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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第49回 意味不明な電力システム改革
http://wjn.jp/article/detail/6948868/
週刊実話 2013年11月7日 特大号
臨時国会が開会した10月15日。安倍内閣は「電力システム改革」の実施時期を明記した電気事業法改正案を閣議決定した。
改正案には、電力小売り全面自由化や発送電分離について、それぞれ平成28年度めど実施、平成30〜32年度めど実施と、具体的な時期が盛り込まれている。
経済産業省は「大手電力会社が地域独占を続けている電力事業に競争原理を導入し、電気料金の抑制につなげる」と、電力システム改革について説明しているが、率直に言って「詭弁」に過ぎない。
何しろ、日本以外の主要国で電力自由化を推し進め、電気料金が値下がりしたという事例は一つもないのだ。
“そもそも論”を書いておくと、電力自由化や発送電分離が「善」になるのは、日本の電力サービスの品質が悪く、停電が頻発し、電気料金が高いにもかかわらず、電力会社が非効率な経営を続け、品質は改善せず、料金も高止まりしている場合のみである。
現実の日本はと言えば、電力サービスの品質は極めて高く、東日本大震災までは世界屈指の「低停電率」を誇っていた。しかも、震災前は電気料金が値下がりし続けていたのだ。
電力自由化にせよ、発送電分離にせよ、規制緩和の目的は「競争を激化させることで、サービス料金を引き下げる」ことにある。現在の日本の電気料金は確かに値上がり傾向だが、理由は単に原発を動かしていないためである。
電気料金を引き下げたいならば、耐震化、津波対策が終わった原発から速やかに再稼働すれば済む話だ。
それなのに、なぜに現時点で電力自由化やら発送電分離やら、「革命」的な大改革に踏み出さなければならないのだろうか。
さらに言えば、電力自由化や発送電分離を実施し、電力サービスの品質向上と料金引き下げに成功した国が、一つでもあるというのか? あるというならば、どの国なのか教えて欲しい。
というよりも、信じ難いことに、過去に電力自由化や発送電分離を行った国々において、実際には電気料金が値上がりしていることを「経済産業省」自身が認めているのだ。
今年3月に経済産業省がリリースした報告書「平成24年度電源立地推進調整等事業(諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査)」には、驚くべき事実が記載されている。
皮肉なことに、電力自由化後に電力料金が下がったのは、ろくに「自由化」を進めていない我が国だけである。他の国は、軒並み電気料金が値上がりしている、と電力自由化の旗を振っている「経済産業省」が認めているのだ。
一体、安倍政権や経済産業省は、何を考えているのだろうか。経済産業省が掲げるお題目の通り、電気料金引き下げが自由化や発送電分離の狙いだとすると、
「諸外国は日本を除き、全て自由化後に電気料金が上昇している」
「日本の電気料金が上昇傾向にあるのは、原発を停止しているため」
の2点から、完全に「間違っている」という話になる。
しかも、強引に電力自由化を推進し、発送電分離を実施した場合、電力サービスの品質は劣化する可能性が高い。
例えば、送電網を持つ電力会社がコスト削減に乗り出し、安全面への投資を怠った結果、停電が頻発する事態になりかねないのだ(アメリカの一部の州は実際になっている)。
そもそも、ユニバーサルサービス(全ユーザーに分け隔てなく、安定した品質でサービスを提供する)を義務付けられている電力サービスに、自由化の思想は馴染まない。
果たして、自由化後のユニバーサルサービスの責任は「誰」が担うことになるのだろうか。送電会社だろうか。その場合、発電会社側が燃料費上昇などの理由で電気料金を引き上げたとき、送電会社はコストを吸収するために、メンテナンス投資を削減し、大規模停電などのトラブルを引き起こすか、もしくはユニバーサルサービスの供給が不可能になるだろう。
そんなことは、他国の事例を調べれば誰でもわかる話のはずなのだが、がむしゃらに電力自由化を推進する。なぜなのだろうか。
要するに、安倍政権は「異業種」あるいは「外資」に、日本の電力サービスから「レント(超過利潤)」を提供したいという話なのか。
そういえば、TPPには「電気通信」「競争条件」「投資」といった検討項目がある。日本がTPPに参加し、外資の電力サービスへの参入も自由化され、我が国の発電事業が「外資系企業」中心になる可能性も否定できない。
もちろん、国内企業、国内投資家のレント・シーキング(企業が政府官庁に働きかけて法制度や政策を変更させ、利益を得ようとする活動)も問題だが、外資となるとまさに「最悪」だ。我々日本国民は、不安定な電力サービスについて「高い価格」で購入を強いられ、外国に所得を貢ぎ続けることになる。
しかも、電力の場合は「この送電会社はダメだから、別の送電会社から購入」などと、消費者側に選択肢があるわけではない。消費者側に選択肢がない公共サービスこそが、政治力を使って超過利潤を追い求める「レント・シーカー」達にとって、最も美味しい市場なのだ。
現在の安倍政権が推進しようとしている政策の多くは、「瑞穂の国の資本主義」を目指す道ではなく、単にレント・シーキングの機会を増やすための制度改革に過ぎない。そうではないというならば、「なぜ、今の時点で電力自由化や発送電分離に乗り出すのか?」を、論理的に説明する必要があるはずだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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