04. 2013年11月12日 02:10:32
: niiL5nr8dQ
アベ相場1周年、企業財務の現場は今円安が生じさせる企業経営上の困難 2013年11月12日(火) 深谷 幸司 昨年の11月14日、当時の野田佳彦首相が突然、衆院解散・総選挙実施の意向を明らかにした。それからほぼ1年が経つ。 事実上のアベノミクス相場が始まって1年 円の対ドル相場(1ドル=円) 改めて振り返れば、為替市場ではまさにその日をもって、長きにわたる円高局面が終止符を打った。円の対ドル相場はしっかりと1ドル=80円台を回復し、総選挙が実施された昨年12月16日には、それまで2年以上にわたり水準の「壁」となっていた85円の節目をうかがい、今年初めにかけて、その「壁」を突き抜けて円安・ドル高が進んだ。 「円安進行はアベノミクスの成果」との見方もあるが、基本的には日銀の金融緩和姿勢によるものだ。安倍晋三・自民党総裁(当時)が「無制限の金融緩和でデフレ脱却」と選挙に向けて旗印を掲げたことで、市場の円安期待が醸成されたことは事実。そして日銀を実際に「動かした」のが安倍政権であるとすれば、日銀の独立性はともかくとして、政府の経済政策と金融政策が同調することは当然であり、その範囲内で安倍政権の功績ということはできる。 しかし95円までの円安・ドル高は基本的にドルの自律反発と言えるだろう。外部環境や外部条件の変化により、戻るべくして戻った、つまり円高が修正されるべくして修正した、というわけだ。 貿易赤字下の円高終息は自然 グローバルなショックは2012年には峠を越えたことが明確になり、特に米国経済は緩やかな拡大基調に入っていた。株価も右肩上がりだ。 一方の日本では、東日本大震災後にエネルギー輸入の急増と円高に伴う海外への生産シフトなどによって貿易収支が急速に悪化し、その後は過去最大の貿易赤字が続いている。こうした環境で円高が終息し、「中立水準」に戻っていくことは自然なことだ。 そうした流れのなかで、「安倍政権の政策」は市場の円安期待に火をつける触媒の役割を果たし、投機筋の円売りを活発化させたにすぎない。期待感を醸成した分、スピードが速かったが、その時間軸における成果に関しては「アベノミクス」を評価したうえで、価格軸においては評価を割り引いたうえで考える必要がある。 そして今年4月以降、95円から103円台までの円安・ドル高の動きは黒田東彦・日銀総裁による「異次元緩和」、すなわち大胆な量的緩和に触発された投機主導の「行きすぎた」円安だ。相場の勢いに任せたオーバーシュート局面と言えよう。 その後、円相場は今に至るまで大きく見れば、チャート分析上の「三角保ち合い」を形成し、100円台への定着はまだ実現していない。値動きだけから評価するなら、黒田緩和の効力が途切れた、とも言える。 しかし米国サイドの条件によるドル高要因が整っていなかったというのが実情だろう。103円までの円安がそもそも行きすぎであり、期待先行による急激な円安・ドル高局面を捨象すれば、95円より円高・ドル安に行きにくくなっている現状は、十分に日銀による量的緩和の効果が持続しているとも言える。 急速な円安は中小企業に大きな影響 この間、経済・為替動向を通じて企業に生じた変化は大きい。「粘着質の持続的な超円高」は企業の生産活動を一段と海外へ追いやった。「海外移転」の動きが広く中小企業にも拡散したのが先般の円高局面の特徴だろう。「国内の本社工場は完全に閉鎖して海外工場での生産一本に絞ることにしたよ」といった声が、中堅・中小企業経営者から多く聞こえた。 円高で採算が悪化した大企業の製造業や輸出企業によるコスト改善圧力が仕入先へと及んだのも遠因だ。こうしたミクロの積み上げが日本の輸出入構造に不可逆的な変化を与え、貿易収支が構造的に悪化し、赤字が定着することに一役買っている。そして、その貿易赤字定着こそが、円高にブレーキをかけ、円安が進みやすい為替需給環境を整えたのだから皮肉な話だ。 その状態から一気に進んだ円高の修正、円安・ドル高の進行はまた違った意味で企業に経営戦略・財務戦略上の困難を生じさせた。構造的に円高に対応しようと努力し、それを完成させた結果、逆に中立水準に向けた円高の修正局面=円安局面で、利益を享受することができなかったことが1つだ。 