全国的な調査は社外の市場調査会社に委託して実施され、金融とマーケティング、広告関連の職に就く回答者やその家族は含まれなかった。 ただ、日本のより長期の経済見通しについては、回答者はそれほど楽観的ではなかった。10年後の経済についての質問には、回答者の39%がマイナスもしくはゼロ成長を予想していると回答した。また、最も成長率が高い国としてはインドを予想した。日本と米国、中国の経済成長の長期見通しは、1年後の見通しと比較すると総じて低かった。 調査対象となった個人投資家の現在のポートフォリオを見ると、44%が資産を円預金や現金で保有しており、これは昨年の調査からほとんど変わらなかった。今年の調査では、日本と先進国の株式の保有率は若干の増加にとどまった。将来的に何に投資したいかとの問いには、昨年より多くの人が日本株と不動産投資信託を挙げた。現金と円預金を挙げた回答者は減った。 安倍首相の次の課題は現在、これまで投資したことがなく、おそらくデフレ環境の中でリスクをとる必要性を感じたことがなかった日本国民が保有する巨額の資産にいかに切り込むかだ。首相がこれを達成できるかどうかは大きな疑問だ。 記者:KANA INAGAKI 原文(英語):Most Japan Investors See End to Deflation, Goldman Survey Shows http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2013/11/11/most-japan-investors-see-end-to-deflation-goldman-survey-shows/
[12削除理由]:無関係な長文多数 |