02. 2013年11月06日 10:24:45
: e9xeV93vFQ
解雇規制だけが人材流動化の壁か?2013年11月6日(水) 武田 洋子 前回は、労働と資本を効率の低い分野から効率の高い成長分野へシフトさせることで、産業・技術の新陳代謝を高め、ひいては生産性上昇につなげていくことの重要性について述べました。新規参入企業が増加したり、新しい産業が生まれたりすれば、当然、そこに新たな労働需要が発生します。しかし、もし、そうした若い企業の労働需要を満たす十分な労働供給がなければ、新しい産業やビジネスの拡大を阻害する要因になりえます。 先行き、日本における生産年齢人口は確実に減少していくため、成長産業や新しいビジネスの担い手となる労働供給源として、既存の労働力に注目することは自然な方向性です。近年、「労働市場の流動化」を求める声が高まっている理由のひとつは、限られた労働力の下で経済の新陳代謝を促進するには、産業や企業をまたぐ労働力のスムーズな移動が不可欠であるためです。 しかし、実際には、日本の労働市場の流動性は国際的に見ても低いと考えられています。なぜ日本の労働市場の流動性は低いのでしょうか。その表層的な説明は簡単です。新卒一括採用と終身雇用は、戦後の日本の雇用慣行の代名詞と言っても過言ではありません。特に終身雇用システムには、解雇規制の存在があります。日本では過去の判例が解雇を厳しく制限し、企業が整理解雇を実施するには「4要件」と呼ばれる条件を満たす必要があるとされています。4要件とは、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続きの妥当性です。 経営者サイドから見ると、不採算事業から撤退し、将来的に見込みのある事業にシフトしたいと思っても、既存の不採算部門の人員を解雇し、新事業に相応しい労働力を新たに採用する、という経営判断を実現することは容易ではありません。人が動かせないのであれば、資本(資金)だけ動かすことの意味も大きく損なわれます。こうしたケースが重なり、様々な業界再編の妨げになっている可能性もあります。 しかし、解雇規制を見直せば、労働市場の流動性が高まり、生産資源の移転もスムーズになるのでしょうか。 労働市場の流動性低下を招いた理由 解雇規制に強固に裏付けられた終身雇用制度は、確かに日本の労働市場の流動性が低い原因のひとつですが、本質的には、複合的な要因が相互に絡み合い、供給面からも需要面からも、労働力が移動しにくい状態を維持していると考えられます。つまり、労働市場の問題は一面だけ捉えて改革を進めても、理想的な「失業なき労働移動」は実現できません。 おおまかには、次の3つの背景や制度要因が複合的に、労働市場の流動性を低下させてきたと整理できます。 第一に、終身雇用制度を典型例とする長期雇用慣習は、年功型の賃金体系とセットで運用する企業が多かった――あるいは依然として多い――という事実です。このセットでの運用は、なにも政府や法律によって強要されたものではなく、日本企業が自発的に行ってきたことであり、企業にとってもそこで働く労働者にとっても、そのメリットが大きかったはずです。通説としては、終身雇用制度と年功型の賃金体系は、一つの企業内での長期的な職能蓄積を促進する効果を持ち、それぞれの企業が内部的に人的資本の強化を実現させてきたとする解釈が有力です。 一方で、全く逆の見方もあります。特に最近では、マイナスの側面が注目されていると言ってよいでしょう。典型的な議論としては、以下のような考え方です。すなわち、解雇規制によって失職のリスクがなくなり、長期雇用が保障されたもとでの年功型の賃金体系は、個々の労働者にとって逆に自己投資のインセンティブを低下させたという議論です。極端に言えば、「意欲に乏しく生産性が低くとも、会社に居座る度胸がある者が得をする制度になってしまった」という指摘です。なぜ、かつてはメリットが大きかったセットでの運用が、近年、問題視されるに至ったかという疑問については、次回、改めて触れます。 事実として、多くの企業が、近年、終身雇用制度と年功型の賃金体系という組み合わせを含む人事制度の見直しを進めてきました。しかし、人事制度の見直しは、多くのケースで、一斉かつ全面的に行われたわけではありません。新しい人事制度が適用されるのは、「次世代以降」であり、一定以上の世代では既存の制度が継続的に適用されるといったケースが多く見られました。人事制度の漸進的な変更は、当然のことながら、企業内においてすら、ごくゆっくりとした雇用調整しか可能にしませんでした。 第二に、「やり直し」が難しい社会構造や採用慣行も大きな要因です。中途採用が増えてきているとはいえ、今なお日本企業の採用の中心は新卒採用です。既述の通り、長期にわたる企業内での人材教育・職業訓練を通じた人的資本蓄積が日本の強みであった時期が確かにありました。