02. 2013年11月11日 10:16:49
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トップは部下に「会社に行きたい」と思わせれば上出来ライフネット生命会長 出口治明さん(その3) 2013年11月11日(月) 高島 宏平 (前回から読む) 高島:前回の最後で、私は出口さんに質問しました。社員皆を分け隔てなく扱うと、一方でエースが育ちにくくなってしまうのではないか、と。その質問に対する出口さんの答えは、「会社の成長のため、チームを底上げするか、エースを育てるか」を一般論で語っても意味がない、というものでした。 出口:そうです。 高島:すみません、もう少し具体的に教えてください。 出口 治明(でぐち・はるあき) ライフネット生命保険会長兼CEO(最高経営責任者)1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年にライフネット生命保険株式会社に社名を変更、生命保険業免許を取得。2013年6月より現職。著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』(ダイヤモンド社)、『仕事は"6勝4敗"でいい「最強の会社員」の行動原則50』(朝日新聞出版)など多数。(写真:大槻 純一、以下同) 出口:ライフネット生命保険には、大きく5つのグループがあります。(1)コンタクトセンター、(2)システム部門 (3)コーポレート管理部門、(4)保険の引き受けから支払いの査定までを行う事務管理部門、(5)マーケティング部門です。
この5つのうち、マーケティングを除く4つの部門の仕事は基本的に地味な内容です。免許事業ですからミスは決して許されません。当たり前の事を当たり前にきちんとやることが、第一に求められる仕事。それをこの4部門が担っています。 では、どうすればミスの発生を未然に防ぐことができるでしょうか? 高島:どうするんですか? 出口:答えは、それぞれの部門にいるスタッフが、強いチームワークで結ばれていて、気持ちよく働いてくれることにつきるんです。つまりスタッフ全員が、均等に高いモチベーションを持ち、お互いが助け合い、ミスをフォローし合うような体制と風土を築くこと。これが「ミスの許されない職場」では最も重要なんですね。 高島:出口さんにはっきり言われて気づきました。オイシックスでも、品質管理部門や物流業務部門は、ミスをしないでちゃんとやる、ことが最優先されます。でも、残りひとつの仕事、マーケティングは異なるんですね? 出口:ええ。まったく違う仕事です。まず、ミスを恐れていてはダメ。自分たちの会社と商品を積極的に売り込む仕事だから。 高島:じゃあ、どんな能力が求められます? センスは育てられるとは限らない 出口:……たとえば、センス、ですね。ライフネット生命保険はインターネットで生命保険を販売していますから、ホームページの出来が業績を大きく左右します。そのホームページのデザインはこうした方が絶対にいい、と意見が言えるかどうか。これは、その社員のセンスの問題なんです。 高島 宏平(たかしま・こうへい) オイシックス社長。神奈川県生まれ、東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、外資系経営コンサルティング会社のマッキンゼー東京支社に入社。2000年5月に退社、2000年6月に「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を目指しオイシックスを設立、代表取締役社長に就任。 高島:となると、マーケティング部門については、やはりそういったセンスが磨かれたエースを育ていかなければ、と?
出口:マーケティング部門に必要なセンスは、育てようと思って育つものとは限りません。だからむしろ常に外への窓を開いておきます。 高島:外への窓? 出口:社内だけに頼らない、ということですね。外部のセンスのある人に話を訊いたり、ときにはリクルートしたり。マーケティングのようなセンスが必要な仕事は、時として新陳代謝をしていかないと、経営の成功に結びつかなくなります。 高島:管理部門やバックヤード部門の仕事と、マーケティングのような仕事では、根本的に求められる資質が異なる……。 出口:ライフネット生命保険のように社員100人程度の小所帯の会社であっても、仕事によってどういう人が必要かはまったく異なる部分があるわけです。 高島:たしかに。 出口:だから、チームワーク重視の人事が大切なのか、エースを見つけ、育てる人事が大切なのか、と問われたら、その答えは、ひとつひとつの仕事の性質によって違う、となるわけです。仕事の性質を考慮しながら、その仕事にふさわしい教育を社員ひとりひとりに施していく。 高島:今の出口さんの仕事の切り分け方は、当社とはかなり異なります。オイシックスの場合は、僕も含め、社員がわりとリスクをとって、工夫をしたがる傾向にあります。要するに、みんなマーケティング的な仕事をやりたがるんです、マーケティング部門じゃない社員も含めて。むしろ基幹部門やバックヤード部門に必要な、地味な仕事をコツコツまじめにやる社員の数が少ないのかもしれない……。 