02. 2013年11月05日 05:20:21
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アベノミクスのアキレス腱はオバマ氏米国政治の混迷と日本株 2013年11月5日(火) 門司 総一郎 暫定予算や債務上限引上げを巡る米国の与野党対立は、時間切れ寸前の10月16日に合意が成立。政府閉鎖は解除、債務不履行は回避されました。欧米の株式相場はこれを好感して上昇しましたが、その中で日本株の動きはさえません。10月に入って、日本の東証株価指数(TOPIX)は中国の上海総合指数とともに下落基調が続いています。 (図表1)主要国株価指数の騰落率(9月30日〜10月25日) 出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成 中国株の弱さは住宅価格の上昇などを受けた引き締め政策への警戒感など国内要因によるものです。しかし、日本株については、米国の財政問題も、さえない動きの理由の1つと見られます。そこで今回は、なぜ米国の財政問題が日本株の悪材料になっているのか、を考えてみようと思います。 まず、米国の債務上限引上げや暫定予算に関する与野党の合意について見てみます。 共和党が多数を占める下院で、合意に関する法案に賛成したのは民主党が285名と共和党が87名。反対したのは民主党がゼロ、共和党が144名です。ベイナー下院議長など一部の共和党穏健派議員の賛成により法案は成立したものの、「ティーパーティー」と呼ばれる保守派議員を中心に、下院共和党の多数は反対の立場でした。 (図表2)米上下院での投票結果 出所:日本経済新聞(10月17日付) 注:上院1名、下院3名が投票せず、反対はすべて共和党 (図表3)米財政協議合意のポイント 出所:日本経済新聞(10月17日付) 来年早々の与野党対立再燃は回避か 暫定予算の有効期限は2014年1月15日まで、国債発行が可能なのは2月7日までとなっているため、来年早々に与野党の対立が再燃するとの見方があります。ですが、筆者はその可能性はないか、あっても今回に比べれば軽微なものにとどまると見ています。理由は次の3つです。 まず、今回賛成した共和党の穏健派議員にしてみれば、わずか数カ月後に同じネタで再度、政府や与党と対決することは筋が通りません。こうした議員たちは、仮にティーパーティー派の議員が暫定予算などを人質とした戦術を主張しても、きっと拒否すると思われます。これが第1の理由です。 2番目には、来年2月7日を過ぎても、直ちに債務上限が問題になる訳ではないということです。今年の1月にも債務上限が問題となり、結局5月18日まで政府が債務上限を超えて国債を発行することを認めることで与野党が合意しました。しかし、5月18日を過ぎても政府が債務不履行に陥ることはなく、最終的には5カ月後の10月16日に再度、国債発行が認められるまで、資金繰りは持ちこたえました。 国債が発行できなくても直ちに債務不履行にならないのは、不要不急の支出の抑制や公的年金からの借入など財務省の裁量で当座の資金繰りをしのぐ手段があるためです。また、財政赤字が縮小していることも、政府の資金繰りに余裕がある理由となっています。 財政赤字減少が債務不履行リスクを緩和 昨年末の「財政の崖」で減税が一部廃止され、景気回復の恩恵で税収が増えた一方、自動歳出削減措置の効果で支出は抑制されています。その結果、連邦政府の財政赤字は2012年度(2011年10月〜12年9月)の1.09兆ドルに対して、13年度は8月までの11カ月で7553億ドルと大きく減少しましたが、赤字が少ない分国債発行に頼らなくても済む状況になっています。これも直ちに資金繰り難に陥ることがない理由です。 今回は来年2月7日まで、政府は債務上限を超えて国債を発行することが可能ですが、その日を過ぎてもすぐに債務上限が問題になることはまずないでしょう。仮に問題になるとしても早くて3月、おそらく4月以降になると考えられ、そのころまでは与野党の対立は再燃しないとの見方です。 (図表4)米連邦政府の財政赤字(会計年度) 注:会計年度は10月〜9月、2013年は8月までの11カ月分 出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成 オバマケア本格始動でティーパーティーは戦意を喪失 3番目としては、2014年初めに医療保険制度改革(オバマケア)が本格始動することです。