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「出口の見えた債務上限バトル、意外と失墜していないオバマの権威」冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/165.html
投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 12 日 17:10:55: rUXLhToetCnYE
 

「出口の見えた債務上限バトル、意外と失墜していないオバマの権威」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』               第648回
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 今回の「政府閉鎖」と「債務上限問題」に関しては、9月末の時点では誰もがもう
少し簡単に解決すると思っていたのですが、意外と混迷は深まって解決には時間がか
かっています。そうは言っても構図は比較的単純です。オバマ大統領の民主党は「大
きな政府論」ですから「国民皆保険」を目指した健保改革は推進の立場、また政府の
「債務上限」はアップすべきという考え方です。

 これに対して、野党の共和党は「小さな政府論」の立場から、健保改革には反対で、
債務上限のアップにも一定の歯止めを賭けて財政規律を目指そうという立場です。と
ころで、上下両院のうちの上院は、民主党が多数であることもあって、健保改革を盛
り込んだ予算案を既に通しています。問題は共和党が多数を占める下院であり、下院
が上院の案には一切同調しないと宣言したことから現在の危機が続いています。

 ちなみに、この危機についてはアメリカでは「スティールメイト」と言っています。
チェス用語をもじったもので「打つ手なし」ということです。上下両院が歩み寄るこ
とができないこと、仮に議会がまとまっても、大統領が呑めない案であれば大統領は
「ビトー(拒否権)」を行使してしまうこと、こうした憲法上の規定により「政治に
打つ手がない」状況というわけです。ですが、10月17日には「米国債のデフォル
ト」になる可能性への危機感から、今週後半になって与野党の交渉は動き始めました。

 具体的には、共和党の長老であるマケイン上院議員(アリゾナ州、元大統領候補)
が「オバマケア(健保改革)をひっくり返すことにはならないだろう。債務上限がア
ップされるのも間違いないだろう。問題は、そのプロセスだ」と発言する一方で、オ
バマ大統領からは「健保に関しては一切譲歩しない、また債務上限問題を人質に取る
のは許されない」と強気ながらも「債務上限に関しては短期的な合意でも構わない」
という譲歩の姿勢が出ています。

 この流れの中で、9日の水曜日から10日の木曜にかけてはベイナー下院議長(共
和党)がオバマ案への同調を表明、これに対してオバマ大統領は「満足だ」と述べて
事態は一気に動き出しました。事態を悲観してズルズルと下げていた市場も、10日
には大きく戻しています。この大トラブルですが、取あえず最悪の事態は回避された
感があります。

 現時点での案ですが「共和党として短期的な債務上限アップ(6週間限定の11月
22日まで)に合意する」一方で「その代わりにオバマ政権は長期的な財政健全化と
税制簡素化の交渉テーブルに就く」というものです。では、今回のこの騒動ですが、
どうして起きたのでしょうか? またどうして当面の収拾に向かっているのでしょう
か? 特に政府の最高責任者であるオバマ大統領の権威は、一連の騒動でどの程度傷
ついているのでしょうか?

 それ以前の問題として、そもそもどうしてここまで「見苦しいケンカ」が可能にな
ったのでしょう? 要するに景気が意外と好調でケンカをする余裕があったのです。
例えば、政府閉鎖のために労働省による「月次の失業率データ」の正式発表は行われ
ていません。2009年から11年ごろであれば、月々の失業率というのは政界や経
済界だけでなく一般の世論も非常に気にしていたわけです。その数字が出なくても
「そんなに気にならない」というのは象徴的です。それ以前の問題として、政府によ
る小口の「日々の支出」が色々な場所で止まっているわけで、それでも政府相手の民
間の商売から文句が出ないというのは、やはり景気と人心に余裕があるという証拠で
しょう。

 FRBによるQE3(流動性供給第三弾)からの「出口」が先送りされることの影
響もあると思います。「次期FRB会長人事」で、早期緊縮派と目されたサマーズ氏
が辞退に追い込まれたことも象徴的ですが、この「緊縮はまだ先」だというムードが、
社会全体に気の緩みを生じさせているようにも思います。つまり、景気の戻りが弱く
ても金融緩和が継続するから大丈夫という気分です。それが、もしかしたら景気に深
刻な影響を与えるかもしれない「政府閉鎖」や「債務上限への接近」ということへの
抵抗感を減じているのかもしれません。

 その意味では、今回の「政府閉鎖+債務上限の接近」という事態が現在進行形であ
る中でのタイミングで、次期FRB議長候補としてジャネット・イエレンFRB副議
長が指名されたというのは、全く意外ではありません。国家財政に関わる問題が全く
解決していない中で、国家財政に関係の深い重要ポストの人事が動くというのは異様
といえば異様なのですが、イエレン氏が指名されても特に非難は出ず、またイエレン
氏が指名されたことで政争の収拾に影響があったとも思えない奇妙なことになりまし
た。それは、金融緩和の「穏やかな収束」というイエレン氏に期待されている通貨政
策に与野党も経済界も「甘えている」からだと思います。

