★阿修羅♪ > 経世済民83 > 162.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
東京五輪とTPP、同じ3兆円効果でも中身は別 (東洋経済) 
http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/162.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 10 月 12 日 08:33:00: igsppGRN/E9PQ
 

東京五輪とTPP、同じ3兆円効果でも中身は別
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131012-00021470-toyo-bus_all&p=1
東洋経済オンライン 10月12日(土)8時0分配信


 2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決定した。招致委員会が発表している経済効果は約3兆円(図1)。

 以前、このコラムでも取り上げたことがある、内閣府発表のTPP(環太平洋経済連携協定)の経済効果も約3兆円だ。

 そうすると、TPPとオリンピックでは同じくらいの経済効果があると予想されているようにみえるが、実はこの2つの「経済効果」は違うものを指している。

■ 「GDPの増加」と「生産誘発額」の違い

 発表文をよく見るとオリンピックの経済効果のほうは、「経済波及効果(生産誘発額)」であるのに対して、TPPの経済効果のほうは「実質GDP(国内総生産)の増加額」だ。よく似た、生産の増加を試算しているのだが、違うものを比較していることになる。些末なことにこだわっているようにみえるかもしれないが、たとえば、2人の学生の国語と英語のテストの成績を比べているようなものなのだ。どちらも広い意味では学生の言語能力を示すものには違いないが、この2人の点数を比較することはできない。

 内閣府が発表したTPPの経済効果の試算そのものは、複数の要素が関係していてややこしいので、教科書によく出てくる景気対策で公共事業を増やす例で、何を計算しているのかを説明しよう。

 たとえば1億円の公共投資を行うと、事業を行った企業は労働者を雇って賃金を支払い、得られた利益を配当するので、家計所得が増える。所得が増加した家計は消費支出を増やすので、別の企業の売り上げが増加する。売り上げが増えた企業は生産が増え、労働者を雇って賃金を支払い、利益を配当するので、家計の所得が増えて、さらなる消費の増加を生む――という連鎖が起こる。

 この効果はだんだん小さくなっていくが、最初に増やした公共投資の金額よりも、最終的にはかなり多くのGDPが増える。この効果が乗数効果と呼ばれるもので、たとえば1億円の公共投資を行うことでGDPが1.2億円増加したとすれば、乗数は1.2だ。

 一方、東京オリンピックの試算で計算されているのは、生産額の増加である。たとえば、自動車の需要が1億円増えると、自動車を生産するために使う鋼板やエンジンの制御装置など、さまざまな部品・原材料の生産が増える。さらに、制御装置を作るための電子部品の生産が増えて、それを生産するための半導体の生産が増える。自動車の生産額、制御装置の生産額、電子部品の生産額、半導体の生産額――というように、すべての産業の生産額の増加を合計したものが、生産誘発額だ。

■ 生産誘発額は、大きければよいとはかぎらない

http://tk.ismedia-deliver.jp/mwimgs/8/f/-/img_8f691d1baeddd2ede89a1da7361010f8142041.jpg

 生産額の増加とGDPの増加は密接な関係があるが、異なるものである。図2のように自動車メーカーが消費者に100万円で車を売り、自動車会社が車を生産するために50万円の制御装置を電機メーカーから買い、制御装置を作るために電子部品メーカーから20万円の部品を買っているとする。話を単純にするために、電子部品メーカーは投入する原材料がないので何も買っていないとする。

 GDPはそれぞれの産業の付加価値(売り上げから購入した部品・原材料の費用を除いたもの)を合計したものだ。それぞれの産業の付加価値は、自動車産業が売り上げ100万円から制御装置の購入代金50万円を差し引いた50万円、電気産業が30万円、電子部品産業が20万円で、GDPはこの合計の100万円になる。一方、生産額は自動車産業が100万円、電気産業が50万円、電子部品産業が20万円なので、170万円になる。100万円の自動車が売れることによる生産誘発額は170万円、誘発効果は1.7倍ということになる。

 国債を発行して公共事業を行う場合には、乗数効果が大きいほど、同じ金額の財政赤字でより多くのGDP増加につながるのだから、費用対効果が大きいことになる。

 ところが、生産誘発効果が大きいほうがよいのかのどうかは、議論の余地がある。生産のそれぞれの段階で、より多くの部品・原材料を使用し、何段階もの産業を経由すれば、それだけ多くの産業の生産が増えるので、生産誘発効果は大きくなる。一部の産業が恩恵を受けるのではなく、幅広い産業に効果が及ぶ。しかし、最初の支出増で生まれた所得は、より多くの産業に分配されてしまうので、それぞれの産業が得る所得(付加価値)は、ごくわずかになる。誘発効果の大小は、支出の効果が薄く・広くバラまかれるか、狭い範囲に厚く分配されるか、という違いである。

