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円安にもかかわらず 過去最高となった貿易赤字
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投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 24 日 07:12:57: rUXLhToetCnYE
 

【第26回】 2013年10月24日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

円安にもかかわらず
過去最高となった貿易赤字

 貿易統計の9月分と2013年度上半期(4〜9月)分が発表された。

 9月分について見ると、輸出は対前年同月比11.5%の増加、輸入は16.5%の増加となった。その結果、貿易収支はマイナス9321億円となり、月1兆円の赤字に近づいた。このままのペースが続けば年間12兆円程度の赤字となるが、実際にそうなる可能性は高い。

 輸出は伸びているように見えるのだが、数量指数は3ヵ月ぶりの減少になった。つまり、円安下であるにもかかわらず、輸出数量が落ち込んでいるのである。

 13年度上半期分について対前年度同期比で見ると、輸出は9.8%の増加、輸入は13.9%の増加だ。

 貿易収支は4兆9892億円の赤字だ。赤字額が大きいだけでなく、継続していることも問題だ。貿易赤字は15ヵ月間続いており、第2次石油危機時の14ヵ月間を抜いて、過去最長となった。

 12年秋からは、顕著な円安が進行している。普通であれば、円安は貿易黒字を増大させるはずだ。しかし、実際にはまったく逆のことが起こっているのである。

 以下では、この背景を分析することとしたい。

貿易赤字拡大が意味するもの

 2013年度上半期の貿易収支は、年度半期ベースで過去最大の赤字だ。

 上に述べたように、9月分の貿易収支はほぼ1兆円の赤字であり、年間12兆円程度の赤字となる可能性が高い。

 図表1に見るように、リーマンショック前には年間10兆円ないしはそれ以上の黒字だった。それと絶対値でほぼ同額の赤字に転じるわけだ。(なお、図表1に示す国際収支統計の貿易収支と、貿易統計における輸出・輸入の差額の間には、定義の差に基づく差異がある)。


 これは、つぎの2つの意味を持つ。

 第1に経常収支が赤字になる可能性を否定できなくなった。10月8日に発表された国際収支状況速報では、8月の経常収支は1615億円の黒字だ。しかし、前年比では63.7%の減となっている。

 貿易収支の赤字を補うには、所得収支の黒字が増え続けなければならない。しかし、8月の国際収支状況速報では、所得収支は1兆2530億円の黒字で、前年比10.0%減だった。したがって、年間10兆〜15兆円程度しか期待できない。他方で、貿易・サービス収支は1兆0392億円の赤字だった。

 こうした数字からすると、13年度の経常収支が赤字に陥る可能性は否定できない。

 第2に、純輸出の減少は、GDP(国内総生産)を押し下げる。

 実質季節調整系列、年率で見て、リーマン前の純輸出のピークは08年4−6月期だ。これに比べると13年4−6月期の純輸出は、11兆円減少している。リーマン後のピークである10年7−9月期に比べても、7兆円程度少ない。

 08年4−6月期と13年4−6月期を比べると、家計最終消費支出が18兆円増、政府最終消費支出が10兆円増だ。つまり、消費的支出が純輸出の減を補う形になっているのである。

 金融緩和で期待されるのは円安である。そして、円安で当然期待されるのは、輸出の拡大と貿易黒字の拡大である。それが経済活動を拡大させる。開放経済の標準的マクロ経済モデルである「マンデル=フレミング・モデル」においても、為替レートが減価すれば、貿易黒字が拡大するとされている。ところが、現在の日本では、それが起こっていないのである。

 内閣府は、『マンスリー・トピックス』No.018、「経常収支の黒字縮小の要因と最近の円安の影響」において、「当初は輸入価格の上昇が赤字拡大に寄与するものの、輸出数量の押し上げ効果が次第に高まり、2013年8月に貿易収支の赤字縮小に寄与すると見込まれる」としていた。これは、Jカーブ効果が働くとする考えだ。しかし、実際には、そうはなっておらず、赤字はむしろ拡大しているわけだ。

2013年度上半期の輸出入動向

 2013年度上半期の輸出は35兆3199億円で、対前年比9.8%の増加だ。これは、5期ぶりの増加である。

 ただし、これは、円安によって円表示の価格が上昇したためだ。数量指数は91.2で、対前年比1.3%の減少だ。これは、5期連続の減少である(なお、数量指数については後で述べる)。

