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自分でコントロールできるものは何か? 業務改革は「時間」「粗利率」「経費」の見直しから
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投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 09 日 02:17:27: rUXLhToetCnYE
 

【後篇】 2013年10月9日 田中慎一 [企業財務コンサルタント/株式会社インテグリティ・パートナーズ代表取締役]

自分でコントロールできるものは何か?
業務改革は「時間」「粗利率」「経費」の見直しから

カッシーナ・イクスシー社長・森康洋氏【後篇】
高級家具大手の株式会社カッシーナ・イクスシー(以下、カッシーナ社)は、2007年12月期に103億円あった売上高が僅か4年の間に半減し、2010年12月期には3期連続で経常赤字を記録するという深刻な経営不振の状態に陥っていた。2010年末に同社の再建を託されたのが日本では数少ない「プロの経営者」の一人である森康洋氏。森氏は万年赤字体質のカッシーナ社をたった1年で黒字化し、借入金を半減させることに成功。そんな同氏が会計やファイナンスをどう活用しながらカッシーナ社の再建を果たしたのか、『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』の著者が迫った。

結局、キャッシュフローは「粗利率」と「在庫回転率」で決まるんですよ

田中 衣・食・住と社長をやる会社が変わっていくにつれて、必要な会計とファイナンスのエッセンスって違うものですか?

森 それは違いますね。

田中 例えば、どういうところでしょう?


森 康洋(もり やすひろ)
株式会社カッシーナ・イクスシー 代表取締役社長執行役員 1955年7月15日生 慶応大学法学部卒業 株式会社レナウンで米国法人社長、本社執行役員を務めた後、株式会社アクタス代表取締役社長、株式会社グレープストーン常務取締役を経て、2010年11月、株式会社カッシーナ・イクスシー執行役員副社長に就任、2011年3月より現職。慶応大学では体育会ラグビー部で活躍。
森 やはり在庫回転率が全然違いますよ。というのも、食料品のビジネスはキャッシュフローがとても早く回りますよね。毎日口に入れて消化されていくわけですから。当社の家具など耐久消費財は、買い替えるのは何年かに一度です。ですから、そんなに回転しません。アパレルは春夏秋冬の季節で変わるから、その中間ぐらいでしょうか。例えば、前にいた会社は、売上が月20億あっても、月末在庫なんて1億円ぐらいしかないわけですよ。しかもその中身は原材料で製品在庫はゼロ。当社は月間4億から6億円の売上に対して、在庫が10億円もありますよ。これは商材の違いに起因しています。

田中 在庫以外ではどうでしょう?

森 粗利率が違います。ラグジュアリーブランドとユニクロでは、圧倒的に粗利率が違います。ルイ・ヴィトンのバッグの原価率はいくらですか?というお話しですよ。

田中 塩化ビニールの原価って安いですもんね(笑)。

森 結局、キャッシュフローは、「粗利率」と「在庫回転率」で決まるんですよ。

田中 それでは、森さんがこのカッシーナ社を仮に卒業されて、ほかの会社の社長をやってくれと言われたときに、この業種ならできるとか、できないとか、そういう得手不得手というものはありますか?

森 特にありませんね。衣食住にかかわるビジネスなら何でもできると思います。

田中 ところで、森さんは、社長として、原価の中身をどこまで見ていらっしゃいますか?

森 家具でもお菓子でもアパレルでも同じですが、原価計算は机上で行うものではなく、自分で必ず製造現場を見に行って理解するようにしています。コスト構造の中身を教えなさい、と聞くんですよ。

田中 会計やファイナンスに対する関心とか理解度というのは、経営者によって全然違うんですよ。日本では数少ないプロの経営者である森さんは、どんな姿勢かなぁと思いましてお聞きしてみました。

森 経営者というのは、マーケティング、人事、営業、マーチャンダイジング、ファイナンス、全部のプロでなければできませんかというと、そんなことはありません。社長がどこまで知っているかということは重要ではないと思うんですね。それはもちろん知っていたほうがいいに決まっていますが。

田中 知識よりリーダーシップの方が大切ということですか?

森 ダメになった会社を再生するといっても、いろんな方法があるわけですよ。ですから、私は私なりのやり方をただやっただけで、違う人が来たら違うことをやっていたと思いますよ。リーダーシップにもいろんな型があるわけですから。カリスマ型から調整型の人もいます。私みたいに変革が好きな人もいますし。私は毎年同じことの繰り返しが嫌なんですよ(笑)。どれが正しいというのは、ないと思うんですよね。それぞれの持ち味があっていいじゃないですか。ただ、ダメになった会社に共通しているのは、社員のモチベーションが低いということですよ。負け犬根性が染みついています。だから、そこを直してあげるだけでもずいぶん違いますよ。

「売上を上げましょう」そんな指示はハッキリ言って意味ないですよ

田中 森さんが社長に就任してからの2年半におけるカッシーナ社の再建ストーリーについてお伺いします。端的には粗利率の改善によってずっと赤字だった業績が黒字化しましたよね?

森 確かに結果はそうかもしれませんね。

田中 粗利率の改善のために取り組んできた打ち手を教えていただけるでしょうか?

森 私はいつも社員に言っているんですよ。自分たちでコントロールできるものから手をつけなければいけないんだ、と。「売上を上げましょう」と言ったって、売上なんてコントロールできないわけです。なぜなら、お客さんがいるわけですから。そんな指示はハッキリ言って意味ないですよ。それには仕組みがちゃんと必要です。だから、「売上を上げましょう」なんていうことは、私は言わなかったんです。

田中 では、どんなメッセージを発信したんですか?

森 自分たちでコントロールできるものは何なのだ?と。まず、自分の「時間」でしょうと。それから自分たちが売り買いしている商品の値段を決められるんだから、「粗利率」でしょうと。あと自分たちでお金を使っているんだから、「経費」でしょうと。売上を上げることよりも、自分たちでコントロールできることをきちんとやれる会社になろうよと。そこから始めたわけです。

田中 森さんがいらっしゃる前はどういう状態だったんですか?

森 粗利率の悪化は、コントロールできない為替レートも要因のひとつでしたが、バーゲンでのディスカウントが大きかったり、納品先に言われるがままの納入率(卸値)で卸していたりしたことが原因でした。自分たちの意思がなかったんですよ。言われるがままの条件でハイハイと商品を売っていたから粗利率がドンドン低下していったわけです。粗利率が悪ければ取引を断ればよいものを、売上が欲しいからと不利な取引条件を受けていたんですよね。自分たちで事業をまったくコントロールしていないわけですよ。

嫌なことをやるのが経営者なんですから、嫌な役回りは「私がやるよ」

田中 こちらの図は、ある会社の得意先ごとの売上と粗利率をプロットしたものです。これを見てわかるように、値決めというのは多くの会社で無秩序に行われているんですよね。


森 現場に任されていますよね。

田中 通常は取引規模にかかわらず粗利率一定か、取引規模が大きくなるにつれて粗利率が下がっていく(大口得意先をひいきする)、つまり、横に平行か右肩下がりにプロットされます。私がこれを社長さんにお見せすると、「あ、取引規模が小さい得意先の粗利率を上げればいいんですね」と言って頭では理解します。でも、実際には実行できないことが多いんです。得意先に対して条件変更を迫るのが嫌ですから。

森 だって、嫌なことをやるのが経営者なんですから。得意先のトップに取引条件の変更をお願いするといった嫌な役回りは「私がやるよ」と。トップ自ら行ってちゃんと話をするんですよ。そして、日々の取引は、現場のあなたたちが自分で管理をしなさいと。

田中 それでも、得意先に怒られたら怖いとか、取引を打ち切られるんじゃないかとか、不安が頭をよぎりますよね?

