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【第13回】 2013年10月17日 芥田知至 [三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員]
米国の量的緩和縮小先送りと
世界景気減速懸念で横ばい続く
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現在の国際商品市況は、品目ごとに異なるリスク要因で相場が動いている。日々相場の方向性が変わる品目が多く、全体としては明確なトレンドが見えにくい。
金は、米国の金融政策に敏感である。9月18日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)の量的緩和縮小(テーパリング)先送りを受けて大幅に上昇した。縮小開始時期に関する市場予測が大幅に後ずれしたためだ。しかし、20日にセントルイス連邦銀行総裁が次回10月30日のFOMCでのテーパリング開始の可能性もあると発言したことを受けて売り戻された。
原油は、中東情勢に左右される状況が続いた。8月下旬には米国による対シリア軍事介入が近いとの観測が強まったが、その後、外交的解決の可能性が高まった。9月27日には米国とイランの首脳による電話会談も実現した。
銅やアルミニウムは、米国や中国の経済政策や景気動向に対する思惑で変動している。足元では、中国景気に持ち直しの動きが見られるが、米国の債務上限問題による景気減速懸念などが上値を抑える要因となっている。
各商品が個別の要因によって変動して、全体としてはトレンドがないという状況は2013年を通じて続いている。この結果、米国を中心に株価は高値圏にあるのに対して、国際商品市況は全体として横ばいでの推移が続いている。
株式と国際商品には、低金利が押し上げ要因になる、長期保有するとインフレヘッジになるという共通の性格がある。しかし、過去の値動きを見ると、株式市況と国際商品市況の連動性はそれほど高くない。原油や金属など燃料や原材料の値上がりは企業収益を抑制する要因になること、原油高などによるインフレ懸念を受けた長期金利が株価の頭を抑えることなどがその理由である。
13年の両者の値動きの相違には、原油や金属の供給力が向上していることも影響している。資源開発投資は、リスクが大きいため、資金が潤沢で需要見通しが良好なタイミングを用心深く見計らって行われる。その結果として、世界各地で同時期に資源開発投資が行われることになり、世界景気が減速すると、一時的に大幅な超過供給に陥ることがしばしば起こる。足元では、供給力が増加する中で、需要の増加テンポが想定よりも緩やかなため、需給が緩和気味になりやすい。
もっとも、国際商品の需給バランスが大幅な供給超過に向かっているわけではなさそうだ。供給超過の傾向が強い品目の一つであるアルミニウムについても、中国を中心に需要は増え続けている。競争力のない供給設備が淘汰される動きもあり、景気拡大によって需要の増加テンポが速くなれば、国際商品市況には需給面から上向きの圧力が生じるだろう。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
http://diamond.jp/articles/print/43030
どうなる?「アベノミクス」vs「メルケルノミクス」
ドイツの「意趣返し」で思わぬユーロ反落リスクも
2013年10月17日(木) 武田 紀久子
安倍晋三首相と彼が掲げた「アベノミクス」は過去1年、「5勝3好転」という絶好調の成績を収め、一見すると“向かうところ敵なし”の状況に思われる。
まず、「5勝」というのは、選挙という選挙すべてに大勝利を収めていることを指す。具体的には、自民党総裁選(2012年9月)、衆議院選挙(2012年12月)、東京都議会議員選挙(2013年6月)、参議院選挙(2013年7月)、そして、国際オリンピック委員会(IOC)総会での五輪招致決選投票(2013年9月)の5つだ。
そして、「3好転」とは、「アベノミクス」のもとで経済金融情勢が3つの点で改善していることを指す。つまり、大幅な円安・株高という「市場の好転」、物価予想など「期待の好転」、そして、国内総生産(GDP)成長率が2四半期連続で前期比年率3%を超えるなど「実体経済の好転」の3つである。
メルケル独首相やドイツ連銀がアベノミクスを批判
ところが、そのアベノミクスを表立って批判する人物が欧州にいる。「欧州の覇権国家の首領であると同時に、現在の欧州で最も優れた政治家」(英エコノミスト誌)であり、9月の総選挙で同じく歴史的大勝利を収めたドイツのアンゲラ・メルケル首相だ。
振り返れば、メルケル首相は、今年1月の段階で、円安への懸念を表明。スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムでの講演後の質疑応答で、「(為替操作の観点で)今の日本を見ていて全く懸念を感じないとは言えない」と穏当な表現ながらも、明快に円安を牽制した。
さらに、今年6月に開催されたG8サミット(主要8カ国首脳会議)の席上でもアベノミクスを批判。報道などによれば、アベノミクスについてメルケル首相は、全体会議と日独首脳会談の双方で「デフレ脱却の必要性は理解するが、日本は大変な財政赤字を抱えている」「金融緩和の出口戦略をどう考えているのか」、そして、「通貨安競争に陥るリスクもある」などと発言。各国首脳が総じて賛意を示す中で、副作用への懸念などに触れて、1人異議を唱えたのがメルケル首相であったという。
