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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第50回 構造改革特区の恐怖
http://wjn.jp/article/detail/5167193/
週刊実話 2013年11月14日 特大号
1989年の日米構造協議開始以降、アメリカは日本に対し「構造改革」を要求することを続けてきた。日米構造協議は'93年に日米包括経済協議と名を改め、2001年には年次改革要望書(正式には「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」)へと姿を変えた。2002年の対日年次改革要望書に、以下の文言がある。
『(前略)II. 構造改革特区(特区)
米国政府は、日本政府による構造改革特区導入計画を注視している。規制緩和や構造改革に向けての、こうした新たな取り組みが効果的に実施されれば、日本が持続可能な成長路線に復帰するための重要な機会となる。日本がこの計画を推進するに当たり、米国は以下のことを提言する。
II.-A. 特区が透明な形で選定され、導入される。
II.-B. 競争促進のカギとなる市場参入機会の拡大に焦点を当てる。
II.-C. 国内外の企業双方が、特区内で事業展開できるよう非差別的なアクセスを確保する。
II.-D. 構造改革特区推進本部は、特区の効果を見極めるため透明性の高い点検メカニズムを構築する。
II.-E. 類似した分野を対象とする特区構想の認定には制限を加えないという理解のもと、特区を創設する。
II.-F. 特区内で成功した措置については、可及的速やかに全国規模で適用する。(後略)』
(傍線部は筆者。ちなみに、本文書は現在もアメリカ大使館のホームページに普通に公開されている)
おわかりだろう。現在の安倍政権が推進している「特区構想」は、アメリカからの「構造改革要求」に唯々諾々と従っているに過ぎないのだ。小泉政権期に不完全に終わった日本の「構造改革」を、安倍政権で完成させようとしているわけである。
具体的に、いかなる「構造改革」が実施されるのだろうか。
真っ先に規制が緩和され、産業構造が「グレート・リセット」されるのは、安倍総理大臣の所信表明演説を聞く限り、農業、医療、そして電力サービスだろう。安倍総理は右記三つの産業について「将来の成長が約束される分野で、意欲のある人にどんどんチャンスを創ります」と語っていた。
羨ましい。安倍総理大臣は「将来の成長が約束される分野」が事前に予想できるようだ。筆者にこの能力があれば、きっと今頃は億万長者になっていたことだろう。
皮肉はともかく、事前に「どの産業分野が成長する」などということが人間にわかるはずがない。健全なインフレ率の下で、企業が各々狙いを定めた分野に自由に投資し、数多の敗者を出し、最終的に「この産業が成長分野だった」ということが「後になって」わかるのだ。事前に成長産業がわかるなら、投資に失敗する企業はいなくなってしまう。
しかも、安倍総理が名指しした農業、医療、電力サービスは、我が国の安全保障にかかわる分野ばかりである。
それぞれ「食料安全保障」「医療安全保障」「エネルギー安全保障」と、国民への安定的な供給が必須な分野を「構造改革特区」において、「市場原理」の荒波にさらす。
安倍政権は、消費税増税を判断した以降、おかしくなってしまった。アメリカからの構造改革要求を受け、手法(特区)まで年次改革要望書に書かれた「指示」に従い、国民の食糧、医療、エネルギーの安全保障を弱体化させる。これを「成長戦略」などと呼ぶわけだから、欺瞞もいいところだ。
10月20日。さらにとんでもない事実が明らかになった。
安倍政権は、国家戦略特区を進めるための関連法案に、内閣総理大臣を議長とする「特区諮問会議」の設置を盛り込む方針を固めた。その会議のメンバーから、厚生労働相、農林水産相など関係分野の大臣を外すという。
自民党における議論を無視し、特区諮問会議からは閣僚を排除する。代わりに誰が諮問会議をリードするかと言えば、官僚と「民間議員」である。民間議員とはいっても、単なる民間人に過ぎない。安倍政権は、諮問会議や特区を活用し、民主主義のルールを踏みにじり、アメリカや国内の投資家、企業家たちが切望する「構造改革特区」を実現しようとしていることになる。率直に書くが、正気の沙汰ではない。
「構造改革特区とはいっても、一部の地域のことでは…」
などと、甘く見るなかれ。何しろ、アメリカの対日年次改革要望書にも明記されている通り、「特区内で成功した措置については、可及的速やかに全国規模で適用する」のである。そして、各種の「措置」が特区において成功したか否か、誰が判断するのか。もちろん、政府内に設置された特区諮問会議の民間議員の皆様である。
「民間議員を中心に構成された特区諮問会議で、特区における規制緩和措置を決定する」
「特区で成功したか否か、民間議員中心の諮問会議が判断し、全国レベルに拡大する」
民主主義は、どこに消えたのか。
民主主義の壁を突破して、一部の企業家、投資家たちが「自分たちの利益を増やす」レント・シーキングを可能とする規制緩和を実現するためには、どのような手段があるだろうか。
一つは、アメリカ式に、「企業家と政治家が結びつき、ロビイングにより民主主義を動かす」である。アメリカは特定の条件を満たす政治団体への献金が「無制限」であり、企業と政治家の結びつきが強まっている。
さらに、アメリカには企業と政治家を結びつける大勢のロビイストが存在している。ロビイストとは、政府の政策に影響を及ぼすことを目的に、特定の主張をもってロビー活動を行う人物、あるいは集団を意味する。ロビー活動とは、個人や企業、あるいは特定の団体が、特定の目的を実現するために行う政治活動である。
ロビイストが各産業に「数千人」単位で存在するとはいえ、アメリカはまだしも「政治家」が各種の政策を決定している。政治家が一部の投資家や企業の影響を受けているのは確かだが、少なくとも民主主義のプロセスを無視してはいない。
それに対し、現在の安倍政権の「特区構想」の進め方は、完全に民主主義的な手続きをすっ飛ばしている。
我々の生活を大きく変えるどころか、日本の「国の形」までをも変貌させかねない大々的な規制緩和を、総理大臣と一部の官僚、さらには「民間議員」だけで決めて良いはずがない。
民間議員中心の会議に「構造改革」を主導させ、有権者から選ばれた国会議員や閣僚は、「抵抗勢力」として議論にすら参加させない。こんな手法がまかり通るのでは、日本の民主主義は終わりだ。
もう一度書くが、とんでもないことになってきた。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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