森 打ち切られてもいいんですよ(笑)。だから、私がこの会社に来たときは「売上が減ってもいい」と言っていたわけですよ。こちらの合理的な条件変更の要請を理解していただけない得意先だったら、良い関係は続けられないからやめようよ、と。それで、現実に離れていった得意先がいっぱいあるんですから。

田中 普通は、その決断がなかなかできないんです。

森 それは中間管理職ではできないんですから、トップが自ら決断しないといけないんですよ。得意先を失うことになる営業担当者は「え〜!?」などと言うけど、「え〜じゃないんだよ!」と切り返します(笑)。

田中 そのときに、どこまで得意先が減っても大丈夫とか、そのあたりの数値的なインパクトは見積もっていたんですか?

森 自分のなかでは、ですね。

田中 それはどうやってはじき出すんですか?

森 それは長年の経験ですよ。ここの部分でこれだけなくなっても、自分がこの部分でこういう手を打っているから大丈夫じゃないか、といったような感じです。

田中 そのときの目算としては、例えばどれくらい得意先の数が減っても大丈夫という計算があったんですか?

森 やはり、粗利率が低い商売をすることが社内にもたらすマイナスの影響を無視できないんです。

田中 得意先の数にこだわるよりもマイナスの影響をなくす方が社内に対する効果は高かったと?

森 だから、売上は減ってもいいと私は思っていますよ。もっとも、これでは永遠には続かないわけですよ。企業は、やはり売上を伸ばさなければ成長しませんからね。売上減を認めるというのは、中長期的には間違った戦略だと思いますけど、経営不振の会社を再生するときには、まずコントロールできるものは自分たちでコントロールできる会社にしないと売上を伸ばすことなんかできません。それができるようになったら、では、次は売上を伸ばす会社にならなければダメですよねというのが、いま私が挑戦している3年目です。

再生させる会社には、ひとりで乗り込むし、社員のクビも切らない

田中 森さんの経営スタイルのお話しになるんですけれども、一般的に会社を建て直すときは、いわゆる助さん、角さんを連れていきますよね。例えば、営業のプロなどを連れて、経営再建チームとして乗り込んできます。そして、最初にクビ切りをやりますよね。だけど、森さんの場合、毎回、自分ひとりで乗り込むうえ、クビをバサッと切ることも絶対にしません。それでも会社を再生させられると考える森さんなりの根拠は何でしょう?

森 何でしょうね…。性善説じゃないですか?基本的に、人はちゃんとやれば働くものだと思っています。実は、この会社へ来る前にいろんな人に相談したところ、「もうあの会社には優秀な人間は残ってない」とか「モチベーションは低いし、森さん、行くのはやめたほうがいいんじゃないの?」などと言うわけですよ。でも、それは行ってみないとわかりませんよね。人はいるだろうと。ただ、力の発揮のしかたを知らないだけではないのか?と私はいつも考えるわけですよ。

田中 私が森さんに初めてお会いしたとき、いきなり「お前、声がでかい。うるさいんだよ」と言われて、ずいぶん取っつきにくい人だなぁと思ったんですね(笑)。でも、愛のある厳しさを持った方だなぁと。時には社員に厳しい言い方をされるんですか?

森 「バカじゃないの?」なんて言ったりしますよ。どんな人でも教えればできるようになると思っているからです。思考と行動のスピードについては特に厳しく言っていますね。「お前らは寝てるカメか?」「普通ウサギが寝るんだろ。カメなのに、なぜ寝てるんだ?」ということも時には言います(笑)。

田中 そしたら、もっとできるウサギを連れてくるなり、できないカメを一掃する方がラクだと思うことはありませんか?

森 私はラクなのが嫌なんですよ。普通、会社の再生って、債務をカットして銀行が泣くだけじゃないですか。ああいうやり方は真の再生と言えないと思っています。やはり自分たち社員が立ち上がって、自分たちの力でちゃんとなって初めて企業の再生ですよ。レバレッジをかけてエグジットした後の会社はどうなってもいいという投資ファンドのやり方は「再生」と言えますか?という話じゃないですか。それで「どうだ、私は再生しました」「キャリアを積みました」と言って転職を繰り返している人はいますよ。でも、そんなものを見ても私はそうなりたいと思いません。

田中 「強くなければやさしくなれない」という言葉がありますが、森さんがまさにそうですね。

森 結局、人を信じる、仲間を信じるというところから始まるわけじゃないですか。1回言ってできなかったら2回やらせてみる、2回やってダメだったら3回やらせてみる。チャンスは常に与えて、できなかったらきちっと叱ってあげる。本当の再生というのは、こんな地道なことの繰り返しですよ。

田中 森さんが入られたときに残っていたメンバーがベストメンバーなんだ!と信じるところからスタートするわけですよね。

森 会社が赤字を垂れ流してボロボロになっても、彼らが100%悪いとは言いきれないじゃないですか。経営陣にも責任があったわけですから。彼らにだって責任はありましたよ、当然。それでも、そんな責任を問うたって始まらないじゃないですか。

田中 森さんは、請われた会社に社長として乗り込むとき、全社員の名前を覚えるところから始めますよね。

森 全員のファーストネームも漢字も覚えますし、キャラクターやファッションも全部言えますよ。今日どういう靴を履いていたとか、全部覚えています。そういうふうにしないと会話が始まらないでしょう。だって、上から目線で「俺が社長だから俺の言うこと聞け」なんて言ったところで普通の人はどこから来たかわからない人の言うことを聞くわけないじゃないですか。

たった1年で再生できたのは、「社員がよく働いたからです」

田中 森さんは、たった1年でカッシーナ社の黒字化を果たし、銀行からの借入金も半減しました。たった1年で、これだけの結果を出した秘訣は何ですか?

森 社員がよく働いたからです。私が全部やったわけではありませんから。会計やファイナンスに限らず戦略は大事ですよ。でも、いちばん大事なのは、会社が元気になるためのチームビルディングですよ。やはり会社をグッとひとつにすれば、いろんな力が出てきますからね。それをいかに引き出すかが大切です。

田中 チームビルディングというと、要するに人ですよね。

森 仕事というのは人がやっているんです。コンピュータがやっているんじゃないですから。

田中 テクニックとか戦術とか、それは二の次ですよね。

森 まあ、それもありますけどね。「これをやる」と決めたら、あとは、ちゃんとやりますかという話ですよ。決めても何もやらない会社の方が多いんですから。コンサルタントを入れて素晴らしい再建計画を作っても実行できなかったら何の意味もないでしょう。

田中 完璧な計画をやらないより、できそこないの計画でもやったほうがいいですからね。

森 100%やったほうがいいですよ。やると決めたことを。でも、社員にチームビルディングを腹落ちさせるのは大変ですよね。被害者意識の社員もいれば、いろんな価値観を持った人がいますから、会社をひとつにすることって大変ですよね。

田中 行き着くところはヒューマンスキルですね。相手を落とすテクニックとか話術とか、そういう話じゃないじゃないですか。

森 社長室にいて指示しているだけではダメでしょうね。自分が現場に出て行って、現場でやっている人のことも理解してあげて、それで初めて信頼関係ができていくんじゃないでしょうか?

田中 森さんのチームビルディングの極意を教えてください。

森 よく言われているように、どんな組織だって、「やる気のある人」「どっちでもない人」「やる気のない人」が2:6:2の比率で分かれるんですよ。

田中 上位の2割の人たちに働きかけることによって組織全体にレバレッジをかけるわけですよね?