米国には国民皆保険の制度がなく、「国民の6人に1人が無保険」(10月18日付日本経済新聞)と言われますが、オバマケアは政府が補助金を出すことにより、原則、全ての国民に医療保険への加入を義務付けるものです。 しかし、世論調査ではオバマケアに対する支持と不支持が拮抗するなど人気は今一つ。また財政負担は「10年間で1.1兆ドル」(10月5日付日本経済新聞)と言われています。そのため小さな政府を志向する共和党は、今回、政府機関の閉鎖や債務不履行を武器に、オバマケアの実施延期や修正、撤廃を求めて戦いました。 予定では2014年1月から無保険者に罰金が科されることになっていますが、これがオバマケアの実質的な始動と見なされています。始動してしまうと修正や撤廃は困難になるため、「その前に何とかしなくては」と共和党が強く抵抗したことが17年ぶりの政府機関閉鎖につながりました。 しかし、逆に来年になればオバマケアを止めることはできなくなるので、ティーパーティー派の議員も戦意を失い、抵抗する力もなくなってしまうと予想されます。これが第3の理由です。このように考えて、来年初めの与野党対立再燃はないか、あっても深刻なものにならないとの見方です。 出口戦略先送りの影響は小さい ここからは、財政協議を巡る迷走が日本株に与える影響について考えてみます。よく言われるのは、「これで12月と見られていた米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和の縮小開始が来年3月、あるいはそれ以降に先送りされる可能性が高くなったので、円高を通じて日本株に悪影響を与えるリスクがある」との説です。 (図表5)主要通貨の対ドル騰落率(9月30日〜10月25日) 出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成 市場関係者の間では、「日本株は為替次第」との考え方が根強く、上がっても下がっても為替のせいにされることが多いのです。しかし、10月に入ってからの主要通貨の対ドルでの騰落率を見ると、確かに円高傾向ではあるものの、円の上昇率は25日までで0.9%と小幅なものに止まっていますし、オーストラリアドルやユーロ、韓国ウォンなどに対してはむしろ円安です。 (図表6)円の対ドルレートの推移(1ドル=円) 出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成 今年に入ってからの円の対ドルレートの推移を見ると、5月にかけて円安が進んだ後は1ドル=95〜100円で一進一退となっており、米国の出口戦略への警戒感が高まった9月上旬でも100円を超えて円安が進むことはありませんでした。であれば、逆に出口戦略が先送りになっても円高余地は限定的といえます。この様な理由から、出口戦略先送りと円高による日本株下落リスクは小さいと考えています。 最大のリスクはオバマ政権の権威失墜 米国政治の混迷が日本株に与える影響として最も警戒すべきはオバマ政権の権威失墜です。そう考える理由は、安倍晋三首相の経済政策や外交政策が良好な日米関係に支えられている部分があるためです。これを確認する意味で、日米関係の観点から、発足以降の安倍晋三政権の政策運営を振り返ってみます。 安倍首相は昨年末の就任直後から早期の訪米を希望していましたが、なかなか果たせず、ようやく実現したのは今年の2月下旬でした。しかし、首脳会談にあたって環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加をはじめ、原発ゼロの見直し、ハーグ条約批准、牛肉の輸入規制緩和など、米国の要望を幅広く受け入れる姿勢を見せたため、オバマ大統領は安倍首相を高く評価し、記者団に向かって「米国は安倍首相の任期中、強力なパートナーとして一生懸命努力し、協力していく所存だ」(2月23日付読売新聞夕刊)と述べたと報じられています。 この日米同盟強化はアベノミクスの力となっています。TPPは成長戦略の最も重要な柱の1つですし、直前にメルケル独首相などから日銀の金融緩和を円安誘導とする声が上がり、日本たたきが警戒された4月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も、米国が日本批判を避けたことで、乗り切ることが出来ました。 また。安倍外交の基本は日米同盟を強化した上で、中国を牽制するといったものなので、ここでも日米関係は重要な意味を持ちます。