 さて、今回のトラブルを主導しているのは共和党だとしても、その共和党の中で上
院と下院では対応が異なります。まず、上院共和党ですが、どうして穏健姿勢を取れ
る議員が多いのかというと、上院の場合は民主党が多数派であるということ、党議拘
束のないアメリカの場合は特に上院は100名の議員が最終的に話し合って妥協し合
意形成をするという伝統的な院の性格があるからだと思います。これに加えて選挙情
勢の問題があります。上院の選挙区は「全州1区」です。ですから結果には州の性格
というのは出ますが、州内での都市部とか地方というような特徴は平均されて出てく
るわけです。ですから、支持層に関してイデオロギー的な背景は下院ほど濃くはなり
ません。

 一方で下院共和党が強硬なのは、その反対です。下院の選挙区は全国を435(そ
の他に6名のオブザーバー)に分けた小選挙区であり、それぞれの土地の性格を強く
反映するのです。更に、この選挙区の区割りは国勢調査(センサス)の結果を踏まえ
て頻繁に変更されるのですが、選挙区の変更自体が議員による意志決定に委ねられて
いるために、かなり極端に「現職有利」な区割りになっているのです。ですから、現
在の下院共和党の中で相当数が「ガチガチの保守票」に支えられて出てきている、こ
れが強硬姿勢の主因です。但し、厳密に言うと多くの選挙区では「保守票が余りに強
いので民主党の対立候補が勝つ可能性は少ない」わけで、怖いのは党内の予備選だけ
であったりするわけです。その点で次の選挙が「そんなに心配はない」人は、妥協し
ようと思えばできるわけで、一旦合意へ向かうと、その大きなトレンドに「あくまで
抵抗」ということになるわけでもなさそうです。

 さて、その共和党保守派ですが、2010年の中間選挙で大量の当選者を出すとと
もに、下院の民主党支配を打ち崩したティーパーティーですが、ここのところ勢いが
衰えていました。というのは、その象徴的存在とも言うべき、ケンタッキー選出のラ
ンド・ポール上院議員は「在外米軍基地の廃止」や「リビア、シリアへの軍事介入へ
の強硬な反対」を説いて若年層を中心に人気があります。ですが、こうした「極端な
小さな政府論による孤立主義と軍縮」というイデオロギーは、2000年代の「ブッ
シュの草の根保守」ほどのイデオロギー的な求心力は持っていません。つまり「いつ
の間にか反戦運動になっていた」ということで、ティーパーティーはインパクトを失
っていたのです。今回の騒動はティーパーティーが「改めて国内問題における小さな
政府論」に戻って求心力を回復しようという、一種の「反戦ティーパーティー」から
の反動だったのかもしれません。

 そんなわけで、共和党の新世代の中にある「反戦+軍縮という小さな政府論」に
「オバマケア反対」という情念が結びついた「2013年バージョンのティーパーテ
ィー」は今回の騒動の発生源の一つであるとも言えるし、全体的には迷走していると
も言えるでしょう。その共和党の若手の中でも、前回の大統領選で副大統領候補とし
てロムニーと一緒に「オバマ=バイデン」と戦ったポール・ライアン下院議員などは
少し立ち位置が異なります。そのライアン議員は、下院の予算委員長という立場、そ
して政権との交渉のとりまとめ役としてかなりポイントを稼いだ格好です。

 一方で、オバマ政権の側ではこれまでの「厳しい与野党激突」の際には、必ず「寝
業師」的な活動をしていたバイデン副大統領の存在感が薄かったということが特筆さ
れます。どうやら議会の、例えばハリー・リード上院院内総務などが「バイデン副大
統領を前面に出すと譲歩しすぎる」として嫌ったなどという説もありますが、真相は
不明です。ですが、これによって「与野党対決におけるオバマ色」が濃くなった、政
治的にはそのような印象を与えています。

 その「オバマ色」ですが、それが一番色濃く出たのが「オバマケア(医療保険改
革)」に関しては譲歩しない(not negotiable 交渉に応ぜず)という姿勢でした。
この姿勢は、演説として出てきた際には不評だったのですが、現時点では共和党は
「オバマケア」に関する「廃止もしくは延期」という主張を取り下げつつあるわけで、
結果的に「オバマケア」は信任されたという格好になりました。

 ただ、こうした状況を憂慮する向きもあります。例えば、GE(ジェネラル・エレ
クトリック)中興の祖と言われるジャック・ウェルチ氏は、基本的には民主党に近い
財界人ですし、医療機器業界の中心にいた人物としてオバマの医療保険改革には反対
していませんが、「今回、大統領があるテーマ(オバマケアのこと)に関しては交渉
に応じないという強硬姿勢を通したことで、大統領の権限はむしろ強化された」とし
て「レーガンもクリントンもやらなかった危険なやり方だ」と批判しています。もし
かしたら、これは同じく巨大な金融サービス企業でもあるGEとして、オバマが次に
狙っている「銀行への規制強化」に対して予防線を張っているだけなのかもしれませ
んが、ある種の見方であるとも言えるでしょう。