 一部の産業に恩恵が偏るということを不公平で問題だと考えるか、狙った産業に集中的に効果を及ぼすことができると考えるかは、政策の目的によるだろう。

■ オリンピックの「付加価値誘発額」はTPPの半分

 招致委員会が発表している経済効果は3兆円だが、さまざまな数字がマスコミをにぎわしている。効果を大きく見積もっているものでは150兆円というものもあり、推計された効果には50倍もの開きがある。

 この違いの原因は上で説明したように、まず経済効果の指標としてGDPの増加を計算したのか、生産額の増加を計算したのかなど、経済効果として何を試算しているのかという対象の違いがある。オリンピック招致委員会は、「付加価値誘発額」を1兆4210億円としているので、TPPの効果の試算に対応するGDPの増加額は半分程度と試算していることになる。

 もうひとつ各種試算で大きな違いが生じる原因は、オリンピックによって引き起こされる最初の需要増加を、どう見積もるかという差だ。招致委員会は、オリンピックのために建設される競技場や選手村の費用が3557億円、大会の運営費が3104億円、大会関係者や観戦客の消費支出、家計消費支出の増加分が5578億円、合計約1兆2200億円と見込んでいる(図3)。

http://tk.ismedia-deliver.jp/mwimgs/1/8/250/img_18a9665c8404b0e931f0c0648fdf062a79279.jpg

 1964年のオリンピックの際には、オリンピックを目指して首都高速道路や東海道新幹線などの社会資本の整備が行われた。当時を振り返って考えても、オリンピック開催がなければ整備されなかったはずだという支出だけを選び出すことは難しい。

■ 東京にはプラスでも地方にはマイナスも

 需要増加額の半分以上6661億円は、オリンピックを開催するために必要な施設建設や運営費だ。招致委員会は、競技場や選手村の建設にそれほど費用がかからないということを強調しようとしたため、試算では最初の需要増加額が過少に見積もられているとも言われている。3兆円という経済効果は過少評価ということになるが、それはとりもなおさず、オリンピックの必要経費は、当初の見通しを上回るものになることを意味している。

 オリンピック競技を観戦するためにやってくる人たちは、東京でホテルに宿泊したり、食事をしたりする。東京の生産は増えるのだが、この人たちはオリンピックがなければ、北海道や沖縄に旅行に行ったかもしれない。そこで使われたはずのおカネが、東京で使われることになるので、東京にとってはプラスの経済効果があるが、ほかの地域にとってはマイナスの影響がある。このように、オリンピックが開催される東京にはプラスでも、日本全体では相殺されて、効果はゼロと考えられるものもある。

 実は最も大きな効果として考えられるのは、オリンピック・パラリンピックの成功という共通の目標を持つことで、失われた20年とも言われる長期経済低迷で沈滞した国民の気持ちを前向きにさせることだろう。賛否の意見が対立して一向に進まない日本経済の改革が、2020年というゴールを設定することで、加速されることも期待できる。こうした要因こそが、本当のプラスの経済効果だと考えられるが、これが一体どれくらいのGDPの増加をもたらすのかは、正直なところ推計不能だ。本当の経済的な効果は、実は予想することが非常に難しいのである。

櫨 浩一


 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2013年10月12日 08:52:55 : niiL5nr8dQ

