01. 2013年11月05日 20:28:26
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「ストラテジーレポート」 チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、個別銘柄まで踏込んだ実践的な株式投資戦略をご提供します。(@TakashiHiroki ) [ プロフィール ] 海外投資家のスタンス 米国出張報告 PART2 広木 隆 2013年11月5日 印刷用PDF (555KB) 10月下旬、米国に出張し、年金基金、大手運用会社、ヘッジファンドなどの機関投資家と面談した。その要旨を「海外投資家のスタンス 米国出張報告 PART1」にまとめてある。未読の方は、このリンクからお読み下さい。本稿はその続編である。 アセット・アロケーション ヘッジファンドにはアセット・アロケーション(資産配分)という概念がそもそもないところが多いが、それでも債券投資には否定的な意見が多かった。 アセット・アロケーションについては年金基金とのミーティングが参考になった。訪問した先は、500億ドル(約5兆円)の資産を運用する国際的な公的機関の年金である。彼らの基本ポートフォリオ(SAA: Strategic Asset Allocation戦略的資産配分)は以下の通り。 株式: 60% 債券: 31% 実物資産: 6% キャッシュ: 3% 株式は新興国も含むグローバル株式でMSCI AC Globalをベンチマークとしている。この株式ポートフォリオにはプライベート・エクィティ(未公開株)への投資も含まれる。実物資産は不動産ファンドを通じて不動産のエクポージャーを保有しているが、今後はティンバー(森林)にも投資する予定であるという。 これはほぼ標準的な米国の年金基金の基本ポートフォリオだろうと思われる。ちなみに米国最大の公的年金であるカルパース(Calpers: The California Public Employees' Retirement System カリフォルニア州職員退職年金基金)の資産配分は以下の通り。 株式: 64% 債券: 17% インフレ: 4% 実物資産? 流動性 : 4% 2011年10月12日付レポート「最先端の機関投資家に学ぶ新しい資産配分方法 金融危機の教訓 分散投資は効かないのか PART4 【リスク要因アプローチ】」でも紹介したように、カルパースはリスクベース・アプローチという資産配分方法を採用しているので、伝統的なアセット・アロケーションとはやや趣が異なるものの、訪問先の年金基金のポートフォリオとの共通性は見て取れる。すなわち、 ・株式のウェイトが高いこと ・反対に債券のウェイトが低いこと ・実物資産への投資を行っていること である。 彼らは基本ポートフォリオ(SAA)に対して四半期毎に機動的な配分の変更を行っている(TAA:タクティカル・アセット・アロケーション)。現在は株式をオーバー・ウェイト、債券をアンダー・ウェイトしている。史上最高値更新が続く米国の株式市場に代表されるように現在は世界的な株高にある。先日、日経新聞が報じたように、世界の株式時価総額は63兆ドルを超え、6年ぶりに過去最高を更新した。こんな状況で、株式のオーバー・ウェイトは怖くないかと訊いたところ、もちろん多少なりとも株式の割高感を感じないでもないが、ほかに持って行き場がないのだという。消去法的に株を買わざるを得ない。つまり、それほど債券やキャッシュを持っていたくないのだという。 訪問した年金基金の運用目標利回りは実質リターンで3.5%である。米国でもまったくインフレ圧力が強くないとはいっても、それでも年率2%弱のインフレはあるから名目では5%以上のリターンが必要である(カルパースの目標はもっと高く7.5%である)。そんな状況で10年債でも3%未満の利回りの国債を持っているだけで、ポートフォリオのリターンがどんどん目標を下回ることになってしまう。リスク・コントロールの観点から、ある程度は組み入れるが、現在のところは許容範囲最大のアンダー・ウェイトにしているとのことであった。 株式の比率が高く、債券の比率が低いというのは、我が国の年金ポートフォリオと正反対である。我が国の年金ポートフォリオは債券偏重である。例えば、1200兆円という資産規模を誇る世界最大の公的年金、年金積立金管理運用独立行政法人(通称GPIF)の基本ポートフォリオを見てみよう。 株式: 24% (国内株12% 外国株12%) 債券: 71% (国内債60% 外国債11%) キャッシュ: 5% 米国年金が運用目標を達成できないと嫌う債券を、これだけ大量に保有して、我がGPIFの運用はうまくいっているのだろうか?ところが、うまくいっているというのである。GPIFの報告書によれば、自主運用を開始した平成13年度以降の平均運用利回りは実質で約2%であるという。それは彼らが求められる「財政計算上の前提」(すなわち運用目標)を上回っているという。
