01. 2013年10月14日 19:26:45
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Vol.301号:4月からの異次元緩和は、脱デフレをもたらし、 経済を成長させるか(1)>テーマの領域:貨幣数量説は、成り立つのか? 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・ バックナンバーはHPで: http://www.cool-knowledge.com/ 著者:Systems Research Ltd. Consultant 吉田繁治 43689部 おはようございます。金融と経済を知りたいと思う理由は、何でし ょう。知的な好奇心や、音楽や絵を愛することとは違う面をもって いるように感じます。
自分の会社の、行く末を知りたい。自分の所得(賃金)はどうなる のか知りたい。土地と住宅価格は、どうなるのか。株価はどうか。 物価は上がるのか。 円相場は円安か。自分の金融資産は、増やせるか。これからの自分 は、賃金が上がり、金融資産は増えて豊かになり得るか、こういっ た関心からでしょう。 ただし、経済論から、上記まで導くのは容易ではありません。例え ば、これから3ヶ月や6ヶ月ではなく、数年の中長期で、株価は上が るのか。下がる傾向だった地価は反転するのか。平均的な世帯の所 得は、増えるように変わるのか。物価はどうなるのか。これにも、 答えるのは難しいでしょう。 しかし答える手がかりは、経済にしかない。こういった期待から、 本稿のテーマは、<異次元緩和は、脱デフレをもたらし、経済を成 長させるか>とします。 政府・日銀による金融と経済の政策は、「リフレ派」と呼ばれる人 達の説に、依拠(らいきょ)したものです。学者であるため、経 済・金融政策を提案する本も書いています。 日銀の副総裁になった岩田規久男氏は、以前取りあげた『デフレの 経済学(01年12月)』、内閣官房参与の浜田宏一氏は『アメリカは 日本経済の復活を知っている(13年1月)』です。 それにリフレ派9名による編著、『リフレが日本経済を復活させる (13年3月)』です。分担は、岩田規久男氏、浜田宏一氏、原田泰 氏、安達誠司氏、矢野浩一氏、平野智裕氏、青柳潤氏、飯田泰之氏、 若田部昌澄氏というメンバーです。 リフレ派の主張 マネタリストの祖、ミルトン・フリードマンが、世界大恐慌(1929 -33)の研究から言った、「デフレは貨幣現象である」という説を 根拠にし、「貨幣数量的な対策、つまりマネーの増発」を展開した ものです。マネー不足がデフレの原因と考えるからです。 ・マネー不足がデフレの原因なら、 ・マネー(マネー・サプライ)を増やせば、デフレは解消するはず です。 日本の、1994年以来の20年デフレは、日銀が、十分なマネー増発を 行わなかったことが主因で起こった。日銀が、マネー増発をすれば、 デフレから脱却できる。 デフレからインフレになると、人々は買い物を急ぎ、企業は設備投 資を増やす。物価が上がるようになると、経済(GDP)は実質でも 成長する。中央銀行は、国債を買い、マネーを増発すべきであると いう。 【貨幣数量説】 背景には、<M(マネー・サプライ量)×V(マネーの回転速度)= P(物価)×T(実質GDP)=名目GDP>、という貨幣数量説とも言わ れる計算式があります。 米国の経済学・統計学者、アービン・フィッシャー(1867-1947) がつくった交換方程式です。 日本での事例
リフレ派は以下のように主張します。 ▼(1)左辺のマネーの回転速度は、ほぼ一定で、大きな変化はし ない。マネー・サプライの量(M3:1160兆円:13年8月)が、日本 では年4%増のとき、物価が±ゼロ%だった。 ▼(2)2012年までは、日本のM3は、平均すれば、せいぜい2%程度 の増加でしかなかった。4%増に達していないから、デフレになっ ていた。 マネー・サプライとしてもいいM3は、「現金+預金(普通+定期) +CD(譲渡性預金)」です。世帯・企業・自治体が所有している 「預金」と解釈していい。 【マネー・ストックの変化と現在量】 2013年8月で、1160兆円です。なお、金融機関、日銀、政府が自分 のものとして所有する預金は、マネー・ストックからは除きます。 http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1308.pdf 日銀は、近年は、あえてマネー・ストックと言い換えていますが、 マネー・サプライと同じです。日銀が用語を変えた理由は、マ ネー・サプライ(通貨供給)と言えば、日銀がその量を増やしたり 減らしたりできるような印象を与えるからです。 本稿ではマネー・ストックとマネー・サプライは、同じものとして 使います。 ▼ベース・マネーと、マネー・ストック (旧用語:マネー・サプライ) マネーの概念を整理します。 まず、ベース・マネーです。 ベース・マネーは、 ・日銀による、紙幣の発行高(83兆円:83億枚)と、 ・金融機関が日銀にもつ当座預金(97兆円に増加)の合計であり、 180兆円(13年9月末)です。 日銀がマネー供給を増やすときは、国債市場で国債を買います。そ の代金を、上記の当座預金に振り込みます。こうやって、マネー供 給の額を増やす。これが、ベース・マネーです。 ベース・マネーが増えたということの意味は、金融機関の保有国債 を日銀が買い取って、代金を当座預金に振り込んだということです。 これは金融機関が国債を減らし、現金に換えたということです。こ の預金が、銀行にとどまっている限り、まだ、国民経済へのマネー 供給になってはいません。