08. 2013年11月01日 05:38:37
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韓国当世事情、教育費の元が取れない財閥は本当に「神の場所」か 2013年11月1日(金) The Economist 韓国ソウルにある美林女子高等学校の様子は、韓国人がいかに教育熱心であるかをよく表している。15〜18歳の生徒は教師が通り過ぎるたびにうやうやしくお辞儀をする。生徒の多くは寮住まいだ。午後6〜9時までの課外授業には生徒全員が出席する。ちょっと頑張りすぎではないかと尋ねると、チャン・ビョンギャプ校長は一笑に付した。
韓国の教育熱には歴史的なルーツがある。李氏朝鮮時代(1392〜1910年)の初期、「科挙」(官吏登用試験)の合格者には貴族階級である両班(ヤンバン)への道が開かれていた。『Education Fever』(教育熱)の著者であるマイケル・セス氏は、こうしたルーツが後に一層強化されたのだと見る。 日本の統治下にあった1910〜1945年、教育に対する韓国の大志は打ち砕かれ、それが鬱積した欲求を生んだ。その後、1950〜1953年の朝鮮戦争によって多くの古い階級制度が崩壊する。このため韓国の人々は、努力すれば成功をつかむことができると考えるようになった。 1971年以前、学校は2交替制で児童を教えていた。児童の数が校舎の収容能力を超えていたためだ。1980年までにはほとんどの小学生が11歳で中学校に進学するようになった。1995年、政府は「エジュトピア」(理想の教育体制)の到来を約束し、私立大学の参入を奨励した。 それに伴い高等教育ブームが巻き起こった。大学に進学する高卒者の割合は、1990年代には40%だったものが、2008年には84%近くにまで増加した。だがその後のペースは減速している(図参照)。高等教育に対する国民の強迫観念はピークを迎えたようだ。 大学だけがすべてではない 前述の美林女子高等学校は第一級の教育を提供しているにもかかわらず、今年度の卒業生で大学に進学した者は1人もいなかった。同校は李明博(イ・ミョンバク)前大統領が導入した35の「マイスター高校」の1つである。同大統領は、職業教育の地位を高め、大学一辺倒になっている保護者の意識を変える政策に取り組んだ(現在、保護者の93%が子供に大学進学を期待している)。 マイスター高校はドイツの教育制度を手本に、学問畑の専門家ではなく職業の熟練者(ドイツ語で「マイスター」)を育成することを狙うものだ。美林高等学校ではスマートフォンやタブレット端末用アプリのプログラミングやデザインを専門に教えている。 徐南洙(ジョ・ナムス)教育部長官は、「保護者はこれまで子供の適性や意向に関係なく、彼ら・彼女らを大学進学に追い立ててきた」と述べる。中には自分が受けられなかった高等教育を子供に与えたいと願う親もいた。だが現在、「子供は、自らが幸せと感じられることをしてかまわない」と考える保護者の数が増えてきているという。 教育費が高くて子供がつくれない 教育費が高いため、子供を上位の学校に行かすことができない保護者もいるようだ。子供が学校に通う間、保護者は子供の受験準備のために多大な資金を投じている。韓国の受験戦争は極めて過酷だ。試験は丸一日かけて行われる。昨年の消費者支出のうち、教育費は実に12%を占めていた。 教育費の大部分は学校外の英語教育に向けられている。ある教授に言わせると、英語の習得は「集団ノイローゼ」と化している。子供を連れて英語圏の国に移住する母親もいる。そこまでの教育費をかけられない場合には、夏休みの間、「英語村」なるプログラムに子供を参加させたりする。国内にありながら英語だけを使って生活する“村”だ。赤い電話ボックスがある「京畿イングリッシュビレッジ」などが知られている。 韓国の出生率が低いのは、教育費の高さが主な理由かもしれない。いくつかの調査で保護者たちは家計にかかる負担が最大の障壁だと回答している。米ペンシルバニア大学のトーマス・アンダーソン教授とハンスペーター・コーラー教授は、韓国において出生率の低い州は、家庭が負担する教育費が高い州と一致することを証明した。 教育費をかけてもペイしない 多額の教育投資をしても、以前のような見返りは得られなくなってきた。大学に行けば高い授業料を支払うだけでなく、4年間は就職から遠ざかることになる。大学卒業後、最初の就職先を見つけるまでには平均して11カ月かかる。手にした職は、高卒者が得られる職よりも高報酬で安定度も高いが、それでも両者の差は縮まる一方だ。 米マッキンゼー・アンド・カンパニーの研究部門、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートは、大学を卒業し高い収入を得られたとしても、それが学位取得に要する費用に見合わなくなってきた、と考えている。