森 そうですよ。上位の2割がシャキッとなれば、真ん中の6割というのは上位の2割に引っ張られるんですよ。ダメな会社は下の2割が強くて真ん中の6割が下に引っ張られるから組織全体のモチベーションが下がるわけです。だから影響力のある2割を見つけないとダメですね。それを最初にやりますよ。

田中 役職は関係ないですよね?

森 役職やポジションは関係ないですね。役職、ポジションは見栄えがよくて過去に引き上げられた人がいるんですから。

インタビューを終えて:
華やかに見える成果の裏に基本に忠実な姿勢あり

 経営不振に陥っていた企業を再建させたという成果だけを切り取れば、それはとても華やかに見えます。森氏の経営者としての豊富な実績とカリスマ性に富んだキャラクターも相まって、カッシーナ社再建の舞台裏では、どのような画期的な取り組みがあったのだろう?と強い興味が湧くのではないでしょうか。

 今回のインタビューを通じて、とても印象的だったのは、カッシーナ社の劇的な再建が森氏の基本に忠実な姿勢によってもたらされたということです。当たり前のことを当たり前のように実行することこそ企業経営の要諦であると改めて感じました。経営再建が必要となるような企業に共通しているのは、経営実態が適時適切に把握されていない、つまり、経営が「見える化」されていないという症状です。月次決算に2週間も1ヵ月もかかるというケースはけっして珍しくありません。森氏が社長に就任してからは月次決算を翌日に締めるようにしていますが、上場企業の中でもここまで徹底しているケースは少ないでしょう。現状をタイムリー、かつ、正しく把握して、はじめて筋の良い経営意思決定が可能になります。

 そして、森氏がカッシーナ社の再建を果たした要因をもうひとつ挙げるとすれば、経営トップとしての「決断」です。管理会計からはじき出される数字はファクトを示し、経営の打ち手を導いてくれますが、どんなに優れた戦略も経営トップの覚悟と決断がなければ実行に移されることはありません。ややもすれば、経営者の決断というと、論理的な思考とは対局にあるように捉えられがちです。ところが、「社長に就任して以来、元旦以外は仕事を休んだことがない」と語る森氏は、地方店舗を含む現場を自ら徹底的に見て回ることを通じて勝算をしっかり持っていたのではないでしょうか。

 森氏は、黒字化しただけの同社の現状について、「経営再建を果たしたとは思っていない」とおっしゃっていました。近年のカッシーナ社は、無駄な資産を売却し、過大となった有利子負債を返済していく、という守りのファイナンス戦略がとられていましたが、今期からは売上拡大を見込み設備投資も必要になってきます。これからの同社の攻めのファイナンス戦略についても注目していきたいと思います。
http://diamond.jp/articles/print/42668  

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コメント
 
01. 2013年10月09日 02:20:35 : niiL5nr8dQ
>キャッシュフローは「粗利率」と「在庫回転率」で決まる


【最終回】 2013年10月9日 安本隆晴 [公認会計士・税理士、株式上場準備コンサルタント]
「資金繰り」こそ会社の生命線

自分の夢や志を実現するには「いつか起業を!」ではなく「いまから起業準備を!」のスイッチを入れることが肝心。上場準備コンサルタント・監査役としてユニクロ、アスクル、UBICなど多くの成長企業の躍進を支えてきた安本氏が、現場を知り尽くした立場から起業の秘訣を明かします。この最終回ではビジネスを育てるための「資金繰り」について解説します。

芽を出した事業には資金が必要になる

 業種・業態・規模の差こそあれ、事業を始めた直後にはお金はあまりかかりません。というより、お金がないのでほとんどお金をかけられないというのが実情でしょう。タネを蒔いて育てる段階では、創業者・起業家の自己資金が中心となります。

 しかし事業萌芽期から事業生育期にかけては、どうしても「設備資金」と「運転資金」が必要になってきます。すべて自己資金で賄える金額ならいいですが、それを超える場合は他人や金融機関に借入を申し込まなくてはなりません。

 起業家以外の第三者に関係してくる事業であって、その第三者に出資してもらえるようなビジネスプランが描けるのであれば、出資をお願いするのも悪くありません。地方都市に観光施設を作るので、地元の人々に出資を募るという事例が実際にありました。

 しかし、「応援するぞ」と言ってくれていた仕入先から、起業した途端に代金の前払いを要求された、という例も珍しくありません。そのくらい現実は世知辛い、というよりも自分のことで精一杯の会社が多いのでしょう。そんなことで恨んでいては始まりません。

 起業したてはケチケチ戦法で行くにしても、先立つものはお金ということで、まずは起業までに貯めた自己資金があるかどうか。続いて、自己資金だけで足りなければ両親や親類縁者から借りるか、銀行などの金融機関から借りることになります。

まずは自治体や公的金融機関の制度を検討する

 銀行借入する前に、まずは自治体や公的金融機関の資金を利用することを検討すべきです。インターネットで調べることもできるし、参考文献は数多く出版されています。たとえば、日本政策金融公庫(略称:日本公庫)では「創業の手引」という実務に役立ちそうなパンフレットを窓口で配布しており、全国152支店の「創業サポートデスク」で起業の相談に応じてくれます。

『中小企業白書 2012年版』には、起業・転業を促進するための公的金融機関による次のような融資制度が掲載されています。

(1)新創業融資制度…新たに事業を開始する人に対して無担保・無保証人で日本公庫が融資する制度。
(2)女性、若者、シニア起業家支援資金…女性や30歳未満の若者、55歳以上の高齢者のうち開業して5年以内の人を対象にした、日本公庫による優遇金利適用の融資制度。
(3)新事業育成資金(グローバル展開志向創業支援関連)…高い成長性が見込まれる新たな事業を行い、海外を含めたマーケティングを踏まえた自社製品開発や国内外への販路開拓等を行う中小企業に向け、日本公庫が低利で融資する制度。
(4)創業者向け保証…民間金融機関による融資を後押しするため、信用保証協会でこれから創業する人などに向けた保証制度。
(5)ファンド出資事業(起業支援ファンドほか)…民間投資会社が運営する投資ファンドについて中小機構が出資(ファンド総額の半分以内)を行う。

 中小企業庁は、女性や若者の創業を促すために、起業や第二創業を行う個人、中小企業を対象として2013年3月から地域需要創造型等起業・創業促進事業(創業補助金)という小口助成制度をスタートしています。

 地域の雇用などを支える「地域需要創造型起業・創業」は100万〜200万円、中小企業の後継者が業態転換や新事業・新分野に進出する「第二創業」は100万〜500万円、海外市場の獲得を念頭に置いた「海外需要獲得型起業・創業」は100万〜700万円で、それぞれ対象経費の3分の2以内を補助するというものです。

 2013年秋頃に第3回の公募を予定しており、その後は未定とのことですが、目的通りの制度に育ち、長期にわたって活用されるように期待したいと思います。

銀行借入の前に知っておくべきこと

 銀行借入となれば、最低限次のようなことを検討する必要があります。

(1)事業計画を作って提出し、いつまでに利益を出して、そのなかからいつまでに返済するかを説明できるか。利益が出て現金が残る計画でなければ、返済はできない。
(2)元金を返済するだけでなく利息を支払うことになるが、それでも利益が出るか。金利が上がったらどうなるか。
(3)借りるときには、その金額に見合う担保があるかどうか検討し、個人財産をもって返済を保証する(保証書に押印する)ということになるが、その覚悟はあるか。

 誰でも初めて銀行マンと交渉するときには緊張して、なんとか貸してほしいから下手に出て媚びるような態度になりがちですが、銀行借入はあくまで対等の交渉事です。

 事業に関して堂々と思いのたけと資金使途について述べ、相手からの質問には真摯に、そして客観的な数値を示しながら答え、ダメ出しされた点を1つずつクリアしていくという態度が大切です。