ドイツ発のアベノミクス批判はメルケル首相だけに終わらず、続く8月には、ドイツ連邦銀行(中央銀行)もこれに正式に加わっている。同中銀は8月19日に発表した月報で、「日本の新経済政策のマクロ経済的示唆について」と題するコラムを掲載。「2013年にはGDPを1.25%程度押し上げるが、翌年にはプラス作用が縮小し、2015年には逆に景気の下押し圧力が顕在化する」などとしている。
あわせて「他国に比べ労働組合の力が弱い日本では賃金上昇を実現することが難しい」「政府の金融政策への関与が増しているが、歴史的に見て、中央銀行の独立性は物価と成長の長期安定に重要である」「消費税引き上げと財政刺激策の効果が切れる時期が重なる」「財政出動の繰り返しによって将来の財政政策の柔軟性が奪われる」などと、総じて辛口のトーンでまとめられていた。
背景にはドイツ固有の「歴史の教訓」と「危機の教訓」
ドイツがこうしてアベノミクス批判を続ける背景には、月並みな指摘ながら、第1次世界大戦後の紙幣大量発行によりハイパーインフレに見舞われ、通貨制度の瓦解を経験したというドイツ固有の「歴史の教訓」がある。そうした歴史的トラウマを抱えて第2次大戦後に誕生したドイツ連銀は、中央銀行の独立性を信奉すると同時に、その存在理由である法的責務を「物価の安定」に置いた。
こうした背景から、ドイツ連銀は世界最強のインフレファイターとして、ドイツ、並びに世界の物価安定に寄与してきたという自負が強い中央銀行となった。
目下、先進国がこぞってインフレではなくデフレリスクに直面していること、あるいは欧州中央銀行(ECB)が発足したことによって、ドイツ連銀の立ち位置や存在感に以前ほどの影響力はなくなっている。それでも、歴史の経緯を振り返れば、「アベノミクスへの辛口批評がドイツから出ること自体は致し方なし」に思われる。
ドイツ発のアベノミクス批判のもう1つの背景は、「危機の教訓」だ。2009年に発覚したギリシャの粉飾財政問題を端緒に、ユーロ圏は過去4年間、「債務危機」の難題に直面してきた。
ドイツは域内で景気後退が厳しくなる状況下にあっても、重債務国に対して緊縮的な財政運営を強く要求。フランスも含めた南欧を中心とする国々の不満を押さえ込むのに苦労をしてきたメルケル首相にとってみれば、国際会議の席上、アベノミクスを手放しで礼賛するわけにはいかない、という内輪の事情も察せられる。
仏紙は「アベノミクス」より「メルケルノミクス」に軍配
ドイツ連銀の8月の月報が発表された翌日、フランスの経済紙レ・ゼゴーに「アベノミクスかメルケルノミクスか、どちらの道をとるべきか」と題する論文が掲載された。「アベノミクスは欧州の政財界も注目しているが、最後の賭けともいうべきリスクの高い政策」とし、「その対極にあるのが『メルケルノミクス』であり、両者の共通点は構造改革だけ。中期的にはメルケルノミクスに見習うべき」と、こちらは同胞ドイツに軍配を上げていた。
ちなみに筆者は、レ・ゼゴー紙のような二者択一の議論はあまり意味のある作業だと思わない。どちらの政策もそれぞれの国・地域において、極めて困難な長期課題に対応するために「これしかない」という瀬戸際の緊張感で打ち出された施策である。
そして、両国の政策はこれまでのところ大きな成果を上げている。さらに、それらを映して、いずれの指導者も有権者から極めて高い支持を獲得している。特に欧州では、ドイツ連銀ら当局による“宣伝効果”もあって、日本とドイツが対極的な経済政策を推進しているという図式が、浸透してきているのかもしれない。
ユーロ高に対し、ドイツが政治対応の意趣返し?
一方で、筆者は、外国為替相場を予想する観点から、ドイツのアベノミクス批判で「通貨安競争」(メルケル首相)や「円安の負の作用の拡散」(ドイツ連銀)といった言葉が繰り返されていることがやや気になっている。
選挙で連勝続きの安倍首相に劣らず、メルケル首相の人気も極めて高いが、それは、ドイツが目下、好景気を享受していることが最大の援軍になっている。好況の源泉は外需依存の輸出ドライブにあるため、対外競争力に直結するユーロ相場の増価や減価に、当然、無関心ではいられないだろう。
他方、円安の影響について、前出のドイツ連銀月報では「直接競合する部分は小さいものの、自動車セクターなどの特定分野で、第3国市場における長期的なシェア縮小などに繋がる可能性は否定できない」と、これも警戒的なスタンスが示されている。
既述の通り、メルケル首相も加わる形で、今年1〜2月に欧州当局からユーロ高を警戒する大合唱が起きたが、その前の約2カ月間の主要通貨の騰落率を見れば、対円でのユーロ高が突出して進行していた(図1参照)。そして、その状況は足元まで続いている(図2参照)。
昨年末以降の大幅な円安は、アベノミクスという「政治要因」と渾然一体となって進行してきた。また、今年の秋口以降には、財政問題の混迷化など米国の「政治要因」を受けて、ドル安進行の受け皿通貨としてユーロが上昇している。
ドイツから見れば、いわば、日米の政治要因で意図せぬ自国通貨高圧力に晒されている状況にある。歴史的経緯からも、また、現在抱える課題をかんがみても、アベノミクスに賛同できないドイツが、日米の「政治要因」に対する意趣返しとして、口先介入などによる明示的なユーロ高牽制を選択する可能性が少しずつ高まっているように見受けられる。
このコラムについて
Money Globe ― from London
環境、会計など様々な分野で影響力を誇示する欧州の経済情勢を、現地の専門家がマクロ、為替、金融政策、M&A(合併・買収)など様々な観点から分析する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20131015/254589/?ST=print
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