http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/162.html
Tweet |
東京五輪とTPP、同じ3兆円効果でも中身は別
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131012-00021470-toyo-bus_all&p=1
東洋経済オンライン 10月12日(土)8時0分配信
2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決定した。招致委員会が発表している経済効果は約3兆円(図1)。
以前、このコラムでも取り上げたことがある、内閣府発表のTPP(環太平洋経済連携協定)の経済効果も約3兆円だ。
そうすると、TPPとオリンピックでは同じくらいの経済効果があると予想されているようにみえるが、実はこの2つの「経済効果」は違うものを指している。
■ 「GDPの増加」と「生産誘発額」の違い
発表文をよく見るとオリンピックの経済効果のほうは、「経済波及効果(生産誘発額)」であるのに対して、TPPの経済効果のほうは「実質GDP(国内総生産)の増加額」だ。よく似た、生産の増加を試算しているのだが、違うものを比較していることになる。些末なことにこだわっているようにみえるかもしれないが、たとえば、2人の学生の国語と英語のテストの成績を比べているようなものなのだ。どちらも広い意味では学生の言語能力を示すものには違いないが、この2人の点数を比較することはできない。
内閣府が発表したTPPの経済効果の試算そのものは、複数の要素が関係していてややこしいので、教科書によく出てくる景気対策で公共事業を増やす例で、何を計算しているのかを説明しよう。
たとえば1億円の公共投資を行うと、事業を行った企業は労働者を雇って賃金を支払い、得られた利益を配当するので、家計所得が増える。所得が増加した家計は消費支出を増やすので、別の企業の売り上げが増加する。売り上げが増えた企業は生産が増え、労働者を雇って賃金を支払い、利益を配当するので、家計の所得が増えて、さらなる消費の増加を生む――という連鎖が起こる。
この効果はだんだん小さくなっていくが、最初に増やした公共投資の金額よりも、最終的にはかなり多くのGDPが増える。この効果が乗数効果と呼ばれるもので、たとえば1億円の公共投資を行うことでGDPが1.2億円増加したとすれば、乗数は1.2だ。
一方、東京オリンピックの試算で計算されているのは、生産額の増加である。たとえば、自動車の需要が1億円増えると、自動車を生産するために使う鋼板やエンジンの制御装置など、さまざまな部品・原材料の生産が増える。さらに、制御装置を作るための電子部品の生産が増えて、それを生産するための半導体の生産が増える。自動車の生産額、制御装置の生産額、電子部品の生産額、半導体の生産額――というように、すべての産業の生産額の増加を合計したものが、生産誘発額だ。
■ 生産誘発額は、大きければよいとはかぎらない
http://tk.ismedia-deliver.jp/mwimgs/8/f/-/img_8f691d1baeddd2ede89a1da7361010f8142041.jpg
生産額の増加とGDPの増加は密接な関係があるが、異なるものである。図2のように自動車メーカーが消費者に100万円で車を売り、自動車会社が車を生産するために50万円の制御装置を電機メーカーから買い、制御装置を作るために電子部品メーカーから20万円の部品を買っているとする。話を単純にするために、電子部品メーカーは投入する原材料がないので何も買っていないとする。
GDPはそれぞれの産業の付加価値(売り上げから購入した部品・原材料の費用を除いたもの)を合計したものだ。それぞれの産業の付加価値は、自動車産業が売り上げ100万円から制御装置の購入代金50万円を差し引いた50万円、電気産業が30万円、電子部品産業が20万円で、GDPはこの合計の100万円になる。一方、生産額は自動車産業が100万円、電気産業が50万円、電子部品産業が20万円なので、170万円になる。100万円の自動車が売れることによる生産誘発額は170万円、誘発効果は1.7倍ということになる。
