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不安定さを増す日本の綱渡り
2013年10月18日(Fri) Financial Times
(2013年10月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
東京の商業地区、銀座の明るい照明のように、日本は今年、世界中の投資家を魅了してきた。日経平均株価は40%近く上昇し、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」はうまくいく兆候を示している。経済成長は加速しており、デフレに見舞われた「失われた20年」の後で、輸入エネルギーコストの上昇を背景としたものだとはいえ、消費者物価は上昇しつつある。
東京では、日本が経済的な麻痺状態から抜け出す道を見つけたと考える楽観論者を見つけるのは容易だ。だが、日本を訪れた人は、日本の金融政策の実験の規模にも感心する。
国の経済規模と比較した場合、日銀のバランスシートは米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)のバランスシートよりも大きく拡大している。市場が災難を被る余地が大きいという結論を下すのは避け難い。
現在、日本政府の大きな懸念材料は、米国の財政問題が世界経済の回復を頓挫させることだ。日銀は、マネタリーベースを2年以内に2倍にするという大規模な量的緩和(QE)で円を急激に押し下げ、それによって輸出業者を助け、輸入物価を上昇させている。
安全な避難先としての魅力
だが、最近では、日本円は投資家にとって安全な避難先になっており、ワシントンの混乱への不安からドルに対して強くなっている。
国際通貨基金(IMF)が先週、世界経済の成長見通しを下方修正したことも、景況感の助けにならなかった。世界経済の回復が躓くようなことがあれば、楽観論が消え去り、アベノミクスにヒビが生じる可能性がある。
市場を最も感心させているのは、外国人投資家の間だけでなく、国内でも経済的な楽観論を後押しすることにアベノミクスが成功してきたことだ。最新の日銀短観は、大企業と中堅企業の間で景況感が2007年後半以来最も高くなっていることを示している。これは、中央銀行の信頼性をかつてないレベルまで活用した黒田東彦総裁を鼓舞するものだ。
日銀は十分な確信を持ってインフレ率が2年以内に2%に達すると主張することで、企業、消費者、投資家がそれ相応の計画を立てるようになり、日銀の目標が自ずと実現することを期待している。実現しなければ、どうなるのか? 日銀はさらにQEを拡大するだけだ。
日本をデフレ不況から引っ張り出されれば、重要な成果になるだろう。だが、持続的な経済成長を生み出すためには、アベノミクスは企業の考え方を変えることにさらに踏み込まなければならない。
20年間のデフレによって、日本企業は、1990年代以前の期間に見られた拡張的な世界一の「肉食動物」よりも、むしろ負債圧縮とコスト削減を重視する「草食動物」になってしまった、とみずほ総合研究所のチーフエコノミスト、高田創氏は警鐘を鳴らす。
新たな肉食の傾向を見つけるのは難しい。1つの物差し――株式市場での新規上場の数――は、ほとんど点滅していない。ディール・ロジックによると、今年に入ってからの新規株式公開は39件で、2012年実績からはわずかに増加しているものの、2007年以前の年間100件余りを大幅に下回っている。
企業幹部や政治家、アナリストと1週間話をした後で残った印象は、好転には長い時間がかかるというものだ。東京都心に近い産業開発地域の大田区では、油圧シリンダー専門メーカーの高齢の会長が、管理の行き届いた工場を自慢げに披露してくれた。
だが、最も高価な機械を更新する計画はあるかと聞くと、会長はほほ笑みながら答えた。「我々は辛抱強くなくてはなりません」
第3の矢
日本の国会は15日、安倍政権の成長政策――経済計画の「第3の矢」(第1の矢は金融面の景気刺激策、第2の矢は的を絞った財政政策)――について議論を開始した。だが、例えば労働市場改革などでは、既に計画にズレが生じている。
成長がなければ、日銀の綱渡りは一段と不確かなものになるだろう。ワシントンの政治以外にも、差し迫った危険性(このような積極的な金融政策の長期的な結果は無視しておく)は、価格と逆の動きをする、日本国債の利回りの上昇だ。
公的部門の債務が国内総生産(GDP)の200%を超える水準まで増加しているにもかかわらず、中央銀行の行動によって借り入れコストは抑えられており――米国の10年物国債の利回りが2.7%なのに対し、日本の10年物国債の利回りは依然0.7%を下回っている――、政府の増税能力に対する投資家の信頼が安定化要因として働いている。
だが、利回りが上昇すれば、日本政府の借り入れコストは急激に増加し、日本の銀行のバランスシートを悪化させるだろう。
考えられる脆弱性の予兆は、黒田氏が4月に日銀総裁を引き継いだ直後にやって来た。その時は、国債利回りが急上昇し、FRBが米国のQEの規模縮小を示唆した5月に起きた世界的な大揺れの前触れとなった。