 その一方で、今回の騒動でオバマはASEANにもTPP首脳会合にも来なかった
わけで、外交は疎かになりました。ですが、アメリカ国内ではこの問題はそれほど話
題にはなっていません。とにかく、政府閉鎖と債務上限の問題、つまり「内向きな問
題」に関心が集中していたからです。

 では、オバマへの評価ということですが、例えばシリアの問題では「空爆にこだわ
った」姿勢の延長で「外交決着へ着地」させた手法、そして今回は「オバマケアでは
絶対に譲歩しない」としてそれを通しつつ「債務上限アップでは短期的な対策に妥協
した」という「スタートは強硬で、その後は柔軟」という方法がパターンとしてある
わけです。この姿勢が世論に支持されているのか、与野党の溝を深めるだけなのか、
あるいはウェルチ氏のように警戒感を生じさせているのかは、まだ良く判りません。
ですが、シリアにしても今回の問題にしても「大きな問題になった」から大統領が悪
いというムードはそれほど強くないように思われます。ただ、オバマの「コアな」支
持者は、そうした「知的ギャンブル」のような手法を依然として支持しているという
ことは言えるでしょう。

 シリアに関してですが、例えば米英仏の三カ国で空爆するという威嚇を続けていた
途中で、英国が議会の不同意で脱落すると、オバマは「自分も議会に聞く」として空
爆を躊躇しつつ時間を稼いだ一方で、ロシアとの交渉を進めたわけです。その間も、
基本的に「空爆というオプションは依然として有効」という、悪く言えば「腰が据わ
らない中での二枚舌・三枚舌」をやっていたわけです。これは米国の外からは「過去
の毅然とした大統領と比較すると情けない」ように見えるかもしれません。ですが、
国内では、「結果オーライ」というイメージが強い一方で、批判論としては「果断で
ないからダメ」ではなく「綱渡りを続けて戦争のリスクを冒したのが気に入らない」
というものが多いのです。これは民主党も共和党も同じです。

 今回の「政府閉鎖+債務上限接近」の危機に関しても、オバマへの評価としては
「結果オーライ」的な感触があります。やや保守色のあるラスムーセンの世論調査を
例に取ると、オバマの支持率は危機が深刻化した先週末には46%まで下げましたが、
出口の見えてきた今週半ばには51%に戻しています。仮に危機を克服したとして、
勿論、「最悪の事態というリスクを冒した」ことへの批判は出るでしょうが、その場
合も圧倒的な非難はオバマではなく共和党に向かうわけです。

 ですから、一連の危機について、いくら政争が迷走しているからといって、大統領
のオバマが「信用を失った」とか「レイムダック化した」というのは少し違うと思い
ます。ただ、オバマの手法というのは、従来の大統領とは相当に異なるのは事実でし
ょう。「押すところは押す、引くところは引く」というリーダーシップの中で、「押
し」の部分でイデオロギーの温度が低い一方で、「引き」の部分での人間味も薄いの
です。悪く言えばやや冷たい感触、良く言えばイデオロギーや情に訴えることの少な
い現実路線です。

 その「冷たさ」には、無人機攻撃やスパイを使った隠密作戦の多用であるとか、ア
サンジやスノーデンへの冷酷な対応、中東和平への情熱不足といった点も重なってき
ます。確かに新しいタイプの大統領です。ですが、国内的には「この手段を選ばない
現実路線」を「クールだ」と積極的に支持する層は少ないものの、この冷たさという
点で支持が離れているということは少ないように思われます。

 いずれにしても、本稿の時点では「ディール成立」が相当に濃厚となり、当面の危
機は回避される可能性が強まりました。昨日(10日)までは「債務上限の期間限定
での引き上げ」は濃厚で「政府閉鎖」に関しては解決の見通しは出ていませんでした
が、11日(金)に入ると、こちらの問題も解決への道筋が話題に上るようになりま
した。そうは言っても、アメリカでも「政界の一寸先は闇」であることには変わりま
せん。注意して推移を見守りたいと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ
消えたか〜オーラをなくしたオバマの試練』。訳書に『チャター』がある。 最新作
は『場違いな人〜「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。

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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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JMM [Japan Mail Media]                No.761 Saturday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】101,417部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )  

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コメント
 
01. 2013年10月12日 22:54:30 : RGnskvgJ5M
いやはやお粗末としか言いようがない分析ですな。

世界の根本が分かってないと話になりません。

以下のビデオで確認してください。

http://www.youtube.com/watch?v=2wgwfSz-5JU

http://www.youtube.com/watch?v=gwiMZPaRYfU#t=51


02. 2013年10月13日 04:53:07 : ArLVW38Mhw
ランド•ポールを単純にティーパーティーの枠で括っていることの一点だけでも、この人の分析の浅さが理解される。

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