オリンピックの効果は、財政バラマキと同じで一時的

一方、自由貿易拡大(TPP)による利益は生産性の上昇によるものだから、恒久的で、企業や個人が自由貿易に適応するほど高まる

まあ、目的自体が違うから、経済効果を比較すること自体が、あまり公平ではないね


02. 2013年10月12日 15:11:57 : weoASZQm6g
↑ こーゆー馬鹿が多数決しとるから日本は救われない。

国内投資を、バラマキだの、利権だの、甘い汁だのと、忌避する。

代わりに、自由貿易を言い、国民の富が国外へ流出するのが見えてない。
国際資本の言うがまま。馬鹿じゃないか。

デフレの時に生産性の上昇を言うノータリン。

  
* もっと国内投資を *


03. 2013年10月12日 15:50:12 : nJF6kGWndY
>>02 自由貿易を言い、国民の富が国外へ流出

自由貿易を止めたらどうなるか、少しは考えてみたらいい


04. 2013年10月12日 15:52:51 : nJF6kGWndY

デフレだろうが、インフレだろうが、国民が必要とする財やサービスの生産性が上昇し
その果実を再分配した方が、国民が豊かになるのは明らか

それすら、わからないのは、かなり知能に問題があるということだな


05. 増税反対 2013年10月12日 16:20:59 : ehcoR2LmdzYII : D9cvjI5T92
 実は最も大きな効果として考えられるのは、オリンピック・パラリンピックの成功という共通の目標を持つことで、失われた20年とも言われる長期経済低迷で沈滞した国民の気持ちを前向きにさせることだろう///


