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5年後、テレビ業界は食えますか?
http://toyokeizai.net/articles/-/21456
2013年10月10日 塩野 誠 :経営共創基盤マネージングディレクター・パートナー
何かにつけ不確実性の高い現代。一生安泰の仕事も、未来永劫つぶれない企業も存在しない。自分の仕事に明日があるのか――それをつねに考えておかないといけない時代だ。 この連載では、悩めるビジネスパーソンからのキャリア相談を募集。外資系金融、コンサル、ライブドア、企業再生コンサルなどを渡り歩き、数多くの業界やスタートアップに精通する塩野誠・経営共創基盤(IGPI)パートナーに、実践的なアドバイスをしてもらう。
今回は特別版として、佐々木紀彦編集長が、メディア人、ジャーナリストのキャリアについて相談する。
■これから映像メディアはどうなるか
佐々木:塩野さんはライブドアにいらしたとき、フジテレビ・ニッポン放送の買収にかかわりましたよね。
塩野:ええ、当時、取締役だった熊谷さんと一緒に実務・交渉を担当しました。
佐々木:そのとき、メディアのこれからについて、そうとう考えられたのではないですか。
塩野:それはもう目の前の現実として考えました。
佐々木:最近、私もメディアに関する本を出しました(『5年後、メディアは稼げるか』)。扱ったテーマは、活字メディアの今後なのですが、最近、講演会や取材で、テレビなどの映像メディアはこれからどうなるのかと聞かれるようになって、私はよくわからないので、答えようがないんです。
そこで、塩野さんに映像メディアと活字メディアの両方についてうかがいたいと思います。
塩野:わかりました。ライブドアがニッポン放送株を取得したのは2005年2月8日だったのですが、先日、フジテレビでベンチャー関連のイベントがあって私が行きましたら、「いちばんフジテレビに来ちゃいけない人じゃないですか」と、会った人みんなに言われました(笑)。
■テレビとネットの融合はシンプルなこと
佐々木:もう8年も経つんですね。この8年でテレビは変わりましたか。変わっていないですか。
塩野:当時、いろんな方々が、テレビとネットの融合というのを「未来の魔法の箱」みたいに漠然とイメージしていたのですが、ライブドアは「いや、全部の番組にURLをのせて、番組に出ているモノや情報がすぐ買えればいいだけなんですよ」と言っていた。
今となっては、もう当たり前ですよね。それこそテレビ局がベンチャーキャピタルをつくる時代になっている。でも、その頃は「それだけのこと?」みたいな感じだったんですね。「もっとすごい未来が起こるんじゃないの?」と、テレビとネットの融合ってもっとSFチックなことをみんなが期待していた。
今はそういう時代が来ましたよ。テレビ本体を買ったら、ネットにWiFiで接続されて、オンデマンドで何でも見られますし、YouTubeが見られますからね。2000年初頭は役所も電気メーカーも、「テレビでインターネットの変なモノが見れたら、誰が責任取るんだ?」とか心配していましたから。時代は変わりましたね。でも、テレビとネットの融合って本当はすごくシンプルなことなのです。人々は結局、テレビを見ながらパソコンで検索したり、スマホをいじるというふうになっている。実はもうこれで融合なんですよ、という話だったのですが、2005年の当時は全然ウケなかったですね。
■テレビの強さはアジェンダ設定力
塩野:テレビのメディアとしての現在のポジションをいうと、テレビはやっぱり相変わらずめちゃくちゃ強いですね。
その強さって、「アジェンダ(議題)設定力」なんですよ。テレビでネタ出しされたものを、みんなでソーシャルメディアで盛り上がるでしょう。これは8年前から言っていたのですが、その議題設定力はまったく衰えていません。
「笑点」の大喜利のようなもので、「あまちゃん」とか「半沢直樹」というお題を出されて、みんなが座布団の上に乗っかって、ソーシャルメディアで盛り上がる。テレビを見ながら、パソコンを開いてスマホをやって、半沢直樹が土下座したときにみんなツイートするという。「バルス祭り」なんかもそうですよね。
ネット発の話題にしても、たとえば炎上した話とかも、それがテレビで取り上げられて初めて、お題になったことがリテラシーを超えてマスにわかるというところがまだあります。この「アジェンダ設定力」がやっぱりテレビは強い。
佐々木:むしろ強まっているぐらいですよね。
■ネットのニュース記事は「今ここまで」
塩野:一方で、ニュースメディアとしてのテレビというところでは、新聞同様、次の打ち手は必要ですが、そもそも調査報道自体をそんなにウリにしていない。
テレビは尺が決まっているけれども、ネットは決まっていないというのも大きな違いです。まさに「東洋経済オンライン」の私のこの連載(「キャリア相談 君の仕事に未来はあるか?」)もそうですが、あんなにダラダラ書いて、全部載せられますからね(笑)。
ロイター、ブルームバーグの経済ニュースに代表されるように、1回出したニュース記事を何度もアップデートしている。まさにネットの特徴です。だから、ネットはニュース記事が日付と時刻入りなのです。「今ここまでのお知らせですよ」というマーケット情報。字数は全然関係なく、アップデートをし続ける。
■スマートテレビで何が変わるか
佐々木:テレビはアジェンダ設定力が強いというのは、ドラマやエンタメ系ということですね。
塩野:ええ。よく国民的ドラマや国民的ヒット曲が出なくなったと言われますが、何かヒットした後はデカいですよね。やっぱり追っかけでネットで「あまちゃん」見なきゃ、「半沢」見なきゃとなる。
佐々木:ちなみに塩野さんはご覧になっていましたか?
