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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第48回 思想の対決
http://wjn.jp/article/detail/5705744/
週刊実話 2013年10月31日 特大号
新古典派経済学に基づく新自由主義、グローバリズム、あるいは構造改革が目指すところは、要するに「小さな政府」である。
政府の機能は可能な限り小さくし、リソース(資金など)を可能な限り民間に使わせれば、経済が活性化し、国民経済が成長するという思想だ。
それに対し、政府は国民の安全保障強化を中心に、ある程度は支出を継続しなければならない、という思想がある。自民党で検討が進められている「国土の強靭化」も、こちらの思想に基づいている。
話をわかりやすくするために、前者を「新古典派」、後者を「ケインズ派」と呼ぶことにしよう。
特に、デフレーションという経済現象に対するアプローチが、両派は全く異なる。現在の日本政府及び自民党では、「新古典派」と「ケインズ派」が激しい路線争いをしている。デフレという視点から両派の違いを一言で書くと、「デフレは貨幣現象」派と「デフレは総需要不足」派の争いと言っていいだろう。
本来、現在の日本にとって最も適した政策は、「消費税増税延期+第二の矢である財政出動拡大」であると確信している。だからこそ、筆者は増税が決定される最後の瞬間まで「消費税増税延期」を訴えてきた。
ところが、現実には消費税増税が決定されてしまった。こうなると、次のポイントは、
(1) 消費税増税+財政出動拡大
か、もしくは、
(2) 消費税増税+法人税減税
のいずれの路線を今後の安倍政権が選択するかになる。
もちろん「消費税増税+財政出動拡大+法人税減税」という可能性もあるが、取りあえず現状を整理するために、(1)と(2)に分ける。なぜならば、(1)と(2)は「思想」が全く違うためだ。すなわち、「ケインズ派」対「新古典派」という話である。
(1)を主張している政治家は、まさに「デフレは総需要不足」派ということになる。とにかく、「今は」政府が財政出動でも何でもして、「需要」を創り、デフレギャップを埋めるしかない、という考え方だ。
それに対し、(2)を主張する政治家は「デフレは貨幣現象(貨幣の定義がよくわからないのだが)」であるため、デフレ対策は金融政策拡大で事足りる。それよりも、法人税を減税して、企業の競争力を高めるべき、という考え方になる。
もっとも、現在の日本が法人税を減税しても、法人企業の7割超には恩恵がなく、しかも(こちらの方が重要だが)、
「法人税を減税し、企業の純利益を増やしても、国内の設備投資や雇用拡大、賃上げにはつながらないのでは?」
という疑問(というか疑念)を禁じ得ないのだ。
何しろ、現実の日本国内の「余裕がある企業」は、内部留保の現預金をひたすら積み上げていっている。'97年以降、日本の一般企業は現預金額をおよそ50兆円も増やしている。デフレが継続している以上、法人税を引き下げ、企業の純利益を増やしたところで、国内の投資や賃上げには結びつかない可能性があるわけだ。
ところで、なぜ新古典派の政治家は「消費税増税+法人税減税」を主張するのか。
そもそも、新古典派経済学の理想的な税制は「法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は『人頭税』のみ」という組み合わせなのである。
人頭税とは「国民一人あたりの行政コストを均等に負担させる税」であり、行政の負担を国民に意識させ、小さな政府を実現することを可能とする税制だ。小さな政府を目指す新古典派にとっては、人頭税とはまことに「美しい税制」になるわけだ。
とはいえ、人頭税の導入は政治的に不可能に近いため、現実には「法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は消費税のみ」が落としどころとなる。
さすがに、国防や治安維持、消防などに最低限の税金は必要であるため、税金は取らなければならない。同時に、法人税や所得税をゼロにし、各人、各企業が自らの所得を「自由に」使うことができれば、経済は活性化し、国民経済が成長する。
税金は消費税で国民万遍なく徴収すべし、というアプローチなのである。
社会保障はどうなるかと言えば、「小さな政府」を目指す人達にとって「社会保障など不要」というのが基本コンセプトだ。
だが、現実には社会保障なしでは餓死する人が出かねないため「ベーシックインカム(負の所得税)」で対応すればいい、という話になる。
さらに、労働規制を緩和し、最低賃金制度を引き下げるか、撤廃。とにかく政府の規制は小さければ小さいほどいい。
自治体同士の競争を引き起こすためには、道州制だ。国境を越えた規制も、緩和もしくは撤廃。自由貿易だ、TPPだ、グローバルだ、という話なのである。
いろいろと「繋がっている」とは思われないだろうか。
というわけで、安倍政権の経済政策面の次なるマイルストーン(物事の進捗を管理するために途中で設ける節目)は、今年の12月となる。
すなわち、安倍政権が補正予算として財政出動を(不十分とはいえ)拡大するのか、あるいは「無条件の法人税減税」に踏み切るかである。
安倍政権は消費税増税を決定すると同時に、補正予算の規模と法人税減税の「検討」を発表した。
6兆円規模の補正予算の詳細と、9000億円規模の法人税減税を実施するか否かが、今年の12月に決定される。
安倍政権が「不十分な財政出動と、無条件の法人税減税」という道を選んだ場合、まさに「小さな政府」を目指すと宣言したに等しく、我が国のデフレは深刻化し、国民の所得縮小が「これまで通り」続くことになるだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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