 もうこの時点で東洋経済の考えの薄さが理解できる。

どうしてオリンピック程度の行事で地方在住の国民の気持ちが前向きになると

いうのだろう? この程度のいかれた認識の雑誌に存在価値はない・・・


06. 2013年10月14日 18:59:28 : e9xeV93vFQ

2013年10月11日
TPPなどのFTAの経済効果は本当に低いのか ITIコラム
(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹 高橋俊樹
TPPはどのくらいGDPを押し上げるのか
日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加とともに、関税削減や知的財産権などの個別分野での交渉への関心が高まっている。日本のTPP交渉参加に関して、国内では賛否両論が激しく対立し、交渉参加を決断する道のりは平たんではなかった。TPPへの参加に反対する意見には色々なものがあるが、その1つとして、TPPで関税が下がっても、GDPを押し上げる効果はあまり期待できないというものがある。
TPPの経済効果であるが、日本政府の公式見解が2013年3月に公表されている。それによると、日本の輸出は2.6兆円増えるが輸入が2.9兆円減少する。消費は3兆円増で投資は0.5兆円上昇し、実質GDPは合計で3.2兆円増加することになる。この結果、実質GDPの増加率は0.66%になる。この増加率は、TPPが発効してから1年後ということではなく、経済調整が終わった段階で達成される。その調整期間は、概ね10年程度のようである。
また、米国ブランダイス大学のピーター・ペトリ教授は2013年の3月、TPPに日本や韓国が参加した場合の経済効果を推計している。同試算によると、TPP に参加することにより得られる日本の所得効果は、2025年には1,046億ドル(約10 兆円)に達する。これは、日本の実質GDP(2007年価格)の2.0%に相当する。
同様に、TPPに参加することにより得られる韓国の所得効果は458億ドルに上り、韓国の実質GDPの2.2%の水準になる。日本と韓国のTPP参加による所得効果は、ほぼ同じと見込まれている。なお、日本がRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に参加することによる所得効果は、ペトリ教授の試算によれば、960億ドルの1.8%であり、TPPとほぼ同様の結果であった。
ペトリ教授の試算では、関税撤廃に加えて、非関税措置(NTM)の削減、サービス・投資の自由化の効果が推計されている(注1)。非関税措置というのは、一般的には、食品や電気機械などにおける輸入ライセンスの裁量的な発行制度、食品、鉄鋼、自動車での輸入クオータ(割り当て)、食品や医薬、機械類での品質検査、表示、規格基準などの制度のことを指している。こうした非関税措置が改善・撤廃されれば、当然のことながら、輸出入は増加することになる。
ペトリ教授は、非関税措置の削減やサービス・投資の自由化を、貿易制限指数や各国のビジネス環境ランキングなどの投資の自由化に関するデータを用いて計算している。前述の日本政府の試算では、関税の撤廃のみが経済効果に反映されており、ペトリ教授の推計結果と同じ土俵では比べられない。
したがって、もしも関税削減だけでなく非関税措置の削減、サービス・投資の自由化を達成するならば、日本はTPP参加により一定の所得効果を得られるとポジティブ(積極的)に解釈することが可能だ。ペトリ教授が試算した日本の所得効果の約10兆円は、無視できない金額である。
一方では、TPPに参加しても、10年以上も後に実質GDPの2%分しか所得を引き上げられないし、非関税障壁の撤廃の成果はペトリ教授らの試算ほど実際に達成できるかどうかは疑問だと、ネガティブ(消極的)にとらえることもできる。
一般的には、非関税措置の削減やサービス・投資などの自由化は、関税率の削減ほど明快に数値化することが難しいし、成果を得ることも容易ではない。このため、関税率の削減が経済効果を試算する上で関心を集め易い。通常は、関税削減の影響だけを考慮すると、TPPの所得効果はそれほど大きいものではない。特に、既に平均の関税率が低い先進国では、それが顕著である。
しかし、日本の場合、もともと輸出比率(輸出額÷GDP)が低く、2011年で14%にすぎない。これに対して、日本と同様にTPP交渉参加国であるマレーシアの輸出比率は80%に達する。日本とマレーシアのTPPによる輸出拡大への効果が同じであっても、輸入の影響を無視すれば、輸出比率が低い分だけ日本の所得効果はマレーシアよりも低く抑えられる。ちなみに、日本を加えたTPP12か国のケースにおいて、2025年のマレーシアの所得効果はGDPの5.6%と見込まれており、日本の2.8倍に達する。
つまり、TPPが日本の輸出を拡大しても、マレーシアなどと比べて輸出依存度が低い分だけTPPのGDPを押し上げる効果が薄まることはやむを得ないと考えられる。ペトリ教授の試算では、2025年における日本とマレーシアの輸出の増加率は約11%と同じであり、米国の4.4%やニュージーランドの6.8%よりも高い。したがって、日本のTPPの所得効果が期待したほど高くはなくても、必ずしも悲観的になる必要はないと思われる。
中国・ASEAN域内の関税削減効果を計算
ASEANにおいては、その域内の経済統合を目指したAFTA(ASEAN自由貿易地域)が既に成立している。また、ASEANは日本、韓国、中国、豪・NZ、インドなどとそれぞれ2国間のFTAを締結済みである(ASEAN+1)。最近では、この他にTPP、RCEP及び日中韓FTAがアジア地域をカバーするFTAとして交渉が行われている。
TPPなどのFTAにおいては、サービスの自由化への関心が高いが、多くの新興国から成るアジアでは、まず関税を引き下げて物品の輸出入を拡大することが期待される。関税や非関税措置の削減に関心が高いのは、ASEANなどのアジアの国は製品・部品の輸出主導で経済を成長させており、アジアのサプライチェーンを発展させる関税の削減効果を重視せざるを得ないからである。