 銀行マンも感情を持った人間です。借入相手を見下すような態度の銀行マンは論外ですが、こちらの言うことを真剣に理解しようと努めてくれるような人であって、その人との交渉過程で心証が良くなれば、貸付権限を持っている上司への説明にも熱が入り、最後には借入OKとなる確率は高いと思います。銀行マンも貸したいのです。

メインバンクとしてどの金融機関を選ぶか

 ここでついでに、起業時のメインバンクとしてどの金融機関を選ぶかについて述べておきます。借入交渉は貸すほうの銀行も借りるほうの会社も対等な立場だとはいえ、「選ぶ」というよりも起業時は「選んでいただく」というほうが正解かもしれません。以下に述べるのは僕の偏見だと断っておきます。

 金融機関の「敷居の高さ」と反比例するといえるでしょうが、公的資金は別にして、起業間もない会社にとっては都市銀行よりも地方銀行が、地方銀行よりも信用金庫のほうがメインバンクとして相応しいと思います。貸す側の貸付稟議手続きの厳格さの問題と絡むかもしれませんが、親密に相談に乗ってくれてフットワークが軽いのがその理由です。若手の経営者を集めて支店ごとに勉強会を開いたり、地元の特産品の販売会、異業種交流会、セミナーなどを頻繁に主催しているのは信金や地銀に多いです。定年退職者が若手起業家に課題解決を助言する交流会の開催も、実施しているのはほとんどが信金です。

 ただし、金利の高さ低さは金融機関によっても担保の有無によっても違うし、借りる企業側のリスクや成長性をどのように判定するかによっても異なるので何ともいえません。日銀は金融機関にゼロに近い金利で貸し出しているので、起業家も日銀から直接借りられればどんなによいかと思いますが、そうもいきません。実に悔しいです。

 現状、通常の金融機関からの融資にはほとんどの場合、経営者の個人保証がつけられています。会社という「法人」が借りるのに、経営者という「個人」が保証するのは論理的におかしいし筋違いな気もしますが、経営者と会社が一心同体の中小企業では仕方ないのかも。倒産して担保を処分しても借金を返済できなければ、経営者個人が可能な限り財産を供出し、最終的には全財産を失い自己破産することもあります。このことで起業をためらう人もいるかもしれません。

 中小企業庁と金融庁は経営者自らが融資の保証人になる経営者保証制度で、企業が倒産しても個人財産が全額没収されないように今年度中に(2014年3月までに)指針を作り、住居や当面の生活費を残し、経営者が会社再建に取り組みやすくするといいます。早急に指針を発表し、実施してほしいものです。

 また、根本的に金融機関の貸付も担保主義の優先度を少しでも下げ、「事業そのもの」を正当に評価して貸し出す体制に変わることを望みます。

ベンチャーキャピタルから資金を調達する

 続いては、ベンチャーキャピタル(略してVC)からの投融資について述べます。

 VCは、ハイテクやITなどの未上場企業に投資し、その企業の経営支援・指導をして上場に導いたり、他のファンドに転売してキャピタルゲイン(投資した株などを売却して得た利益)を得ます。また、投資事業組合(ファンド)を作って投資家から資金を集め、そのファンドを通してベンチャービジネスに投資し、そこでの運用報酬も得ています。VCには金融機関の関連会社が多く、その他にも商社系、通信会社系、政府系(中小企業投資育成会社)、独立系などいろいろあります。

 VCは成長性が高く収益性の見込める成長期の会社に投資するケースが多く、将来性の明確でない創業期の会社に投資してくれるところは少ないです。投資先がいち早く上場でき、上場時の時価が高いことがVCにとっていちばんの関心事です。カネだけ出して口は出さないVCもあれば、カネも出すが、資本政策の立案、上場準備作業の支援、得意先や提携先の紹介、人材紹介や役員派遣まで行うVCもあります。米国のように創業前から支援して起業家を育てようという気概があるVCに、数多く出てきてほしいものです。

 経済産業省の外郭団体ベンチャーエンタープライズセンターによると、2011年度の日本のVCの総投資額は1240億円でした。10年度より10%増えています。少し古いデータですが、母集団が多いほうがよいと考えて、2006年に上場した188社の有価証券届出書をすべて調べてみました。なんと約7割に当たる128社がVCからの投資を受けています。それだけVCはベンチャービジネスの資金調達に大きな役割を果たすようになったということです。

 いずれにしても、VCは上場時ないしは上場後1年以内には持株を売却しますし(VCの持株比率しだいですが、売却時に株価が乱高下することもあり、一部は保有したままの場合もあります)、対象会社の成長が止まったり収益性が見込めなくなったら突如、別のファンドに売却されたりするので、VCと付き合うにはそれなりの覚悟が必要です。

 僕は、莫大な試験研究費やスタートアップ資金が必要な会社は別にして、上場しても小規模組織で済みそうな会社には、VCの積極的な活用はあまりお勧めしません。

(連載了)
DIAMOND,Inc. 


02. 2013年10月09日 02:33:04 : niiL5nr8dQ
>経営再建が必要となるような企業に共通しているのは、経営が「見える化」されていない 


シリコンバレーで考える 安藤茂彌
【第72回】 2013年10月9日 安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

グーグルに学ぶ、新しい日本の「ものづくり」

 先日、マウンテンビューにあるグーグル本社を見学した。事業の拡大に伴って近隣のオフィスを借りており、低層の建物が50-60棟ある。真ん中には芝生を敷きつめた中庭があり、社員は食堂から自分の好きな食事を取ってきて、そこで食べている。すべて無料である。オフィスというより大学のキャンパスに近い。

 この「ゆとり」はどこから来るのであろうか?過去7年間の業績を見ると次のようになる。一度も減収減益がない。


 グーグルというと検索を思い浮かべる人が多いが、実は収入の大半を広告収入から得ている。2012年には総収入の95%が広告収入であった。

 どこに広告があるのか、気が付きにくい。検索をしてみて、検索結果の画面をよく見ると、右側に小さな広告欄がある。この広告が検索結果と連動するように表示される。例えば「中華料理」と検索すると、中華料理のレシピ、近隣の中華料理店が検索結果として多数出てくるが、その右に広告料を支払った中華料理店の広告が現れる。ここをクリックするとその料理店のウェブサイトに飛ぶ仕組みになっている。

 検索と広告を連動させると収入が上がる道があることに、当初はグーグル自身も気がつかなかった。しかし2002年ごろに着目すると、猛スピードで広告のシステムを作り始めた。グーグルの検索システムはすべて自動運転されているが、広告のシステムも自動運転できるようにした。極力人手を介在させないシステムを作ることに同社は並々ならぬ努力をしてきた。

 当時のインターネット広告は、人目に触れる回数をベースに広告料が決まっていた。いかに広告が人目に触れても、広告をクリックして広告主のウェブサイトに来てくれなくては効果がない。そこで視聴者がクリックした場合にだけ広告料を取る新しい方式を開発し、これを「アドワーズ」と呼んだ。

 グーグルの広告料はオークション(入札)で決まる。まず、広告主が自分のビジネスに注目させるのにもっともふさわしいキーワードを考える。つぎにこのキーワードを入札する。すると同社のシステムが、落札価格の高い方から、広告欄の上から順番に並べていく。最も人目につきやすい一番上の位置を確保するには、高い価格で入札しなくてはならないわけだ。こうしてグーグルの広告収入は自然に増えていく仕組みになっている。

 利用者は、グーグルでの検索が期待通りの結果を表示してくれれば、さらに頻繁に使うようになる。広告主も、利用頻度の高い検索サイトに広告を出せば効果が上がるから、グーグルを選ぶ。検索と広告が一体となって好循環を生み、検索市場でのグーグルのシェアは7割に達している。この好循環が続く限り、グーグルの業績はそう簡単に崩れそうにない。

