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2016年までタックスヘイヴンへの逆風は続く[橘玲の世界投資見聞録](ダイヤモンド・オンライン) 
http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/311.html
投稿者 かさっこ地蔵 日時 2013 年 10 月 19 日 18:22:25: AtMSjtXKW4rJY
 

http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20131019-00043149-diamond-nb
ダイヤモンド・オンライン 2013/10/19 10:10 橘玲


 前回、ジャージー島の金融機関から送られてきた手紙を例に、タックスヘイヴンをめぐる国際環境が大きく変わりつつあることを書いた。

 [参考記事]
●イギリス、ジャージー島の金融機関が情報開示へ EU居住者のタックスヘイヴンのメリットが消滅

 今回は、ロナン・パラン、リチャード・マーフィー、クリスチアン・シャヴァニュー『[徹底解明]タックスヘイブン――グローバル経済の見えざる中心のメカニズムと実態』(作品社)を紹介しながら、この問題を考えてみたい。

 本書の著者のうちパラン、シャヴァニューには『タックスヘイブン――グローバル経済を動かす闇のシステム』(作品社)という共著があり、本書はそれに新しい知見と調査結果を加えたタックスヘイヴン研究の決定版だ。

 著者たちは税の公正な執行を求める立場からタックスヘイヴンに批判的だが、その叙述は偏向したイデオロギーにはとらわれず、客観的なデータに基づき、中立的な立場から「税の楽園」の謎に迫ろうとしている。

● 世界最大のタックスヘイヴンはイギリスとアメリカ

 本書を一読すればタックスヘイヴンの歴史から現状、将来までを俯瞰できるが、400ページを超える大著に目を通す余裕のあるひとばかりではないだろうから、著者たちの主張を要約してみよう。

 (1)タックスヘイヴンはグローバル経済の中心であるが、その事実はこれまで隠蔽されてきた

 タックスヘイヴンはヨーロッパの小国やカリブの島国、香港・シンガポールといった都市国家(地域)など“周縁”の問題だとされてきたが、「世界のマネーストック(通貨残高)の半分はオフショアを経由している」「外国直接投資(FDI)総額の約30%がタックスヘイヴンを経由して投資されている」との専門家が指摘があるように、タックスヘイヴンこそがグローバル経済の隠された中心だ。

 一例をあげれば、中国に対する最大の投資国は香港、2位は英領ヴァージン諸島で、その後に韓国と日本が続く(2007年)。また日本からの証券投資がもっとも多いのは米国向けの約94兆円だが、第2位はケイマンの約15兆円だ(2012年)。

 同書では、2004年6月現在、全銀行の預金総額14兆4000億ドルのうち5分の1の2兆7000億ドルがオフショアに保有されているというデータも紹介されている。

 (2)世界最大のタックスヘイヴンはアメリカとイギリスだ

 アメリカはスイスやケイマンなどの低税率と守秘性(銀行秘密法)を厳しく批判しているが、非居住者による米国への投資には税の優遇措置があり、デラウエア州やネヴァダ州はきわめて企業に有利な法体系を有している。

 イギリスはジャージー島、ガーンジー島、マン島の王室属領、ケイマンやジブラルタルなどの海外領土、シンガポール、キプロス、バヌアツのようなイギリス連邦加盟国、香港などの旧植民地がタックスヘイヴンのグローバルネットワークを形成しているほか、ロンドンのシティ自体がイギリスの金融政策から事実上独立したタックスヘイヴンになっている(この問題はきわめて興味深いのであらためて書くことにする)。

 この両国(地域)に次ぐタックスヘイヴンとしては、スイスや香港、シンガポール、ドバイのほかに、グローバル企業に法人税の優遇措置を提供するオランダとアイルランドがある。

 (3)タックスヘイヴンを生み出したのは先進国の金融機関と法律・税務の専門家集団だ

 典型的なタックスヘイヴン(カリブの島国)は人的資源に乏しく、金融や税務の専門家もおらず、政治家はまったくの素人だ。彼らはウォール街やシティの金融機関、大手法律事務所や会計事務所が考案した税の最小化に最適な政策・法律パッケージを受け入れて、(形式上)民主的な手続きによってそれを実現する。

 タックスヘイヴンとは場所(国)のことではなく、こうした専門家集団が「国家主権」を利用して生み出した特殊な法域(Jurisdiction)のことだ。

 (4)タックスヘイヴンの最大の優位性は税率が低いことではなく、銀行秘密法などの守秘性にある

 たんに税率が低いだけでは世界じゅうの富を集めることはできない。資金の真の所有者(受益者)が開示されれば、その居住国の税法によって課税されるからだ。そう考えれば、タックスヘイヴンの最大の魅力は、居住国の税務当局から課税情報を秘匿する銀行秘密法などの守秘性にあることがわかる。

