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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131109-00010956-president-bus_all
プレジデント 11月9日(土)10時15分配信
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加表明している12カ国は、年内にも協定案に大筋合意すると言われている。交渉分野は、工業、農業、医療、金融、知的財産など多岐にわたるが、交渉は秘密裡に行われ、さまざまな憶測を呼んでいる。
医療分野で取り沙汰されていることの1つが、アメリカの要望で「混合診療が全面解禁」になるというもの。もしも、これを契機に混合診療が全面解禁されると、医療費はどうなるのか。現在、病院や診療所で受ける治療や医薬品のほとんどに健康保険が適用されている。これらは「保険診療」と呼ばれ、国が有効性と安全性を確認している。医療費の一部負担だけで、患者は必要な医療を受けられる。
対して、健康保険の適用を受けていないものは「自由診療」という。将来的に健康保険の適用を受けられる可能性の高いものもあれば、医療として怪しげなものまで玉石混交。当然、健康保険は使えないので、かかった医療費は全額自己負担だ。
日本では、この「保険診療」と「自由診療」を同時に使う「混合診療」を原則的に禁止しており、これを破ると通常なら保険が使える治療も全額自己負担しなければならない。とはいえ、ほかに治療法が見つからないがんの患者などは、健康保険が適用されていなくても新しい治療を試したい人もいる。そうした患者の選択肢を増やす目的で「先進医療」が導入されている。
先進医療は、保険適用前の自由診療でも厚生労働大臣が認めた医薬品や技術については、特定の医療機関において、保険診療との併用を特別に認めるというもの。先進医療の技術料部分は健康保険が適用されないので全額自己負担だが、同時に受けた保険診療は通常の一部負担金で利用できる。このように、すでに混合診療は部分的に利用できるようになっている。
ただし、現行の「先進医療」とTPPで導入の可能性のある「混合診療の全面解禁」は、保険診療と保険外診療を併用できる点は似ているが、異質のものだ。
先進医療は、将来的に健康保険を適用するかどうかを評価している段階の治療や医薬品だ。安全性と有効性が確認されると保険診療になる。保険外の治療費を全額自己負担するのは、健康保険が適用されるまでの経過措置的なもので、効果が認められれば、誰もが少ない負担で新しい治療や薬を利用できる。
だが、混合診療が全面解禁されると「健康保険が利く治療はここまで」とあらかじめ線引きされ、新しく効果的な薬が開発されても健康保険は適用されない可能性が高くなる。保険外診療は永久に全額自己負担しなければならないので、お金のある人しか医療の進歩を享受できなくなってしまうのだ。
たとえば、保険診療(A)と保険外診療(B)が100万円ずつかかる場合で、将来的な患者の自己負担額の推移を比較しよう(保険診療は高額療養費の対象になるので、手続きすれば自己負担額は9万円程度。70歳未満で一般的な収入の人の場合)。
現行の制度では、(B)の保険外診療が先進医療と認められるまではすべて自費で合計200万円かかる。だが、(B)が先進医療と認められると、保険診療部分は健康保険が使えるようになるので、合計109万円に。そして最終的に(B)にも健康保険が適用されれば、合計9万円の負担になる。
一方、混合診療が全面解禁されると、保険診療と保険外診療はいつでも併用できるので、最初から患者の負担は109万円でよい。しかし、(B)には永久的に健康保険は適用されず、負担が下がることはない。
混合診療の全面解禁は、一時的には自己負担を下げるが、長期的には患者の不利益になる可能性がある。今後のTPP交渉の行方を見守る必要がある。
フリーライター 早川幸子=文
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