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韓国中堅財閥・東洋グループの信じ難い破綻劇
「会長、こんなことをしていいのですか」――社員の自殺まで
2013年10月09日(Wed) 玉置 直司
2013年9月30日と10月1日の2日間にわたって、韓国の中堅財閥である東洋(トンヤン)グループの系列会社5社が相次いで法定管理(会社更正法に相当)を申請し、事実上経営破綻した。
単なる中堅財閥の破綻劇以上に韓国内で関心が高いのが、直前まで系列の証券会社を通して一般投資家に社債やCP(コマーシャルペーパー)を売りつけ、挙句の果てにオーナー会長の経営権を維持できる「法定管理」を申請したからだ。
2013年10月7日には、韓国の金融監督院が、東洋グループの系列企業間の資金の流れにオーナー会長主導で違法行為があった可能性があるとして検察に捜査を依頼するなど刑事事件に発展する可能性も高まってきた。
東洋グループの主力企業である東洋セメント、東洋、東洋ネットワークス、東洋レジャー、東洋インターナショナルの5社が相次いで裁判所に法定管理を申請した。東洋グループとはどんなグループなのか。2013年4月に韓国の公正取引委員会が発表した「大企業集団資産ランキング」によると、系列企業数30社、資産規模7588億ウォン(1円=11ウォン)という中堅財閥だ。
母体企業は1957年設立の東洋セメント。韓国では、日本の太平洋セメントが実質的な経営権を握る双竜洋灰工業に次ぐ業界第2位だ。韓国の高度成長に乗ってセメント事業が急成長し、この勢いで建設、レジャー、金融と、さほど関連性のない事業領域にどんどん進出した典型的な財閥だ。一時は韓国の10大財閥入りしていたが、最近はどちらかと言えばジリ貧状態が続いていた。
中堅財閥の破綻が韓国社会全体に大きな衝撃を与えた理由
中堅財閥の破綻だが、3つの意味で韓国の産業界だけでなく、社会全体に大きな衝撃を与えている。
ソウル中心部にある東洋証券
1つは、東洋グループは昨年あたりから経営難に陥り、グループ企業の格付けが下がって銀行などからの新規融資を得ることが難しくなっており、このため、社債やCPを大量に発行してきたことだ。
買い手のほとんどは、高利につられた個人だ。社債とCPの発行残高は2兆ウォンを超え、99%を個人が購入した。購入者は4万人以上に達する。
特に、グループの東洋証券を通してほとんどを販売しており、「経営悪化を知りながらの違法性のある販売ではないか」との批判が出ている。
第2には、2013年に入って東洋だけでなく、中堅財閥の破綻や解体が相次いでいることだ。すでにSTXグループと熊津(ウンジン)グループが資金繰りに行き詰まり、事実上の解体作業が始まっている。
中堅とはいえ、財閥の相次ぐ解体は「IMF危機以来」との指摘も出ている。
第3は、オーナー会長のモラルハザードだ。会長は当然経営悪化を知っていたはずだが、一方で社債やCPの発行を促し続けた。それどころか、会長の夫人が、グループ会社の法定管理申請と前後して個人的な資産を「貸し金庫」から回収したとの指摘もある。
投資家だけでなく、「実態を知らされず」に社債やCPを販売させられていた東洋証券の役員や社員から会長を糾弾する声も上がっている。
こういうことから「東洋破綻」は大きな社会的問題になっているのだ。
今回の破綻劇を説明するには、東洋グループとオーナー家の最近の歴史をさかのぼる必要がある。
創業者から2人の娘夫婦に事業を分離継承
東洋グループの創業者は、1989年に死去した。普通は長男が後継者となるが、創業者には娘が2人いた。それぞれ高学歴で「優秀な」後継候補と結婚しており、2人の娘夫婦に事業を分割継承することになった。
セメント、建設、レジャー、金融など主力事業を長女夫婦が継承した。これが、今の東洋グループだ。次女夫婦は「チョコパイ 情」で有名な製菓事業を継承した。今のオリオングループだ。
創業者の長女と結婚して東洋グループ会長に就任したのは玄在賢(ヒョン・ジェヒョン)氏(64)。ソウル大法学部を経て検事になったが、結婚を機に後継者としての道を歩む。スタンフォード大のMBA(経営学修士)でもあり、産業界でも国際派の論客として鳴らした。
積極経営で東洋グループを成長させようとしたが、ここ数年は苦戦していた。建設業の不振で主力の東洋セメント、建設業の東洋が不振に陥った。さらにゴルフ場を運営する東洋レジャーも赤字で、グループ全体の勢いが、がくんと落ちていた。
一気に挽回しようと2007年には4000億ウォンを投じてファッション関連企業を買収したが、これも惨憺たる結果に終わり、売却先を探している。新規事業として進出した火力発電事業は収益源に育ちそうだが、本格稼働がまだ先で現時点では投資負担がのしかかっている。
玄在賢会長は2012年に「選択と集中」を掲げ、大規模な事業売却によるグループの経営再建を宣言したが、どの事業の売却も期待通りに進まなかった。
資金繰りに悩んだ東洋グループは、社債やCPの発行を繰り返してなんとか凌ぐ。あるグループ企業が社債やCPを発行して、その満期が来ると別のグループ企業がまた社債やCPを発行するという具合に、次第に「自転車操業」になってきた。建設・不動産景気の回復を期待したが、景況はますます悪化する一方だった。
資金繰りに窮した東洋グループ、堅実経営の「分家」にすがりついたが・・・
