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中国経済は本当に危機なのか?
ムーギー・キム :プライベートエクイティ投資家 2013年10月23日
さて、私の上海滞在も残すところあとわずかなのだが、私が“「中国経済崩壊論」は、やはりウソ!”(を書いた直後に、日経新聞で上海の中国一のビジネススクール、中欧国際工商学院(China Europe International Business School 〈CEIBS〉)の許教授が中国経済の危機について書いていた、と日本にいたわが母・パンプキンから連絡が入った。
パンプキンが、「どうやらあんたの分が悪そう。いい加減なコラムを書いて恥をさらさぬよう、早急に引退せよ」と、またしても引退勧告を突き付けてきたのである。また「上海は中国のショーケースで、そこだけをみて中国経済を語るな!」などと、言われてみればもっともなご指摘をたくさんいただいた。
これは言い訳がましい言い訳なのだが、わたしは中国の過剰投資とバブルの存在に関しては明確に述べており、政府の腐敗など問題点も多いことに(腐敗していない政府がアジアのどこにあるか不明だが)完全同意している。
しかし私は、経済学者の指摘は当たったためしがなく、正確に言えば50%の確率で当たり、50%の確率で外れるのを知っているので、経済学者やメディアの情報をそのまま鵜呑みにできない。そこで暇人説が急浮上しているこのグローバルエリートが真意を確かめようと、はるばる中欧国際工商学院まで突撃取材してきたので、そのときの模様をご紹介しよう。
なお以下のインタビューは残念ながら許教授ではなく、キャンパスのカフェテリアでたまたま水餃子を食べていたCEIBSの賢そうな顔をした生徒の王さん(仮名)である。王さんは米系投資銀行と欧州系投資銀行に勤務経験のある、クレジットマーケットに詳しいハンサムな中国人エリートで、この突然の訪問者に水餃子をおごってくれるという、たいへん人徳の高い方だ。
■成長率は鈍化したが、皆、中国に投資せざるをえない
ムーギー:いやいやこんにちは。見ず知らずのグローバルエリートにインタビューの時間をくださってありがとう。おまけに買い方のわかっていない私にランチまでごちそうしていただいて。
王さん:いやいやどういたしまして。で、何が聞きたいんだ?
ムーギー:ズバリ、中国経済の現状に関して、金融のプロであり、中国ローカルマーケットをわかっており、欧米の金融機関で経験を積んできた身から感じる問題意識を教えてほしい。
今、海外の新聞では中国経済崩壊論が面白おかしく書き立てられていて、本当の姿が見えていない気がする。中国語を話せず、中国に住んだことも仕事をしたこともない人が、ついでに経済と金融をまともに学んだことないのに“中国憎し”で適当なことをわーわー言っている現状に鋭くメスを入れたい。
王さん:中国経済崩壊論は、一部同意するが、同時に間違っているところも多い。まず成長率が落ちたとはいえまだ6〜8%で成長しており、これだけの経済規模でこの速度で成長している経済が、ほかのどこにあるだろうか。海外機関投資家も中国経済が鈍化してきた、とわーわー言いつつも、結局、投資を続けている。やはりこのサイズとこの成長率だと、世界的なファンドマネジャーは投資しないわけにはいかない。
ムーギー:日本ではよくシャドーバンキングの問題が取りざたされているが。
王さん:中国の金融機関と、金融以外の分野で不良債権が多いのは誰でも知っている。ただ欧米や日本の不良債権処理から学び、当局は早めに介入したし、不動産投資も随分抑えられている。いちばん大切なのは、貧しい一般庶民に経済的な大ダメージがないかぎり、中国経済は大丈夫だということだ。一部の金持ちは資産価格の低下で打撃を受けるが、大半の中所得者・低所得者はそのような高額のマンションを持っていない。上海の地価は短期間で高騰したが、金儲けしたのは台湾と香港から来た人たちだ。値段が下がっても別に庶民の家計への直接的な打撃は大きくない。政府がいちばん恐れるのは、人口の大多数を占める中低所得者層の生活が不安定になることだ。
■中国は、クレジットレーティングに意味がない?
ムーギー:とはいっても中国金融に問題があるのは確かだが、欧米の投資銀行でクレジットとエクイティの両方を分析してきた身で実感する問題点は何か?
