05. 2013年11月11日 10:11:00
: e9xeV93vFQ
http://www.youtube.com/watch?v=t0yASp5gYuc 米国のサムスン、トップゆえの苦悩迷走するスマホ時代世界的スター 2013年11月11日(月) 海部 美知 「アメリカでは韓国企業ってどうなんですか?」 こんな質問を、日本の方から受けたことがある。例えば「日本企業」といった場合、トヨタ自動車やソニーなど、いくつもある世界ブランドの間にある程度の文化的な共通点があり、褒めるにしろけなすにしろ、集合体として「日本企業とは」という話題が成立しやすい。しかし「韓国企業」に関しては、同じ流れでは話ができない。「サムスン」だけがあまりにも別格だからだ。 韓国での2012年の全企業純利益のうち、3分の1弱をトップ3社が稼いでいるそうだ(出所はこちら )。サムスン電子、現代自動車、起亜自動車の3社だが、このうち自動車2社はアメリカではまだまだカリフォルニア州限定であり、中西部のド田舎まで含む全米でブランドが浸透している韓国企業といえば、今のところまだサムスンしかない。 アメリカでのサムスンは、米国人の経営陣による米国流経営スタイルとマーケティング戦略をきちんと実行する、スマートでグローバルな会社とのイメージが浸透している。シリコンバレーでも、ここ数年、急速にその存在感を増してきた。 しかし、現在のテック業界の主戦場であるスマートフォン分野で「アップル対サムスン」の2大トップの一角となったがゆえに、同社は新たな悩みに直面して迷っているような、ちぐはぐな様子が見える。 10月28〜29日、サンフランシスコにおいて、初めての「サムスン開発者会議」が開催された。オンライン・ストリーミングされた冒頭のキーノート(基調講演)では、1300人の開発者が集まったとの話があり、なかなかの盛況だったようだ。しかし私にはその中味が苦悩の末の折衷案のように見えて、同社のトップゆえに抱える苦悩が垣間見えた。 スマートフォン時代の寵児 アメリカでのサムスンは、テレビやAV機器などの家電分野も強い。しかし同社全体の四半期営業利益の6割を占めるモバイル機器が、アメリカでもやはり最大の「顔」だ。携帯端末分野では、1990年代半ばのデジタル化の際にLG電子と一緒にアメリカに参入して徐々にシェアを伸ばした。 3Gへの移行やスマートフォン展開でも先頭集団にいたが、この頃はまだまだダンゴレースの一角であった。一躍ぶっちぎりの立場に立ったのは、2012年に発売された「Galaxy SIII」あたりからだ。 米調査会社のコムスコアによると、今から2年前、2011年10月時点の携帯電話端末全体(フィーチャーフォンまで含む)の米国マーケットシェアは、サムスン25.5%、LG20.6%、モトローラ13.6%と、そこそこ拮抗していた。 現在同じコムスコア調査では、フィーチャーフォンを除くスマートフォンのシェアしか発表されていないが、最新の2013年8月分を見ると、アップルの40.7%に続いてサムスン24.3%、その次の台湾HTCが7.4%であとはそれ以下と、上位2社が圧倒的な存在となっている。 同じ調査では、OS(基本ソフト)別ではAndroid合計が51.6%となっており、サムスンはWindows機もあるが少数で無視できるとすると、Androidスマートフォンのほぼ半分がサムスン製という計算になる。 昨年秋、iPhone発売時にアップルストアにできる行列をおちょくったGalaxy SIIIのテレビCMが話題を集めた。列に並んでいる若者が、Galaxy SIIIを使ってiPhoneではできないことを次々とやってみせ、実は彼は両親のために場所を取ってあげていただけ、というオチで、「iPhoneはもはやママとパパの世代の持ち物、時代の先端ではない」と宣言したわけだ。 アップルファンは怒りそうだが、しかし公平に見て「ホントにそうだよね、仕方ないね」といった反応がテック業界では多かった。実際、私の身の回りでも、大学生やお店の店員さんなど、若い人がGalaxyを使っている場面を多く見かけるようになった。 ライバルが次々と脱落してアップルとの2強時代に 一方で、かつてグローバル戦略で栄華を誇ったフィンランドのノキアと、スマートフォン時代の先駆けとして一世を風靡したカナダ・ブラックベリーは、いずれも経営難に陥り、ノキアの携帯電話事業は今年9月にマイクロソフトに買収された。 