 同社は検索の精度を上げるために並々ならぬ努力をしてきた。最初のころは「ホットドック」で検索したら「犬」に関する検索結果がでてきて困ったという。ホットドックはどのような文脈で出てくるのかをビッグデータで確かめると、それは食事に関する文脈で出てくることがわかり、コンテクスト(文脈)ベースの人工知能を加えた。

 検索エンジンの黎明期に、ヤフーは手作業でインデックス(索引)作りを行っていたが、ウェブページの数が爆発的に増えたので、手作業での索引作りは不可能になった。次の世代の検索エンジンは、世界中のウェブページを巡回して情報を取ってくるクローラと呼ばれるソフトウェア・ロボットを使ったものが主流になっている。クローラが収集してきた情報を解析・整理したインデックスを作り、日々更新している。

 当時クローラを使ってインデックスを作り、検索サービスを提供している会社は、グーグルのほかにアルタビスタ、ライコス、インクトーミ、エキサイト等多数あった。その中でも同社が他社より優れていたのは、精度のほかに、検索結果の表示が速かったことも一つの要因になっている。アクセス数が増えてくると表示に時間がかかってしまう。時間がかかれば利用者は他社に行ってしまう。この悪循環を断ち切るために、グーグルはサーバの増設を急いだ。

 グーグルはデータセンター数とサーバ数を公表していない。データセンターは世界二十数ヵ所にあり、100万台以上のサーバを並列で動かしていると推測される。同社は高価なサーバを使っていない。低価格のサーバを使い、故障したら捨てている。半導体の技術進歩が加速しているので、サーバを新しくするたびに効率は上がる。そのうちにサーバを他社から購入するより自社製造する方が安く済むことがわかり、今では自社製造している。

 同社の買収戦略も効果的である。2006年には誕生間もないユーチューブを買収した。ユーチューブの利用数は月1200万回を超え、動画サイトとして高い人気を保っている。ここにもグーグルは広告を入れている。動画再生の前に5秒ほど入る広告であるが、見たくない人はスキップできるようにしている広告もある。

 ユーチューブの買収はグーグルの検索領域を広げることに貢献した。従来の検索はテキストのみであったが、動画を含めることによって、あらゆるジャンルの媒体を一緒に検索できるようになった。検索領域を広げ、広告媒体を増やすことで、同社は広告収入のさらなる拡大を期待できるようになった。

 もう一つの戦略的な取り組みはアンドロイドである。アップルが最初のiPhoneを出したのは2007年だったが、その少し前からスマートフォンのOSの開発を始めた。アップルが自社のOS(iOS)の公開をしていないのに目をつけ、グーグルはアンドロイドをオープンソースとし、無料で公開した。これによってアンドロイドをOSに使ったスマホの開発が全世界ベースで進み、今ではアップルのiOSを凌ぐマーケットシェアを確保するに至った。

 オンライン広告は新しいビジネスである。世界の広告市場の規模は約50兆円と推測されるが、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の広告市場が毎年10%以上減少している一方で、インターネットとモバイルの広告は毎年10%以上増加している。アンドロイドOSを押さえていることは、モバイル広告拡大の波にも乗っている。

 グーグルの高い成長を支えているテクノロジーの原点は何だろうか?創立者のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンはともにスタンフォード大学のコンピュータサイエンス(以下CSと略す)学科の博士課程に在籍していたころに知り合い、意気投合した。ページが育ったのはミシガン州で、ブリンは4歳の時に父親がロシアから移住しメリーランド州で育った。

 二人の両親はともに大学教授で、しかもコンピュータサイエンスを教えていた。子どもたちがプログラミングに興味を持ったのは自然の成り行きだった。二人が在学中に開発したのが、リンクの多いウェブサイトを検索結果の上位に位置づける「ページランク」と呼ばれるアルゴリズムだった。アルゴリズムはコンピュータに仕事を命令するソフトウェアである。これを使い、検索の精度を上げられないかを研究していた。

 95年あたりからインターネット上のウェブサイト数は爆発的に増えていた。二人はワールド・ワイド・ウェブ(WWW)に世界中の情報が集積されていくのを実感していた。膨大な情報の中から自分の欲しい情報を探し出すには、検索エンジンを使う以外に方法がない。世界中の図書館に眠っている書籍をスキャンすれば、検索エンジンを使って世界中の「知識」にアクセスできるようになる。これは人類に対する偉大な貢献だ。

 そう考えた二人は遠大な理想に燃えて、98年にグーグルを設立した。二人の考え方に共鳴したCS専攻の秀才たちが同社に入社を希望してきた。こうした人たちの叡智を集めてアルゴリズムはどんどん進化していった。図書館の書籍をスキャンするプロジェクトは、著作権者の抵抗から頓挫しているが、今でも諦めていない。

 グーグルの成長を支えたもう一人の人物は、2001年に外部からCEO(最高経営責任者)に就任したエリック・シュミットだ。彼はサン・マイクロシステムズのCTO(最高技術責任者)から、ソフトウェア会社ノベルの社長を歴任してきた。2000年にグーグルは代表的なベンチャーキャピタル(VC)二社に支援を仰いだが、VCは経営の経験のある人物をCEOに迎えることを支援の条件とした。二人は抵抗したが、最終的には渋々承諾した。

 3人によるトロイカ方式の経営体制はその後うまく機能した。経営理念は創業者の二人がひっぱり、経営の実務は彼らより20歳年上のシュミットが主導した。経営は安定感を増し、世間の信頼も高まった。そのシュミット氏もカリフォルニア大学バークリー校でCSの博士号を取っていた。CSが3人のきずなを強くした。

 グーグルは積み上がる現預金を将来のために投資した。グーグルカーはそうしたプロジェクトの一つである。プリウスにコンピュータを搭載して、周囲の状況を感知しながら無人運転をする実験を繰り返している。この技術が自動車産業に使われると、車の運転がもっと安全にできるようになる。これが一般化すればこの世の中から運転免許証が消えることだってあり得る。

 次世代のウェアラブルコンピュータの一つとして注目されているのが、グーグルグラスの開発プロジェクトである。スマートフォンをさらに小さくして眼鏡のように着用して、スマホ同様の機能を実現できる。目の動きでその人のやりたい行為を察知し、目の前に投影する。人間の脳の働きをコンピュータに代替させていく「認知科学」と呼ばれる分野は、これから発展をしていくであろう。

 グーグルは「人工知能」の研究の最先端の成果を実現するアルゴリズムを開発して、携帯端末・車両ナビゲーションといった分野で実用化していくだろう。外国語からの瞬時翻訳も人工知能の発達で可能になる。「認知科学」も「人工知能」もCSの重要分野である。

 日本のケースとグーグルはどう違うのだろうか?日本でも90年代にいくつもの検索エンジンが自主開発された。NTT、NEC、日立が開発したエンジンもあったが、それらは特定の目的(ショッピング、辞書ほか)に使われた。検索エンジンとして単体で収益化したものはなかったため、いつまでも付属物の地位に甘んじてきた。まして検索結果と広告との連動を目指した試みは一つもなかった。

 このために検索エンジンから人工知能に発展する素地があったにもかかわらず、ここでイノベーションが止まってしまった。グーグルが単体としての収益化に成功した後、次々に応用分野を開拓していったのとは対照的である。人工知能は日本の産業構造を根本から変革する潜在力を持っている。このまま置き去りにすることはできないように思う。