そのような状態では、ひとたび企業の外に出ると、複数の理由――(1)異なる技能の蓄積機会の少なさ、(2)労働市場のマッチングを高める工夫の不足、仮に再就職できたとしても、(3)中途採用者に対して不利な諸要因(年金の継続性がない、そもそも正規社員への転換が困難等)――から、転職による「やり直し」が不利になりやすいという現実があります。特にマッチング機能の不足は深刻です。転職市場において、マッチングが少なければ、産業内でも産業間でも労働移動は難しく、こうした状態のまま、解雇規制を緩和することを懸念する声があることは、むしろ当然と言えます。 第三に、過去の政策が指摘できます。政府は、雇用調整助成金などにより雇用を企業内にとどめる政策を長年採用していました。リーマンショックのような急激かつ大規模な経済ショックへの対応として、「雇用を守る」政策が間違っていたと主張しているわけではありません。ここで指摘したいことは、「雇用を守る」政策の直接の対象が、労働者個人というより、むしろ企業単位になりやすい傾向があったという点です。 金融円滑化法などにより、本来なら市場から退出していたであろう企業が、延命されていた可能性も否定できません。これは労働市場から見れば、「市場から退出すべき企業が、労働力を抱え込んでいた」ことになります。その企業・産業が復活していれば問題はありませんが、実は延命に過ぎず、結局衰退していた場合、本当に雇用は守られたと言えるか疑問と言わざるを得ません。企業を対象とした既往の労働政策は、より早い段階では、成長企業・産業に移る資質があった労働者から、そうしたチャンスを奪う方向に作用したかもしれません。 「包括的アプローチ」で進められたドイツの改革 諸外国の例を見ると、かつては「欧州の病人」と呼ばれたドイツでは、1998年に発足したシュレーダー政権が、2000年前半にかけて複数の改革――すなわち労働市場改革、社会保障改革(給付抑制)、教育強化、子育て支援、税・財政改革――を「ホリスティック・アプローチ」(全体的・包括的であり、部分の寄せ集めではないアプローチ)で進めました。 労働市場改革の内容をみると、解雇規制の緩和を行う一方、職業訓練の強化、職業紹介制度の充実、就労インセンティブ向上を目指した失業給付抑制など、再チャレンジに重きを置いた複数の政策を並行して進めました。 ドイツの施策をそのまま日本で適用できるわけではありませんが、中長期的に目指すべき社会の姿に向けて、政府主導で、政策横断的に(省庁横断的に)、雇用市場改革を推し進めてきた点は、わが国も見習うべきでしょう。 次回は、ドイツの事例を掘り下げるとともに、もともと強みであったはずの日本的雇用制度がなぜ通用しなくなったのか、人材の流動性を高めるにはどのような視点が必要か、さらに考えていきたいと思います。 このコラムについて 武田洋子の「成長への道標」 歯止めのかからない人口減少、出口の見えない財政悪化、遅々として進まない構造改革…。景気や市場が好転しても、日本経済の成長基盤は脆さを抱えたままだ。持続的な経済成長をいかに実現するのか。米欧や途上国も直面するこの課題に、気鋭のエコノミストが処方箋を示す。
NBonline 「日本と韓国の交差点」 振替休日があると生産性が下がる?
政府と大企業は休めるけど、中小企業は休めない 2013年11月6日(水) 趙 章恩 韓国安全行政部(日本の総務省に相当する省庁)は10月29日、2014年から振替休日制度を導入すると発表した。お正月(旧暦)、お盆(旧暦)、子供の日(5月5日)が土・日曜または他の公休日と重なる場合、その翌平日を公休日にする。「官公署の公休日に関する規定」の改定案を国務会議が可決した。 「官公署の公休日に関する規定」は文字通り官公署の公休日を定める規定だが、大手企業もこの規定に沿って公休日を決めている。この改訂により、1年に1〜2日公休日が増えることになる。2014年の場合、9月7〜9日の旧暦お盆連休のうち7日が日曜日と重なるので、9月10日を振替休日にする。連休が3日間から4日間に増える。 大企業の反対を説得 振替休日の導入に関する議論は国会で2008年から始まった。与野党は当初、すべての公休日を対象とすることで合意した。これに対して、日本の経団連に相当する韓国経営者総協会が猛反対した。「韓国の公休日は年15日。外国に比べて休日が少ないわけではない。振替休日を導入すると、企業の生産性が落ちる」との理由だ。 与野党は以下のように韓国経営者総協会を説得し、お正月・お盆・子供の日だけ振替休日を適用することにした。 「有給休暇は1年に10日。勤務年数が10年以上になると年15日休める。しかし、有給消化率は34%にすぎない」 「韓国人の労働時間は週平均40.2時間(2011年時点)。OECD加盟国の平均32.8時間、日本の33.9時間、米国の34.0時間に比べて長い。長時間労働による過労死など、労災が増えているのは問題である」 「公休日を増やすことで観光レジャーといった民間消費が増える。