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【第301回】 2013年10月23日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
デフレ脱却はいつになるのか?
アベノミクスの「中間評価」
中間評価を考える
「アベノミクス」の初速とその後
民主党政権から、安部晋三氏率いる自民党が政権を奪取することが見え始めたあたりが、いわゆる「アベノミクス」のスタート時点だろうが、その後の株価と為替レートへの影響は凄まじかった。
大まかに、月末の終値を見るとして、野田首相が解散を「やりましょう」という前の10月末は、日経平均が8928円(端数切り捨て。以下同じ)で、ドル・円の為替レートは79円台だった。
これが、4月4日に黒田新総裁率いる日銀が発表した通称「異次元緩和」の後である2013年4月末には、株価が1万3860円、為替レートは97円台となっていた。株価が約55%高、為替レートは約23%円安の猛威であった。
この頃は、アベノミクス肯定派の勢いが凄まじく、アベノミクスに対する批判派の肩身が狭かった。唯一、慶應義塾大学の小幡績准教授が『リフレはヤバい!』(ディスカバー携書)という著書を発表して、一手に反対派を引き受けるような状態だった。
しかし5月23日に、大きな変化が訪れる。1万5946円まで高値をつけた後に、株価が急落に転じ、翌月には1万3551円の安値まで調整し、為替レートもドルの高値では103円台まで進んだものが、翌月の最も進んだ時点では94円台まで円高に戻る。こうした変化が出たことで、アベノミクス否定派が活気づいた。
その後、株価と為替レートは、相場用語的には大幅な調整後に、現在株価は1万4000円台半ば、為替レートは98円前後の水準に戻っている。現時点では、アベノミクスに対する肯定派と否定派が、共にそれなりに活発な意見を述べる状況となっている(どちら側にあっても、意見が言いやすくなった)。
学者や評論家の言い争いは、彼らの仕事のうちなので、大いに活発に行うといいが、現時点でアベノミクスの現状をどう評価すればいいのだろうか。筆者は、アベノミクス(の主に金融緩和政策)に対して肯定的な立場であるが、「なるべく」客観的に評価してみたい。
実弾は異次元金融緩和
「偽薬」か「薬効あり」か?
アベノミクスの「実弾」ともいうべき具体的な政策行動は、4月4日に黒田日銀が発表した「異次元緩和」だったが、株価と為替レートで見る限り、異次元緩和の発表前の方が、効果は大きかった。
これを指して、アベノミクスは、安倍首相が勇ましくデフレ脱却を語ったことでムードが変化した、いわば「偽薬」に過ぎないという見方もある。他方、大規模な金融緩和政策に実質的な効果があったと考えるべきなのか。
これは、専門家の間でも議論の分かれる話だが、筆者は以下のように考えている。
アベノミクスの金融緩和は、市場の「期待」に働きかける政策だが、インフレ目標と大規模な金融緩和の実施を組み合わせたことで、特に為替市場に対して実質的な効果があった。
大きな効果があったのは、まだ白川方明氏が日銀総裁だった頃だが、安倍首相が「インフレ目標2%」を日銀に飲ませたことだった。このインフレ目標の明示は、今後多少物価が上昇しても、短期金利ほぼゼロをはじめとする金融緩和状態が継続するとの期待を市場に与えて、円安をもたらした。
当然のことながら、将来の物価は上にも下にも変化し得る(わざわざ確率でモデル化しなくても、直観的に明らかだろう)。この際に、仮に物価が少々上昇しても(たとえば1%)、金融引き締めが行われないという予想が可能であることは、「将来予想される実質金利の期待値」を低下させる情報上の効果を持つ。
読者は、「期待インフレ率」や「実質金利」という言葉にはなじみがある一方で、少々耳慣れないかもしれないが、将来時点の実質金利の期待値(期待実質金利)という概念も考えることができることはご理解いただけよう。
そして、為替レートには「実質金利」が大きな影響を及ぼす。この実質金利の将来の居所に関する情報であるという意味で、将来の金融政策を示唆するインフレ目標の影響力は大きい。
実は昨年2月に、白川日銀総裁が日銀が目指す物価について「1%」の目処を(いわゆる「バレンタイン緩和」を)発表した後も、しばし数円の円安があった。しかし、その後に追加の緩和措置がなく、市場参加者から政策への本気度を疑われてしまったために、再び円高に戻ってしまった経緯があった。
アベノミクスにあっては、「2%のインフレ目標」が白川日銀総裁の「1%目標」よりも強く信じられ、その後に発表された「異次元緩和」がこれを裏書きしたことで、以前と比較して約2割動いた円安水準が維持された。
バレンタイン緩和とは違う
異次元金融緩和のメッセージ効果