種明かしをすればこういうことだ。GPIFが稼いだリターンは平均で約1.5%、しかしこの間の名目賃金上昇率が長引くデフレで、マイナスの0.5%だったため、実質リターンとしては約2%の運用成果を挙げたことになる。一方、財政計算上求められる名目の運用利回りは2.2%。ところが目標作成時に想定した名目賃金上昇率は1.9%。つまり実質目標リターンは約0.3%だから、大幅に目標を達成できたというわけである。なんのことはない、年間2%程度のインフレを見込んでいたのが、実際にはデフレが続いてきたので、実質リターンは目標を達成したのだという。これではデフレに助けられたようなものだ。 過去はそれで良かったとして、問題はこれからである。日銀は2%のインフレ目標を掲げ、脱デフレを志向している。GPIFの運用の成否が真に問われるのはインフレの時代になったときである。債券偏重のアロケーション見直しは不可避であろう。 人口が増えない日本 今回の出張で米国の投資家と話していて感じたことは、「人口が増えない日本で〜」と、「人口が増えない」というフレーズが日本を語る枕詞のように使われる、という点である。 あるヘッジファンドのマネージャーから答えにつまるような質問をされた。それは、「人口が増えない日本で、住宅着工件数が増加トレンドにあるのはなぜか?」というものである。 確かに住宅着工件数は回復基調にある。先日発表された9月の新設住宅着工戸数は、前年同月比で2割近く伸び13カ月連続の増加を記録した。9月としての伸び率は、5年ぶりの高水準。住宅ローン金利や住宅価格の先高感に、消費増税前の駆け込み需要も加わり、大幅に増えたのだ。もっとも1987年に記録したピークである年間180万件弱には程遠い。ピークの半分以下に落ち込んだボトムからの回復途上にあるということである。 「人口が増えない日本で、住宅着工件数が増加トレンドにあるのはなぜか?」という質問に対しては、上述のような特殊要因や全体観を示したうえで、こう回答した。 「人口は増えなくても世帯数が増えているから」 こどもが独立して親元を離れ、新しく家を買う需要が生まれているのだと説明した。 ところが、「少子化が進んでいるのだから、家が余るだろう」とそのヘッジファンド・マネージャーは言う。一人っ子同士が結婚したら、いずれどっちかの親の家が余るだろうと。それに対して僕の答えは、 「少子化だが、正しくは少子高齢化。親が死なないんだよ。家が空くまで借家暮らしで待っていられないんだ」 [ 折りたたむ ] しかし、どうにもこうにも、そのヘッジファンド・マネージャーは納得しない。 「いいか、日本は人口が増えない。人の数は一定だ。だけど、新規住宅に対するニーズがある。更新需要もある。そこまではいいとしよう。新築住宅に移り住む人がいる。では、もといた家には誰が入る?」 「新築を買う人がいれば、中古を買う人もいるさ」 「新築を買った人が残した中古を買う人がいる。なるほど。では、その中古を買った人が、もと住んでいた家は誰が買う?人口は一定なんだ。そこに新築の供給があれば、最終的に家が余るだろう?」
むむむ?確かにそうだ。その場ではうまい答えが見つからず、日本に持ち帰ってから回答すると宿題にさせてもらった。 で、人口が増えない日本で新築の供給があれば、最終的に家が余るのではないか?という質問の答えだが、その通り、家が余っているのである。国土交通省の首都圏白書によると、昭和38年に12万戸だった首都圏に空き家は、平成に20年には186万戸と15倍に膨らんでいるのである。これは日本の中古住宅市場の規模が約17万戸だから、その10倍に匹敵する。 日本に帰国してからメールでそのように報告すると、即座に返信が来て、追加の質問があった。 1.それほど空き家が増加しているのなら、住宅価格の下押し要因にならないのか? 2.空き家があるというのは、家が転売されていないということだが、家を売らずにどうやって新築を買うのか?
中古住宅の市場規模が新築の10倍も大きい米国人にとっては合点がいかないことばかりだろう。しかし、それが日米の住宅市場のもっとも大きな相違点である。日本の住宅は圧倒的に新築物件主体で中古マーケットが発展していないのだ。だから空き家が増えようとも、そもそも新築の需要にはそれほど大きな影響はないし、物件は住宅ローンで購入するのが一般的である。逆に言えば転売市場が育っていないということである。 日本の全住宅流通量(既存住宅流通量と新築着工数の合計)に占める中古住宅の流通シェアは13.5%であり、アメリカの77.6%、イギリスの88.8%、フランスの66.4%に比べると格段に低い。木造建築主体の日本住宅の耐久性の問題かもしれない。欧米では一次取得者を中心に中古住宅を取得し、必要に応じリフォームするのが一般的、というライフスタイルの違いなのかもしれない。 いずれにせよ、「住宅市場」と一言で言っても、その構造は国によって違いがある。我々が普通に思うことを外国人は疑問に感じることもある。その意味で、PART1に述べたように、今回面談した海外投資家の「アベノミクス」に対する理解レベルが、少なくとも僕の周囲の日本人とほぼ同等であると確認できたのは収穫だった。 http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/strategy/index.htm 総合商社の眼、これから世界はこう動く 2013年11月05日 第 75 回 副食(おかず)の時代