サービス産業の活性化につながる」 それでも中小企業は休めない ところが、中小企業は振替休日を導入しない模様だ。今回の振替休日制度を定めたのは、公務員を対象にした大統領令「官公署の公休日に関する規定」。すべての労働者を対象とする「勤労基準法」ではない。 野党の民主統合党は、「中小企業が振替休日を導入しない場合、振替休日で休めるのは勤労者の17%にとどまる。職業によって休日まで差別を受けることになってしまう」と問題視。すべての勤労者が平等に休めるよう勤労基準法も改訂すべきだと安全行政部に要求している。 振替休日に関するニュースのコメント欄には、韓国経営者総協会と振替休日を導入しようとしない中小企業経営者を非難する書き込みが1000件以上書き込まれている。 「振替休日は勤労者の当然の権利なのに、経営者は『与える』ものであるかのように考える。今まで振替休日制度がなく働いた分を返してもらいたいぐらいだ」 「最高営業利益を毎年更新している財閥企業が、せいぜい年に1〜2日の振替休日を導入するぐらいで生産性云々とは。社員を部品としてしか見ていない証拠だ」 「中小企業では土曜日も出勤しなければならない会社が多い。公休日に休んでも有給休暇を使ったとみなされる。結局有給で休めるのは年に1〜2日だったりする。振替休日なんて夢のような話。中小企業は求人難だというが、それには理由がある」 「振替休日制度を法律にして、守らない企業から罰金を徴収してはどうか。勤労者すべてが平等に休めるようにしてほしい」 休日が増えれば消費も増える 振替休日の導入は、朴槿恵大統領の国政課題でもあった。韓国政府は、週の最長労働時間を68時間から52時間に短縮することも検討している。労働時間の短縮や振替休日の導入で休日を増やすことで国民の幸せを実現すると共に、観光をはじめとするサービス産業を活性化することで景気回復につなげるのが目的だ。 文化体育観光部(部は省)は「休日が増えれば消費も増える」として、振替休日の導入を積極的に支持してきた。同部は、「韓国人の消費水準は上がってきた。観光産業のサービスレベルを上げ、国内旅行を活性化させる」と意欲的だ。 同部傘下のシンクタンクである韓国文化観光研究院は、振替休日制度の導入がもたらす経済効果を2009年から研究しており、その額を年4兆9000億ウォン(約4410億円)と推定した。同研究院は「長時間労働により、労働と生活がアンバランスになっている。これが家族のつながりをおろそかにする。深刻な社会問題になりかねない」「今の韓国では、長時間労働しても経済は成長しない」「振替休日を導入すれば内需が拡大し、自営業者の所得増加、サービス産業の雇用増加効果もある」と分析した。休日が増えれば観光や外食、ショッピングに出かける人が増えるので、お金が回るということだ。 サービス産業の質を変えることが先決 振替休日の導入がサービス産業の雇用増加につながるという考えには異見もある。韓国開発研究院はこう指摘する――サービス産業は労働集約的なので、雇用に占める割合は非常に高い(2012年は69.6%)が、実質GDP(国内総生産)に占める割合は57.5%(2012年)にとどまる。日本をはじめとする先進国の70〜80%より低い。これはサービス産業の競争力が低いことを意味するという。 サービス産業に従事する労働者の実態について調査している韓国労働社会研究所は「サービス産業の雇用はわずかな正社員とその他大勢の非正規職で成り立っている。非正規職はジョブトレーニングを受けることもなく、すぐ現場に投入されるケースがほとんどだ。がんばって仕事をしても正社員にはなれないし、報酬が上がることもない。待遇が悪いので人の入れ替わりも激しく、サービス産業のレベルは上がらない。雇用者もサービスを受ける消費者も満足できない状況だ」と指摘する。 振替休日を導入し個人が消費する機会が増えれば、サービス産業は自然に成長するという考えは甘く、サービス産業の雇用を安定させサービスのレベルを上げないとサービス産業の収入は増えないということだ。 韓国統計庁が発表した「2013年8月経済活動人口調査」によると、正規職の平均賃金は月約23万円、非正規職は月約13万円と約10万円の差があった。この格差は2004年の調査開始以来もっとも大きい。非正規職の中で残業手当をもらっている割合は24.9%、有給休暇をもらっている割合は33%に過ぎなかった。サービス産業は非正規職の割合が大きいので、韓国文化観光研究院が予測したようにサービス産業の雇用が増えたとしても、雇用条件の良くない非正規職が増えるばかりになる可能性が高い。振替休日導入で労働環境を改善し、サービス産業の拡大も図るという韓国政府の目標は達成できるだろうか。 このコラムについて 日本と韓国の交差点 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?
[12削除理由]:無関係な長文多数 |