勇ましく「異次元緩和」とはいうものの、その中身は大半は市場関係者が事前に予想していたものだった(予想できる措置を、惜しみなく全て並べた印象だったが)。しかし、おおむね予想に沿ったものとはいえ、バレンタイン緩和後のように、市場の期待を裏切らなかったことによって、「異次元緩和」は市場の期待形成に影響を与えるメッセージ効果を持っていた。
ゼロ金利の下では、ベースマネーを積み増ししても、日銀当座預金ばかりが膨らみ(いわゆる「ブタ積み」が増える)、必ずしも市中銀行の貸し出しにつながらないことは、よく指摘されるところで、かつての量的緩和でも今回の緩和でも、おおむね起こっていることだが、今回はインフレ目標と合わせて緩和を行うことで、主に為替以上の「期待」を動かすことができたと考えられる。
これまでの用語を使うなら、強化された「時間軸効果」が為替市場に効いた、と考えても良かろう。
主剤はむしろ「インフレ目標」の方であったかもしれないが、「異次元緩和」にも薬効があったと考えるべきだろう。市場に対して、実質的な意味を持っていた。損得に敏感でそれなりに計算高い市場関係者は、安倍首相が発したメッセージのムードだけに反応したというわけではない。
実質的な「資産価格誘導政策」
圧倒的に効いた円安と株価上昇
アベノミクスは、十数年続いた日本のデフレからの脱却を目指す政策だが、順序としていきなり物価に作用するわけではない。物価に影響を与えるまでには、少なからぬ時間がかかる。
アベノミクスは、実質的に「資産価格誘導政策」だ。前記のように市場の「期待」に働きかけて、為替レート、そして株価をはじめとする資産価格を好都合な方向に動かすことが第一段階の効果となる。
この点を明確に示したのは、4月4日の日銀の「異次元緩和」発表時の記者会見で、黒田総裁が「株式のリスク・プレミアムにまだまだ圧縮する余地がある」と述べたことだ。リスク・プレミアムを圧縮することは、利益や金利などの与件に変化がなくても株価が上昇することにほかならない。
これまでのところ、ETF(上場型投資信託)の購入などにも多少の効果はあったかもしれないが、株価に圧倒的に効いたのは円安だった。株式市場のバブルを心配する声もあるが、株価自体は東証一部の平均PERで16倍前後と益利回りに換算して6%程度あり、まだ「割高」といえる水準にはほど遠い。
市場で形成される価格に影響を与えることについては賛否両論があるが、いかなる経済政策も市場価格には影響を与え得る。株高を失業率の低下やデフレ脱却などの目標に沿った方向に用いることには、一定の正当性があろう。
円安、株高、加えて不動産価格の上昇は、企業業績の改善、投資の促進、消費の後押しの効果を持つ。
「儲かるのは、一部の企業と金持ちだけだ」との批判の声もあるが、企業が投資することや、株式などを持っているお金持ちがお金を使うと、効果は経済全体に波及するので、その他の人々にもメリットはある。
特に、企業が需要と収益見通しに自信を持って人を採用するようになると、雇用市場の再弱者である失業者や失業予備軍的な労働者が、雇用の機会を得ることになる。
一方、円安で輸入物価が上がっているのに、大多数の勤労者の賃金はまだ上昇していない。この状況を指して、「アベノミクスは物価を上げ、実質賃金を下げて勤労者の生活を苦しくしている」との声がある。
確かに賃金が上がっていないので、この批判は事実の的を外しているわけではないが、先に実質賃金が上昇してしまうと企業は人を雇わないだろうし、失業が減らなければ継続的な物価上昇は期待できない。
この段階(現在の状況を含む)のアベノミクスは、大多数の勤労者の薄く広い犠牲の下に、雇用市場の再弱者を助ける、一種の社会的ジョブ・シェアリングになっている。
現状は景気と雇用の改善段階
アベノミクスの波及経路とは
アベノミクスは期待に働きかける政策なので、安倍政権の成立が確実視されるようになった昨年11月をスタート時点として見ていいだろうが、これまでの間景気と雇用は改善している。
日銀短観の「大企業製造業」のディフュージョン・インデックスは、昨年12月調査で-12だったものが、今年の3月に-8、今年6月には+4、さらに9月調査では+12へと改善している。
また、雇用を有効求人倍率で見ると、昨年10月末の0.81倍から今年8月には0.95倍まで回復している。
アベノミクスは、(1)円安と資産価格の上昇、(2)景気と雇用の改善、(3)需給ギャップの解消と失業率低下、(4)賃金上昇を伴う継続的物価上昇の達成(いわゆる「デフレ脱却」)、という順序で波及すると考えられる政策だ。
現状は(2)の段階にあり、政策は機能していると考えて良かろう。
最終的な目標である物価の上昇はまだまだ先だ。消費者物価は8月には対前年比+0.8%とプラス側に転じてはいるものの、これにはエネルギー価格の影響が大きく、食品・エネルギー価格の影響を抜いた通称「コアコアCPI」は、8月時点ではまだ前年比-0.1%だ。
今後はどうなるか?