 日本では「ものづくり」を強調する風潮がいまだに続いているが、世界の潮流は、手で触れる有形資産の開発から、手で触れられない無形資産の開発に焦点が移っている。無形資産とは、特許等の財産権を指すが、モノやサービスを動かすアルゴリズムも含まれる。グーグルは基本的に有形資産を作っていない。アルゴリズムだけ
で5兆円の収入を上げ、1兆円の利益を上げている。

 しかも収入を上げるプロセスが自動化されている。「ものづくり」の「もの」の定義を変えてしまった。手に触れる「モノ」ではなく、「仕組み」を作ったのである。グーグルのサービスの利用者が、広告価値に気づき自然とお金を落とす「仕組み」を開発したのである。

 この仕組み作りは、今後「認知科学」「人工知能」に発展してさらに大きな無形資産を作る可能性を秘めている。この分野は同社のようなIT企業のみならず、米国の研究機関で最重要課題として研究されている。日本は「ものづくり」で韓国、台湾、中国に負けた。日本は「モノ」の定義を変えて、無形資産の開発を行うことに力を入れて行かないと、米国に水を空けられることもあり得る。

 グーグルはアメリカ政府から補助金をまったく貰っていない。開発段階でベンチャーキャピタルから数十億円の支援を受けたが、いち早く上場し、いまは無借金で経営を続けている。日本では産業育成に多額の国家資金を投入し、iPS細胞以外に目立った成果が上がっていない。そのiPS細胞も、山中教授の独創性が世界に認められてから、後追いで支援したものだ。

 日本と米国では何が違うのか?「独創的な発想」と「起業家精神」の違いではないだろうか。いまの日本に必要なのはカネではない。「高度な教育」と「起業家を支える社会の支援」ではないだろうか。いま求められているのは日本人の「意識改革」と「人間改造」であるように思われてならない。

http://diamond.jp/articles/print/42815


03. 2013年10月09日 03:06:37 : niiL5nr8dQ
>どんなに優れた戦略も経営トップの覚悟と決断がなければ実行に移されることはありません


プレゼン型の意思決定は、日本では責任回避の道具
[橘玲の日々刻々]

2020年の夏季オリンピック開催地が東京に決まり日本じゅうが沸いていますが、ここで注目されたのがIOC委員会での最終プレゼンテーションです。とりわけパラリンピック走り幅跳びのアジア記録保持者で、東日本大震災の被災者でもある佐藤真海さんのスピーチがIOC委員のこころを大きく動かしました。

「プレゼン」という言葉がテレビのワイドショーで繰り返されたのは、おそらく前代未聞のことでしょう。なぜならこれまで、日本の社会にはプレゼンなど必要ないとされてきたからです。

 サラリーマンなら誰でも知っていますが、日本の会議にはそもそも議論というものがありませんでした。根回しによってあらかじめ結論は決められており、会議とはそれを各部門の責任者が了承する儀式だからです。この根回しを組織の外に拡張したのが談合で、公共事業の入札では、各社が見積もりを出す前に落札先が決められていました。

 根回しや談合でないと意思決定できないのは、日本が同質性が強く退出の難しい社会だからです。いったん恨みを買うといつまでも尾を引くのであれば、全員が納得するような解決策を探すしかありません。

 日本型の組織では、上司の意を受けて現場が方針を決め、トップがそれを追認するかたちで意思決定してきました。もっとも、この手法が非効率で遅れているとは一概にいえません。旧日本軍は戦術だけあって戦略のないまま戦線を拡大し国家を破滅に導きましたが、戦後日本の製造業は現場主義のマネジメントによって世界を席巻しました。

 根回しや談合は、非公式の結論を当事者の総意として誰もが受け入れる、という了解がなければ成り立ちません。組織のなかに異質なメンバー(外国人など)がいて、この前提が共有できないと日本的な意思決定は立ち往生してしまいます。

 プレゼンが必要になるのは、根回しや談合が不可能な状況で決定を下さなければならない場合です。これは、組織の公正さとは関係ありません。IOCにもさまざまな黒い噂がありますが、だからこそすべてのひとを納得させるために、公開の場で優劣を競わせなければならないのです。

 日本でもプレゼンが注目されるようになってきたのは、経営環境が複雑化するにつれて、根回しや談合ではすべての利害関係者を納得させることができなくなってきたからでしょう。とはいえ、こうしたやり方で最善のものが選ばれる保証はありません。

 プレゼンを聞いた上でみんなで決めたのなら、決定を下した個人は責任を負う必要がありません。誰も責任を取りたくない社会では、プレゼンですら責任回避の道具に使われてしまうのです。

 そう考えれば、プレゼン型の意思決定は、どうでもいい問題を扱うときに最大の効果を発揮するのかもしれません。どのプランも大したちがいがないならば、「プレゼンの上手い人間がもっとも優秀だ」と考えてもたいていはうまくいくからです。

 アップルのスティーブ・ジョブスは“プレゼンの天才”と呼ばれましたが、大切な意思決定をプレゼンに頼ることはありませんでした。こころを動かすようなスピーチは外向けにとっておいて、重要な決断は常に孤独のなかで行なわれたのです。

『週刊プレイボーイ』2013年9月30日発売号に掲載
http://diamond.jp/articles/-/42789


04. 2013年10月09日 03:09:43 : niiL5nr8dQ
【第298回】 2013年10月9日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

週刊ダイヤモンドの「大学特集」で考えた
「経営学部」よりも「営業学部」が必要だ

「就職に強い人材の条件」対談を
読んで思った大学と企業のズレ

 今週号の『週刊ダイヤモンド』(10月2日号)のメイン特集は「大学 徹底比較」だ。早稲田大学と慶應義塾大学の学部別就職率と偏差値(P33)といった興味深いデータがたくさん載っているが、筆者はこの特集記事の中で、「就職に強い人材の条件」と題された、岡武史・みずほFGグループ人事部長、守島基博・一橋大学教授、藤田潔・三菱商事人事部長の3人による対談に注目した。

 余談だが、藤田潔氏は筆者が三菱商事に勤めていたときに、リクルーターとして一次面接の評価を人事部に上げた学生だった(もちろん評価は「A」だ!)。かつて採用した学生が、時を経て今やその会社の人事部長になるのだから感慨深い。

 この対談の中で守島教授は、一橋大では2010年の入学生からGPA(成績評価値)制度を適用し、平均成績がA〜Fの「C」程度以上でないと卒業できない仕組みを採用したと述べており、「企業の方にも知っていただきたいんです」と述べておられる。

 ところが、大手銀行と大手商社の人事部長2人が、一橋大学の試みを知らないばかりか、守島教授には申し訳ないことながら、まるで興味を持っていないご様子なのだ。2社はいずれも、毎年一橋大学から相当数の学生を採用しているはずなのに、である。

 みずほFGの岡人事部長は、「採用の時点ではエントリーシートに成績を書く欄はありますが、成績表を出して貰うことは原則ありません。学生との面接でも『勉強しかやっていませんでした』というのはあまり聞かないですね(笑)」と笑っておられる。

 三菱商事の藤田人事部長の話が興味深い。「ただ、大学教育と企業の採用の根本的な問題は、大学は専門知識を教える一方、企業の仕事は約8割が『営業』だということではないでしょうか」と述べておられる。

 そうなのだ。企業は、大学が教えている内容に意義を感じていないし、学生の成績に対してはある種の能力の代理変数として多少の興味を持っているに過ぎない。

経営者と営業マン、どちらが多いか
企業で本当に必要なのは「営業学」?

