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http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE99903Y20131010
2013年 10月 10日 17:48 JST
高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト(2013年10月10日)
米国では医療改革(いわゆるオバマケア)法案をめぐる与党民主党と野党共和党の対立が激化。暫定予算が成立せず、今月、新会計年度入りするとともに、一部政府機関が閉鎖に追い込まれた。米財務省は債務上限が引き上げられない場合、10月後半にも米連邦政府の資金繰りが限界に達すると警告する。
筆者は結果的に米国債がデフォルトすることはないと考えている。だが、市場がそのリスクを織り込むことは別な話だ。向こう2、3週間がこの問題の山場と見られ、市場の危機警戒レベルがもう数段階高まることも想定しておくべきだろう。
<じわり高まる米デフォルト不安>
実際、その兆候はすでに一部で見られ始めている。たとえば、今月に入って、米短期国債(TB)が急落し、特に従来0.05%以下で安定していた1カ月物利回りは0.3%台へ急上昇した。
2011年夏の米国債ショック(詳しくは後述)や昨年に「財政の崖」をめぐる不安が台頭した時にも、TB1カ月物利回りは上昇したが、それでも0.2%を超えることはなかった。今回の利回り上昇はそれを超えており、今月末に米政府の資金繰りが限界に達することを市場が真剣に警戒し始めたことを示唆する。
一方、3カ月や6カ月のTB利回りも上昇気味であるとはいえ、まだ0.1%さえ超えていない。目下、米国の財政事情そのものは改善基調にある。今回の問題は米政府の支払い能力の問題ではなく、純粋に政治問題であり、万一、今月末に予想外の事態に至ったとしても、遅くとも来月末までには政治的な妥協が図られ、何らかの形で解決しているとの目論見が市場にはあるのだろう。
<金融パニックは想定外>
こうした中、興味深いのは、TB利回りが急上昇する中で、LIBORなどの銀行間取引金利が低下基調をたどってきたことだ。たとえば、LIBOR1カ月金利は現在0.17%台に低下し、ついにTB利回りと逆転した。両者の金利差を「TEDスプレッド」と呼ぶが、筆者が知る限り、同スプレッドがプラスからマイナスに転じたのは今回が初めてである。
通常、投資家や金融機関は余剰資金をTB市場へ振り向けるが、TEDスプレッドの逆転は、米国債のデフォルト不安が高まる中、余資の運用がTBから銀行預金などキャッシュに切り替わっていることをうかがわせる。その意味では、市場は米国債デフォルトへの警戒感を募らせつつあるものの、現段階では銀行の資金繰り破綻など金融パニックの発生は全く想定していないということだろう。
やはり、米財政収支が改善傾向にあり、銀行システムに影響が出るほどの大規模な債務不履行のリスクが小さいことが、市場の安心材料になっている模様だ。
ただ、逆に言うならば、万が一にも、TB利回りのみならず、今後、こうした銀行間取引金利の上昇が始まった場合、市場が金融パニックに陥り始めた前兆と捉える必要が出てくるだろう。この時には銀行システムからも資金が流出し始め、歯車的に銀行は米国債への投資余力を失っていき、米国債の利回り上昇に拍車がかかろう。
恐らく、現在は安定している中長期債利回りも急上昇するはずだ。その一方で、銀行システムから資金流出が進むに伴って、流通現金(ドル紙幣)に対する需要が膨らむはずだ。当然、現在のところは全くその兆候はうかがえないが、米連邦準備理事会(FRB)が統計を発表しているので、しばらくはこうした統計にも目配せが必要だろう。
<「米国債ショック」に学ぶ格付けの意義>
さて、米国債デフォルトが生じた場合の市場の反応を考えるうえで参考になる前例は、11年の米国債ショックだろう。この時、債務上限問題で米国債のデフォルトリスクが高まり、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が格付け史上初となる米国債の格下げを決定。株式相場や新興国市場などリスク資産が下落した。
