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アベノミクスがその気にさせた!?上海特区は「本気度」と「大胆さ」が日本と違う
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37394
2013年10月30日(水)磯山 友幸 :現代ビジネス
安倍晋三首相が経済政策「アベノミクス」を推進するうえで突破口と位置づけている国家戦略特区。規制を管轄する省庁や業界団体の水面下での抵抗は激しく、アベノミクスを支持する人たちですら、特区がどれぐらい成果を上げるか確信を持てずにいる。
ところが、もしかしたら安倍首相が本気で特区を成功させるのではないか、と"危機感"を持っている国がある。お隣の中国だ。
中国・上海市は9月末、金融や貿易などの分野で大幅に規制を緩和する特区「上海自由貿易試験区(FTZ)」を設置した。李克強首相が旗を振る経済政策「リコノミクス」版の国家戦略特区である。
日本の特区と大きく違うのは「本気度」と「大胆さ」だ。人民元での資本取引の緩和や金利の自由化、外資銀行の設立容認といった内容が盛り込まれているというから、これまでの中国の国家経済体制に風穴を空ける可能性すらある。
■上海が香港に代わり金融センターに?
しかも、あらかじめ示した規制や禁止項目以外は原則自由とするネガティブリスト方式を採用していくという。「香港にとって代わり上海を金融センターにする気ではないか」(日本の大手証券会社幹部)という声も聞かれ始めた。
この上海特区。9月のスタートまで、日本ではほとんど報道されてこなかった。
9月下旬に行われた上海対外経済貿易大学・日本経済研究センター設立5周年記念シンポ
ジウムに参加した日本のエコノミストたちは、中国側の「本気度」に驚かされたという。
参加した双日総合研究所主任エコノミストの吉崎達彦氏がブログに詳細を書いているが、吉崎氏は「3年間にわたって実施し、うまく行けば全国に展開するし、ダメだった場合は元に戻す。
まことに中国らしいダイナミックな実験というべきで、これに比べると、日本における経済特区の議論が何とも生ぬるいものに思われてしまう」と書いている。
同じく参加者のひとりである滝田洋一・日本経済新聞編集委員も『上海自由貿易の実験に潜む中国の深慮』という記事を書き、「中国経済は軟着陸できるか、といった議論をしているうちに、当の中国はダイナミックに動いている」と驚いてみせた。
吉崎氏によるとシンポジウムでは、アベノミクスに対する中国側の関心の高さが興味深かったという。
吉崎氏はブログにこう書いている。
「中国側が『日本の変化』を意識していることも窺えた。新政権の経済政策は効果を上げているようだし、TPP交渉にも参加を決断したし、2020年の東京五輪も決まった。この変化がどこまで続くかは未知数だが、とりあえず日本はノーマークの存在ではなくなった。このことは、過去5年間との大きな違いと言えるだろう」
■中国が本腰を入れ始めた背景にはアベノミクスがある?
つまり、中国が上海自由貿易試験区に本腰を入れ始めた背景には、アベノミクスで変わる可能性が出てきた日本の存在がある、という見立てである。
滝田氏も「狙っているのは、単なる上海地域の開発ではない。上海を突破口に中国経済の改革に乗り出すことを考えている。念頭に置いているのは、環太平洋経済連携協定(TPP)であり、米国と欧州連合(EU)が進める環大西洋貿易・投資連携協定(TTIP)である」と指摘している。
金融自由化に向けた中国の「本気度」を感じているのが日本や欧米の金融機関のようだ。
いま、欧米や日本の銀行はこぞって中国当局に対して「規制緩和要望」を出しているという。「この際だから細かい話まですべて要望した」と日本の金融機関のトップも語る。
「試験区」と銘打っているように、とりあえず「特区」で規制緩和してみて、問題があったら3年で止めればいい、と思っているのだろう。上意下達で「改革」ができる中国ならではの「大胆さ」ということだ。
これに比べて日本の「国家戦略特区」からは今のところ、「本気度」も「大胆さ」も感じられない。
政府の日本経済再生本部は10月18日、「国家戦略特区における規制改革事項等の検討本心」を決定し、医療、雇用、教育、都市再生・まちづくり、農業、歴史的建築物の活用の6分野で14項目の規制緩和策を盛り込んだ。
だが、その中に「金融」の文字は無かった。
民間からの要望の中に金融分野の規制緩和要望がほとんど無かったうえ、準備不足もあって間に合わなかったという。原案を作った国家戦略特区ワーキンググループ(座長、八田達夫・大阪大学招聘教授)の関係者によると、年明けの通常国会に向けた課題ということになっているという。
■具体策に欠ける日本の金融センター化
日本をアジアの金融センターにという掛け声は十年一日だ。
だが具体的な方策となるとなかなかアイデアが出て来ない。
2007年の第一次安倍内閣がまとめた「骨太の方針2007」では、日本の市場活性化策として、証券や商品先物などを総合的に扱う「総合取引所」を創設可能にすることや銀行と証券の垣根規制の緩和などが盛り込まれたが、役所の縄張り争いなどの結果、いまだに実現していない。
日本が打ち出した「総合取引所」のアイデアは韓国によっていち早く導入され、今では韓国取引所の金融派生商品(デリバティブ)市場は世界一になっている。
自民党の日本経済再生本部が5月にまとめた「中間提言」には、金融・資本市場の魅力拡大として「5年以内に世界の代表的市場としての評価を確立」すると威勢の良いタイトルが躍っていた。
だが、その具体策は乏しい。
金融庁も日本の資本市場をどう育て、世界に伍していくかという戦略に欠け、具体的なアイデアも出て来ない。長い間、規制することにばかり重点を置いてきたからだ。
「うるさい金融庁がいる日本で何かをやるより、香港なりシンガポールに出て行った方が話が早い」
そう外資系金融機関の日本人幹部は言う。
国家戦略特区といっても、日本でオフショア市場の創設や、税金の大幅引き下げなどが認められるはずはない、とさめきっているのだ。
では、猛烈な勢いでアジアの金融覇権を握ろうとしている中国に、それを黙って許すのか。
■日本も一気呵成に金融特区のグランドデザインを描くべき
遅まきながら金融庁も「金融特区」の検討を始めた模様だ。
このままでは上海に呑み込まれかねないという危機感が生まれたのか、政治家からご下問があった場合に備えての言い訳作りなのか。
その「本気度」はまだ分からない。
特区で一気に規制を撤廃するぐらいの「大胆さ」がなければ、日本が世界の代表的な市場としての地位を取り戻すことは不可能だろう。
安倍首相はロンドンやニューヨークでアベノミクスによる規制緩和の「本気度」を熱く語っている。それをきっかけに日本に投資しようとする外国人投資家が増える一方で、日本と競合する国は対抗策を準備する。
中国を本気にさせてしまった以上、日本も一気呵成に「金融特区」のグランドデザインを描くことが重要だ。残された時間は少ない。
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