大企業はすでに今回の円高到来よりも早く、プラザ合意の1980年代から90年代には海外展開をおおむね進めていたため、限界的には円安の享受もできた。しかし、円高に「構造的に、完全に対応した」中小企業には恩恵が少ない。「『アベノミクス円安』の恩恵が大企業に偏っており、中小企業には行き渡っていない」という現実や企業の声は、そのあたりの事情を反映しているようだ。 また日本の産業構造においては、相対的に輸出サイドには大企業が多く、輸入サイドには中堅・中小企業が多い。 急激な円安進行はそうした輸入企業・中堅中小企業に大きな影響をもたらした。それまで享受していた円高メリットが急速に失われたため、コスト増により収益悪化のリスクにさらされた企業が多い。 過去、円相場が70円台の円高・ドル安になる前に相対的に高いドルを買う長期為替予約(例えば90円台での円売り・ドル買い)を入れていた企業にとっては、70円台の円高メリットさえ享受できなかったうえ、一気に100円近辺まで戻されて、高いドルを買うことになる。 あるいはメリットを享受したものの、100円を付けたことで、組み入れていた長期の円売り・ドル買い予約が「消滅条件」に抵触し、せっかく安くドルを長期的に買えると思っていたのに、その目論見が外れてしまった企業もある。 もちろん、大企業においても、ミクロレベルでは短期的に円安・ドル高の恩恵を受けそびれている。円相場が長らく70円台で推移した後、あまりに急速に円安・ドル高が進んだため、結果的に輸出予約を「早く取り組みすぎた」格好となった。 例えば、100円近辺で推移しているときに、80円台で円買い・ドル売りをする契約が残っている。こうした状況は時間の経過とともに解消する。しかし、あまりにも急激すぎる為替変動は、それが企業や経済全体にとって不利な方向に進んだ場合はもちろん、たとえ有利な方向に進んだ場合でも、「損失」となることを端的に示している。 その意味では、足元での円相場の安定は、ある意味で好ましい面もあろう。米国の財政協議の不調により、米量的緩和の縮小が先送りとなり、これが米長期金利の上昇を抑制して、結果的に90円台後半での「微妙な安定」がもたらされている。 スパイラル的な円安が進むリスク ただ米国の景気、金融政策、長期金利のトレンドが逆方向に転換したわけではない。コンセンサスは緩やかな円安・ドル高との見方が大勢だ。こうした状況下、企業財務の現場は、今、どのように為替動向と対処しているのか。 大企業においては、そうした長期契約は決算上、ないし経営上、難しい行為だ。 一方、果敢に、かつ機動的にリスクをとり、収益拡大、ないしリスクヘッジを目論見る中小のオーナー系企業には様々な動きが散見される。 輸出企業はどちらかといえばそれほど慌てていないが、しかし、やや「あてが外れて」しまい、思いのほか円安・ドル高が進まないことでヤキモキしている状態だ。 中堅・中小のドル売り需要のある企業は、あわよくば100円台、105円に近い水準での円買い・ドル売りの為替予約を確保しようと虎視眈々としている。 より積極的に為替ヘッジを考えているのが輸入企業だ。中長期的な円の先安感は維持されており、来年には円相場は100円台に定着し、さらに3年後までを展望して一段の円安・ドル高を見込む声が大勢だ。長期的な相場循環として、「先の70円台はドルの大底だったのではないか」との意識は強い。そうしたことから長期的にドルを安く押さえておこうというニーズが高まっている。 日本経済全体を見れば、すでに貿易赤字であることからして、過度な円安が進むことは好ましくない。貿易黒字のときこそ円安となることが好ましい。 それが実現した最も良い事例は、2000年代の前半だ。新興国が絶好調で、世界経済が5%超の高成長を続け、日本の貿易収支は黒字が大幅に拡大。一方、リスク選好が強まるなか、内外金利差の拡大から「円キャリートレード」が全盛となって円安が進んだ。輸出企業にとってはまさにバブル並みの好環境となっていた。 現状では外需がなおあまり強くないなか、内需は「アベノミクス」によって相応に堅調。原子力発電所の停止が続いており、高水準のエネルギー輸入も手伝って、貿易収支は大幅な赤字が続いている。 一般論として景気にとって通貨安が好ましいのは確かだが、ミクロのレベルでは、様々な自助努力が強いられる。総じて家計は常に「輸入サイド」であり、それに近いビジネスは同様に「輸入サイド」となりがちだ。