(↓13年4月以降の6ヶ月で40兆円増えた のは、この当座預金) http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130930.htm/ ▼マネー・ストック(=マネー・サプライ) 次に「マネー・ストック」です。これは世帯、企業、及び自治体が、 金融機関の口座にもつ預金の合計です。この預金が増えることが、 マネー・ストックの増加です。2013年9月末のマネー・ストックはM 3(エム・スリー)であり、1161兆円です。世帯、企業、自治体が 合計でもつ預金が、161兆円と解釈していい。 マネー・ストックは、日銀が国債を買って、ベース・マネーを増や すだけでは増えません。 国債を売った金融機関や銀行が、入手した現金を、260万社の企業 や5200万軒の世帯に貸しつけ、その企業と世帯が、借りたマネーを 設備投資、住宅投資、商品の買い物に使ったとき、総預金であるマ ネー・ストックが増えます。以上のメカニズムが知られていないの で敢えて書きました。9月ではM3は1161兆円になっています。前年 比で+3.1%です。 http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1309.pdf 日銀は、「ベース・マネー」は増やせる、しかしマネー・サプライ は増やせないと言う。(引き締めで減らすことはできます) 2012年までの日銀は、「日銀は、マネー・サプライは増やせない」 としていたので、マネー・ストックと言い換えたのです。 ▼リフレ派の主張 (3)日本がデフレから脱するには、日銀が、金融機関がもつ国債 を1年に70兆円、2年で140兆円くらい買い増して、日銀のベース・ マネーを、<現金供給額(83兆円)+日銀当座預金(200兆円くら い)=280兆円>に増やせばいい。 この、ベース・マネーを280兆円に倍増させる「異次元緩和」の実 行によって、2012年までは2%しか増えないため、デフレの原因に なっていたマネー・サプライを、1年に7%(70兆円)くらい増やす ようにもって行く。 国債を売って、余剰な現金(金利ゼロ)をもった銀行が、その現金 を企業に貸しつけること(金利はプラス)によって、マネー・サプ ライが増える。 ▼7%増が必要 マネー・サプライ(預金)が1年に7%(70兆円)も増えれば、買い 物や投資に使うものが増える。これで、物価も上がるようになる。 設備投資も増える。 企業は、借りたお金で設備投資をするはずだ。そうすると、経済は 成長する。世帯も物価が上がると、買い物を急ぐ。 M(マネー・サプライ:7%増)×V(貨幣の回転速度はほぼ一定) =P(物価)×T(実質GDP)=7%増 日本では、毎年4%ずつ貨幣の流通速度が低下しているため、この 式は以下になる。 ●M(マネー・サプライ:7%増) ×V(貨幣の回転速度はほぼ一定:-4%) =P(物価)×T(実質GDP)=3%増 ●1年では、このMV=PTは、成立しない。数年(3年から5年)経つ と、名目GDP(物価上昇率×実質GDP)の増加率は、3%以上を示す ように向かう。 物価が2%上がるなら、名目GDPは4%増、実質GDPは2%増になるだ ろう。 「貨幣数量説」とも言います。リフレ派は、この「貨幣数量説」に 依存しています。以上の政策が、現在、採用されています。 * GDPは、世帯では年間所得、企業では年間利益です。 GDPの成長は、 ・5200万世帯の合計所得の増加と、 ・260万社の合計企業利益の増加でもあります。 本稿で検討するのは、 (1) 果たして、リフレ派の言う「貨幣数量説」のようになるのか、 (2)インフレの実現は、何をもたらすか、 (3)GDPの2.4倍の政府負債(1126兆円:2013年6月)を抱える日本 で、インフレを起こして金利が上がって、大丈夫なのか、です。 http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf 以上で、プロローグを終わります。以下は、最新の有料版の目次で す。ここで、本論を展開しています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <678号:4月からの異次元緩和は、 脱デフレをもたらし、経済を成長させるか(1)> 有料版 2013年10月9日号 【目次】 1. ベース・マネーの増加は、6ヶ月で40兆円 2. ベース・マネーは、通貨供給(マネー・サプライ)ではない 3. 円安と消費税増税という物価を上げる要因 4. 2014年3月以降の、消費税を含む物価は+4.5% 5. 株価では、6ヶ月先を折り込む 6. 異次元緩和6ヶ月後の、ベース・マネー 7. 日銀当座預金の増加だけなら「ぶた積み」 8. なぜ、「ぶた積み」になるのか? 10. わが国のマネー・ストック(M3)の増加 11. 2%のインフレには、7%(77兆円/年)のM3の増加が必要 11.「自宅に帰り着くまでが、旅行である」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【後記1】 日銀が、インフレ目標2%とともにとった異次元緩和(ベース・マ ネーを2倍に増やすこと)の、経済への効果は、実験的なものです。 このインフレ目標が、マネーの増発による需要主導型で達成できる かどうか、学説的にはまだ不明です。医学的に、結果が不明な治療 を行うようなことです。 インフレターゲット2%の実現に効果があるかも、知れない。いや 流動性の罠(わな)とも言われる「ゼロ金利という条件」から、国 債の現金化が進むだけのことかも知れません。ここを、考え尽くさ ねばならない。 本シリーズでは、ここを追求して、「一体どうなるのか?」を明ら かにすることを目的としています。これから2年の経済を、大きく 左右する問題がこれです。 |