このエピソードは、今は解決された中央銀行のコミュニケーション上の問題が原因だったとされている。また、債券投資家は、アベノミクスの下での均衡価格を判断するのがうまくなったかもしれない。だが、あれが最後の混乱だった可能性は小さい。
By Ralph Atkins
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38957
コラム:投資家は米不安を静観、ストレス度で見抜く相場動向=竹中正治氏
2013年 10月 17日 14:42 JST
竹中正治 龍谷大学経済学部教授(2013年10月17日)
金融・投資活動のグローバル化が進んだ今日、相場(資産価格)変動リスクの上昇、または投資家のリスク許容度の低下、あるいはその双方が同時に生じる状況は、ご承知の通り「リスクオフ」と呼ばれている。
リスクオフの局面では国際的な信用の縮小(金融デレバレッジ)、新興国からのマネー流出、各種のリスク性資産価格の下落が見られる。その度合いが著しい場合には、金融・通貨危機に至り、実体経済に大きなダメージを与えてきた。人間にたとえるならば、心身のストレス度が強まり、脈拍数や血圧が上昇する状態だ。
反対に「リスクオン」と呼ばれる状況では、国際的な信用の拡大(金融レバレッジの拡大)、新興国へのマネー流入、リスク性資産価格の上昇が生じ、投資家の間には楽観的なセンチメントが広まり、リスクの過小評価、ひいては資産バブルが起こる。
また、投資家のリスク許容度と市場の変動性は相互依存的だ。つまり、投資家のリスク許容度を低下させるようなショック(たとえば他市場での大きな損失の発生など)が起こること自体が、市場を不安定化させ、リスク度を上昇させることもある。逆に市場の不安定性(あるいは目先の不透明感)の高まりが投資家のリスクテイクを委縮させる(リスク許容度の低下)こともあり得る。
ともあれ、こうした投資家のリスク許容度と市場の変動リスクの関係から生じるリスク要因を本稿では「市場のリスクストレス度」と呼ぶことにしよう。世界の株式、債券、為替相場は実体経済のファンダメンタルな条件に変化がなくても、このリスクストレス度の変動で短期的・中期的に大きな上下動を繰り返していると言えるだろう。
<VIX指数だけでは不十分>
心身のストレス度を脈拍や血圧の変化で判断できるように、世界の金融資本市場のリスクストレス度をわかりやすい指数で示すことはできないだろうか。それができれば、米国における財政協議や量的緩和(QE)縮小の開始時期をめぐる混乱で不透明感が増す相場の先行きに対して、何がしかの予見的含意を引き出しやすくなるはずだ。
この点では、米国の株価指数S&P500を対象にした1カ月物オプションの予想変動率(implied volatility)を示すVIX指数が市場関係者の間ではよく知られている。VIX指数の上昇は株式相場の変動性の上昇、または投資家のリスク回避志向の強まり、あるいはその双方を示すので「恐怖指数」とも呼ばれている。
また、米連邦準備理事会(FRB)が日次で公表している社債プレミアム(AaaとBaa格付けの社債利回りの格差で示されるリスクプレミアム)もVIX指数と高い相関関係があり、同様にリスクストレス度を表す指標として利用されている。
しかし、VIX指数も社債プレミアムも米国の株式市場、債券市場に対象が限定された指標にすぎない。したがって、日本やユーロ圏、さらに次第に存在感が増す新興国まで含めた世界の金融資本市場のリスクストレス度を示す指標としては一定の限界があるだろう。先進国から新興国まで主要国の株式、債券、外為市場を包含するリスクストレス度を指数化することはできないだろうか。
そこで筆者は国際通貨研究所との共同で、グローバルな金融資本市場のリスク度を表す指数として「世界市場変動リスク指数(IIMA Global Market Volatility Index:略称IIMA―GMVI)」を考案し、同研究所ホームページにて週次で公表を開始した。
この指数は、新興国を含む世界の主要諸国(22カ国)の株式市場、債券市場、外国為替市場の日々の相場の動きに基づき、世界の金融資本市場の過去20営業日間の変動率(historical volatility)を算出・合成したものだ。1.短期・中期の相場動向の解析、2.投資リスクの判断材料、3.市場の平時から危機への移行判断に役立つ客観的な指標を提供することを目的にしている。
論より証拠で、当該指数の推移と世界金融資本市場で起こった危機イベントを示したのが下の図である。1990年代後半以降に起こった大小の危機イベントの勃発とその規模に応じて同指数の値が跳ね上がり、危機の収束に合わせて低下しているのがわかるだろう。指数は長期平均が「3.0」になるように設定されている。
概括すれば、「3.0」以下は世界金融資本市場が安定しており、一般に投資家のリスクオンの姿勢が強まる楽観局面(ブルーゾーン)だ。「3.0から4.0」は一般に投資家のリスクオンからリスクオフへの転換が起こる小波乱局面(イエローゾーン)であり、「4.0から5.0」は地域的な金融・通貨危機が起こる可能性が高まる中波乱局面(オレンジゾーン)である。そして「5.0」以上はグローバルな伝染性をもった金融・通貨危機が起こる大波乱局面(レッドゾーン)だ。