小休止した円安が動き始めたとき、好ましい、とばかりは言っていられない。とくに、構造的・不可逆的に日本経済が「輸入超過」となったとすればなおさらだ。 日銀による大胆な量的緩和は物価上昇率が安定的に2%となることが見込まれるまで継続するという。国内の需給バランスがタイトになることにより、賃金の上昇とともに、それが達成されるのであれば問題はない。 しかし、米国が量的緩和縮小にいよいよ動き始めるなか、円安主導で達成されるのであれば、通貨の対外価値の下落を伴う円安であって、必ずしも歓迎できない動きとなる。 サービス業も海外に活路を求める動きが一段と加速し、それがさらに円安を加速することにもなりかねない。ビジネス構造の変化によって為替リスクも変化し、今よりさらに「輸入サイド」の性質が強まっている可能性がある。投資資金の動向もあることから必ずしもそれで円安が加速するとは限らないが、可能性として、スパイラル的な円安が進むリスクは念頭におく必要があろう。 このコラムについて 深谷幸司の為替で斬る! グローバルトレンド 円安進行の加速が目立つ為替相場。1ドル=100円を超え、さらに円安は進むかどうか、市場関係者にとどまらず、企業、そして国民の注目が集まっている。今後の円相場の行方は?また日本、さらには世界の経済はどう動いていくのか?国内外の銀行で為替ストラテジストを長らく務めてきた深谷幸司・FPG証券社長が、各国通貨のパワーバランスに垣間見えるグローバル経済の胎動をとらえたホットな話題を提供する。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131108/255631/?ST=print
日本経済復活を楽観してはいけない
インテグラル代表取締役パートナー、佐山展生氏に聞く 2013年11月12日(火) 田村 賢司 株価上昇、円安と共に日本経済復活が喧伝される。日本企業への投資も増えてきたが、内外の投資家はまだ手放しで信じているわけではない。企業への投資とM&A市場で長年、腕を振るってきたインテグラル代表取締役パートナー、佐山展生氏は、楽観ムードに釘を刺しながら、「経営改善をすれば、日本企業はまだまだ強くなれる。経営次第だ」とも主張する。佐山氏に日本企業復活の可能性を聞いた。 (聞き手は本誌主任編集委員 田村 賢司) 日本企業へ投資するファンドを今年9月に立ち上げた。投資資金は順調に集まったと聞くが、投資家の日本経済への姿勢は相当変わったのか。 佐山:当社はベンチャーと不動産系以外の日本企業に投資をしている。成長力を秘めているが、まだ資金不足の企業や事業上の問題を抱えていて、それを改善すれば良くなる会社などだ。 佐山 展生(さやま・のぶお)氏 帝人を経て1987年、三井銀行(現・三井住友銀行)入社。M&Aアドバイザリー業務を担当した。98年、ユニゾン・キャピタルを共同設立。代表取締役パートナーに就任した。2004年、投資アドバイザー会社、GCA(現・GCAサヴィアン)代表取締役パートナー就任。2008年3月、インテグラル代表取締役パートナーも兼任。2013年4月、専任に。 後者の方は、我々が投資先会社の経営上の問題の改善に手を貸して、業績を向上させるというものだ。いずれも、業績向上後に株式を売却するか、上場させて投資を回収する仕組みを取っている。
実は1号ファンドを作ったのは、リーマンショックの直前、2008年9月で、この時は投資家が一斉に資金を抑えたのでしばらくは大変苦労した。最終的に112億円を集め、計7社に投資したが、厳しい時期だった。 投資家は銀行、生命保険会社など機関投資家と年金が中心。海外投資家も少なくないが、このところようやく日本企業への投資が戻ってきた感じだ。ただ、世の中で思うほど日本への投資が強く戻っているわけではない。 日本再注目を信じすぎてはだめ 外国人投資家は日本企業への関心を非常に強めていると言われるが、それほどでもないと。 佐山:リーマンショックの後は、全く日本への投資意欲をなくしていたから、その時よりは良くなっている。国内外の投資家は、「成長する中国やインドの企業にはとても興味がある」と目を輝かせながら、「日本には関心はない」とさえ言っていたほどだ。 それに比べると、日本経済は良くなるのかもと注目をし始めているから、変化が起きているのは間違いない。