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みずほ問題の本質は、銀行・金融庁の「環境変化への不適応」
http://nobuogohara.wordpress.com/2013/10/31/%E3%80%80%E3%81%BF%E3%81%9A%E3%81%BB%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AE%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E3%81%AF%E3%80%81%E9%8A%80%E8%A1%8C%E3%83%BB%E9%87%91%E8%9E%8D%E5%BA%81%E3%81%AE%E3%80%8C%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%A4%89/
2013年10月31日 郷原信郎が斬る
10月28日、みずほ銀行の反社会的勢力への提携ローンを通じた融資の問題に関して、「提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会」の報告書が公表された。
今回の第三者委員会は、佐藤頭取が、10月8日の記者会見で、歴代の頭取が報告を受け問題を認識していたこと、問題が報告された取締役会に出席していた佐藤頭取自身も「認識し得る立場」にあったと認めたことで、メガバンクの経営トップが「暴力団向け融資」を知りつつ放置したのではないかとの重大な疑念が生じたことを受けて設置されたものであり、歴代頭取の責任に関わる事実解明が重要課題とされた。
それに加えて、金融庁検査で問題融資が指摘されたことに対して、当初、報告は担当役員止まりと説明しことが意図的な虚偽報告の「検査忌避」ではないかということも、調査の重要課題とされた。
前者についての第三者委員会の認定は、オリエント・コーポレーション(以下、「オリコ」)を通じた問題融資が発覚した2010年、当時の西堀利頭取が対応策を協議したが、銀行として融資先を事前にチェックするかなどの対策は「検討する」にとどまり、抜本策は先送りされ、翌年3月の東日本大震災直後に発生したシステム障害に伴う混乱で西堀氏が引責辞任し、関係役職員も大幅に異動した際、問題を承継する手続きがとられず、(後任頭取で現会長の)塚本隆史氏は問題を認識するに至らなかったというものであった。
そして、後者については、「担当職員の記憶に基づいた回答」とし、「隠蔽の意図などは認められない」と結論づけた。
第三者委員会報告書を受けて、みずほ銀行は、再発防止策と頭取の半年間無報酬など関連役員54人の処分を公表したが、「甘い処分で幕引きを図ったとしか思えない。これでは、暴力団員への融資で失墜した信頼の回復に向けた道は険しい」(10.29読売社説)などと批判されており、第三者委員会の調査についても「そもそも強制力がない20日足らずの調査で、金融庁の検査もかわした問題の真相をどこまで解明できるのか、最初から疑問がつきまとった。案の定、それが払拭されたとは言えない」(10.30朝日社説)、などと批判されている
今回の問題に対しては、90年代に同行の前身の一つである第一勧業銀行が総会屋に対する巨額融資事件を引き起こした組織の体質や、10年以上前の3行統合の影響が残存しているのではないかなどという見方もある。そのようにとらえるべき問題なのかどうか、世の中の理解・納得を得るためには、問題の背景・構造も含めて、問題の所在を明らかにする必要があった。
しかし、今回の第三者委員会報告書は、銀行側の言い分を当たり障りなくなぞり、一方で、表面的な批判をしたに過ぎなかった。第三者委員会という、不祥事からの信頼回復に向けての貴重なカードを無駄に切ってしまった感が否めない。
問題の背景・構造
今回の問題の背景として、重要なことは、反社会的勢力への対策に関して、この数年、企業等をめぐる環境に急激な変化が生じていることである。
かつての日本社会における反社会的勢力への対応は、「不当要求の拒絶」。それが、2007年頃から、「一切の関係遮断」の方向に大きく転換していった。企業が暴力団等からの不当な要求に屈し、企業の利益を損なうことを防止することが主目的であったのが、数年前から、反社会的勢力を社会から排除するためのシステムを企業が担うことが強く求められるようになっているのだ。
それは、企業の反社会的勢力対策にも質的転換が求められていることにほかならない。かつては、企業が、特定の反社会的勢力から不当な要求を受けて屈しないという、個別の関係に関するものであった。それが、反社会的勢力に対する「ヒト・モノ・カネ」の供給を途絶し、社会から排除する社会全体のシステムを構築していくことが必要だとされ、企業にもそのシステムの一翼を担うことが求められるようになったのである。
