01. 2013年10月10日 16:14:10
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米デフォルトへの備えは不可能桂畑誠治・第一生命経済研究所主任エコノミストに聞く 2013年10月10日(木) 渡辺 康仁 米財政問題を巡る政府と議会の対立が解けず、債務上限の引き上げに向けた交渉期限が刻々と迫っている。米国債が史上初のデフォルト(債務不履行)に陥ったら何が起きるのか。桂畑誠治・第一生命経済研究所主任エコノミストは「危機に備えることは事実上、不可能だ」と指摘する。 (聞き手は渡辺康仁) 米国の与野党対立で政府機関の一部が閉鎖されました。債務の上限引き上げを巡る対立も解消されていません。影響をどう見ていますか。 桂畑 誠治 (かつらはた・せいじ)氏 第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト。1992年日本総合研究所入社、1995年 日本経済研究センターへ1年間出向。1999年丸三証券入社、日本、米国、欧州、新興国経済・金融市場などを担当。2001年6月から現職。担当は米国経済・金融市場・海外経済総括。この間、欧州、新興国経済を兼務。著書に「資源クライシス」(日本実業出版社、2012)。(撮影:桑原克典) 桂畑:民主、共和両党の対立は根深いものがあります。共和党は仮に医療保険改革法(オバマケア)を実行したとしても歳出削減を求めるでしょうし、富裕層への増税は一切反対という主張も変えていません。一方で民主党は歳出削減はせずに増税で財政を均衡させていく主張をしています。
交渉の結果、1年間のまとまった予算を策定することは難しいかもしれません。暫定予算を繰り返す悪いシナリオの可能性が少し高いのではないかと見ています。1カ月くらいの暫定予算になると、また政府機関の閉鎖に追い込まれる可能性もある。政府機関の閉鎖が続けば1週間でGDP(国内総生産)を0.1%程度押し下げる圧力になります。 仮に債務の上限を引き上げられないと、どんな事態になりますか。 桂畑:すべてのお金を米国債の利払いに充てれば何とかなる可能性もありますが、それはしないと米政府の人は言っています。つまり、デフォルト(債務不履行)のリスクが高まるということです。デフォルトになれば、米国債売りの圧力が世界的に強まるため、長期金利暴騰、株暴落などで米国経済は大混乱に陥るでしょう。世界経済も大混乱です。リーマンショックを上回るグローバル・リセッションが避けられません。 この危機に事前に備えることは事実上、不可能です。市場が混乱に見舞われている時に量的緩和をしてもその効果は極めて限定的です。財政に余力がある国は景気刺激策を打ち出すでしょうが、リーマンショックの時と比べると各国とも財政の余裕を失っています。 2011年にも債務の上限問題で金融市場が混乱したという経験をしていますが、中間選挙で議会のメンバーが入れ替わっているので、当時のリスクを忘れてしまっていたら怖いなと思います。 瀬戸際の決着になるのでしょうか。 桂畑:政府機関の閉鎖は大きなマイナスの影響はないということで今回の事態に至ったのでしょう。しかし、債務上限はさすがに大きな問題になると認識されていると思います。期限ぎりぎりになるかもしれませんが、最終的に上限引き上げは合意されると見ています。 量的緩和の継続がベストな選択 今月17日が交渉期限だと言われています。 桂畑:米財務省は17日でやりくりができなくなると言っていますが、政府機関が閉鎖されたのでもう少し持つかもしれません。給与の支払い負担や公園運営の費用の削減などが期待できますから、わずかではあっても上限に達する時期を先送りできる可能性があります。しかし、決着が遅れれば遅れるほど市場の混乱が大きくなってしまう恐れはあります。 2014年の本予算に財政赤字削減策を盛り込むことを条件として、期限と言われる17日の前後に短期間の債務上限引き上げが決まるかもしれません。民主党も共和党も賛成しやすくなりますが、2カ月程度の上限引き上げであれば、また債務問題が再燃する可能性があります。 共和党がオバマケア見直しにこだわるのは、オバマ政権が保険を提供しない経営者に対する罰則を1年先延ばししたことが影響しています。それを見て共和党の保守層は、「それならオバマケアを止めることも可能じゃないか」という見方になったのです。共和党は次の中間選挙で国民に判断してもらおうという流れにしたいのでしょう。オバマケアに対する国民の支持はそれほど高くはありませんから。 財政を巡る混乱が米国の金融政策にも影響を与えますか。 桂畑:10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和の縮小が決まる可能性はほぼなくなったと見ていいでしょう。政府機関の閉鎖で景気に下押し圧力が加わっていますから、このタイミングは考えにくいですね。 予算と債務上限の問題が解決すれば、マインドが急激に改善することも考えられます。量的緩和の縮小を決める一番早いタイミングは12月でしょう。12月なら10〜12月期の成長率がある程度予測できる月次統計が出ています。マインドが上向けばクリスマス商戦にも期待できますし、株高による資産効果も見込めます。企業が配当を増やす動きを見せていることも、個人消費を押し上げる要因になります。 今年末までの投資減税が実施されているため、設備投資に関しても駆け込みが期待できます。個人消費と設備投資の2つが加速するだけでも、成長率が高まる環境が整いやすくなります。 しかし、足元の経済を見ていると、量的緩和縮小のリスクを過小評価するわけにはいきません。米国経済の改善は緩やかなものにとどまっています。4〜6月期に2.5%成長になった後、7〜9月期は減速しているような動きになっている。強いのは住宅くらいです。増税が行われているので所得が伸び悩んでいます。個人消費がそれでも少し増えているのは、株の資産効果と家計の債務負担が低下していることが背景にあります。金融機関が住宅ローンと自動車ローンの借り入れ基準を緩和的にしているので、クレジットカードでの消費も増えています。基調としては、あまり強いという状況ではありません。 景気の下振れリスクを考えると、月850億ドルの米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を買う現行の量的緩和を続けるのがベストな選択だと思います。 量的緩和縮小なら新興国に再び試練 バーナンキFRB(連邦準備理事会)議長の後任にイエレン副議長が就くことが固まりました。政策スタンスは維持されますか。 桂畑:イエレンさんがバーナンキさんより「ハト派」だという見方もあるようですが、そんなことはないと思います。インフレターゲットに賛成している人なので、インフレがどんどん高まっているにもかかわらず、経済成長のために金融緩和を続けるような人ではありません。実体経済に合わせて政策運営をする人だというのが私のイメージです。バーナンキさんとの継続性は最も高い人だと思います。
政策も大きく変わらないと思いますが、変わるとしたらFOMCの運営方法です。バーナンキさんは反対派の意見も尊重する形でやっているので、判断も微妙に整合性が取れないことがある。イエレンさんになれば、多数派の意見を中心に記者会見で説明し、声明文もそこを中心にするように変えていく可能性はあります。 FRBが12月に量的緩和の縮小に動くと、新興国からの資金流出が再び起きませんか。 桂畑:新興国の資金流出は抑えようがありません。各国が流出のきっかけとなった経常赤字の縮小を進めたり、規制緩和を進めたりすることで、自分たちで投資を促す政策に踏み出さないといけません。時間的な猶予ができたので、各国がその間に取り組んでいくでしょうが、対応できない国はまた12月にひどい目に遭ってしまう可能性は否定できません。 FRBはそれをきっかけに世界経済が悪化したり、米国経済が打撃を受けたりするようであれば考慮すると思いますが、一部の国が混乱したとしても金融政策に大きな影響を与えることはないと思います。 このコラムについて キーパーソンに聞く |