追加緩和で政策効果の積み増しも
景気・物価が傾向としては改善する環境下で、長期金利は現在約0.6%と低水準に抑えられている。これは、日銀による長期国債の購入が効いているものと考えられる。
他国の(特に米国の)景気及び金利との兼ね合いもあるが、追加的な緩和措置を発表することで、さらに円安・株高の環境をつくり出すことは可能だろうし、為替レートに関しては、リーマンショック前の110円〜120円程度のゾーンまでは「金融緩和の遅れを取り戻したことに伴う変化」として、他国の理解と容認が得られる範囲ではないか。
今後タイミングを見て、追加の緩和措置を取ることで、政策の効果を積み増すことが可能だ。
基本的には現状の政策を継続して、景気と雇用の改善を促しつつ、物価の上昇を待つことになるだろう。「2年で2%」が達成されるかどうかはわからないが、仮に達成が遅れたとしても、景気と雇用が改善するのであれば、アベノミクスは「良い政策」といっていいだろう。
一方、来年の消費税率引き上げが、総需要に対する抑制効果を持つことが間違いない。このインパクトを今から評価することは難しいが、その時点でアベノミクスの効果を上回る可能性は考えておく必要があるだろう。
物価の上昇に全般的な賃金上昇が遅れる政策の波及経路を考えると、可能であれば政策として一時的な消費税率の引き下げを考えたいくらいの状況なので、デフレ脱却前の消費税率引き上げは好ましい政策とはいえないが、悪影響が大きかった場合、追加緩和その他でその効果を相殺しつつ、10%への引き上げを早期に止めるなどの判断が必要になろう。
乱暴だが、あり得る予想の1つとしては、消費税率の10%への引き上げへの環境整備を求めて、為替レートと株価をさらに強く操作しようと財務省及び政権が日銀に追加緩和を求める可能性がある。
まだバブルではないが……
アベノミクス自体の副作用はないか?
株価から見る限り、資産価格はまだ「バブル」には至っていないことは前述の通りだ。
バブルは金融緩和「だけ」ではなかなか起こらないが、「2%の物価上昇に至るまで金融緩和を止めない」という政策なので、今後に注意は必要だろう。ただし、それは、かなり先の話だ。
日銀が大量の長期国債を保有した状態から、どのように「出口政策」を行うことができるかという問題はある。将来、金融引き締めが必要な状況になった場合、準備預金の付利と国債の売りを組み合わせて「出口」に向かうのが、オーソドックスな政策と思われる。
債券市場にそれなりのインパクトはあろうが、そもそも債券(特に長期債)はそれなりのリスクを伴うダイナミックな市場だ。金融機関のリスク管理が重要な問題となる。もちろんこの問題が、金融庁と日銀にとって重要であることは当然だ。
http://diamond.jp/articles/-/43376
日本の財政、破綻寸前ではない=安倍首相
2013年 10月 22日 16:13 JST
[東京 22日 ロイター] - 安倍晋三首相は22日午後の衆議院予算委員会で、日本の財政状況に関して、破綻寸前ではないと語った。
また、今回の消費増税は債務残高を直ちに減らさないが、財政再建目標に向けた大きな一歩だと語った。
佐藤正夫委員(みんな)の質問に答えた。
消費増税の判断に関して、国民は国が破綻する寸前だから増税は仕方ないと思ったのではないかとの質問に首相は「破綻寸前ではない」としたうえで、「政府としては持続的成長と財政健全化の双方を実現させるという観点から、段階的に財政健全化を図ることとしている」と説明した。
さらに基礎的財政収支の健全化目標に触れ、今回の増税で「債務残高を直ちに減らすには至らないが、(健全化)目標に向けて大きな一歩になる」と語った。
(石田仁志)
福島第1原発の汚染水、完全にブロックされている=安倍首相 2013年10月22日
賃上げに前向きな経済界の動き、今までにない大きな変化=首相 2013年10月21日
デフレ脱却は道半ば、2%の物価安定目標必要=安倍首相 2013年10月21日
国家戦略特区の意思決定、関係大臣は加えず=安倍首相 2013年10月21日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE99L05M20131022
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