王さん:それはひとえに、クレジットレーティングが意味をなさないことだ。つまり中国政府は本来、潰さなければならない国有企業とかを潰さず、そのまま融資を続けさせている。中国政府は金融機関に絶大な影響力を持っており、金融機関は共産党の大きな意向に反することはできない。だからAAAだろうがBBだろうが、皆、ジャンキーなボンドを買おうとする。というのも、どうせ潰れないならクレジットスプレッドの取れる債権を買ったほうがうまみがあるからだ。
ムーギー:なるほど、淘汰されるべき企業が時の政治家の都合で潰せず、不良債権が雪だるま式に増えていく――なんかどこかの国で行われた、仮名(仮名)さん肝いりの中小企業金融の某法案(別名不良債権拡大法案)と似たようなもので、どこの国でも政治が金融と市場を歪めるのは宿命みたいなものなのだな。
■共産党自ら変わるしかない
ムーギー:中国の今の政治の話を聞きたいが、今、共産党の問題点は何だと思うか。
王さん:政府の腐敗がひどいと言われ続けているが、政権が変わるたびに「腐敗を一掃する」と言っている。これを当面、信じるナイーブな国民が多い。実際は何も変わらないだろう。
共産党幹部の子息は、皆、ハーバードやスタンフォードにもろもろのコネと資金力で子供を送っている。また、毎年すさまじい人数の官僚が国のカネを持ち逃げして海外に逃亡している。そして多くの中国人が海外の国籍を取得して、いつでも資産を海外に移して、国外に逃げられるよう準備をしている。
ムーギー:実は上海の空港からこちらに来るまでの間、タクシーの運転手さんも共産党の腐敗について怒っていた。
王さん:中国はそもそも三権分立というものがない。共産党一党ですべて決まるところに、司法も当然、ずぶずぶの関係にある。三権分立のアメリカとかでも政治は腐敗しているのに、それがない中国の政治状況がどのようなものか、想像していただけるだろう。
ムーギー:私のインド人の友人(ムンバイの欧米投資銀行勤務)は、人口が10億レベルになると民主主義は機能せず、ストライキばかりで何も進展しないので、中国のような一党支配でないと安定的に成長できない、中国人は賢い、と言っていた。彼はインドも完全な一党独裁ではなくても、民主主義と独裁の中間くらいの、部分的な独裁に変えるべきだと私に言っている。
王さん:確かに大勢の安定と成長と民主主義・メディアの自由はトレードオフの関係にあり、バランス感覚あるさじ加減が難しい。ただ共産党は自ら改革を推し進めないと、内側から崩壊するだろう。今までは経済が急速に発展してきたから、問題が多くても生活水準が毎年、目に見えて向上するので、人々は政治に文句を言わなかった。
また、私のような世代は子供のときに天安門事件を見ているので、政治問題に深入りしたり議論することを避ける傾向にあった。しかし経済成長率が低下してきて庶民の生活にしわ寄せがくるようになると、今まで目が向けられなかった問題に不満が噴出するだろう。
ムーギー:最近の政治腐敗の問題というと、日本では薄煕来事件がよく取りざたされたが、あの問題はどう思うか。彼はやはり、共産党指導部との政治闘争の犠牲者か?
王さん:どちらがいい、悪いという問題は白黒ふたつに分かれる問題ではなく、誰にもグレーな部分はある。薄煕来は政治闘争の犠牲者という側面もあるが、彼は彼で問題も多かった。
ムーギー:彼が市長を務めた都市の市民からは、評判が高かったと聞いているが……。
王さん:庶民からの評価は高いが、企業家からの評価は低い。彼は後付け的な法律で、以前は許されていた企業の慣行にメスを入れて多くを監獄に送ったが、これは単に前任者の支持者であるこれら企業家の力をそぐための政治抗争の結果だ。
結果的に企業家が都市から多く出て行ってしまった。ただ権力を乱用する金持ちに強く当たったので、庶民からは人気があった。彼は重慶出身ではないと知っているか? 彼の前任者の影響力を排するために、前任者の支持者の力を一掃したのだ。
ムーギー:なるほど、そういう裏事情があったのか。今日はお忙しいところ、本当にありがとう。見ず知らずのグローバルエリートに、こんなによくしてくださって……。必ずやあなたの親切っぷりは、東洋経済オンラインの親愛なる読者の皆様の賞賛を受けることになるだろう。本当にありがとう。
■グローバルエリート 上海滞在の総括
さて、今回の上海滞在期間中はさまざま変化を目にしたわけだが、上海は随分住みやすい都市になっている。まず、この王さんに代表されるような親切な人が急増しており、自慢ではないが私は上海滞在中、友達に3回おごってもらった。私が出す、と言っているのに「遠方からのお客さんに出させるわけにはいかない」と何が何でもおごってくれるのだ。
これは余談だが、食べ放題形式で300元で日本料理や焼肉の食べ放題があるのだが、最初のお皿だけ早く持ってきて、あとはさんざんじらして料理を時間切れまで持ってこないという、けしからん牛歩戦術を除けば、総じて満足のいく上海滞在であった。
以前の中国名物だった“痰吐き”はなくなり、人のしゃべり声も昔ほどの怒鳴り声でなくなり、所得向上や五輪、万博を通じて、中国が格段に成長したことが実感できる。むしろ「中国も成長したな」などと上目線からモノ申すのが失敬であり、ホテルのグレードにしても、店で売っている商品の品質にしても、レストランやバーのクオリティにしても、むしろ上海以上の都市ってアジアにあったかしら、くらいの勢いである。
特にIFCのある一帯は東京どころか、シンガポールや香港と比べても立派であり、こちらで働いている中国人バンカーは「もう香港に行く必要はない。アジアのグローバル企業のヘッドクォーターも香港から上海に移ってくるだろう」と自信を隠さない。
これは私の日頃の行いがいいからかもしれないが、こちらで会う人は親切で聡明な人が多く、日本のメディアで悪魔のように書き立てられている中国人像とは、似ても似つかない人々である。
中国の中でも「実際に日本にいくと日本人の印象は随分よくなった」と言う人が多いが、逆もしかりなのであり、政府間の関係が悪化しているからといって、質の低い政治家やメディアにあおられるのではなく、一度上海に足を運んでみてはいかがか?
これで貴方の秋の連休の行き先は決まったようなものである。そこでは必ずや歓迎光臨と明るく迎えてくれる予想外に親切な中国の店員さんが、シーズン中のおいしい上海蟹と小龍包を振る舞ってくれることであろう。また現地に足を運んでこそわかる中国経済の今を、実感していただけるに違いない。
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