こんなことがいつまでも続くはずがない。「東洋グループの10月危機説」が証券市場などで2013年夏以降、繰り返し出始める。社債やCPの満期が来るが、「今度は支払えないのではないか」という声が高まっていたのだ。
この間も東洋グループは社債やCPの発行を続ける。一方で、最後にすがりついたのが、「分家」したオリオングループだった。
創業者の夫人が2人の娘とその夫を呼んで、何度も「東洋グループ」の経営問題を話し合った。9月半ばの旧盆の連休中にも何度か話し合いがあったようだ。
東洋グループ側、つまり長女夫婦は、オリオングループ側、つまり妹夫婦に、「妹が保有するオリオングループ株を担保に、東洋グループが発行する資産流動化証券を保証してほしい」などと求めたようだ。
オリオングループの主力商品「チョコパイ情」
オリオングループは、製菓事業を中心に堅実経営で知られ、東洋グループ創業者の次女が保有するオリオングループ関連企業株の資産価値は8000億ウォンに達するという見方がある。
それでも、この時点ですでに、東洋グループの社債やCPの発行残高は2兆ウォンを超えており、とても「保証」できる規模ではない。それどころか、下手をすれば、妹夫婦もオリオングループの経営権を失いかねない。
「独立経営を維持するために、支援はできない。心に終生背負っていかなければならない負担だが、どんな批判でも甘んじて受ける」――。2013年9月23日、オリオングループの会長と妻は「東洋グループ支援不可」の決定を下し、グループ幹部、社員にこういうメールを送った。
この瞬間から「東洋グループの破綻」に向けたカウントダウンが始まった。
破綻直前まで売りまくった社債・CP
この間東洋グループは、東洋証券を通して他のグループ企業の社債やCPを売りまくった。7〜8%の金利で個人投資家を標的に資金をかき集めたのだ。
9月30日、まず、東洋と東洋インターナショナル、東洋レジャーの3社が法定管理を申請した。法定管理とは、裁判所の管理下で資産を保全しながら債権か会社清算の手続きを進める制度だ。基本的には経営陣はそのままとどまることになる。
3社の社債やCPを購入していた個人投資家はこの時点でもすでに大きな被害が出ることになるが、もっと衝撃的だったのは、翌10月1日の東洋セメントの法定管理申請だった。
東洋セメントは東洋グループの主力企業で、他のグループ企業が社債やCPを発行する際に保証もしていた。投資家は知名度の高い東洋セメントが保証しているということで社債やCPを買っていた。だが、法定管理が認められるとこうした「債務保証」は凍結になる。社債やCPが「紙くず」になる恐れが強まったのだ。
自殺した東洋証券女性社員の悲痛な叫び
先に触れたように、法定管理になると、多くの場合、経営者がその地位にとどまって再建を主導する。このため、投資家の間からは「オーナー会長は、個人投資家を犠牲にして自分は地位にとどまろうとしたのではないか」という怒りの声が上がった。
そんな中で悲劇が起こった。東洋証券の女性社員が2013年10月2日に、「無理なセールスと顧客からの怒りの声」に耐え切れずに自殺したのだ。公開された遺書は、まさに悲痛な叫びだ。
遺書は「東洋グループ会長様」で始まる。
「会長様。個人顧客に対して、本当にこんなことをしていいのですか。こんなことをしていけないのではないですか。社員に対してもこんなことをしてよいのですか。今日の朝、出勤する時にも信じて、本当に東洋グループを信じていたのに、こんなことが起きるなんて耐えられません。1日も早く、個人のお客さんに対する問題をすべて解決してください。お客さんに全部返してください。最後まで責任を果たせずに、本当に申し訳ありません」
東洋証券の役員や社員も怒った。10月3日は、250人が会長の自宅に押しかけ、マスクをつけて「無言の抗議デモ」を起こしたのだ。
玄在賢会長も「今回の事態について責任を痛感し、申し訳なく思う。すべての責任は私にある」などとして、経営権を放棄するとも約束した。また、これまでも最善の努力をし「私と家族は最後に残った生活費まで出してCPを購入した」などと述べ、私財を提供してきたことも強調した。
会長夫人は貸し金庫から何を持ち出したのか?
だが、この声明発表からすぐに、とんでもない話も出てきた。会長の夫人がグループ企業が法定管理を相次いで申請している最中に東洋証券を訪れ、貸し金庫の中のものを持ち出して大きなカバンに詰めていった、という証言が出てきたのだ。 実際に何を持ち出したのかは不明だが、こういう報道が投資家などをさらに刺激している。
投資家の集団訴訟、政府機関による社債やCP発行に関する違法性調査、さらに金融監督院による検察への捜査依頼・・・。韓国紙は連日、今後の行方について報じている。
東洋グループについては、グループ企業や事業を売却できるものから「売り」に出す方向だ。それでも社債やCPを購入した投資家に返ってくるのは「せいぜい10〜20%」(韓国紙デスク)という見方が強い。
これまで破綻した財閥は多くの場合、経営悪化とともに銀行の管理下に入った。法的な破綻措置が始まっても、だから銀行が指導して手続きが進んだ。東洋グループの場合、個人が大きな債権者であり、再建または破綻処理の行方がさらに不透明になっている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38883
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