同じ韓国のライバルLGは、スマートフォンで出遅れて以降ずるずると後退、逆にAndroidでスタートダッシュの良かったHTCは、頻繁なOSの更新やサムスンの販売攻勢についていけず徐々に勢いを失った。ライバルが次々と脱落して、サムスンは世界で唯一、アップルと対抗できる勢力として生き残った。 世界のあちこちでアップルとサムスンの訴訟合戦が勃発したのは、「ツートップ時代」到来の皮肉な象徴だ。 正直なところ、これらのライバルと比べてサムスンの端末が、技術やデザインの面で際立って優れていたとは思えない。優れた機能の多くは、サムスンではなくAndroidに由来している。 ただ、アップルにはできない「スクリーンの大きさが違う機種」を各種そろえ、世界中でマーケティングと販売網対策を実行し、資材調達体制を確立し、製品品質を維持し、Android OSのメンテナンスとアプリ開発者のサポートをきちんとやるなど、やるべきことをちゃんとやってきた、というだけだ。 しかし、スマートフォンの世界では、この一連の作業が従来のフィーチャーフォンとは比べものにならないほどの人手とお金がかかる。ちゃんとできるだけで大変なことで、脱落したところは、これらの要素のどれかが欠けていた。人材と資金を持つサムスンが、いったん初速がついてシェアを拡大すれば、ほかのより小さい競争相手はどんどん引き離されてしまう。 サムスン、一体どうした? しかし、今春ころから変調が訪れた。 同社は5月にニューヨークで新モデル「Galaxy S4」の発表会を行った。ブロードウェイの著名演出家を起用した大掛かりなプロダクションで、多くの記者を集めた盛大なイベントだったのだが、これが大バッシングを浴びてしまった。 「S4は進んだ技術が満載だが難しくない、誰にでも使いやすい」という紹介を、人気テレビドラマのパロディ的な「セレブ奥様方のパーティ」という寸劇の中で行ったのだが、それが波紋を呼んだ。奥様方の描写が「テックに弱く、コスメやネイルにうつつを抜かす、見栄っ張りで頭カラッポな女性たち」というステレオタイプで、「アホでも使える」というストーリーに見えたため、女性を中心にテック記者たちが「女性蔑視である」として激怒したのである(参考記事)。 それまで、マーケティング面ではしっかりアメリカ流を踏襲していたはずのサムスンが、一体どうしちゃったの?と不思議に思えた。舞台裏の後日談を読むと、当初演出家はニューヨークらしい先鋭的なプロダクションを用意していたのだが、韓国の本社側が、世界中の市場事情に合わせるために、「コレはダメ、アレはダメ」と言い出して、妥協を重ねて準備不足で本番に突入した結果、ということらしい。 つまり、世界のトップメーカーとしての全体方針と、各マーケットの個別の事情や嗜好とを、齟齬なく運用するノウハウが不足していた、というふうに読める。アメリカならアメリカだけ見ていればよかった時とは違う。 イベントのちぐはぐという点を除いた製品自体でも、「余計な機能ばかりてんこ盛り」とメディアでは低評価で、実際の店頭でも、消費者はS4を支持しなかった。 アメリカでの正確な販売台数は発表されていないが、メディアではもっぱら「失敗」と言われている。全世界では発売から半年で4000万台の販売を達成したと発表されており、悪くはないが、前モデルSIIIと比べてかなりペースが遅い。 悪いことは重なる。10月には、「ファブレット(フォン+タブレット)」とも呼ばれる大型画面の「Galaxy Note 3」と一緒に、これと連動する腕時計型端末「Galaxy Gear」が発売された。
アップルが出すかも、との憶測が飛び交う、今ホットな「ウェアラブル端末」であり、アップルがまだ出していないものをサムスンが先に出すという画期的なケースだったが、大手家電量販店でのこのGalaxy Gearの返品率が「3割近い」とのリーク記事が出てしまった。詳しい事情はまだ不明だ。 グーグルは味方か敵か 冒頭で紹介した開発者会議は、そんな最中に開催されたというわけだ。モバイルでもソーシャルでも、基礎となるプラットフォームの上に、外部開発者のアプリケーションを載せて、共存共栄関係を作る「エコシステム方式」がすっかり定着している。 外部開発者にまずサポートしてもらえなければ、プラットフォームの成功も望めないので、プラットフォームになりたい企業は、政治家の選挙運動のように、あの手この手で開発者を集めて味方につけようとする。その代表的な選挙運動の場が、開発者が厚く集積するシリコンバレーでの「開発者会議」だ。 この「プラットフォーム」戦略部分でのサムスンの悩みはもっと深い。