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金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ デフレ脱却なら、日本の財政はどうなるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/23041
2013年11月05日 野口 悠紀雄 :早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問
金利水準の低下によって、財団や年金基金が運用収益の減少に悩んでいると前々回で述べた。その一方で、利益を受けている部門もある。その典型が、財政部門である。巨額の借入がありながら、支払利子が抑えられているのだ。その結果、財政規律が弛緩した。
日本銀行の資金循環統計によれば、非金融法人企業の借入残高は、1995年頃がピークで609兆円あったが、その後減少し、2012年度には407兆円と、ピークの3分の2程度になった。他方で、中央政府の負債である国債・財融債の残高は、79年度の52.5兆円から12年度の690兆円まで増加した。
いまや、国が最大の借り手だ。12年度においては、国債・財融債残高が非金融法人企業の借入残高より283兆円多くなっている。
部門別の貯蓄投資バランスを国民経済計算で見ると、01年度には、非金融法人企業の純貸出が10.6兆円、家計の純貸出が15.2兆円であり、家計が国内で最大の純貸出部門だった。ところが、11年度では、前者が29.8兆円、後者が11.4兆円となった。このように、現在では、非金融法人企業が国内で最大の純貸出部門である。一般政府の純借入は01年度の32.5兆円から11年度の42.3兆円に拡大した。
前回述べたように、リーマンショック以降の金利水準は、実質成長率や物価上昇率との関係で見ると、低すぎる。今後上昇することは十分ありうるだろう。そうなった場合、いくつかの問題が生じる。
一つは、国債を大量に保有する金融機関の資産が劣化することだ。ただし、日本の銀行は、保有国債の残存期間を短縮化することによって、この問題にすでに対応している。
■金利が上昇すると国債利払いはどうなるか
最も深刻な問題は、国債の利払いで生じる。金利上昇の影響を見るため、次のように仮定しよう。(1)13年度と同額の借り換えと新規発行が、今後毎年度なされる。金利が上昇すれば、この部分については、利回りが高くなる。(2)13年度と同額の償還が、今後毎年度なされる(償還額より新規発行額のほうが大きいので、残高は時間とともに増加する)。(3)残りの部分の利回りは、13年度の水準のまま変化しない(厳密にいうと、時間の経過に伴って残存部分の平均利回りは変化する。しかし、ここでは、この効果は無視する)。
実際の数字を見ると、12年度末の国債残高は822.7兆円だ。また、13年度の国債発行総額は170.5兆円である。うち借り換え債が112.2兆円、新発債が58.3兆円だ。また、13年度の国の一般会計において、国債の利払い等は9.9兆円で、一般会計予算総額の10.7%を占める。現在の国債利払いを国債残高で割って平均利回りを求めると、1.16%となる。
これらの計数を用いてシミュレーション計算を行うと、18年度末までで残高がすべて入れ替えられてしまい、平均利回りは新しい金利になることが分かる。それによって利払いはどのように変わるだろうか?
14年度以降において、国債の平均利回りが一挙に2%、あるいは4%になるとしよう。その場合、一般会計の利払いは、図に示すように増加する。新金利が2%の場合には、18年度における利払い総額は20.3兆円と、現在の2倍以上になる。4%になった場合には、利払いは15年度で20兆円を超え、18年度には40.6兆円になる。
話はこれで終わらない。国債残高の増加に伴って、利払いは、それまでより増加率が低下するとはいえ、18年度以降も増加を続ける。新金利が2%の場合であっても、25年度における利払い額は25兆円近くになる。新金利が4%の場合の25年度の利払いは約50兆円になる。つまり、現在の予算総額の半分近くになるのだ。これは、「悪夢のシナリオ」としかいいようがない。なお、以上のほかに償還費もあることを忘れてはならない。13年度では12.3兆円だ。
利払いの増加で、消費税の増税分などすぐに吹き飛んでしまう。財政再建ができないどころの話ではない。これは、財政破綻以外の何物でもない。
以上の結果はあまりにショッキングであるため、「信じられない」という反応があるだろう。しかし、次のように考えれば、この結果が妥当なものであると納得できるはずだ。
(1)13年度の国債発行総額170.5兆円は、12年度末国債残高822.7兆円の4.8分の1である。だから、5年程度で残高のすべてが新金利分に置き換わってしまうというのは、自然な結果だ。
(2)新発債から償還額を控除した額は約32兆円で、国債残高の約4%である。したがって、10年後の国債残高が現在の1.4倍の水準になるのも自然な結果だ(この計算では、23年度末が1176兆円で、13年度末の1.38倍)。
(3)これに加えて金利が2倍になれば、利払い額は現在の3倍近くになるだろう(この計算では、新金利が2%の場合の23年度の利払いは、13年の2.4倍)。
■異次元緩和の真の目的は国債の貨幣化
現在政府が立てている財政再建目標は、プライマリーバランスに関するものである。しかし、以上の計算から分かるように、重要なのは、国債費も含めた財政支出全体の収支であり、プライマリーバランスではない。
日本やイタリアのように国債残高が大きい国では、利払いが問題になるのだ。11年にイタリアの国債利回りが急騰したのも、そのためである(イタリアのプライマリーバランスは黒字である)。
日本の財政は、異常な低金利の下でかろうじてもってきたのだ。金利が上昇すれば、破局的な状態に陥る。そして、金利が低下したのは物価上昇率が低下したためだから、日本の財政は、デフレから脱却しないからこそ、もっているのである。
ところが、日銀は物価上昇率を2%に高めるとしている。政府は実質成長率を2%にすることを目的としているから、名目金利は最低でも4%になる。だから、ここで述べた「悪夢のシナリオ」は、決して机上の空論ではないのだ。
ただ、以上で述べたのは国債を増発しない場合のことである。仮に国債増発が可能なら、それによって増加した利子を支払うことができる。
もちろん、通常の状況では、国債を増発すれば、金利上昇に拍車を掛ける。しかし、日銀が購入すれば、その問題は解決される。
今回の異次元緩和は空回りしており、金融緩和の効果は生じていないとこの連載で指摘した。しかし国債購入という観点から見れば、異次元緩和は重要な役割を果たしている。
特に、残存期間が長い国債をも購入の対象としたことは重要だ。銀行は長期国債でも、購入後すぐに日銀に売却できるからである。これは、財政法第5条で禁じられている日銀引き受け国債発行の脱法行為だ。つまり、国債の貨幣化によっていくらでも国債を発行するための制度的な準備は、すでにできているといってよい。その意味では、異次元緩和措置は、見事に首尾一貫している。
(週刊東洋経済2013年11月2日特大号)
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