塩野:基本的に私は何でも押さえます。マーケッターなので。
佐々木:さすがですね(笑)。テレビとインターネットは相互補完関係にあるんでしょうか。
塩野:今は相互補完していますね。
佐々木:今後もそうですか。
塩野:中期においては相互補完すると思います。
佐々木:であれば、テレビ局はネットに脅威を感じずに、もっと取り込んだほうがいい気がするのですが。
塩野:もう各局、かなり取り込んでいると思いますよ。2005年から変わったのです。
佐々木:たとえばスマートテレビでネットがすぐに見られますが、テレビ広告も視聴者によってターゲティングしたりとか、そういう世界はもうすぐ来るんでしょうか。
塩野:それはほぼ来ていますけど、スマートテレビに関しては、よりパソコンっぽいですよね。スマートテレビかパソコンかというのは、結局、お茶の間にどっちを置きたいかという問題で。デバイスによるお茶の間のスペース争いですよね。
佐々木:そこはそんなに大きい問題じゃないと。
塩野:すでに携帯電話で、国民は誰もが広告ターゲッティングされてますからね。
■テレビで紹介されたアプリが売れる
佐々木:テレビとネットの融合によって出てくるいちばん面白いビジネスって、これから何でしょうか。
塩野:まずはテレビがどれだけアプリを売るか。
佐々木:アプリを売るんですか。
塩野:今はアプリランキングにおけるテレビの影響力が、めちゃくちゃ高いんです。テレビで取り上げられると、みんながダウンロードする。そういう世界でどこまで本気でやるかですね。
佐々木:やっている企業はありますか。
塩野:あるというより、結局、そうなっちゃっているんです。どうしてもテレビで取り上げられたアプリがランキングの上位になる。
佐々木:ネットとテレビと企業がもっとタッグを組めば、面白いことが起きるでしょうね。
塩野:ただ日本の場合、テレビ局は新聞社とかなり近しい企業グループを形成しているので、ジャーナリズムがそこまでやっていいかが問題ですよね。
佐々木:ああ、そこまで売りまくっていいかと。
塩野:ええ。私が言うのもおこがましいですが、ジャーナリズム倫理が論点でしょう。
■ジャーナリストがフラット化した
塩野:次に活字メディアのほうですが、佐々木さんが著書で書かれていたように、やっぱり、書き手はジャーナリストとして今後のキャリアをとらえていかないといけないでしょうね。署名記事の名前で選ばれるクオリティや付加価値とは何かを、突きつめる必要がある。
軸としては「即時性」でいくのか「分析性」でいくのか。即時性でいく場合は、たまたま“事件”に隣り合わせた一般人のツイートには勝てない。ストレートニュース(用意された原稿を読み上げるニュース)は世の中に必要不可欠ですが、全社がコストをかける必要はない。やっぱりジャーナリズムは調査報道的な分析性でいくほうが付加価値は高いのかなと思います。でも、そうするとジャーナリストは学者やコンサルタント、アナリスト、ブロガーたちと、分析性を軸に同じ文章をアウトプットするという意味ではフラットな関係になりますが、いかがですか。
佐々木:おっしゃるとおりです。われわれは塩野さんと戦わなければいけないということですよね。実際、「東洋経済オンライン」上では一緒に戦っていますし。
塩野:読者からしたら、「東洋経済オンライン」のどの記事もフラットなんですよ。「これはジャーナリストの記事」「これはコンサルタントの記事」というふうには見ない。ジャーナリストがフラット化したのです。
佐々木:そうですね。
塩野:ウェブメディアの時代になって、動画埋め込み当たり前、フラッシュムービー当たり前、すべてが簡単に軽くなってしまった世界においては、佐々木さんが著書で書かれていたように、ジャーナリストとしてどの媒体でどう出力するかが重要になってくると思います。活字から自由になって、動画や音声、ベストな表現手段でアウトプットすることが当たり前になりますよね。
■新しい付加価値は「まとめ」と説明能力
佐々木:そうすると、分析力では学者やコンサルタントの方になかなか勝てないじゃないですか。
塩野:そうですね。