ただ、気をつけないといけないのは今は、中国の景気が今ひとつで、インドも期待したほど順調な成長ぶりではないという相手側の状況が効いていることだ。それと、これまでがあまりにひどかったから、「今、日本に投資すればリターン(利益)は大きい」というどん底からの回復のような状況も忘れてはいけない。 うかつに「Japan is back」などと楽観していると足元をすくわれる。投資家は、これから消費税が上がり、日本経済は本当にそれを乗り越えて成長力を回復できるのかを、慎重に見ようとしている。 政府は、消費税引き上げによる景気悪化を防ぐため、大型の経済対策も実施しようとしているが。 佐山:中身が問題だ。経済対策では、公共事業が兆円単位になり、また大きくなりそうだが、大事なのは成長戦略。法人税を下げる方向に動いているのはいいが、実現するかどうか。それと、設備投資減税なども考え方はいいが、大企業から中堅・中小企業まで投資が広がる施策も必要だ。 雇用が増え、所得が上がることを意識した政策でないと、結局、日本企業は強くならない。外国人だけでなく、投資家はそれを注視している。成長戦略で、日本国内に投資が起こり、マネーが循環して雇用と消費を拡大する政策が出来るかどうかだ。 これまで、どんな企業に投資してきたのか。どういう企業に成長の可能性があるのか。 佐山:1号ファンドでは、請求書などを封書に封入・封緘する機械のメーカー、ビー・ピー・エスや、有名服飾ブランドのヨウジヤマモト、バックのSPA(製造小売り)、シカタと不動産のアパマンショップ、光通信の基幹部品メーカー、ファイベストなど計7社。海外に過大投資し過ぎて財務的に苦しくなった会社や、本業に近いが関係の薄いビジネスに投資して失敗した企業から、独自技術を持っているが、技術者集団で経営の強化が必要だった企業まで様々だ。 だが、言えることは日本企業は経営を手直しすれば、相当に良くなる会社がかなりあるということだ。当社から、財務やマーケティングの専門家などを派遣し、長期に渡って支えている企業もある。これまでは中堅・中小企業ばかりだが、大企業への投資もしていくつもりだ。 経営改善で中小企業もグローバル化 ドイツでは中堅・中小企業がグローバル化し、海外に広く展開して成長している。その強さが国の経済下支えしている。日本の中堅・中小企業は、それがない。 佐山:これも経営強化ができるかどうかに尽きる。1998年に私は投資会社、ユニゾン・キャピタルを別の人と共同設立し、キリウという自動車部品メーカーに投資した。当時、キリウは日産自動車系で、売上高の70%以上は国内だった。 しかし、ユニゾンが投資をし、経営改善をして海外を含め、他の自動車メーカーへの販路拡大を図った結果、海外売上高は50%を超えるまでになった。日本企業は、いい製品・サービスを持ちながら、海外に売る力がないところが多い。手助けをすれば、日本企業がドイツ並みになることは夢ではない。現に今、ヨウジヤマモトはロシアに自社ブランドの香水販売をしようとしている。当社の者が手助けをして進めている。こういう道はいくらもある。 投資成績はどうか。日本企業は今、海外企業へのM&A(合併・買収)に積極的になっている。一緒に海外企業への投資まで踏み込むことはないのか。 佐山:(最低限の投資収益である)ハードルレートで8%、投資の判断材料になるIRR(内部収益率)で30%を基準にしている。我々の報酬もハードルレートを超える収益を取って初めて発生する仕組みにしている。これまでは順調に来ていると思っている。 海外企業への投資は考えていない。確かに日本企業の海外企業M&Aは増えている。しかし、私の長い経験から言えば、これを成功させるには、買い手側企業の経営者に相当な強いリーダーシップと、買収に伴う経営戦略も精緻なモノが是非とも必要だ。 だが一方で、現実には投資銀行から持ち込まれた案件に飛びついたり、投資自体が成功だったのか失敗だったのかの検証すらしないケースが今も少なくない。海外企業への投資は、それができないととても難しいと思う。国内企業もそうだが、根拠のない楽観で投資をするのは止めた方がいい。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
[12削除理由]:無関係な長文多数
|