一般に関税という場合、それはMFN(Most Favored Nation)税率のこと指している。「MFN税率」は、WTO(世界貿易機関)の原則に基づいて、全てのWTO 加盟国に対して共通に適用される関税率である。つまり、通常の輸入に適用される関税率のことである。
これに対して、FTAの加盟国に適用される関税率は、一定の条件を満たした製品・部品には、原則として即時か何年か後には撤廃されることになっている。例えば、ASEAN中国FTA(ACFTA)においては、物品協定が締結されており、個々の品目ごとに関税の撤廃スケジュールが定められている。その輸入品目数は、ACFTA加盟国ではそれぞれ8,000〜10,000品目に達する。
ACFTAが一定期間内で削減を約束した関税率(「ACFTA税率」)は、当然のことながら、一般的にはMFN税率よりも低い税率になる。しかし、時には品目によっては、MFN税率の関税削減スケジュールがACFTA税率よりも先行し、MFN税率の方がACFTA税率を下回る逆転現象が生じることもある。もしも企業がACFTAなどを活用するときは、このような逆転現象があるかどうかを入念に確認することが必要になる。
通常は、ACFTA税率はMFN税率よりも低くなっているため、ACFTAの加盟国では、ACFTAを活用すれば、関税率の削減分だけ輸入において税関に支払う関税額が減少する。この「関税削減額」は、MFN税率の適用で支払った「MFN税額」からACFTA税率の適用で支払った「ACFTA税額」を差し引いたもので、どれだけACFTA税額がMFN税額よりも削減(節約)できるかを示すものである。当然のことながら、その金額が多ければ多いほど関税の削減効果が高いことになる。
実際に、ACFTA加盟国の中から、中国の関税削減額を計算したところ(注2)、中国のASEAN10からの輸入における関税削減額は、2011年には45億ドルであった。ただし、この45億ドルは、中国のASEANからの全輸入品目にACFTAを活用すると仮定して計算されている。
今、中国とASEAN各国におけるACFTAの利用率を30%とすると、実際の関税削減額は13.5億ドル(45億ドルの30%)と見込まれる。2012年のASEAN10ヵ国のGDPは2兆3,055億ドルであるので、ASEANが中国に輸出したときの関税削減額のGDPに対する割合は、年次の違いはあるものの簡便的に計算すると、0.06%(13.5億ドル÷2兆3,055億ドル)になる。関税削減額が毎年同じであると仮定すれば、10年後には、関税削減効果はGDPの0.6%まで積み上がる。
ASEANの中国への輸出で獲得した関税削減額は、ACFTAの利用率を考慮すると、2011年の単年で13.5億ドルであるが、実際には、輸出拡大効果はこれだけではない。なぜならば、その効果全体は、この関税削減額だけでなく、関税が下がったことにより誘発されるASEANの対中輸出の増加分を含んでいるからだ。したがって、ASEANから中国への輸出におけるACFTAの関税削減額は、誘発される輸出増加分を巻き込みながら、年を経るごとに経済効果を累積していくことになる。
また、中国だけでなく、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの輸入において、ACFTAを活用したときの関税削減額を計算した。それによると、中国のASEAN10ヵ国からの輸入における関税削減額(45億ドル)と、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム4か国の中国からの輸入における関税削減額の合計(39億ドル)に大差がなかった。したがって、この4か国以外のASEAN6ヵ国を考慮すると、ACFTAにおいては、ASEAN10のほうが中国よりも関税削減額が大きいことを示唆している。
関税削減率で見るとどうなるか
「関税削減額」は、読んで字のごとく、FTAを活用することにより、関税をどのくらい削減できたかを表す金額である。これは、関税を削減した絶対的な数字である。そこで、関税削減額が輸入額に対してどれだけの割合になるのかという、相対的な指標を「関税削減率」とした。これは、関税削減額を輸入額で割ったものであり(関税削減率=関税削減額÷輸入額)、関税削減額が輸入額の何%に相当するかを表すものである。
「関税削減額」は、FTA活用で関税額をどれだけ削減(節約)できたかという考え方であるため、理解しやすい。しかし、「関税削減率」は、関税削減額の輸入額に対する割合を示しているだけで、関税削減額ほど経済的な意味を直感的にイメージしにくい。
そこで、関税削減率の経済的な意味を具体的に捉えるために、今、ACFTAを使ったシンガポールの中国からの輸入における関税削減率が5%であったと仮定する。これは、企業がシンガポールで中国より1億円輸入する場合、ACFTAを活用すれば、通常支払う関税額(MFN税額)から平均で500万円(1億円の5%)も削減できることを意味する(注3)。
実際に、ACFTA加盟国の関税削減率を計算してみると、中国のASEAN10カ国からの関税削減率は2.3%であった。つまり、ある企業が中国でASEANから1億円輸入する場合、ACFTAを活用すれば、通常に支払う関税額(MFN税額)よりも、平均で230万円も関税を削減することができる。
同様に、インドネシアの中国からの輸入に対する関税削減率は4.3%であり、マレーシアは3.7%、タイは4.8%であった。これらASEAN3カ国は、いずれも中国よりもACFTAを利用したときの関税削減率が高かった。しかし、ベトナムにおいては、インドネシア、マレーシア、タイよりも関税削減スケジュールが遅れるため、関税削減率は1.4%にとどまる。
したがって、ACFTAにおいては、関税削減率という関税削減効果の面では、インドネシア、マレーシア、タイのASEAN3ヵ国の方が中国よりも大きいことが明らかになった。中でも、タイの場合は1億円の輸入で480万円も関税を削減できることから、中国の削減額(230万円)よりも平均で250万円も上回ることになる。
図1 ACFTAにおける主要品目の関税削減率(2011年)