 たとえばアジア金融危機後の2001年、リー・クアン・ユーの息子で当時はシンガポール副首相、財務大臣、金融管理局長官を兼務していたリー・シェンロン(現首相)は、タックスヘイヴンとしての優位性を確立するためになにをすべきかを徹底的に研究し、スイスよりもはるかに厳しい秘密保持条項を持つよう銀行法を改正した。シンガポールでは、銀行口座の秘密を第三者に提供した者は最高12万5000シンガポールドル(約1000万円)の罰金ないし禁固3年、もしくはその両方を科せられる。

 アメリカのFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)やEUの貯蓄課税協定が金融機関・タックスヘイヴンに口座情報の全面的な開示を求めていることも、この文脈から理解できるだろう。

 (5)タックスヘイヴンの真の問題は個人の脱税ではなく、グローバル企業の租税回避だ

 タックスヘイヴンというと個人の脱税や(武富士元会長の長男のような)租税回避にばかり注目が集まるが、先進国の税体系を歪める元凶は企業誘致のための法人税引き下げ競争(底辺への競争)と、租税条約などを利用して納税額を最小化しようとするグローバル企業の税務対策(条約あさり)だ。移転価格や過小資本を利用した高税率国から低税率国への資金移動や、有利な租税条約を組み合わせた節税法の多くは現行法では適法とされている。この問題に切り込まず、個人の脱税や一部有名企業の過少な税額をバッシングしているだけではタックスヘイヴン問題は解決できない。

 ちなみに著者らは、グローバル企業に国別の財務・会計情報を開示させて、売上げに応じて納税する制度を提唱している。

 (6)タックスヘイヴンは貧しい国から富を流出させることでより貧しくしている

 アフリカなど資源国の多くが世界の最貧国なのは、資源を売って得た資金がタックスヘイヴンに流出して自国のインフラや教育に再投資されないからだ。タックスヘイヴンはこうした国の独裁者や富裕層にキャピタルフライトの機会を与えることで、結果的に貧しい国々のひとびとを苦しめている。

 こうした批判は最近よく見かけるが、これについてはそのまま受け入れるには疑問がある。

 中国では汚職が蔓延し、国家や地方政府の共産党幹部は巨額の裏資金を国外に逃避させている。しかしこうした資金の多くは、香港やBVI(英領ヴァージン諸島)を経由してふたたび中国国内に投資されている。これは考えてみれば当たり前で、資金の投資先を考えたとき、もっともよく知っているのは自分の国だからだ。

 最貧国に資金が還流しないのはそもそも国内に投資機会がないからで、この問題はタックスヘイヴンを絶滅させたとしても解決しないだろう。

● 米国の政権交代でタックスヘイヴン対策が進んだ

 「タックスヘイヴン対策」として、これまでOECD(経済協力開発機構)やFATF(金融活動作業部会)が有害税制のブラックリストを公表したり(名前を公表して恥をかかせる戦略)、二国間の租税情報交換協定(TIEA)を締結することが行なわれてきたが、ほとんど効果がなかった。

 ブラックリストに載せられた国は最低限の法改正をしてリストから逃れ、香港をリストに載せようとすれば中国が強硬に反対し、「最大のタックスヘイヴン」であるアメリカやイギリスはOECDの主要加盟国なのでそもそも議論の対象にすらならない。

 租税情報交換協定は、追及する側の税務当局が提供を求める情報を特定しなければならず、それへの対応もそれぞれの国に任されている。かたちだけ協定を結んで、実際はサボタージュすることがかんたんにできてしまうのだ。

 こうしたことから著者たちは、タックスヘイヴン対策にきわめて懐疑的だった。しかし2008年を境に流れは大きく変わりはじめた。これには3つの要因がある。

 (1)世界金融危機とリーマンショック、ユーロ危機によって先進諸国で経済格差が拡大し、ひとびとが税の不公正を強く意識するようになった。

 
(2)それを追い風として、EU加盟国のうちドイツやフランスが域内(ヨーロッパ内)のタックスヘイヴンに対して強硬な姿勢を示すようになり、貯蓄課税協定の運用強化で口座情報の自動開示へ道を開いた。

 
(3)米国で、タックスヘイヴンを黙認する共和党(ブッシュ)政権から税の公正を掲げる民主党(オバマ)政権へと政権交代が起きた。

 本書の著者たちは、とりわけ米国の政権交代が与えたインパクトが大きいとする。G20やOECDをはじめとして、国際政治はいまも米国が主導しているからだ。

 ブッシュ政権の財務長官ポール・オニールは2001年5月、「アメリカはいかなる国に対してもその国そのものの税率あるいは税制がどうあるべきかについて命令するような取組みを指示せず、世界の税制を調和させようとするいかなるイニシアチブにも参加しない」と宣言した。これでOECDのタックスヘイヴン対策は頓挫したが、タックスヘイヴンを「不道徳」として攻撃するオバマ政権の誕生で息を吹き返した。逆にタックスヘイヴン国は、後ろ盾を失って土俵際まで追い詰められている。

 こうした見方に立てば、すくなくとも次の米大統領選がある2016年までは、タックスヘイヴンに対する国際社会の逆風は続くことになるだろう。


 

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