第三者委員会報告書でも指摘されているように、今回問題になったオリコのキャプティブローンに関しては、みずほ銀行の側は、ローンの債務者とは全く接触しないため、債務者が暴力団関係者であっても、みずほ銀行がその債務者から不当な要求を受けることも、癒着が生じる恐れも全くない。つまり、「不当要求の拒絶」という観点からは、殆ど問題はないのである。
しかし、「一切の関係遮断」のための社会システムの構築という観点からすると、みずほ銀行側としては、オリコをグループ企業として取り込むのであれば、オリコを通じた提携ローンに関する「一切の関係遮断」をどのようにして実現していくのかを検討しなければならない。
そういう意味で、みずほ銀行には、提携ローンを通じた融資に関しても、「一切の関係遮断」という観点からの積極的な取組が求められていたのに、そういう方向への発想の転換が不十分で、銀行幹部も含めた組織的な検討が適切に行われなかったのである。
具体的対応の困難性
しかし、ここで一つ指摘しておきたいのは、みずほ銀行にとって、「一切の関係遮断」の観点から、オリコの関連会社化に伴った反社会的勢力対策を行っていくことは、決して容易なことではないということだ。
まず、融資契約に暴力団排除条項が導入されているかどうかが問題になる。暴排条項導入前に実行された融資については、その条項違反で契約を解除することはできないため、相手が暴力団関係者であるとわかったとしても、とり得る手段は、債務者側の何らかの不履行があったときに厳格に債権回収を図ることぐらいである。
暴排条項導入後の融資についても、条項違反として対応するためには、警察が把握している情報等で、暴力団関係者であること裏付ける必要がある。そして、条項違反と認められても、「期限の利益」を失わせ、ただちに回収に入るべきなのか否かについても微妙な問題がある。約定弁済が続いているのであれば、無理に回収を図って回収不能の状況を作るより、それを完済させて融資金を回収し暴力団関係者の手元に資金を残さないようにしたほうがよいという考え方もあり、むしろそれが、民事暴力対策を専門とする弁護士の間では一般的のようだ。
オリコが経産省に提出した報告書によると、今回問題となった提携ローンを通じた融資147件のうち、暴力団排除条項導入後の融資は37件、そのうち、警察情報との照会で関係者と推認されるものは数件である。
また、新規融資への対応に関しても、銀行側が保有している「反社情報」と、信販会社であるオリコが保有している「反社情報」は異なるので、相互に共有することに関しては、個人情報保護に関する問題があり、ただちに情報を共有して、該当者の新規融資をすべて拒絶すれば良いという単純な対応は取りにくいのである。
本件に関する世の中の誤解
このような、今回の問題への対応の困難性と、その背景としての本件の問題の核心が、世の中に正しく認識されているかと言えば、必ずしもそうではない。マスコミ報道の多くは、「暴力団向けに融資をしていたことを把握しながら、2年間にわたって放置していた。しかも、その事実を歴代の頭取が報告を受けて認識し、現頭取も、取締役会で知り得る立場にあったのに何もしなかった。」と単純化し、それを前提に、みずほ銀行が、過去からの「暴力団との癒着体質」をひきずっているかのように批判している。そこには、マスコミの側にも、本件の問題を、旧来の暴力団対策の「不当要求の拒絶」の観点でとらえている傾向が強いことは否定できない。
このように、不祥事の中身について、企業が世の中から誤解を受けている時にこそ、中立的、第三者的立場から、不祥事の中身を説明することで、マスコミや社会に、問題を正しく理解されるようにすることも、第三者委員会の重要な役割なのであるが、みずほ銀行が設置した第三者委員会の報告書が、その役割を十分に果たせたかと言えば、そうとは言い難い。
報告書は、今回の提携ローンを通じた融資の問題について、反社会的勢力との取引の更なる解消に向け、より積極的な取組みを行うことが求められていたのに、取締役会やコンプライアンス委員会への報告が行われず、抜本的な取組みが行われなかったことなど、銀行内での組織的取組みが不十分であったことを指摘し、その理由について、東日本大震災後のシステム障害で経営陣が交代した際、後任への引き継ぎが不十分だった上、信販会社を介した仕組みのため自行融資の意識が薄かったことを挙げている。
しかし、本件は、そのような形式面の指摘だけで済むような単純な問題ではない。みずほ銀行が、オリコのグループ会社化に当たって、企業の反社会的勢力対策が「不当要求の拒絶」から「一切の関係遮断」へ「急激な環境変化」が起きていることに気付かず、その変化に適応できなかったところに根本的な原因があると見るべきなのである。
本件を根本的な視点からとらえることで、「暴力団向け融資の放置」と単純化して批判するマスコミや世の中の誤解を解消することにもつながるのであるが、第三者委員会報告書では、そのような世の中の誤った認識が解消される方向に向かったとは思えない。
金融庁側の問題
本件は、問題融資に関して、金融庁がみずほ銀行に業務改善命令を出したことが発端となった。しかし、そのような金融庁側の対応は、「不当要求の拒絶」から「一切の関係遮断」の方向への転換という、金融機関も含めた企業の反社会的勢力対策をめぐる環境変化に適応できているのか。今回の問題に対する金融庁側の対応にも、いくつか疑問な点がある。