 寄与度が高かったのは、自動車や化学製品である。自動車は、対前年比14.5%、寄与度が2.1%、有機化合物が対前年比45.5%、寄与度が1.2%などだ。

 他方で、減少した品目も多い。船舶が対前年比マイナス26.5%、寄与度マイナス 0.8%、映像機器が対前年比マイナス26.6%、寄与度マイナス0.3%などだ。

 国別では、対米が17.2%で4期連続増。EU向けが7.7%で4期ぶりの増加。対中が8.3%で5期ぶりの増加となった。

 輸入は40兆3091億円で13.9%増。数量指数は104.2で、1.0%の減だ。

 品目別に見ると、輸入を増加させた要因はエネルギー関係だ。液化天然ガスが 11.6%増で、寄与度が1.0%。原粗油が10.3%増で、寄与度1.8%となっている。

 この他に、半導体等電子部品が増えたことが注目される。42.6%増で寄与度が1.1%だ。

 輸入の増加は、物価を押し上げていることに注意が必要だ。これについては、回を改めて分析したい。

円安下で輸出数量が減少

 つぎに、9月の輸出入計数を見よう。

 輸出は5兆9721億円で、11.5%増。これは、7ヵ月連続の増加だ。

 しかし、この間に円安が進展している。為替レートは、2012年9月の78.54円/ドルから、13年9月の98.84円/ドルまで、25.8%の円安になった。

 したがって、輸出数量指数の対前年比は、マイナス1.9%だ。これは、3ヵ月ぶりの減少だ。このように、円安下で輸出数量が落ち込むという異常な状況が続いている。

 輸出総額を地域別に見ると、対米が伸びる一方で、対中国と対欧州が伸び悩む傾向は変わらない。輸出総量で見ると、米国が18.8%と高い伸びだったのに対して、中国が11.4%、EUが14.3%だ。この結果、対中輸出額1.06兆円、対米輸出額1.11兆円となり、リーマンショック後続いていた対中が対米を上回る状況が逆転した。なお、数量指数で見た各地域別推移は、後述する。

 タイへの輸出が13.9%減となったことが注目される。これは生産移転が進展しているからだ。これまでは部品の輸入が増えていたが、部品生産についても、現地化が進んでいるのであろう。

 輸出の対前年比を品目別に見ると、マイナスを示している品目が多い。中でも、金属加工機械マイナス10.6%、建設用・鉱山用機械マイナス3.3%、映像記録・再生機器マイナス20.9%、テレビ受像機マイナス5.9%などが目立つ。

 数量で見ると、マイナスの品目が多くなる。中でも、電算機類(含周辺機器)マイナス26.7%、映像記録・再生機器マイナス32.6%が目立つ(なお、テレビ受像機は数量では25.9%増なので、著しい価格破壊が生じていることがわかる)。

 輸出全体の数量指数の中期的な動きは後述するが、短期的にも下落していることに注意が必要だ。図表2に示すように、13年3月がピークで、それ以降は減少しているのだ。

 なお、9月の輸入は、6兆9043億円で16.5%増となった。11ヵ月連続の増加だ。数量指数は105.5で、2.2%の減となった。


輸出数量指数の推移

 図表3には、輸出数量指数の推移を地域ごとに示す。結論は、「円安が輸出数量を増やしているわけではない」ということである。


 世界全体を見ると、2013年1月の落ち込みからの回復はあったが、傾向的に増えているわけではない。水準は、円高期であった10年の100に比べれば1割ほど低い。

 対米輸出が順調に伸びているとよく言われる。しかし、輸出数量の推移を見ると、13年1月の落ち込みからの回復はあったが、傾向的に増えているわけではない。13年8月の指数は、12年12月頃までより低い。

 EUの場合、あまり顕著な変化は見られない。10年に比べて2割ほど低い水準で一定である。

 ASEANの場合も、13年1月に81.6まで落ち込んだのが回復したのは事実だが、まだ12年8月より低い。また、13年3月以降は、穏やかな低下傾向が見られる。

 中国の場合、13年1月の59.9という非常に低い水準からは回復した。しかし、まだ12年8月より低い水準だ。そして、円高期であった10年の100に比べれば2割ほど低い水準にある。

 なぜ数量が重要なのか。経済の実質成長率に寄与するのは、輸出額ではなく、輸出数量であるからだ。輸出数量が減少していることは、経済成長率を押し下げる。

 日本銀行は、財務省が発表した貿易統計を受け、実質輸出入速報値(季節調整済み)を発表した(2010暦年平均=100)。それによると、9月の実質輸出は前月比4.4%減少の95.8で、2ヵ月ぶりの低下だ。実質輸入は前月比2.5%上昇の113.8で、2ヵ月連続の上昇だ。その結果、実質貿易収支は5ヵ月連続のマイナスとなっている(実質貿易収支は、実質輸出と実質輸入の差額を取り、2010暦年平均を100として指数化したもの)。

輸出減と輸入増のどちらが原因か?

