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http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20131025-00038982-biz_jbp_j-nb
JBpress 2013/10/25 12:19
久しぶりに農業の連載に戻ります。
私は創造性あふれるタイプの人間ではありません。今回の連載タイトルは矢野香氏の著書『その話し方では軽すぎます! 』をパクっているのではないかと思われる方がいるかもしれませんが、実はその通りです。ただし内容はオリジナルなので、よろしくお付き合い下さい。
日本の農業政策(農政)論は、おおむね2つに別れます。1つはJAの主張をはじめとした既存体制の枠組みを維持する立場、もう1つは自由貿易を称賛し、関税の撤廃などを進めていけ、という立場です。2つは正反対の立場ですが、1つだけ共通点があります。どちらの論も、農家には全く説得力がないことです。
例えば、TPPによってコメの高い関税が撤廃されるとしましょう。既存の農業体制を擁護する立場の人は、これで日本の米生産は崩壊すると言います。規制撤廃論者は、これで日本のコメ農家の大規模化が進んで、コスト競争力がつくと考えます。
しかし、稲作の実際を知っている農家は、こう考えます。「農家がコメを作らなくなることはあり得ない。コメで食っていない零細の第2種兼業農家は、今だって赤字と分かっていてコメを作っている。TPPで少し生産量は減るかもしれないが、大きくは減らない。しかし、大規模にコメを作っている人たちは潰れていくだろう」
なぜそうなるのかは、以前にも述べた(「『兼業農家』と戦って勝てるわけがない」)ので繰り返しませんが、要はどちらの立場からの予想も、農家にとって全くリアリティがないわけです。
よって多くの農家は、いわゆる農政論者の言うことなど無視しているし、聞く耳など持っていないのが現実です。
■99万ヘクタールの水田を他の作物に転用する
なぜそうなるのか。はっきり申し上げて、農政を語る人たちの考えが甘すぎるのです。
例えば、何かと農政論議の的にされる「第2種兼業農家」を挙げてみましょう。
第2種兼業農家とは、農外収入が農業収入よりも多い農家です。普段はサラリーマンなどで生計を立てており、休日にトラクターを転がして小さい農地でコメを作ります。
彼らのコメの作り方は小規模でコスト高だから米の価格が高くなる。大規模農家に生産を集約して、第2種兼業農家がいなくなればコメは安くなる・・・だいたいそんなことを規制撤廃論者は考えます。
これがいかに間違っているかは上記のリンクを読んでいただくとして、ここでは(あり得ないことですが)、規制論者の言う通り第2種兼業農家がコメを作らなくなったり、コメの生産が大規模農家に集約されるシミュレーションをしてみましょう。どんなことが起きるでしょうか。
2011年度のコメ消費量は739万トン。コメは10アールあたり500キロ生産できると考えると、1トンあたり20アールの面積でいいので、1ヘクタール当たり生産量は5トン。つまり、739万トンのコメを作るのに必要な面積は739万トン÷5で「約148万ヘクタール」です。
これに対し日本の水田面積は同年の数値で約247万ヘクタールです。このうちの約60%があれば、日本のコメの消費をまかなえるということです。
では輸出がないと仮定した場合、247万ヘクタールから148万ヘクタールを引いた残りの「99万ヘクタール」の土地で何を作ればいいのでしょうか。
コメが作れないわけですから、別の作物を作らなければなりません。だったら何か作ればいいではないか。野菜など、コメより儲かる作物はたくさんあるだろうと「識者」が主張すれば、その瞬間、農家はそっぽを向くでしょう。
農家がそっぽを向くのは、他の作物を作れと言われるのが気に入らないからでも働きたくないからでもありません。そんな主張通りにすることは、現実には不可能だからです。
■人手が足りない第2種兼業農家
なぜ他の作物を作るのが不可能なのか。労働時間が増えすぎるからです。
作物は作業時間に大きな差があります。面積あたり最も手がかからない(労働時間が短い)のがコメで、だいたい10アールあたり50時間くらい。これに対し、他の作物では10倍以上の手間がかかることが多く、大きい場合には40倍以上の差になります。
これは何を意味するのか。例えば、1町歩(約1ヘクタール)の農地を持っている農家を考えましょう。コメの場合ですと、年間労働時間は450時間程度になりますから、休日を潰し、家族や親戚を忙しい時に動員し、有給をうまく取ればなんとか農地を回すことができます。中には減反でコメを作れない土地に野菜を作っている農家も多いので、野菜栽培の労働もここに加わり、実際はもっと大変です。
話を戻しましょう。10アールあたり労働時間が500時間の作物を作るとなると、1町歩はその10倍ですから年間労働時間は5000時間となり、休日はおろか2人がフルタイムで働いてやっと回せる計算になります。実際は2人フルタイムで働いても無理でしょう。
作物栽培は、年間に平均して労働時間が分散していることはめったになく、繁忙期に仕事が集中することがよくありますから、忙しい時に親や子供をこき使うか、アルバイトを何人か雇ってやっと回せるようになる。そんな仕事は第2種兼業農家には不可能ですから、第2種兼業農家は、ほぼ全てが耕作放棄することなるでしょう。
そうなると、計算上99万ヘクタールの耕作放棄地が誕生することになります。実際は野菜で規模拡大する農家もあるので、これほどは増えないでしょうが、それでも個人的なカンで言わせていただければ、極めて楽観的に見積もっても50万ヘクタール以上の耕作放棄地が出るのではないでしょうか。
■大規模化しても追い付かない耕作放棄の増加
ここまで読んで、「ちょっと待て! コメと同様に野菜農家も規模拡大してやったらいいじゃないか。なんでおまえは野菜農家の規模拡大余地を認めているのに、そんなに多くの耕作放棄地が出ると考えているのか? 」とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。
10アールあたりの労働時間を少なめに500時間を基準として見ても、1町歩を回すには2人では困難であり、実際には4人程度の労働力が必要です。それだけの人件費を用意できるのかを論ずるその前に、そもそも農村に人がいるでしょうか?
年収1000万円を超える高収入農家が多いことで知られる長野県川上村は、過疎とは無縁の村として知られています。また、10アールあたり労働時間が100時間前後と、野菜の中でも最短の部類に入るレタスを栽培しています。それでも、繁忙期には多くの外国人労働者を研修名目で雇って回しているという現実があります。
過疎と高齢化が進む、ごく一般的な農村では、野菜など他の作物に特化していこうとしても、そもそも労働力がありません。
コメを主体にし、減反でコメを作れない面積分を、これまで野菜などを作って回していましたが、自分も歳を取ってしまって、これ以上は無理だという農家がたくさんいるのです。その規模は、現在ある大規模農家が必死に規模拡大してもついていけるような水準ではありません。よって、こちらの場合も耕作放棄が主流となるでしょう。
もっとも、低賃金で雇える「農業研修生」や、移民を大量に日本に受け入れるというなら、耕作放棄地は相当減らせるかもしれません。しかしそれは、多くの日本人が求める政策ではないでしょう。
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