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http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE99O05620131025
2013年 10月 25日 16:07 JST
田巻 一彦
[東京 25日] - 大企業の中の「勝ち組」がベースアップに動き出そうとする中で、国際競争力で劣勢の企業が追随するのは難しそうだ。一方、非製造業では人手不足感が強まっている現象も一部で発生、中小企業の中では人手不足を背景に、賃上げの動きが鮮明化している。
国際競争にさらされた製造業の賃下げ圧力の影響力が増大するのか、それとも非製造業や中小企業の人手不足感を背景にした賃上げ圧力が表面化するのか。日本全体での賃上げに懐疑的な声が今のところ識者には多いが、「大きな実験」が日本で始まろうとしている。
<ベア実施企業が「勝ち組」の証し>
安倍晋三首相が率先して、法人税率の引き下げを実現させようとし、企業に賃上げを要請していることで、激しい国際競争に直面している大企業・製造業の中に、ベースアップ検討の動きが出てきた。
トヨタ自動車(7203.T: 株価, ニュース, レポート)や日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート)のトップが、17日に開かれた第2回政労使協議後にベースアップに前向きな発言をして、来年の春闘におけるベースアップへの期待感が急速に高まってきた。
この2社以外にも業績好調な日本電産(6594.T: 株価, ニュース, レポート)の永守重信社長がベースアップ検討に積極的な姿勢を見せ、「勝ち組」企業が相次いで、ベースアップ実施にカジを切る機運が盛り上がっている。
だが、電機業界に代表される国際競争で劣勢な立場に追い詰められた企業にとって、ボーナス増額での対応は可能としても、あとあとのコスト負担が増大するベースアップは、やろうと思っても「できない相談」ということにならざるを得ない。
言い換えれば、来年の春闘でベースアップを実施できた企業が「勝ち組」、できなかった企業が「負け組」と識別できるということだ。日本の産業界の優等生であった大企業・製造業に「ベア実施」という断層が走り、そこで経営の優劣がはっきり見える構図になると予想する。
<非正規シェア上がれば、1人当たり賃金に低下圧力>
一方、日本の雇用・所得環境を見ていく上で、非正規雇用に従事している労働者の状況と、中小企業や零細企業で働いている労働者の環境が及ぼす影響力が増大している。
非正規雇用の割合は、日本国内の労働市場で35%を超えており、さらに拡大していく勢いだ。
その賃金水準は謎に包まれてきたが、国税庁が今年9月に発表した「2012年民間給与実態統計調査」によると、正規社員の平均給与が467万6000円だったのに対し、非正規社員は168万円にとどまっていることが明らかになった。
正規社員の給与が増額されても、非正規社員の割合が上昇していけば、1人当たりの賃金水準は伸びが鈍るだけでなく、減少するリスクも出てくる。
たとえば、自動車メーカーが正規社員のベアを認めても、増大する労働需要を非正規社員の増加で対応した場合、賃上げのインパクトは小さくなる。
<中小企業に人手不足感、賃上げ実施広がる>
他方、中小企業の中には、人員の確保が急速に難しくなり、人手不足感から賃上げに踏み切ったり、これから賃上げやボーナス増を計画しているところが急速に増えている。
日本商工会議所が9月30日に公表した全国3125社を対象とした初の調査リポートによると、37.9%の企業が今年4月以降のベースアップもしくは定期昇給により「賃金を引き上げた」と回答した。
また、一部の大都市圏における流通業の中には、新規出店時に人手を確保することが難しくなっているという現象も出てきているという。
人手不足は、東北地方の震災復旧の工事現場に限定されていると思われがちだが、最近では大都市圏での工事現場でも人手不足が深刻化。それが建設業に限らず、他の非製造業にもじわじわとにじみ出てくる現象が進行しているようだ。
<非製造業の賃上げ圧力、どこまで高まるのか>
今、国内で展開されようとしているのは、大企業・製造業の一部で検討されているベースアップを含めた賃上げの動きと、厳しい国際競争に直面して低コストの非正規雇用を増加させる対応、生産年齢人口の減少などを背景にした人手不足と賃金上昇圧力の顕在化という流れが、入り乱れているということではないか。
モデル化して言えば、賃金を押し上げる力と押し下げる力が、綱引きのようになっているという構図だ。
今までは、国際競争に直面してきた製造業が、総じてコスト削減に動き、雇用者報酬全体も非製造業を巻き込んで、低下の一途をたどってきた。
そこにこれまで指摘してきたような変化が生じている。米欧でも起きている賃金低下圧力の増大が継続するのか、それとも非製造業を中心にした人手不足に起因した賃上げ圧力が勝るのか。この帰すうは、当然ながらアベノミクスの成否にとって、決定的に重要な因子となるだろう。
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE99O05620131025?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
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