 三菱商事に「経営者」ないしは「経営人材」と呼ぶにふさわしい役割の人が何人いるかはわからないが、数千人の「商社マン」の大半は「営業マン」のはずだ。

 ところが、三菱商事に人材を供給している大学の側には、「経済学部」や「経営学部」、せいぜい「商学部」を備えた大学や、将来経営者になる少数の人材以外に一生関わりを持たないような“経営戦略”(たいていは昔の企業の話だが)を教える学部・学科はあるとしても、営業マンに必要な具体的スキルを授け、必要があればトレーニングしてくれる学部がない。

 三菱商事のような商社ではなくとも、銀行でもメーカーでも、「経営学」が必要な人材よりも、「営業学」(そういう学問があれば、だが)が必要な社員の数の方が、はるかに多いのではないだろうか。

 近年、文系学部の人気凋落傾向が指摘されているが、大学側が企業のニーズに全く応えていない学部・学科・学習内容の構成を採っているのだから、仕方がない。

 正直なところ、筆者は過去の職歴の中で、「営業」のトレーニングを受けたことがないことに対して少々屈折したコンプレックス(劣等感)を持っているので、「営業」の効果を過大評価しているかもしれないが、世の中の多くの商品やサービスにあって、企業間で決定的な差は小さく、それが実際に売れるか否かは、大半が営業の優劣にかかっている。

 また、中小企業の場合、社長自身がビジネスを取ってこないと会社が潰れてしまうような会社の命運を担う営業マンである場合が多い。この場合も、マネジメントの科学よりも、営業のスキルの方が役に立つのではないか。

 筆者が品質を評価できる商品でいうと、投資信託は投資家にとって優れた手数料が小さい商品ではなくて、金融マンならとても自分は買いたくならないようなぶ厚い手数料を取る、投資家にとって劣悪な商品の方がはるかによく売れている。

 これは、現場の営業マンが手数料の高い商品を好み、営業努力を傾けるからにほかならない。損得がはっきりしている金融のような世界でも、非合理的な購買行動が大規模かつ継続的に発生しているのだ。営業、おそるべし。

プレゼン、セールス、実地研修
「営業学部」のカリキュラム

 前記のような理由で、残念ながら筆者自身は、営業の何たるかを自信をもって語ることができないが、「営業学部」ないしは「経済学部・営業学科」に期待する教育内容について、少々書いてみたい。

 ビジネスに必要な経済、会計、統計、法律など、これまでにも文系学部で教えられていた内容も教える必要があるだろうが、それらの知識がビジネスの中でどのように使われるかという点から、内容を見直す必要があるだろう。

 ミクロ経済学やファイナンスの知識も教える必要があるが、商品の需要や価格の変動を分析するために必要な知識や、競争戦略の策定、ファイナンスであれば、株価・金利・為替レートといったものの相場を現実的に理解できるような知識に再体系化して提供したい。

 営業学部ならではのカリキュラムとしては、プレゼンテーション、さらにはセールスそのものの、実地研修を伴うトレーニングプログラムが必要だろう。

 セールスの「場」を用意するためには、企業との提携が必要かもしれないし、大学自身が何らかのビジネスを持つことが有効であるかもしれない。

経営学部、経済学部・経営学科は
店舗やビジネスを持って来なかった

 考えてみるに、これまで大学の経営学部ないし経済学部・経営学科が店舗やビジネスを持ってこなかったことは、理科系の学部でいうと実験設備を持たずに研究・教育を行って来たのに近い状態であった。

 実は、経営学科よりも学園祭の方が、よほどビジネスの実学であったのかもしれない。アルバイトも然りである。これでは、企業の人事部長が学業成績よりも課外活動を重視して学生を評価したがるのも無理はない(前記対談の三菱商事・藤田人事部長の発言を参照されたい)。

 セールスの実地研修では、実際の商品販売に学生が関わることになるので、トラブルを避ける工夫も必要だ。発生する損益に対する適切な処置も必要で、それなりに面倒だ。他方、企業と上手く組むことができれば、企業は学生を営業マンとしての素質で早い時期から選別できる機会を得ることにもなる。これは、学生・企業双方にメリットのある仲介だ。

(注:筆者の知人が関わっている会社が、この形に近い試みを、大学形式ではなく事業として行っている。このアイデアは筆者のオリジナルではない。ご興味のある方は「株式会社営業課」のホームページを参照してほしい。

 また、たとえば金融商品の販売を行うには、証券外務員のような資格が必要な場合もあるだろう。セールスに必要な資格を大学在学中に早く取らせてしまうのも、学生を採用する企業にとってわかりやすいメリットだ。

 商品による営業の差やコツを研究・伝授する、「金融商品営業論」「自動車営業論」「保険商品営業論」といった一歩踏み込んだ具体性を持たせた授業もあっていいし、国をまたぐ営業を研究する「国際営業論」もあるべきだろう。

 もちろん、「接待学」や「ビジネスマナー論」「営業心理学」「営業組織マネジメント」といった科目が存在してもおかしくない。ビジネスマナーも、理由や歴史を踏まえて体系的に覚えておくと、社会に出てから自信を持って使いこなすことができよう。

昔の商人の「読み書き算盤」に匹敵する
国語・英語・数学を再強化できる機会も

 ついでにいうと、昔の商人の「読み書き算盤」に匹敵する国語・英語・数学を、学生が再強化できる機会を設けるべきだろう。現在、大学によってはこの基礎三教科に関して「よくできる高校生」のレベルにすら達していない学生を、卒業生として社会に送り出している。

 彼らは、ビジネスプランを数値的に理解することもできないし、満足な企画書を書くこともできない、ビジネスパーソンとしては不良品であり、企業としては採用を避けたいと思う対象だ。企業側が大学の入試偏差値にこだわり、AO入試や推薦で入学した学生を警戒する理由でもある。

 もちろん「大学」なので、研究と教育を両立させることが必要になるが、ビジネス界が求める人材育成に徹底的に適応した大学・学部・学科があってもいいのではないだろうか。

 研究・教養のはるか手前で4年間学生を遊ばせて学士を製造している数多の大学にとって、上手くやれば将来のビジネスの鉱脈になりそうなアイデアではないかと思うが、いかがだろうか。
http://diamond.jp/articles/print/42769


05. 2013年10月10日 16:05:47 : niiL5nr8dQ
グローバル化に標準モデルなどあるわけがない グローバル化の誤解を正す(第1回)
2013年10月10日(木)  大滝 令嗣

 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちに読み解いていただき、新たなビジネス潮流を導き出してもらう。
 10月のテーマは「グローバル化の誤解を正す」。多くの日本企業がいま、少子高齢化による人口の減少などで縮小し続ける国内市場に安住せず、海外市場に打って出て成長の機会をとらえようとしている。そのために、グローバル人材育成など「グローバル」と銘打った様々な施策に取り組んでいるが、中にはグローバル化の本質を見誤り、成果を上げられていないケースも少なくないようだ。
 そこで真に求められるグローバル化とはどのようなものなのか。そのために本当に取り組むべき施策は何か。国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客に、リレー形式で登場し、持論を披露してもらう。
 最初に登場するのは、コンサルタントとして長年にわたり、日本企業のグローバル化を組織・人事の面からサポートしてきた早稲田大学大学院商学研究科(早稲田ビジネススクール)の大滝令嗣教授。同教授はグローバル化には少なくと4つの異なるモデルがあり、自社の業種や経営スタイルに適したモデルを選ばなければつまずくと指摘する。
(構成は小林佳代=エディター/ライター)
 グローバル化に取り組む日本企業は数多くあります。ただ、グローバル化と一言で言っても、各企業が目指すべき姿はそれぞれ異なります。自分たちの会社はどのような形態、内容のグローバル化を遂げるべきなのか。最終到達地点を明確にしたうえで、適切な取り組みをしていくことが必要です。
 私は経営スタイルによって、グローバル化のモデルを4つに分けて考えています。