事前には「格下げで米国債が売られ、ドル安が進む」との短絡的な見方が大勢だったが、実際は格下げ後に米国債利回りが急低下する中でドルは底入れ反発に転じた。史上初の格下げという米国債ショックが、投資家のリスク許容度を減退させ、株式市場や新興国市場などリスク資産に下落圧力を高め、逆に安全資産と目された米国債やドルに資金が殺到したのである。
今回に関しても、一つの鍵を握るのは格付け会社の判断だろう。ソブリン格付はBIS規制などの公的規制に組み入れられ、世界の投資家がベンチマークとして採用しているシティ世界国債インデックス(WGBI)などのような債券インデックスの採用基準の一つとしても用いられている。こうした中、先月末、S&Pは「政府が債務履行できなければ、米国のソブリン格付けをSD(選択的債務不履行)に引き下げる」と言明した。ただし、一方でムーディーズ・インベスターズ・サービスは11年の危機の際に「短期間のデフォルトが発生しても、Aa格への格下げで落ち着こう」と語っていた。
通常、一つでもAa格台を維持する大手格付け会社がある場合、BIS規制やWGBIなどインデックスに与える影響は少ない。米国債は市場規模や流動性で他の追随を許さず、金融機関や投資家は資金繰りのための担保取引などでも使用する。債務不履行が長期化し、その結果、予想外に大規模な債務不履行が生じたりしない限りは、米国内外の金融機関や投資家が米国債の投資残高を大幅に削減し始めるとは考え難い。
しかも、近年、ますます米国債市場で存在感を高めているFRBや海外の外貨準備資金に関しては、民間の銀行や保険会社とは異なり、預金者や契約者への払出義務や契約履行義務を負っているわけではない。最近、日本や中国の政府から事態を憂慮する発言が出ているものの、本質的にはこれら公的機関の対米投資方針が格付けの変更によって直接的な影響を受けることはないはずだ。
<リスク回避的な短期円高と遠ざかる円安再開シナリオ>
では、11年にS&Pの1ノッチの格下げが深刻なリスク回避相場を引き起こした理由は何か。一つには、レポ取引や先物取引などで米国債を担保として用いる際に設定される担保掛け目が引き上げられ、追証として米国債の追加的需要が発生。その分、株式などのリスク資産に売却圧力が強まったことがあったのではなかろうか。
また、そもそも史上初の格下げやデフォルトと言った過去に経験したことがない不確定要素が出てきた場合、金融機関や機関投資家は普段よりも保守的になり、リスク量を削減する傾向がある。問題の根源が米国債など安全資産にあったとしても、バランスシート全体でリスク量を効率的にコントロールするため、皮肉なことに、リスク資産が売られやすくなるのである。
今回の場合、深刻なリスク回避相場となれば、為替市場ではリスク量削減のための持高調整に伴う売り持ち通貨の買い戻しと買い持ち通貨の売り戻しがファーストリアクションとなるはずだ。筆者の印象では、すでにヘッジファンドなど短期投資家は円売りポジションの持高調整(円買い戻し)を相当進めてきたものの、シカゴ通貨先物市場では過去半年ほど少なくとも6万枚程度の円売りポジションがコアポジション化して保有されている。
筆者にとってはあくまでもリスクシナリオであるが、それをいったん中立化させる事態が生じる場合、ドル円は90円台割り込んで下落すると想定するのが自然だろう。「デフォルト不安」にとどまり、結果的にこの数週間で政治的妥結が図られる場合でも、当面、ドル円は93円台の6月安値までの下振れリスクを内包していると見ている。この間、11年と同じように、豪ドルなど資源国通貨や新興国通貨は値を崩しやすくなるだろう。
一方、やや気の早い話だが、政治妥結の後、市場がリスク選好を回復させる場合ではどうか。今回、FRBの次期議長にバーナンキ現議長以上にハト派と言われるイエレン副議長の昇格が濃厚になったことに鑑みれば、株式や新興国市場などリスク資産は急速に値を戻す可能性があるが、緩和長期化を織り込む格好でドルは対円、対ユーロなどで上値の重い商状が続くだろう。この10―12月期に円安再開を想定することは苦しくなってきた。
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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