一生のスパンで考えた場合、大学に進学することが得とは限らない。典型的な韓国人なら公立の中学や高校に行き、就職したほうが割がいいかもしれない。 個人が払う教育費が価値に見合わないとすれば、社会的に見たコストはなおさらである。韓国人が支払っている課外教育費は、社会的には大部分が無駄となっている。高学歴を得た学生が、そうでない学生以上に韓国経済に貢献するわけではない。費用をかけて優れた学歴を得れば就職には有利かもしれないが、それは他の誰かを犠牲にしているにすぎない。 制度改革と競争激化はいたちごっこ 大韓民国が建国されてから最初の数十年間、政府は盛んな教育熱に後れをとるまいと狂わんばかりのペースで学校を設立し、教員を採用した。その後の数十年間はクールダウンに努めている。政府は1971年、中学の入学試験を廃止した。だが、これにより高校受験の競争が熾烈になった。数年後には高校入学を学区単位の抽選制にした。その結果、大学入試が非常識なほどに激化した。教育のどこかの段階で競争を緩和しても、次の段階での競争が熾烈になるだけだった。 1980年、韓国政府は学校外の教育サービスを法律で禁じた。すると、業界は地下にもぐってビジネスをするようになった。この禁止令は2000年に違憲とされた。それ以来、教育熱を沈静化しようとの取り組みは穏当なものとなっている。ソウルでは塾に対して、午後10時には子供たちを帰宅させるよう定めている。しかし、生徒たちは帰宅後にインターネット上で学習することでこの門限を逃れることができる。政府は生徒を丸暗記の作業から解放するため、2016年までにすべての中学校で試験のない学期を導入する予定である。 財閥は「神の場所」 韓国の教育における競争激化は難問を生んでいる。学生たちは、良い職に就くための“行列”(競争)でのし上がるために多大の時間と資金を使う。だが、そもそも行列とは供給量が少ないから必要になる。良い職の数はなぜ制限されなければならないのか。「良い」就職先の数は原則として、働き手の規模とスキルが上昇するのに伴って増大するはずである。おそらく、韓国における学歴至上主義は雇用の問題を反映しているのだ。 韓国人が考える通り、良い就職先は実際には限られている。大学卒業者は、政府やその関連機関、銀行、財閥などへの就職を希望する。これらの職に就けば、ほかでは得られない安定性や高収入、そして名声を手に入れることができる。韓国人たちはそのような職場を「神の場所」と呼ぶ。中でも最高の就職先は「神さえも知らない場所」として知られている。 高学歴者はさらなる教育を身につけ、こうした就職先への「行列」に備える。時には、目指す職に就けるまで就職浪人することさえある。韓国には未就労の15〜29歳が540万人おり、その11%が「神の場所」に行くための様々な専門試験に備えている。 ブルーカラー層にも同様の格差が存在する。韓国で販売される自動車の4割を製造する現代(ヒュンダイ)自動車には、5万9800人の正社員と6000人以上の「臨時」社員がいる。この臨時社員は派遣会社に雇われていることが多い。この2種類の社員は同じ現場で同じ内容と分量の仕事をこなすが、労働組合によれば臨時社員は正社員の70%の報酬しか得られないという(経営側によると85%)。 正社員には19人の常勤幹部(給与は現代自動車が支払う)が率いる労働組合がついている。組合事務所の階段の吹き抜け部分には漫画が貼ってある。すし詰めの受刑者たちが鞭打ち人に刃向かう場面を描いたものだ。 事務所では、最近実施したストライキを収束するための妥協案についてメンバーが投票を行っている。彼らはここ数年の間に数多くのストライキを実施し、現代自動車に対して多くの要求事項を突きつけた。その中には社会的な批判を浴びた要求もある。職業学校に行く子供の学費を負担するよう求めたのだ。現代自動車は、社員の子弟が大学に通うための費用を既に負担している。 同社に27年間勤務する労組幹部のムン・ヨンムン氏は、自分はただ時代の流れに乗っているだけだと言う。大学進学に向けた社会的圧力を取り去るという方針は政府が定めたものである。 財閥系企業で働くことができても、そのすべてが素晴らしいわけではない。それでも韓国人にとって、良い仕事の大半はやはり財閥系企業の仕事なのだ。これからもそれは変わらないのだろうか。 ©2013 The Economist Newspaper LimitedOct. 26th, 2013 All rights reserved英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 このコラムについて The Economist Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
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