(注) 中国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムにおいて、2012年に実施されているACFTA関税率が、2011年の輸入額に適用された場合の関税削減額を算出し、それから関税削減率を計算。なぜ2011年の輸入額に適用したかというと、この調査時点では2012年通年の輸入額を得ることはできなかったためである。
(資料) 各国政府統計、及びGlobal Trade Atlas(GTA)、GTIより作成

また、図1はACFTAにおけるミルクから自動車部品までの代表的な8つの品目別に関税削減率を、中国、タイ、ベトナムの3カ国で比較したものである。
2011年において、関税削減率が高いのは、中国とベトナムの「ミルク及びクリーム」で15%、中国とタイの「Tシャツ」で14%と30%、ベトナムの「テレビジョン受像機」の25%、タイとベトナムの「乗用自動車」で33.7%と28.7%、であった。
タイのTシャツの関税削減率が30%ということは、タイに拠点を置くアパレルメーカーがTシャツを中国から1,000万円輸入した場合、通常支払うMFN関税額は300万円であるが、ACFTA利用時の関税額は0円であるので、その差額の300万円も関税を節約できるということだ。
1国全体の平均的な関税削減率は数%にすぎないが、Tシャツのような単品になると、その割合は30%にも達する。こうした関税削減率が高い品目においては、企業がFTAを活用すれば、高い節税効果を得ることができる。したがって、企業が自社の製品・部品にFTAを活用するとき、関税削減率が大きい品目かどうかを把握することが不可欠となる。
また、いわゆるセンシティブ品目(ST)と呼ばれる保護色の強い製品においては、一般的な品目よりも関税を削減するスケジュールが遅くなるので、その関税削減スケジュールを把握し、いつの時点から関税削減率が高くなるのかを確認する必要がある。
TPPなどのFTAがGDPを押し上げる経済効果というマクロの視点では、関税だけでなく、非関税措置やサービス・投資の自由化を含むかどうかで結果が異なるものの、そのインパクトは驚くほど大きいものではない。
しかしながら、個々の企業というミクロのベースでは、FTAの効果は非常に大きくなる場合がある。例えば、ある在タイ日系企業がタイで中国やベトナムから輸入するときに、ACFTA/AFTAを活用することにより関税率を20%も削減し、利益率を8%も引き上げたという実例がある。
企業にとって生産コストを20%も削減することは容易なことではなく、FTAの関税削減効果は、海外の最前線に立つ企業や輸出を志向する中小企業にとって、大きなインパクトを持つ。
日本企業のグローバル化が進展する中で、足元を見ると、2011年の日本の海外投資比率(海外直接投資残高のGDP比)は16%程度であるし、輸出比率も主要国よりも相対的に高いわけでもない。しかし、企業の販売戦略に占める新興国などの海外市場の比重は急速に高まっている。日本の成長戦略を考える上で、FTAにおける関税削減に加えて、非関税措置やサービス・投資の自由化の進展に期待するところが大きい。

(注1)2007年版ジェトロ貿易投資白書(現在は、ジェトロ世界貿易投資報告)において、GTAPモデルを用いて、ASEAN+6(日、中、韓、インド、豪、NZ)の関税削減効果を推計している。同白書では、関税撤廃による締結国全体のGDPの押し上げ効果は0.2%にとどまるとしている。これに対して、輸入数量制限などの非関税障壁撤廃の効果を加えると、GDPの押し上げ効果は1.3%に上昇すると分析している。
(注2)この場合の、中国の関税削減額は、中国のASEAN10ヵ国からの輸入に対して支払われるMFN税額(MFN税率×中国のASEAN10からの輸入額)から、中国のASEAN10ヵ国からの輸入に対して支払われるACFTA税額(ACFTA税率×中国のASEAN10ヵ国からの輸入額)を差し引いたものである(関税削減額=MFN税額−ACFTA税額)。
(注3)「関税削減率(5%)=関税削減額(500万円)÷輸入額(1億円)」である。したがって、関税削減額(500万円)=輸入額(1億円)×関税削減率(5%)、となる。「関税削減額=MFN税額−ACFTA税額」であるため、この場合、ACFTAを利用するときに支払う関税額(ACFTA税額)は、通常支払われる関税額(MFN税額)よりも、500万円も低いことになる。
ITIの関連論文など
ACFTA(ASEAN中国FTA)の域内貿易への影響と運用実態(季刊93号、2013年)
中国とASEANのFTAにおける関税削減効果を探る 〜ACFTAでは農水産・繊維、AFTAでは輸送機械・部品〜(季刊92号、2013年)
ASEAN中国FTA(ACFTA)の運用実態と活用方法 〜企業への影響が大きいのは互恵関税率の適用〜(季刊89号、2012年)
FTAが牽引するASEAN‐中国貿易 〜2012年にさらなる関税削減が見込まれるACFTA(ASEAN中国FTA)〜(フラッシュ、2011年12月15日)
東アジアのFTAで関税率はどれくらい下がるか 〜TPPの関税削減メリットはRCEP、日中韓FTAを下回るか〜(ITIコラム、2013年) TOP>
ITIコラム>
NO.14

http://www.iti.or.jp/column014.htm


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
  削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告する?」をクリックお願いします。24時間程度で確認し違反が確認できたものは全て削除します。 最新投稿・コメント全文リスト

 次へ  前へ

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民83掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民83掲示板
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