早稲田大学ビジネススクールの大滝令嗣教授(写真:都築 雅人)
 マトリクスを作って見てみましょう。
 まず縦軸には「世界的統一性」を取ります。これは、グローバルに散らばった子会社や合弁企業の組織を経営していくうえで、本社のコントロールの度合いが「高い」か「低い」かを示します。
 次に横軸には「ローカル市場対応力」を取ります。ブランドや製品、サービスをその土地に合わせるのか、それとも、本社が決めたスタンダード(標準)に立脚するのか。現地の市場に合わせる度合いが「高い」か「低い」かを示します。
 こうすると4象限に分けられ、4つのモデルができます。
グローバル化の4つのモデル

 世界的統一性、ローカル市場対応力とも低い企業は、「インターナショナル企業」と定義できます。日本で製品をつくり、それをそのまま海外に持って行って売るという輸出型モデルで、海外展開は初期段階にあります。
 インターナショナル企業が進む方向は、世界的統一性は低くローカル市場対応力が高い「マルチナショナル企業」か、世界的統一性が高くローカル市場対応力が低い「グローバル企業」になります。
 マルチナショナル企業の経営スタイルは、多くの中小企業に当てはまるものです。日本で優れたモノを作り、海外で売る時に、現地でパートナーを見つけて一緒にビジネスを進めるという形です。
 日本から持っていったモノがよく売れるとなれば、現地生産もしようという話になる。パートナーには製造、販売だけでなく、ネーミングや作り方も一任します。この経営スタイルは現地法人の独立性が高く、権限は各国に分散します。1つの会社でも、国ごとに文化は異なります。
 一方、グローバル企業は本社のやり方を強く押し通します。ローカル市場に合わせたカスタマイゼーションは極力少なくして経営効率を高めます。権限は本国に集中し、現法の独立性は弱い。本社の文化をそのまま海外の現地にも持ち込むやり方です。
 最後のモデルが、世界的統一性、ローカル市場対応力とも高い「トランスナショナル企業」です。ローカルカンパニーの顔を持ちつつ、基本的なところでは非常に進んだグローバル企業になっています。
 このように、経営スタイルで見たグローバル化には4つのモデルがあります。グローバル化と言った時、ある人はグローバル企業をイメージし、ある人はトランスナショナル企業を考えるという具合では、議論がかみ合いません。
 1つの企業の中でも、事業部や製品によって目指すモデルが違うのは構いませんが、同じ事業部に所属していたり、同じ製品を扱う人であれば、ベクトルを合わせ、意識を共有しておくことが必要です。
 最終到達地点を明確にしたら、何をしなくてはいけないのかを逆方向に考えていきます。
 例えば、グローバル企業を目指すなら、「スタンダード」「ポリシー」を明確にした「○○ウェイ」「△△イズム」といったものを徹底的にすり込むことが必要になります。
 一方、トランスナショナル企業を目指すなら、各国のオペレーションのやり方を統合しつつ、会社としてのカルチャーを作り上げていくことに焦点を当てた施策を打たなくてはなりません。

トヨタや楽天はグローバル企業を目指している?
 では、実際にどんな企業がどういうモデルを選択しているのでしょうか。実例を追って見ていきましょう。
 インターナショナル企業やマルチナショナル企業は、主に中小企業が取るモデルです。大手企業の多くは、グローバル企業かトランスナショナル企業を目指しているはずです。
 「英語公用語化」で話題になった楽天は、恐らくグローバル企業を目指しているのでしょう。現地に合わせるというよりも、自分たちのやり方で楽天というサービスやブランドを浸透させようとしている。その時、社員には英語というコミュニケーション力が必須だと判断しているのだと思います。
 トヨタ自動車も、恐らく自社の持つ自動車技術を世界に広げるため、グローバル企業になることを狙っているはずです。
 あまり知られていませんが、スピーカーや音響機器、電子機器のメーカーで、アップルの「iPhone」などスマートフォンのイヤホンを製造しているフォスター電機は、日本企業の中でグローバル企業の成功例と言える存在です。
 同社の本社は東京・昭島市にあります。そこにいる従業員数は600人余り。それに対し、次々に工場を稼働させてきた海外では、オペレーターの数まで入れると、9万人以上の人員が働いています。全体の1%にも満たない極めて少数の本社の従業員が、海外のオペレーションを統括しています。
 海外企業で言うと、米コカ・コーラや米ゼネラル・エレクトリック(GE)もグローバル企業の代表格です。
 コカ・コーラは国によって、製品の一部でトランスナショナルに足を踏み入れているケースもあります。日本でコーラだけでなく「爽健美茶」や「ジョージア」を売っているのはそれに当たります。しかし、権限に関しては相当、本社に集中させ、自分たちのポリシーを米アトランタにある本社から力強く発信することを意識しています。
トランスナショナル企業の代表格はネスレ
 では、トランスナショナル企業に当てはまるのはどのような企業でしょうか。
 日本企業で代表的なのは花王です。幹部に現地の人材を積極的に登用し、現地の消費者に「地元のブランドである」という印象を与えるなど、表向きはローカルカンパニーとして根付こうとしています。一方、バックエンドの資材調達、製造、物流などは相当、集中管理しています。
 海外企業ではスイスのネスレや英蘭ユニリーバがトランスナショナル企業に当てはまります。
 ネスレは東南アジアで「マギー」ブランドの食料品を売っています。マギーは、インスタントラーメン、ケチャップなど、スーパーを訪れた消費者が必ず1つは購入するような、日常的によく使う食料品のブランドです。アジアの消費者にはとても親しまれているブランドですが、それらの製品のパッケージの後ろ側をよく見ると、小さな字でネスレと印刷されています。
 ネスレは完全にローカル化した製品を作りつつ、原料の仕入れや製造過程では、グローバル企業としてのコントロールをしているのです。集中すべきことと分散すべきことのバランスを上手に取ったトランスナショナル企業の成功例と言えます。
 このように、一般消費者向けのコンシューマープロダクトの場合、トランスナショナル企業を目指すことが多い。地元に根付きつつ、バックエンドはグローバルという形です。
ホンダは自動車メーカーの例外的存在
 一方、自動車メーカーなどは、自社製品の品質や製造工程にこだわりがあり、集中的に管理したいと思うので、多くはグローバル企業を志向します。
 例外的なのはホンダで、権限を各国に分散し、現地に密着したやり方を試行しているように見えます。ホンダの場合、日本と海外とで求められるものが全く異なる2輪車の事業を抱えていることが、トランスナショナル企業を目指す要因になっているように見受けられます。
 どの地域発の企業かによっても様相が変わります。トランスナショナル企業としてうまくいっているのは、欧州発の会社であることが多い。クルマで何時間か走ると、すぐに隣の国にたどり着くというような、マルチ・カントリー・リージョンである欧州市場で育った企業は、人材の登用でも市場の見方でもトランスナショナル企業がはまりやすいのでしょう。
 米国企業は逆で、米市場の中で成功したやり方をそのまま海外に持ち込むケースが多い。米国のスタンダードを世界に広げようという発想です。アップルを見てもマイクロソフトを見ても、それが分かります。
 ここから考えると、狭い島国で生まれ育った日本企業は、グローバル企業を目指そうとするケースが多くなるのかもしれません。
 今回は、経営スタイルで見たグローバル化のモデルを解説してきました。次回は、それを踏まえた次の段階として、組織形態や人材育成などでどんな点に留意しなければならないのかを考察します。
(次回は、明日に大滝教授の論考の後編を公開します)



MBA看板教授が読むビジネス潮流
 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を国内有数のビジネススクールの看板教授たちが読み解き、新たなビジネス潮流を導き出していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131007/254261/?ST=print



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