そのため、米国(オバマ政権)が強ければ日本(安倍政権)にも好影響が期待できますが、逆に弱体化すれば悪影響が出てくる恐れがあります。その具体例が最近のTPP交渉を巡る動きです。 遠のくTPP交渉の年内妥結 TPP交渉はここ半年で大きく進展しましたが、関税撤廃やいわゆる「難航3分野」(米国と新興国が対立する知的財産、競争政策、環境規制の3分野)などで意見がまとまらず、目標としていた年内妥結は難しいとの見方が増えつつありました。 それをトップ同士が話し合うことにより合意に近づけようと企画されたのが10月8日の首脳会合でしたが、財政協議の余波でオバマ大統領は欠席を余儀なくされました。 そもそも、TPP交渉の年内決着を急いでいたのは米国で、来年11月に中間選挙を控えたオバマ大統領のポイント稼ぎの意味があります。そのオバマ大統領が自国の事情で会議を欠席してしまったことは、TPP交渉のリーダーとしての米国の信認を低下させ、年内妥結の可能性は一段と遠のいたと考えています。 前述の「難航3分野」で米国と対立しているマレーシアやベトナムが一段と反発を強めていること、そして交渉が来年にもつれ込めば中国がTPPに手を挙げ、そうなれば交渉が一からやり直しになる可能性があることなどを考えると、下手をすればTPP交渉がまとまらない恐れも出てきています。 足元で日本株の上値が重いのは、証券優遇税制の廃止(キャピタルゲイン課税が10%から20%に引上げられる)を年末に控えて、個人投資家が大量に利益確定の売りを出していることもありますが、それ以外に、アベノミクスに足踏みが見られることもあります。国家戦略特区においては雇用関係の規制緩和が見送られ、年内の原発再稼働も難しくなってきています。 加えてこのTPPの妥結先送り観測です。TPPの首脳会合と同時に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合では、オバマ大統領不在の中で中国の習近平国家主席が存在感をアピールしたと伝えられています。アジアにおける米国の影響力低下、中国の影響力拡大とのイメージも、何がしか、日本株にマイナスになった可能性があります。 アベノミクスの第3の矢である成長戦略は各論の積み重ねであるだけに、第1、第2の矢のように株式市場に大きなインパクトを与えることができません。その中で知名度が高く、自由貿易ネットワークの拡大と比較的わかりやすい性格を持つため、市場へのインパクトが期待されるのがTPPでした。景気や業績は回復を続けているのでTPP妥結が先送りされても株価が下がる訳ではないと思いますが、日本株が上昇に転じるきっかけの1つが遠のくことにはなります。 TPPについては、10月28日に日本で知的財産分野の中間会合が開かれ、さらに11月下旬には米国のユタ州で主席交渉官会合が予定されており、参加国の間では何とか12月7〜9日にシンガポールで開かれる閣僚会合での妥結にこぎつけようとの意欲が見受けられます。もし実現すれば、日本株が上昇するきっかけになると期待できるでしょう。 ただ、それはそれとして、日米関係が重要であるがゆえに、米国の政治・政策が日本の政治・政策に与える影響は無視できません。オバマ大統領は「盗聴問題」でも批判にさらされており、今後一段と厳しい状況に陥る可能性がありますが、そうなれば「オバマ政権がアベノミクスのアキレス腱」ということにもなりかねません。投資家としても、オバマ政権の不人気や米国の政治の機能不全を対岸の火事とせず、日本株への影響を常に意識することは大切でしょう。 このコラムについて 政治と市場の“正しい”見方 今、日本は新政権の誕生で「政治」と「金融市場」の関係がこれまで以上に強まり、複雑化しています。さらに欧州の債務危機や米国の財政の崖、中国の新執行部選出など、政治と市場を巡る動きは、海外でも大きな焦点となっています。 しかし、市場関係者がこの両者の関係を論じる場合、「アベノミクスで日本は変わる」など物事を極めて単純化した主張になりがちで、十分な分析がなされているとは言えません。そこで、このコラムでは政治と市場の関係について深く考察し、読者の皆様に分かりやすく解説していきます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131031/255358/
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