佐々木:そこで新しい付加価値って何でしょうか。もちろん媒体を横断的に使えるという能力もあると思いますが。
塩野:ひとつは、オシャレな言葉でいうと「キュレーション(収集・分類)能力」。あとは何らかの「1次フィルタリング能力」や「まとめ能力」でしょうね。
これだけネットに情報があふれていて、ワンクリックでアクセスできるのに、学生と就活の話なんかをしていると、あまりにもモノを知らなくてビックリすることがあるんですよ。社会人だったら絶対に知っているようなことをまったく知らない。
たとえば、ある東大生が「僕、民間に行きたいんですよ」と言うので、「どういうところに行くの?」と聞くと、「プラントとかインフラに興味があります」と。「じゃあ、日揮とかは?」と言ったら、「すいません、それどんな会社ですか」って(笑)。
佐々木:知っていて当然のことを知らない。
塩野:ええ。そういうことはよくあるのです。少し前に私が連載で書いた「弁護士はこれから食えない」みたいな話は、普通に需給の問題で、人があふれれば選別されるわけです。「米国でそういうことが実際に起きたよね」と、ロースクールに行こうとしている学生に話すと、「そうなんですか!」と驚かれたり。
そういう意味では、まだまだ「おまとめ」と説明をする必要があります。
佐々木:その「おまとめ」は、わかりやすさがすごく重要なんでしょうね。難しいものをわかりやすくして整理するというような。
塩野:はい。各カテゴリーにおける“池上彰さん”が必要です。
佐々木:そうすると、学者は何か新しいものを発見する、コンサルは実務を解決するとして、ジャーナリストはその仲介役になるということですね。
塩野:そうですね。ただフラットな世界におけるジャーナリストの敵は、NAVERまとめやnanapiにもなってきますし、メタなパッケージングをするGunosyやAI(人工知能)技術もライバルでしょう。AIが記者クラブでレク受けたら怖いですよ。
塩野:それとポッと出の書き手は、ある事象に対する歴史的分脈をそんなに踏まえていないですよね。それを踏まえるマインドセットがないと分析もできないし、深いものは書けない。
既存の新聞であれ週刊誌であれ、最近、書き始めたような人は、この事件の背景にはこういうことがあったという視点があまりありません。
たとえば金融行政について書くときに、1990年代後半に山一(証券)や長銀(日本長期信用銀行)の経営破綻や飛ばしの問題があって、金融行政自体も官僚の接待問題や腐敗をさんざん言われて、1回、大転換期があり、再スタートした、という経緯を踏まえて語れるか。
それなりに長く書いている書き手でないと書けないし、それを考える環境にいた人でないと獲得できない能力です。
佐々木:その意味で、日本のジャーナリストが厳しいのは、組織の中でローテーションをするので、ひとつの分野に強い専門ジャーナリストがあまりいません。
塩野:ローテーションせずに同じ部署で専門性を高めていくというよりは、上司から「おまえ、もうちょっと昔のことを調べろよ」と言われる環境にあるかということです。個人ブロガーは上司に何も言われないですからね。
動画などを含めてベストな媒体を選択し、ジャーナリストとして署名に意味があるようにするのであれば、オピニオンにポジションを取るしかないです。ストレートニュースに対して、ジャーナリストが自分はこういう意見だというポジションを取って書けるかどうか。
佐々木:今まではポジションを取らないことが美徳だったわけですから、これからは発想の転換が必要ですね。
塩野:ポジションを取らずにマスを維持することのジレンマを、まさに新聞が直面しています。グローバルでみて、日本ほど特定の新聞の部数が多い国はない。新聞が言う「われわれ」とはいったい誰なのか。
よく言われることですが、年収1500万円の記者が、年収150万円のシングルマザーの「われわれ」に入るのですかと。
佐々木:人々が多様化しているのに、新聞はマスを追わないといけないのですね。
(構成:上田真緒、撮影:梅谷秀司)
※ 続きは10月15日(火)に掲載します
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