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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第47回 国民経済の崖
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週刊実話 2013年10月24日 特大号
2013年10月2日、安倍晋三総理大臣が'14年4月に消費税を現行の5%から、8%へと引き上げることを発表した。結果的に、我が国の国民経済は'14年4月に「崖」に突き当たることが確実になった。
安倍総理大臣は、増税発表の記者会見において、
「この(デフレの)中で増税を行えば、消費は落ち込み、日本経済はデフレと景気低迷の深い谷へと逆戻りしてしまうのではないか。結局、財政規律も社会保障の安定も悪い方向へと行きはしまいか」
と語っていた。正しい懸念としか言いようがないが、ならば消費税増税を先送りすればいい。
ところが、安倍内閣は「経済再生と財政健全化は両立し得る」と強弁し、増税を決定することで、立ち直りかけていた日本経済の頭を押さえつける選択をした。
念のため書いておくが、経済再生と財政健全化は両立し得る。ただし、安倍政権の認識(あるいは財務省の認識)は完全に間違っている。財政健全化を実現したいならば、政府の増収によらねばならない。そして、政府の税収を増やすには、名目GDPを着実に成長させる必要がある。
すなわち、我が国がデフレから脱却し、経済成長(特に名目GDPの成長)を達成しさえすれば、自然増収により財政健全化も達成できたはずなのだ。
現に、'13年に入って以降、アベノミクスによる景気活性化で、法人税を中心に税収が昨年比で4兆円も増えていた。このまま「余計なこと」をせずに、第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)のパッケージという正しいデフレ対策を推進するだけで、安倍政権は、経済再生はもちろんのこと、財政健全化をも成し得ただろう。
逆に、消費税増税に限らず、現時点で「デフレ促進策」を講じてしまうと、物価の下落、所得の縮小のスパイラルが進み、名目GDPがマイナス成長になってしまう。
すると、政府の税収までもが減少し、財政は却って悪化することになる。
国民は「生産者」として働き、モノやサービスを生産する。生産されたモノやサービスを、家計、企業、政府、外国が消費もしくは投資として購入し、支払いを行ってくれて初めて「所得」が創出される。
そのため、国民経済において「生産」と「消費・投資」、そして「所得」の金額は必ずイコールになる。
先ほどから「名目GDP」という用語を使っているが、GDPとはもちろん「Gross Domestic Products(国内総生産)」の略だ。図の「生産」の総合計こそが、GDPという話である。
とはいえ、「生産」の金額は「消費・投資」「所得」と同額になるため、結局のところ名目GDPは、「国内で創出された所得(あるいは消費・投資)」の合計という意味も持つ。
内閣府はGDP統計を公表する際に、「生産面」「支出面(消費・投資)」そして「分配面(所得)」の三つの「面」から見た数値を発表する。三つのGDPは必ず一致する。これを「GDP三面等価の原則」と呼ぶ。
消費税増税に代表される「デフレ促進策」で、我が国の名目GDPが成長しないとは、「国民(厳密には「国内」)の金額面で見た所得が増えない」という意味になるのだ。
そして、我々国民は「所得」から「税金」を支払っている。企業の所得である「利益」から、法人税や消費税が支払われる。所得税や住民税は、家計の「給与所得」が源泉だ。
政府の税収の「原資」は国民の所得の合計、すなわち名目GDPなのである。日本がデフレから脱却し、健全なインフレ率の下で名目GDPが拡大していけば、政府は何もせずとも増収になる。
結果的に、財政健全化は達成できたはずなのだが、安倍政権は自らその道を塞いでしまった。
今回の消費税増税が日本の「国民経済」に与える影響は、7〜8兆円と予想される。しかも、消費税増税に対して「負の乗数効果」が働くため、直接的な金額以上にGDPは落ち込んでしまう。つまりは、名目GDPが減る。結果、政府の税収が減り、財政は悪化する。
安倍政権は景気落ち込みをカバーするために、経済対策をパッケージで実施すると明言している。経済対策の規模は、補正予算(財政出動)が5兆円、投資・雇用減税1兆円で、計6兆円だ。全く足りない。
'97年の消費税アップのときには、日本経済はまさに「崖」に突き当たり、その後は長期のデフレーションが続いた。
信じがたいことに、'97年第二四半期以降、15年もの長きに渡り、我が国は民間需要(民間最終消費支出+民間住宅+民間企業設備)が'97年第一四半期を超えたことは一度もない。
いまだ民間需要が拡大傾向にない状況で「増税」を実施すると、我が国の国民経済は2014年4月に再び「国民経済の崖」を迎えることになる。
'14年3月末までは、駆け込み需要で景気は維持されるだろうが、4月以降に崖を迎えることが明らかな状況で、企業が設備投資や雇用拡大、人件費上昇に乗り出すだろうか。無理がある。
だが、現実に消費税増税は決まってしまった。2014年4月に日本経済が「国民経済の崖」を迎えるという現実からは、もはや逃れることができない。
5兆円の財政出動、1兆円の投資・雇用減税で、果たして増税によるマイナス分をカバーできるか。
かなり厳しいが、さらに悪いケースは、「経済対策」が実施されないケースである。
正直、現在の安倍政権を見ていると、不安だ。
とはいえ、他に方法があるわけでもない。
日本国民は「自分たちの所得」を減らさないためにも、政府に対し適切な経済対策を、できれば当初の予定以上の補正予算を組むように訴えていくしかないのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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