1.「人口増加率=胃袋増加率」は減速傾向 出張等で空き時間がある時など、よく本屋さんに立ち寄ります。仕事柄どうしても経済書の棚に目がいきがちなのですが、そこでよく目にするのが「人口爆発」「食料危機」といった不安を煽る言葉の数々です。また日本の食料自給率の低さに警告を発する本もたくさんあります。一方、貿易交渉の場に目を移すと、乱暴な言い方ですが、各国は「いかに自国農業を輸入農産物から守るか」に終始しています。一体、食料は足りないのか、余っているのか、分からなくなってしまいます。 20131105_marubeni_graph1.jpg 議論を整理すべく、まずは世界経済成長率の動向と構造を見てみましょう。経済成長率は人口増加率による部分と、労働生産性(1人当たりの仕事量。仕事に対しては賃金が支払われるので、1人当たりの所得と考えても構いません。)伸び率による部分に大きく二分することができます。例えば、世界を1つのパン工場と考えれば、パンの生産量を増やすには従業員を増やすか、1人当たりのパン生産量を増やすか、の2通りしか方法はありません。世界経済成長率も同じことです。このような考えに基づき世界経済成長率を分析したものが図表1です。これを見ると、長期的傾向として、人口増加率が徐々に低下していることが分かります。「人口爆発」という言葉はどうやら若干オーバーな表現かも知れません。「増加率が低下しているとはいえ、人口増加は続いているではないか。やはり食料は不足するのだ。」という指摘もあるでしょう。しかしこのような意見が見落としているのは、人間は食べるだけでなく、生産もするという事実です。どうやら世界全体で見ると、「人口増加率=胃袋増加率」は減速傾向にあるようです。余談ですが、戦時中の日本では食料配給制度がうまく機能した結果、社会的地位によらず、全ての人が飢えを経験しました。従って日本人は社会的地位によらず、広く食料危機の懸念を共有しています。海外に行く際、大学のカフェテリアなどで食事をすると、つけ合わせのポテトなどが残飯として盛大に廃棄される場面に出くわします。経済危機に瀕していた1990年代前半のロシアでもそうでした。個人的には日本人の「飢え」に対する敏感さは賞賛されるべきと考えますが、これが時折冷静な議論の妨げになる点には注意が必要です。 2. 豊かになると、主食が減り、副食が増える もう1度図表1をみてみましょう。それでは近年の経済成長は何によってもたらされているのでしょうか?それは労働生産性伸び率です。そして1人当たりの仕事量である労働生産性が伸びるということは、1人当たり所得も増加していることを意味します。つまり世界平均で見れば、1人当たり所得は従来よりも速いペースで増えているのです。このように人々が豊かになる時代、食生活はどのように変化していくのでしょうか。経験的に知られているのが、「主食が減り、副食が増える」という法則です。いくつか例を挙げてみましょう。美食の極みとして知られるフランス料理ですが、主食であるパンはもはや「添え物」的な扱いとなっています。また戦後高度成長を経験した日本の場合、約40年前には1日1人当たりお茶碗5杯のコメを食べていました。しかし現在はこれが3杯まで減少しています。 20131105_marubeni_graph2.jpg このような経験則に当てはめれば、これからは「副食(おかず)の時代」と言えるでしょう。実際、図表2を見ると、一般に主食とされる小麦やコメの生産増加率が減速する一方、家畜の飼料として副食の原料となるコーンや大豆の生産増加率は加速傾向にあります。今後は主要農産物におけるコーンや大豆の重要性が相対的に高まっていくことが予想されます。コーン・大豆とも米国が圧倒的な生産力を誇っており、その地位は当分揺るがないでしょう。しかし米国以外の生産国として近年、コーンについては東欧・南米、大豆については南米の生産力が急拡大しており、穀物商社はいかにそれらの地域で穀物を確保するかに注力しています。 3. 増え続ける食肉貿易 20131105_marubeni_graph3.jpg 副食の中心はやはり肉でしょう。そしてわざわざコーンや大豆を輸入せず、直接食肉を輸入する動きも拡大しています。図表3は世界の食肉生産量に占める食肉貿易量の割合を示したものですが、過去半世紀に亘ってほぼ一本調子で増加しています。特に冷戦が終結した90年代以降、食肉貿易は急拡大しています。現在、成長著しいアジア各国では食肉生産が急ピッチで増加しています。しかしグローバリズムがこれからも進展することを考えれば、コーン・大豆といった畜産飼料が豊富な北米・南米が世界の食肉生産基地になることが最も合理的な姿かと思われます。従って、超長期的には、北米・南米の食肉生産や、その生産物を輸送する冷凍輸送といった分野が有望産業として注目を浴びるかもしれません。 コラム執筆:シニア・アナリスト 榎本 裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 ■ 丸紅株式会社からのご留意事項 本コラムは情報提供のみを目的としており、有価証券の売買、デリバティブ取引、為替取引の勧誘を目的としたものではありません。丸紅株式会社は、本メールの内容に依拠してお客さまが取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。 投資にあたってはお客さまご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。 前の記事:第 74 回 迫りくる"ジェロントクラシー" −2013年10月29日 http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2013/11/05.html
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