<リスク指数と株価の高い相関関係>
実際にこの指数が国際的な金融資本市場の変化に対する説明力を持っていることを示そう。たとえば、新興国の株価変動はグローバルな投資家のリスクオフ、リスクオンの状態に強く依存していると考えられている。
そこで95年1月から13年9月の期間について、主要新興諸国の合成株価指数として知られているMSCIエマージング指数の対前年同日比変化(%)をIIMA―GMVIの対前年同日比(階差)で単回帰してみた。すると、結果は有意、すなわち関係性は偶然ではないことを意味し、相関関係は逆となる。逆相関の度合いを示す相関係数はマイマス0.59(ゼロの場合に相関なし、マイナス1.0の場合に完全な逆比例関係)、説明度を示す決定係数は0.35。2005年1月から13年9月の期間だと、同様に相関係数はマイナス0.67、決定係数は0.44となる。これはMSCIエマージング指数の対前年同日比変化の44%は、IIMA―GMVIの変化で説明できることを意味する。
念のために言い添えると、各種相場の変動性(volatility)で算出されるIIMA―GMVIは、相場変化の方向性に関する要素は全く含んでいない。にもかかわらず、MSCIエマージング指数の前年比の変化とこれだけの相関度が見られるのは、IIMA―GMVIで計測された市場変動リスク度に強く影響を受けて株価指数が上下動している結果だと考えられる。
また本稿掲載の図は、株式、債券、為替相場(対ドル)の3要素からなる指数の内訳がわかるように、3つの構成要素の値を重ねたグラフで示してある。危機につながる市場のリスク度の上昇がどの市場で最も強く起こったのか、そのことによって危機の性質を区別できる。たとえば、08年のリーマンショックで最も大きくリスク度が跳ね上がったのは株式市場(斜線部分)である。一方、10年から12年に起こった欧州債務危機は、3つの危機の山場に分かれ、いずれも債券利回りのリスク度(灰色)が主に跳ね上がっていることがわかる。
<足もとは小波乱の域にも達してない>
IIMA―GMVIが計測するものはあくまでも直近の市場のリスク度であって、将来の相場動向に対してそれ自体に先行性があるわけではない。この点はVIX指数なども同様である。ただし、株価指数の動きと対照して見ることで将来の相場変動について予見的含意を引き出すことができそうだ。
たとえば、95―97年のアジア通貨危機に先立つ時期、また04―07年のサブプライム危機とリーマンショックに先立つ時期に指数が「3.0」を大きく下回って「2.0」を割り込む水準まで低下していることにご注意いただきたい。IIMA−GMVIが長期的な平均値である「3.0」を大きく下回る状態が長く続く場合は、投資家層にリスクの過小評価姿勢が強まっていることを含意している(一種のバブル局面)。その結果、その後に調整・反動として大波乱局面(リスク評価の調整=バブル崩壊)が到来する可能性を示唆していると言えよう。
またそれとは反対に、アジア通貨危機発生の翌年(98年)やリーマンショックの翌年(09年)など大きな危機局面の直後に、IIMA―GMVIの低下(市場リスク度の低下)が、MSCIエマージング指数が示す相場回復に先行しているケースが見られる。そうした局面は投資のチャンスと判断できる。おそらく大きな危機と株価の暴落の直後には、多くの投資家が一時的に放心状態や過度な悲観に陥ることで、市場リスク度が再び低下してもリスクテイクの意欲がすぐには回復しないからだろう。
最後に、米連邦政府の財政予算と債務上限引き上げ問題をめぐる議会の与野党対立が引き起こした先行き不透明感で、足もとの株式市場はやや神経質な動きをしてきた。しかし、与野党の暫定合意が見えず、こう着状態に入っていた先週金曜日11日時点でもIIMA―GMVIの水準は2.62であり、小波乱の域にも達していなかった。S&P500のVIX指数も9日に一時21%と平時としてはやや高めの水準まで上がったが、11日には16%割れの平穏な水準まで低下している。
米国の政府債市場ではゼロ%近傍だった短期債の利回りが0.3%に上昇したが、投資家層がこの問題を長期的に深刻な問題と受け止めているならば、そもそも米国の長期金利が不安定化するはずであるが、そうした状況にはなっていない。すなわち株も債券市場も、共和党と民主党が一種のロシアン・ルーレットのような致命的な政治ゲームを最後までやるとは、今回も本気で予想していなかったということだろう。
*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。新著に「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE99G04N20131017
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