出口:リスクをとろう、という社員が多いというのは、ベンチャー企業なんだから当然ですよ。 高島:では、どうすれば地味な仕事をコツコツやる社員を育てることができるんでしょう? リクルーティングのときの工夫が必要なんでしょうか? 社員の適性を見抜いたり、モチベーションの維持方法を工夫する必要があるんでしょうか? 出口:社会心理学の本を読めば答えが書いてありますよ。僕の知見では、個々人の仕事に対するモチベーションが上がるのには、2つの理由があります。まず1つめは、会社のコアバリューが、自分のコアバリューに近いこと。要するに、会社が考えていることと自分の考えていることが似ていること。そういう会社に勤めている人のモチベーションは概して高い。これは、さまざまな社会心理学の研究結果が示しているそうです。 「欲しい人」を引きつけ、コアバリューを守るには 高島:ライフネット生命保険のコアバリューは、なんでしょうか。 出口:それは、正直に分かりやすく安くて便利にということで公開しているマニフェストに明記してあります(http://www.lifenet-seimei.co.jp/profile/manifesto/)。このマニフェストを読んで、「ああ、ここに書いてあることは共感できるな」と思ってくれる人と仕事をするのが、ライフネット生命保険にとっても、その人にとっても一番いいんです。 当社のウェブでもどんな人を求めているのか、すべて公開しています。 高島:ライフネット生命保険の社員の方々のブログにも、マニフェストのことは度々出てきますね。 出口:なので、ライフネット生命保険で働こうかなと思っている人は、マニフェストを先ず読むでしょう。共感しない人は、そもそも入社試験を受けないでしょう。 高島:そりゃそうですね。 出口:ライフネット生命保険のように情報公開して、会社が大事にしているバリューをホームページで丸出しにすることは、実は社員募集の際のスクリーニングコストを下げるんです。つまり、会社に合いそうもない人は最初から受けにこない。 高島:さっそく真似したいです。ただ、マニフェストって社員募集のときだけじゃなくて、むしろ日々の業務で社員たちに徹底させてはじめて意味を持たせられるものですよね。どうやって、マニフェストを徹底させているんですか? 出口:何も特別に徹底なんかしてないですよ。 そんな押し付けがましいことをしなくても、最初からみんな徹底できています。 高島:え、なぜ? 出口:だって、採用する前に、当社のマニフェストを勝手に読んで、この会社がいい、と思って受けにきたのがうちの社員ですから。入社以前に「徹底させる」作業は済んでいるわけです。 高島:なるほど、入社前に会社のマニフェストを公開することで、会社のコアバリューと社員のコアバリューを近くすることができるんですね。では、もう1つのモチベーション維持のカギはなんでしょうか? 出口:会社と仕事が楽しいこと。 高島:なるほど、「楽しい」はあらゆるモチベーションの基本ですね。 出口:そうです。会社に来て、いろいろな同僚と話をしたり、仕事をしたりすることが楽しければ、モチベーションは自然と上がります。そうそう、社内のモチベーション向上とたぶん関係がある話ですけれど、ライフネット生命保険では、社内で自主的に運動部がどんどん生まれているんです。
高島:運動部ですか。いくつあるんですか。 出口:13あります。やれと言ったわけでも、補助金を出しているわけでもないのに、社員100人の会社で13の運動部があります。 高島:すごいなあ。 出口:会社の中で運動部が自主的にできるのって、その会社が楽しくなければ、そもそもメンバーが集まりませんよね。文化系サークルだったら、たとえば「トンカツ部」だったらみんなで一緒に食べに行けばいいし、「子育て部」だったらお昼休みに赤ちゃんの服を交換したり、と、たいして時間はかからないけれど、運動部はお金も時間もかかりますからね。トライアスロン部なら、自費でたとえばハワイの大会まで出かけていって、泳いで漕いで走って、それで帰ってくるわけですから。 けっこう時間も手間もかかる運動部が自主的にどんどん社内で生まれるということは、みんなこの会社が楽しいんだろうな、と思ってしまうわけです。とてもうれしいですね。 勝手に運動部が出来ていく会社 高島:つまり、自分とコアバリューが同じ会社で、楽しく仕事をする。あ、言葉にすると当たり前ですね。モチベーション高くなるに決まっている。 出口:そうですよ。だから、僕は、トップの仕事の9割以上は、社員が朝起きたときに、今日も楽しいから会社へ行こうと思える企業風土を作ることだと思っています。 高島:9割以上! では、トップにとって残り1割弱の仕事とは? 出口:分からないことを決めていくことです。会社にとっての課題に関するメリットとデメリットがあらかじめ整理されていれば、誰でも決められます。ただ、とにかく急いで決めてくれということがあったり、問題点をよく整理できないこともあったりしますから、そんなときにずばっと決断をするのが、トップの仕事です。 高島:私もそこにずっと悩みながら来ています。あの……、私、会社を作って13年になるんですけど。 出口:大先輩ですね。僕は5年だから、3倍近い。 高島:いやいや、とんでもないです。オイシックスにも運動部は勝手にできていますが、楽しい企業風土を作れているかというと、まだまだだなと思います。どっちかと言うと「たのつらい」感じです。 出口:うちもまだまだです。永遠のチャレンジャーですよ。 高島:ただ、オフの部で運動を楽しむのと、オンの仕事が辛いときも歯を食いしばって乗り越える楽しさとは、ちょっと違うのかなとも思っているんです。 出口:そうですね。楽しめる運動部があるということは、社員が仲がいいということですよね。それは、毎朝会社へ行こうという気持ちをつくる、必要条件です。 でも、仕事が大変なときに乗り越えるには、それだけでなく、十分条件がないと、できないでしょう。その十分条件が、会社と自分のコアバリューが近いこと、ではないでしょうか。 高島:ああ、なるほど。