同社は、Android組のメーカーの1つ、という位置づけにどっぷりはまっているが、そこから何とか脱却する努力をずっと続けている。2011年頃にも、独自のBADAというOSを擁し、シリコンバレーで小規模な開発者ミーティングを実施していた。その後は、インテルと共同でTIZENというOSを企画して活動していたが、どうやらこちらも票集めが思わしくない。 Androidで成功したのはいいが、Androidの胴元であるグーグルに完全に依存するのはイヤだし、グーグルが身内のモトローラを優先し始めたらサムスンは足をすくわれる。だから、自分でコントロールできるプラットフォームがほしくて、独自OSを開発しようとする。 しかしあのマイクロソフトですら、あれだけ長年めげずにチャレンジしても、モバイルOSでのシェアは惨憺たるものだ。そう簡単にはいかないし、あまりやりすぎてグーグルを敵に回しては困る。 この板挟み状態のため、独自OSへの取り組み方はどうも中途半端だ。ただでさえ後発なうえ、TIZENは「アンチ・アップル、アンチAndroid」というネガティブな動機ばかりが語られ、ユーザーや開発者にどういうポジティブな恩恵があるのかという思想部分が見えてこない。これでは支持もなかなか集まらない。 結局、今回の開発者会議では、TIZENは扱っていない。フィーチャーされたのは、モバイル向けSamsung Mobile SDKとスマートTV向けSDKというアプリ開発プラットフォーム、それにKNOXという企業アプリ用プラットフォームが中心で、ゲーム開発やアプリの金銭化支援ツールなどもある。 いずれもモバイル系では、中味はAndroidで、その上からサムスン仕様の「皮」をかぶせるような格好になるので、いまひとつパンチに欠ける。 基調講演のデモで主に使われた端末は、Noteとタブレットで、主力であるはずのGalaxy S4は不自然なほど出てこない。また、発売したばかりのGalaxy Gearも不在。 代わりに強調していたのは「マルチ端末」ということで、モバイルとスマートTVの間でシームレスにアプリが使えるなど、多種の端末をそろえるサムスンの強みを出そうとしている。 しかし、これまでいろいろな場面で同じような話を耳にタコができるほど聞いてきて、モバイルとテレビの統合にそれほどのユーザーニーズがあるのか、いまだに判然としない。 サムスンも、シリコンバレー開発者の重要性を認識していることはよく分かったし、シリコンバレーに開発者をサポートする拠点を設けるというリーチアウトの努力もよい。しかし、肝心の開発者に提供する「中味」が、いまひとつなのだ。 かつての日本勢と重なって見える今の姿 ノキアやアップルに「追いつき追い越せ」を目標に、Android組のメンバーとして一生懸命やっているうちはよかったのだが、いざトップになってしまったら、立ち位置をどこに置けばよいのか、リーダーとしてメンバーに何をどうやって分けてあげるのか、定まらない。 グーグルとは仲良くすべきなのか、対決すべきなのか。これ以上の成長戦略をどうするのか。方向が定まらなければ、力も出ない。 一連のサムスンのちぐはぐは、これまでの成功ゆえに生じた悩みと見える。過去、いくつかの「日本企業」が陥った同じ罠でもある。 実際には、スマートフォン分野で多少サムスンが迷走しても、アップル以外の競合相手が皆、既にコケてしまっているので、にわかにシェアは落ちないだろう。一連の迷走もまだまだテック業界のコップの中の嵐にすぎず、そう簡単に地位は揺るがないはずだ。 しかし、あれほど難攻不落に見えたノキアやブラックベリーが、当のサムスンに引きずりおろされて、5年で急激に凋落した。サムスン自身もあまり長いことウジウジ悩んでいるヒマはなさそうだ。 このコラムについて Tech MomのNew Wave from Silicon Valley ヒューレット・パッカード、アップル、インテル、グーグル──。世界のIT(情報技術)産業を牽引するこれらの米国企業を輩出し、米ハイテク産業の「聖地」であり続けてきたシリコンバレー。カリフォルニア州サンフランシスコの南方に広がるこの地は、ITバブルの崩壊を乗り越え、今なおハイテクやビジネスの新たなトレンドの発信源として世界の注目を集めている。シリコンバレー在住の経営コンサルタントでブログ「Tech Mom from Silicon Valley」の著者として知られる海部美知氏が、現地で話題のビジネスやハイテクのトレンドをリポートする。
[12削除理由]:無関係な長文多数 |