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米国の金融:陰の資本主義
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39045
2013.10.30 The Economist :JBpress
(英エコノミスト誌 2013年10月26日号)
■米国経済界が、煩雑な規制と高い税金の影響で変質しつつある。
1996年、米エネルギー企業エンロンの社長を務めていたリチャード・キンダー氏が、同社トップのケネス・レイ氏の後を継ぐのは確実と見られていた。だが、それは実現せず、キンダー氏の最高経営責任者(CEO)就任は見送られた。見たところ、米国で最も革新的な企業の舵を取るには、キンダー氏は保守的すぎると判断されたようだ。
キンダー氏の次なる動きは、パートナーとともに、いくつかのパイプラインと石炭ターミナルを元の雇用主であるエンロンから買い取ることだった。さびつくモノを買うとは、どういうことか。それはまさにオールドエコノミーだった。
それから16年経った今、キンダー氏に勝ってエンロンのCEOに就いた人物は刑務所の中におり、エンロンという名前は不正会計の代名詞となった。一方、キンダー氏のパートナーシップ企業、米キンダー・モーガンの時価総額は1090億ドル、キンダー氏個人の持ち株の価値は90億ドルに達している。過去1年だけでも、キンダー氏は3億7600万ドルの配当金を受け取った。
この成功の一因は、米国のエネルギー分野の好況と、キンダー氏の才能にある。だが、キンダー氏がある独特な企業形態を巧みに利用していることも理由の1つだ。
「マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)」は、法人の有限責任と、パートナーシップの税制上の利点、それに株式非公開企業のガバナンス(企業統治)を兼ね備えた企業形態だ。
MLPでは、年ごとの利益が出資者にそのまま受け渡されていれば、法人税が課税されない。また、株主の権利もそれほど重視せずに済む。MLPや同様の「パススルー」型の企業形態には、今、資本の大波が押し寄せている。
そうした企業の総数は、合計しても米国の上場企業の9%を占めるにすぎない。だが2012年には、公開市場で調達された株式資本の28%、ウォール街に支払われる手数料の3分の1を、この種の企業が占めている。同種の非上場法人を含めれば、このような「企業形態」は、新たに生まれる企業の3分の2以上を占める。
水圧破砕(フラッキング)などの一部の産業は、こうした企業形態と密接に結び付いている。米国の資本主義の様相は、気づかないうちに変化していたのだ。
■歪んだ資本主義
そう聞いても、誰も驚かないだろう。企業には繰り返し新たな負担が課されてきたため、資金のフローが歪んでいるのだ。
米国ではエンロン破綻をきっかけに企業改革法(サーベンス・オクスリー法)が生まれ、この善意の法律が、米国での株式上場を巡る経済的な計算を一変させた。いまだかつて、金融業界が意に沿わないルールに従ったためしはない。危機以前には、銀行が資産を保有するとコスト高になる規則のせいで、簿外処理による資産隠しが恐ろしいまでに助長された。
危機以降は、企業の規制上の負担が急増した。金融の安全性を高める新規則(自己資本比率の引き上げやデリバティブ=金融派生商品=市場の透明性の向上など)の多くは、必要不可欠なものだ。株主の「セイ・オン・ペイ」(役員報酬に対する発言権)の導入など、称賛に値するものも多い。
だが、結果は同じだ。資本は相変わらず、抵抗の最も小さいところに流れる。銀行規制が強まるにつれ、国際的なシャドーバンキングシステムが成長した。シャドーバンキングは、2007年の62兆ドル規模から、2011年には67兆ドル規模にまで拡大している。
規則が緩和された場合でさえ、新たな歪みは簡単に生じる。例えば、2010年の金融規制改革法(ドッド・フランク法)で、小規模な上場企業については、サーベンス・オクスリー法の中でも特に厳しい項目の適用が恒久的に除外された。ところが、厳しい規則が適用される基準を超えないようにするために、故意に規模を小さくとどめておく企業が現れている。
まったくひねくれた話だ。投資家を守るための規則が、企業に成長を思いとどまらせているのだから。
税金にしても同じだ。50年前には、米国民に外国証券への投資を控えさせる税制のおかげで、ユーロ債市場が生まれ、ロンドンが金融の中心として台頭した。現在は、先進国政府がオフショア企業を使う税金逃れにうるさく文句を言うせいで、米国企業は、逃げ隠れせず国内に留まったまま課税を最小限に抑えられる企業形態を利用している。
そうした税金ゲームにも最も長けているのが、プライベートエクイティ(非上場株式投資)会社だ。これらの会社は、上場している部門でMLP型の企業形態を採用して法人税を逃れながら、経営幹部らが投資の利益に対して支払うキャピタルゲイン税は、不相応なほど少ない。
■公正さの問題
こうした問題を、規則逃れの資本主義の道徳問題と片づけてしまうのは簡単だ。だが、その見方はあまりにも単純すぎる。上場パートナーシップなどの企業形態の増加は、良いことばかりでも悪いことばかりでもない。
MLPのおかげで、米国のエネルギー産業を再建するための資本が迅速に得られた。もう1つのパススルー形態である事業開発会社(BDC)は、銀行が見捨てた企業に融資している。不動産投資信託(REIT)は、一般の人々が不動産ポートフォリオを管理するのを助けてきた。
こうした会社は利益を分配する必要があるため、キャッシュをためこむのではなく、資金を常時出し入れしている。そのため、常に市場の規律が適用される。それぞれの企業形態をまたいだ競争の余地もある。上場証券市場を活気づけてくれるのなら、どんなものでも歓迎だ。
それでもやはり、資本主義を大切にする者にとっては、この種の企業は厄介な存在でもある。
こうした企業形態の最大の利点は、税額を最小限に抑えられることにある。MLP、BDC、REITを増加させている課税控除は、ロビー活動の産物だ。税制の歪みが、投資信託会社などの投資を妨げている。非常に裕福な投資家は、この種の企業を利用する傾向があるからだ。また、こうした企業は、会社の外で資金が流れるため、通常の企業のように分析するのが困難だ。
資金のフローが、企業が手がける事業内容だけでなく、企業の形態から得られる利点に誘導されると、株式市場は最低限の意味でしか効率を発揮できなくなる。最も有利な投資を米国の大多数の人々が利用できないのなら、市場は真の意味での「公開市場」とは言えない。
■ねじれを是正する2つの方法
政策立案者は、こうしたねじれた状況の是正に取り組まなければならない。それには2つの方法がある。第1の方法は、法人税率を引き下げ、上場パートナーシップの税制上の利点から生じる歪みを緩和することだ。米国の法人税率は、他の先進国よりも高い(上場パートナーシップなどの企業形態が欧州ではあまり広まっていないのも、それが一因だ)。
本誌(英エコノミスト)は以前から、法人に高い税金を課すよりも、投資家、労働者、消費者に直接課税する方が望ましいと主張している。
第2の方法は、米国のすべての上場企業に課せられている規制上の負担を緩和することだ。政治家は既に、規制が株式市場の活気に与えるダメージを認識している。だからこそ、昨年成立した新規産業活性化法(JOBS法)では、「新興成長企業」(例えばツイッター)の上場要件が緩和された。
企業の規制階層を増やすと、様々な奇妙なインセンティブが生じる。それよりは、すべての企業の規則を軽減する方がよい。米国の資本主義は、世界で最もダイナミックな原動力の1つだ。オープンな環境で実践されるに越したことはない。
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