一つは、金融庁が、「(1)提携ローンにおいて、多数の反社会的勢力との取引が存在することを把握してから2年以上も反社会的勢力との取引の防止・解消のための抜本的な対応を行っていなかったこと、 (2)反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていること等、経営管理態勢、内部管理態勢、法令等遵守態勢に重大な問題点が認められた。」点を指摘して業務改善命令を出しながら、検査の中で、本件の融資の問題がコンプライアンス委員会や取締役会に報告されていたのかどうか、報告されていたとしたら、その内容はどのようなものであったのかについて、銀行の内部資料を求めていなかったということである。
金融庁側が、みずほ銀行がオリコのグループ会社化に当たって、「一切の関係遮断」によって反社会的勢力の排除を図るシステムの構築の観点から十分な検討が行われたのか、という点を問題にしたのであれば、その点についての具体的な検討や報告の内容を客観的資料に基づいて確認することが不可欠だったはずだ。それを行わないまま、担当者からの説明を「鵜呑み」にして金融庁検査を終えてしまったのは、なぜなのか。
もう一つ重要なことは、本件は、みずほ銀行という「銀行の領域」での「形式的措置」だけで済む問題ではないということである。みずほ銀行は、ローンの資金をオリコに提供しているのであるから、オリコに代位弁済を請求して、資金を回収することで、銀行だけを見れば「やれることはやった」ということになる。しかし、それだけでは、暴力団関係者に対する未回収債権が、みずほ銀行から、グループ内のオリコに移るだけで、「一切の関係遮断」によって反社会的勢力を排除するという目的は何一つ実現しない。みずほ銀行とオリコとを一体として考えて、トータルで、暴力団関係者への「ヒト・モノ・カネ」の供給を途絶して、社会から排除するシステムを担っていかなければ意味がないのだ。そのために具体的に、どのような対策を講じたら良いのかという点に関しては、既に述べたような非常に困難な問題があるのである。しかも、信販会社であるオリコの監督官庁は、割賦販売法等を所管する経済産業省であり、反社情報の銀行と信販会社の共同利用については、経産省が公表する個人情報保護ガイドラインにより書面の同意なく共同利用することはできない、という観点から問題を指摘していることが制約要因となっていた、ということも否定できない。
このような構造の下で、金融庁が、「銀行の領域」での「形式的措置」として、オリコへの代位弁済の請求が行われているのかどうか、という点だけを問題にして、みずほ銀行に対して業務改善命令を出したのであれば、そこにも問題があるのではなかろうか。
「一切の関係遮断」によって反社会的勢力を排除する、暴力団関係者への「ヒト・モノ・カネ」の供給の途絶を図るシステムの構築という、大きな社会的取組みには、官庁・企業などの社会内の組織すべてが連携して取り組まなければならないはずである。金融庁と経産省との間でも、「縦割り組織の壁」を超えて実質的な連携・協力が図られなければならない。
金融庁側も、「一切の関係遮断」によって反社会的勢力の排除を図るシステムの構築という視点で考えていなかったのではないか。そういう面で、金融庁側の対応にも問題があるのではないかと考えざるを得ない。
本件をめぐる混乱の原因
オリコを通じての提携ローンの問題は、「一切の関係遮断」によって反社会的勢力の排除を図るシステムの構築という面からは重要な問題だったはずだが、それが金融庁検査の対象とされた際、みずほ銀行側が問題の重要性の認識を欠いたまま対応し、金融庁側も十分な問題意識を持たずに検査を終了した。その後、金融庁内部の検討の結果、みずほ銀行にとっては予想していなかった業務改善命令が出された。そのタイミングが、ちょうど、メガバンクの幹部の腐敗と金融庁検査との確執をテーマにしたドラマ「半沢直樹」が空前の高視聴率を記録して終了した直後だったこともあって、業務改善命令は予想外に大きくマスコミに取り上げられることとなった。そのため、銀行側の対応が混乱、金融庁の対応も混乱し、両者の不手際の相乗効果もあって、ますます混乱が拡大した。というのが、今回のみずほ銀行問題をめぐる構図なのではなかろうか。
このような構図を前提にすれば、本件について、歴代の頭取も、現頭取も、報告は一応受けたが、十分な認識を持っていなかったこと、そして、みずほ銀行の金融庁検査への対応において隠ぺいの意図がなかったということ自体は、容易に理解・納得できるものである。
第三者委員会の調査が短期間で終了し、以上のような本件の背景・構造を踏まえた判断を示せなかったことで、この問題をめぐるみずほ銀行と金融庁の混乱がさらに長期化・深刻化し、それが、企業の反社会的勢力対策全体にも悪影響を及ぼすことを、強く懸念している。
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