出口:辛いときやしんどいときは、誰もが逃げ出したくなると思うんですけれど、でもそこで、僕たちがやっていることは世の中のためになっているんだとか、この会社を好きになってくださるお客様がいっぱいいらっしゃるんだと思えばこそ、それが励みになって、なんとかしなきゃいけないと、頑張ることができる――。 それから、インターネットでビジネスをしている僕たちは、普段お客様と直に接する機会がありません。そこで、ライフネット生命保険では、3カ月に1回くらい、お客様との集いを行っているんですよ。 高島:お客様をどこかへお招きするんですか。 出口:いえ、このライフネットのオフィスにお越しいただく。交通費も何も出していません。それでも、大阪や遠くから来てくださるお客さまがいらっしゃいます。ありがたいことです。 高島:その集いでは、どんなことをするんですか? 出口:僕が会社の現状をお話しして、お客様からはご意見をいただいて、それから会社の中を案内します。それだけです。 ネットに欠けるリアルを補う 高島:それだけ? 出口:それだけ。お土産も何もなし。これは株主総会の時ですが、遠くから行ったのに水の一杯も出なかったと言われてしまったことがあります(笑)。ただ、インターネットでビジネスをしているとお客様も社員もリアリティを持ちにくい部分があります。 でも、たとえば遠くから来られたお客さまの話を聞いていると、それだけでそこに同席している社員のモチベーションは上がりますよ。 高島:ああ、それは、そうでしょうね。 出口:応援してくださるお客様がいることを、実感できますからね。そうやって、自分たちのコアバリューが、リアルにお客様に支持されている、と肌身で知る機会があると、それがまた頑張る力になるんじゃないですか。 高島さんのところでも、似たようなことがあるでしょう。 高島:はい、うちでも2カ月に1回くらい、本社にお客さまをお呼びして、パネルディスカッション形式で、主にクレームを言っていただくんです。それこそホームページの使いづらいところはないか、だとか、商品に対するご不満だとか。「ここの部分、オイシックスさんはいったいどう考えているんですか」とか。すると、私がいくら言っても直らなかったシステムが、一瞬にして直ることがあります。 出口:そうですか。 高島:それから、農家さんもうちにとっては大事なお客様なので、社員が班ごとに、半年に1回お邪魔して、契約農家さんのハウスの周りの雑草を抜くとか、そういうお手伝いをしています。 出口:高島さんの仕事のうらやましいところは、コアバリューを実感しやすいところですね。おいしい野菜が目の前にあって、それをかじれば、社員もお客さんも野菜の「バリュー」を実感できるのですから。 高島:ええ、そこは食べ物なので、「喰えばわかる」リアリティがあります(笑)。だから、言い訳もきかないんですが。 出口:実際に手に取って評価できる「もの」があるって、ちょっとうらやましいですね。すごく皮肉な話ですけれど、保険という商品が役に立つのは、お客様が病気になったときや亡くなったときでしょう。つまり本来、「あってはいけない」ときなんです。 高島:そうですね。 食事の話はどこに行った? 出口:こういう形のないものを、しかも、ある意味ではもっとも寿命の長い商品を、しかもその商品が使われないことがお客様にとってハッピーである、という商品を売るのは、ネットではすごく難しいんですよ。だから、未だに世界中にネット証券はあるけれど、ネット生保はないんです。 高島:形がない、目に見えない、実際に使われるのは遠い先になる商品。しかも使われるシチュエーションがネガティブなときという商品。だからこそ、多くの生命保険会社は、多くの営業職員を投入して、営業をしてきたのかも知れませんね。 出口:そうです。保険商品以前に、一所懸命営業に来てくれる「その人」を買っていただいていたんですね。 高島:なるほどなあ。……あ、一度も食事の話をお訊きしてなかった(汗) 出口:大丈夫? 高島:うーん、いいです(笑)。 (次回に続きます) このコラムについて 賢者の食卓 「落ち込んだ時、何を食べていますか」「つらかった時、誰と食事を食べましたか」――。ビジネスリーダーやスポーツ選手、そのほかの著名人は何を食べてきたのか。どこで誰と食べてきたのか。食事を通じてその人の人生を描き出すコラム。聞き手は、食品・食材などのインターネット通販会社「オイシックス」社長の高島宏平氏が務める。
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