 2007年以降の輸出入の状況を見ると、図表4のとおりである。

 10年頃以降、輸出はほぼ一定の枠内で変動しているのに対して、輸入が傾向的に増大していることがわかる。したがって、赤字を拡大させた原因は、中期的に見れば輸入の増加である。


 なお、輸入の傾向的な増加は、リーマンショック直後から続いている。つまり、東日本大震災以降に顕著になった現象ではない。

 輸入のこのような増加をもたらしたのは、図表5に示すように、鉱物性燃料の輸入である。

 リーマンショックで大きく落ち込んだが、その後傾向的に増大している。なお、ここでは、東日本大震災によって発電が火力にシフトしたことの影響が見られる。

 原材料の輸入もほぼ同様の推移を示しているが、額の面でも変化の面でも、鉱物性燃料ほどではない。


 このような変化によって、2010年頃には黒字だった貿易収支が11年にほぼゼロにまで縮小したのである。

 しかし、12年以降に赤字が拡大したのは、12年の春以降、輸出が落ち込んだことの影響が大きい。円安によって円建ての輸出・輸入額がともに増加したが、差額は月1兆円程度で変わらないわけだ。  

●野口教授が監修された経済データリンク集です。ぜひご活用ください!●
http://diamond.jp/articles/print/43436  

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コメント
 
01. 2013年10月24日 08:49:34 : nJF6kGWndY

>赤字を拡大させた原因は、中期的に見れば輸入の増加

再エネは、コストが高いし不安定で、まだまだ国民の負担を増やすだけだし

現実的に可能な対応策としては、まずは省エネ、次に原発の再稼働を早くしたり、ガスなどを安く輸入するくらいだが、なかなか進みそうもない


>12年以降に赤字が拡大したのは、12年の春以降、輸出が落ち込んだことの影響が大

これは個別企業が努力するしかないが、国民も、大企業や政府を批判するのは好きだが、ろくに勉強せず、楽することばかり考え
iPhonばかりが売れているようでは、あまり期待はできない

国家が衰退する時期というのは、こういうものなんだろう


02. 2013年10月24日 09:07:05 : KOuPsoorRU
アホノミクス。それでも安倍は国会で威張っている。そして消費税をあげても経済成長を続けると強弁している。汚染水問題と同じ強弁である。追及の手が甘いからであろう。野党議員の力不足は否めない。国民は嘘も100回言えば真実になるに引っ掛かっている。それを正して国民に知らせるべきメディアはその役割を放棄して逆に政府を持ち上げている。立ち止まってあたりを見回すと全てが値上げラッシュだ。政府のやっている事は国民の安全安心を奪う事だ。日本人はご無理ごもっともおかみのやる事には逆らえないとおとなしい国民であるがそれをいい事に増長する国は許せない。日本人は茹でガエルだ。

03. 2013年10月24日 12:40:45 : Xz0yy1baV2
原発に頼ってばかりで,火力発電設備を老朽化させて,効率の良い火力発電設備に更新してこなかった付けだな。資源を1つの方向に集中させるのも良いが,環境の変化に対応できないこともあるがな。電力が良い例。常に代替案を準備しておかないとね

04. 2013年10月24日 20:55:49 : G9XzMYGYhA
01は原子力村の宣伝文句そのまま。

貿易黒字だけが大事なら、国外生産をどんどん進めている企業に課税すればいいだろう。自動車会社に、ユニクロ、その他日用品ほとんどを海外で生産する日本企業。

ところで資本収支の黒字は過去最高水準に達しているが。どこに入っているのか。

原発を再稼働したい人の頭は欠陥品。


05. 2013年10月26日 01:32:16 : glvJnGhYfs
当たり前だろう。

円安だから貿易赤字になるんだ。

そうするための円安なんだから。

当然の成り行きだよ。

前もって判って当然の事なんだがねえ…。


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