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阪急阪神ホテルズ問題、「偽装」「誤表示」の微妙な関係と第三者委員会
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2013年11月11日 郷原信郎が斬る
【阪急阪神ホテルズ問題、「自爆」を招いた会社側の「無神経」】でも詳しく述べたように、阪急阪神ホテルズの問題が重大な企業不祥事に発展したのは、阪急阪神ホテルズの危機対応の拙劣さによるところが大きい。
出崎社長が、記者会見で「『偽装』ではなく『誤表示』だ」と繰り返したことが、マスコミから厳しい批判を浴び、辞任に追い込まれる原因にもなった。
会見の混乱は、「偽装」と「誤表示」の関係を、会社側とマスコミ側とが異なった意味で理解していたことによるところが大きいように思える。
先日、この問題を取材している某記者から、次のような感想を聞いた。
「間違いはすべてメニューより安い食材を使うという共通点があります。メニューは芝エビだけれど実際は車エビを使っていた、などという逆のケースがひとつでもあれば『誤表示』という主張も説得力を持つのですが。」
このような「誤表示」という言葉の理解が、マスコミ側の追及の前提になっているようだ。
確かに、「誤表示」における「誤り」が、何の意図もない「表示のミス」という意味であれば、実際の食材がメニュー表示の価格水準より低い場合だけではなく、高い場合もなければおかしい、ということになる。
しかし、阪急阪神ホテルズ側が「誤表示」だと言っているのは、そういう意味ではないのであろう。
実際の食材と異なる表示をしたことについて、「その程度の相違は許される」と誤って判断したものは、「違法・不当」な表示をする意図はなかったのだから、「偽装」ではなく「誤表示」だという考え方なのであろう。
マスコミ側は、食材と表示とが多少なりと違うことを認識していれば、それだけで「偽装」であり、「誤表示」ではない、という考え方、会社側は、食材と表示の違いが「違法・不当」とは思っていなかった場合は「誤表示」に含まれる、という考え方、そこに大きな違いがある。
どこまでが「誤表示」と言えるのかを、野球の投球における「コントロールミス」に例えて考えてみよう。
マスコミ側の考え方によれば、投手は、ストライクを投げようとするのであれば、ストライクゾーンの真ん中(正確な表示)を狙って投げるのが当然で、「コントロールミス」(誤表示)というのは、真ん中に投げようとしているのに、外角内角どちらにも外れてしまうという「ノーコンピッチャー」のことだけを意味することになる。
内角ギリギリのストライク(許される範囲の表示)を狙って投げたところ、さらに内角に少し外れてボールになったというのは、真ん中を狙って投げなかったのだから、ストライクを狙う投球ではなく、「コントロールミス」とは言えない、ということだ。
マスコミの「誤表示」の定義によれば、食材についての一般的、客観的な表示を、一切の作為を加えないで行うべきで、その結果、たまたま表示が実際の食材と異なってしまった場合だけが「誤表示」だということになる。
しかし、プロの投手であれば、内角外角ギリギリを狙って投げて打者に打たれないようにするのが当然であるのと同様に、広告表示で、少しでも商品のイメージを良くしようとして、「違法、不当」とされない範囲で広告表示を行うのは、世の中の商売においては一般的なことだという考え方もあり得るのではないか。
この点は、「誤表示」と「偽装」の定義と、これらの関係をどのように理解するのかに関わる微妙な問題である。この定義や関係性の整理が曖昧で食い違ったまま、質疑・応答が繰り返されてしまったことが、記者会見をめぐる混乱に拍車をかけたことは否定できない。
会見における企業の内部者の説明で、この点について定義などを明確にし、誤解を解消することはなかなか困難である。そのような時は、外部者の第三者委員会が、中立的・客観的立場から、「偽装」「誤表示」の定義や関係を整理した上で、問題を指摘することができるし、そうすべきだといえる。
ところが、阪急阪神ホテルズの第三者委員会の委員長に就任したのは、元大阪地検検事正の小林敬氏である。同氏は、大阪地検検事正として、村木事件の証拠品のFDデータの改ざん問題について、当時の大坪特捜部長らから、「過失によるデータ改変です」と報告され、それを鵜呑みにして、何の問題意識も持たず、何の措置もとらなかったことの責任を問われて辞職した人物だ。
小林氏らが、戒告という内部処分だけしか受けなかったのは、大坪氏らから「過失によるデータ改変」と報告されたために、過失としか認識しなかったことが理由であった。
しかし、今年9月25日に大阪高裁で言い渡された大坪氏らの控訴審判決は、次のように判示して、「過失によるデータ改変」を見過ごした、当時の小林検事正及び玉井次席検事の責任を厳しく指摘している。
「小林及び玉井は、被告人両名の報告が、前田の行為により過誤による改変が生じたとの内容にとどまったとしても、大阪地検の最高幹部として、重大事件における最重要の証拠であるデータに手を加えたという重大な不祥事との認識を持って、被告人両名に対し、真相の解明を急ぐなど迅速な対応を指示するとともに、上級庁にも直ちに報告すべきであった」
当時、特捜部長、副部長だった大坪氏、佐賀氏は、犯人隠避罪で有罪が確定して法曹資格を失い、次席検事だった玉井氏は、大坪氏らに責任を押し付けたことで心労がたたったのか、辞任後まもなく急死した。
つまり、前代未聞の検察不祥事となった「証拠改ざん」、すなわち「証拠偽装」の問題について上司として責任を問われながら、今も法曹資格を維持しているのは小林氏だけ。その人物を、敢えて「食材偽装」問題の第三者委員会委員長に選任する阪急阪神ホテルズという企業の「無神経さ」には、ただただ、呆れるばかりである。
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