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“大きさ”以外にも欠点、逆風の新国立競技場 神宮外苑は風致地区。槇文彦氏が再考を訴える
http://toyokeizai.net/articles/-/22805
2013年11月03日 堀川 美行 :東洋経済 記者
建築家の槇文彦氏が、2020年東京五輪のメインスタジアムとなる新東京国立競技場建設計画を批判したのは、8月発行の日本建築家協会機関誌。その後、9月に東京が五輪の開催地に決定すると、にわかに槇氏の主張に対する支持の声が広がった。巨大スタジアムが抱える欠点とは、いったいどのようなものなのか。
「30年前の1984年、国立競技場に隣接する東京体育館を設計した。そのとき非常に苦労したのは、その場所が東京の風致地区の第1号だったため。明治神宮がある所は内苑とされ、一方の外苑は市民に開放されたスポーツ公園となっていく。そうした中でも、内苑と外苑は一体として考えられてきた」
■ 壮大すぎるスペック
メインスタジアムは東京が目指した「コンパクト五輪」の象徴的な施設である。現在の国立競技場を取り壊した後、施設を大幅に拡充して建設する予定で、観客席は5万4000席から8万席に増え、開閉式の屋根を取り付けた全天候型スタジアムとなる。延べ床面積は現状の5.6倍の29万平方メートル。スポーツ関連の商業施設、博物館、地下駐車場などを備えた複合施設が現出する。
自然の美観が重視される風致地区、神宮外苑にこの巨大施設を建設することには素人目で見てもかなり違和感がある。文部科学省所管の日本スポーツ振興センター(JSC)は昨年、「いちばんをつくろう」というコンセプトの下、国際コンペを実施。選ばれたのは、イラク出身の国際建築家、ザハ・ハディド氏によるデザイン。流線型の斬新な外観は「スポーツの躍動感を思わせる」と評価された。
「ザハさんのCGを見て最初に思ったのは、美しい、醜いということではなく、なんと大きいのかということ。17日間の祭典中は確かに観客を喜ばせるだろうが、施設は祭典が終わった後も、50年、100年とずっと存在するわけで、それを国民や都民が世話しなければならない。そのコスト負担を計算しているとは思えない」
ただしコンペが行われたのは、東京で五輪ができるかどうかは五里霧中のときだ。有力候補地の一つではあったものの、2016年大会と同様、落選する可能性も高かった。
「世界最大級の施設を造って五輪誘致を有利にしたい、との雰囲気があったのではないか。建築の素人であるIOC(国際オリンピック委員会)委員たちにアピールするにはよい施設だろうが、本当に建設するとなると話は別だ」
■ コンクリートの壁
神宮外苑は風致地区であるとともに住民が生活する場でもある。新国立競技場の高さは高い所で70メートル。上空から見た斬新なデザインは地上に暮らす人々には何も関係ない。人々が目にするのは、空高く伸びるコンクリートの壁である。
「人々が下から見たときの景観がまったく伝えられていないのが問題。そこで生活する人、ジョギングする人がいるということ。(16年五輪のメイン会場候補地だった)晴海に造るのであればいいだろうが、神宮はそういう場所ではない」
大きな施設は広い場所に造るのが建築における常識であるにもかかわらず、今回の募集要項は、その常識を無視しているともいう。
「仮設スタンドを多く作ったロンドン五輪のメインスタジアムが象徴的だが、成熟社会、成熟都市ではスタジアムは名所にもならない。スタジアムはルーブル美術館やエッフェル塔とは違うものであるということを認識すべきだ」
新国立競技場の建設計画がいかに無理をしているか。それは最近の五輪会場との比較でもわかる。
北京の場合は21万平方メートルの敷地に、26万平方メートルの延べ床面積を持つ「鳥の巣」を建設、ロンドンでは16万平方メートルの敷地に延べ床面積10万8500平方メートルの競技場を建設した。それに対し、東京はロンドンの70%の敷地に3倍規模の建物を建設する計画だ。
収容人数8万人のロンドンでも、常設は2.5万人で5.5万人分は仮設席。都心からのアクセスが悪い郊外に立地していること、同じ市内に9万人規模のウェンブリー・スタジアムがあることも影響しているが、成熟都市における五輪施設の一つのモデルケースといえるだろう。
「このクラスのプログラムを作るときには、公開ヒアリングなどのプロセスを経るべき。しかし、それをやらないまま、話がどんどん進んでしまった。国民や都民の合意を得ないままに一人歩きした計画といわざるをえない」
■ 計画のリセットが必要
事業主体のJSCも、現行計画の問題点は認識している。「今回の国際コンペはデザインを競ってもらうもの。詳細な設計までをお願いするような通常のコンペとは違う」(新国立競技場設置本部)。実際の設計はこれから細かく検討される予定で、実現が難しい部分については変更していくという。
当初は9月末までに基本設計前の条件整備を終える段取りだったが、先延ばしになっている。下村博文・文部科学相は「デザインは生かすし競技場の規模もIOC基準に合わせるが、周辺施設を縮小して予算を抑制する」と明言。1300億円を想定している予算の膨張を防ぐことを目指す。
ただ、建設予定地を神宮外苑から変更する考えはないという。半世紀前に建設された現国立競技場は老朽化が進み、大規模な国際大会を行うことが実質的に難しい。それを世界基準の施設として建て替えるという考えがあるためだ。
収容人数についても、「常設で8万人規模」が維持される。「仮設席については現在議論されておらず、今後もその予定はない」という。
新国立競技場は五輪の1年前、19年のラグビーW杯メイン会場になることが決まっており、同年3月までに竣工しなければならない。そのためには、残された時間的余裕は少なく、抜本的な見直しを行うという発想自体がないようだ。
とはいえ、建築界では神宮での建設見直しを求める意見が強くなっている。10月11日には東京都内で槇氏の論考と同じ「新国立競技場案を神宮外苑の歴史文脈の中で考える」をテーマにシンポジウムが開催され、槇氏のほか、その主旨に賛同する建築家などが参加した。会場の日本青年館ホールには350人の定員を超えるほどの人が集まった。
建築家で東京大学大学院教授の大野秀敏氏は「今回の施設はまるでスーパーカーのようだ。車庫に入れようと思ったら、うまく入らない。都市計画が機能していない。1300億円の建物を50年以上、維持しようと思ったらそれと同じくらいの費用もかかる」と懸念を表明した。
「重要文化財である絵画館のそばに巨大施設が建設されるのは、普通は考えにくい」(都市計画の専門家である、陣内秀信・法政大学デザイン工学部教授)。社会学者の宮台真司・首都大学東京教授は「この施設はわれわれの子孫にはリスペクトされないものである」と言い切る。
槇氏を中心とした有識者約100名は11月中旬ごろをメドにJSCや東京都などに対し、新国立競技場の建設計画の見直しを求める要望書を提出する考えだ。
「立地も含めて、計画をリセットすべきだ。誰かがそれを決断しなければならない」
そもそも、新国立競技場をめぐっては建設費を国と都がどう分担するのか、という点でもめている。1300億円を超える可能性が高いとみられている巨費を前にして、国も都も尻込みしているわけだ。その意味では、神宮にこだわることなく、原点から見直しを行う必要があるのではないか。そもそも、16年の計画では晴海にメインスタジアムを設置する予定だったことも踏まえて、候補地を柔軟に考えていくことが必要だろう。
(週刊東洋経済2013年11月2日特大号)
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