国債を発行して公共事業を行う場合には、乗数効果が大きいほど、同じ金額の財政赤字でより多くのGDP増加につながるのだから、費用対効果が大きいことになる。
ところが、生産誘発効果が大きいほうがよいのかのどうかは、議論の余地がある。生産のそれぞれの段階で、より多くの部品・原材料を使用し、何段階もの産業を経由すれば、それだけ多くの産業の生産が増えるので、生産誘発効果は大きくなる。一部の産業が恩恵を受けるのではなく、幅広い産業に効果が及ぶ。しかし、最初の支出増で生まれた所得は、より多くの産業に分配されてしまうので、それぞれの産業が得る所得(付加価値)は、ごくわずかになる。誘発効果の大小は、支出の効果が薄く・広くバラまかれるか、狭い範囲に厚く分配されるか、という違いである。
一部の産業に恩恵が偏るということを不公平で問題だと考えるか、狙った産業に集中的に効果を及ぼすことができると考えるかは、政策の目的によるだろう。
■ オリンピックの「付加価値誘発額」はTPPの半分
招致委員会が発表している経済効果は3兆円だが、さまざまな数字がマスコミをにぎわしている。効果を大きく見積もっているものでは150兆円というものもあり、推計された効果には50倍もの開きがある。
この違いの原因は上で説明したように、まず経済効果の指標としてGDPの増加を計算したのか、生産額の増加を計算したのかなど、経済効果として何を試算しているのかという対象の違いがある。オリンピック招致委員会は、「付加価値誘発額」を1兆4210億円としているので、TPPの効果の試算に対応するGDPの増加額は半分程度と試算していることになる。
もうひとつ各種試算で大きな違いが生じる原因は、オリンピックによって引き起こされる最初の需要増加を、どう見積もるかという差だ。招致委員会は、オリンピックのために建設される競技場や選手村の費用が3557億円、大会の運営費が3104億円、大会関係者や観戦客の消費支出、家計消費支出の増加分が5578億円、合計約1兆2200億円と見込んでいる(図3)。
http://tk.ismedia-deliver.jp/mwimgs/1/8/250/img_18a9665c8404b0e931f0c0648fdf062a79279.jpg
1964年のオリンピックの際には、オリンピックを目指して首都高速道路や東海道新幹線などの社会資本の整備が行われた。当時を振り返って考えても、オリンピック開催がなければ整備されなかったはずだという支出だけを選び出すことは難しい。
■ 東京にはプラスでも地方にはマイナスも
需要増加額の半分以上6661億円は、オリンピックを開催するために必要な施設建設や運営費だ。招致委員会は、競技場や選手村の建設にそれほど費用がかからないということを強調しようとしたため、試算では最初の需要増加額が過少に見積もられているとも言われている。3兆円という経済効果は過少評価ということになるが、それはとりもなおさず、オリンピックの必要経費は、当初の見通しを上回るものになることを意味している。
オリンピック競技を観戦するためにやってくる人たちは、東京でホテルに宿泊したり、食事をしたりする。東京の生産は増えるのだが、この人たちはオリンピックがなければ、北海道や沖縄に旅行に行ったかもしれない。そこで使われたはずのおカネが、東京で使われることになるので、東京にとってはプラスの経済効果があるが、ほかの地域にとってはマイナスの影響がある。このように、オリンピックが開催される東京にはプラスでも、日本全体では相殺されて、効果はゼロと考えられるものもある。
実は最も大きな効果として考えられるのは、オリンピック・パラリンピックの成功という共通の目標を持つことで、失われた20年とも言われる長期経済低迷で沈滞した国民の気持ちを前向きにさせることだろう。賛否の意見が対立して一向に進まない日本経済の改革が、2020年というゴールを設定することで、加速されることも期待できる。こうした要因こそが、本当のプラスの経済効果だと考えられるが、これが一体どれくらいのGDPの増加をもたらすのかは、正直なところ推計不能だ。本当の経済的な効果は、実は予想することが非常に難しいのである。
櫨 浩一
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。